ボス戦でございます
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AUTHOR:悪い点・改善点があれば感想に書いていただけると嬉しいです。全部反映は無理ですが、納得できるものがあれば改善に役立たせていただきます。あ、もちろん良い点を書いてもらえたら励みになります。短所を消すより長所を伸ばす方がモチベ上がるので。
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迷宮には『休憩部屋』というものが存在する。
次の階層へ続くダンジョンゲート付近に配置されていることが多く、その広々とした空間にはモンスターが侵入できない。さらに付け加えると飲み水も湧き出ているため、文字通り休憩することが可能だ。
これは、連続戦闘を強いられる冒険者側に対してモンスターがほぼ無限に出現することから、バランスをとるために迷宮の制御機構が作ったものらしい。
冒険者側を有利にしすぎると人間の死体が集められず、逆にモンスター側が有利になりすぎると冒険者達が寄りつかなくなる。
そのため、迷宮の膨大な魔力が定期的に『バランス調整』を行い、いつの間にか冒険者達が知らないところで休憩部屋が存在した……なんてこともあったらしい。シャムの話を聞くと、モンスターの沸きポイントが集中している稼ぎ場の近くに休憩部屋が配置されていたことがあったのだとか。
それは黒白迷宮も例外ではない。
光の波紋が広がる空間、つまり下層へ続くダンジョンゲートの傍には、例外なく休憩部屋が設置されていた。
「うみゃいのニャ! うみゃすぎるのニャ!」
光源として利用できる『ライト鉱石』が壁面へ埋め込まれた、岩の洞穴。
その中に、舌足らずな声が反響した。
「が、頑張って生きてて、本当に良かったのです」
「ふえぇぇ。おいしいのに、おいしいのに、しょっぱいよぉ……」
シャムの喜びに続くのは、鼻を啜るチワとキキ。
第二十階層の休憩部屋で手頃な岩に腰かけ、ビーフシチューを貪るように食べる獣娘達三人は、目から滝のような涙を流して号泣していた。ちなみに四姉妹は、その光景を見て若干引いている。
俺は土魔法で作った即席のかまどから寸胴鍋をおろし、木の器に盛ってスプーンで一口掬ってみた。……うん、さすがは紅の夕日亭だ。煮込まれた牛肉からは野菜の旨みも溢れ、デミグラスソースがちょうど良い塩梅に絡みつく。
(宿屋から鍋ごと買って持参しただけはあるな。一緒に買ってきた柔らかい丸パンも相性抜群だ)
本当は宿屋に転移して食事をし、それからまた戻ってくればいいだけなのだが、こうやって野外で食べるからこそ旨いものもある。焼肉とかにしたかったが、ビーフシチューでも十分すぎる味だ。アウトドア補整は素晴らしい。
が、獣娘達のように泣くほどではない。
「貴殿ら、最近は何を食べた?」
彼女らの食事風景に引っかかるものを感じたのか、木皿を地面に置いて尋ねるツバキさん。
「二日前にパンを一切れだけ、なのです……」
「昨日、池の水を飲んだニャ」
「キキはお魚さんの骨を貰ったねぇ」
「いやいや。それ、食べたって言わないからな」
マジかよ……。
その後も話を少し聞いたところ、思ったよりも獣娘達の食糧事情は壮絶だった。
拾い食いは衛生面がなぁ……。
「……これ、あげる」
どれくらい壮絶かといわれれば、あのベルンが食べ物を分けているくらいなのだ。
さすがに他の姉妹も同情したらしく、近づいて耳を撫でてやっている。
「そういうのって、奴隷の法律的に大丈夫なのか?」
「大丈夫ではありませんね~。ですが、この子たちを保護してもらうことは難しいでしょう~……」
キョトンと見上げる目に優しい笑みを返しながら、シェリスさんはチワの頭を撫で続ける。
「この場合、奴隷が生存している以上は『生命活動を停止せしめる重度の食事制限を禁ずる』という法令の違反を立証できないのですよ~。事実、過去の判例でも同様の結論が出されていますから~……」
申し訳なさそうにするシェリスさんの言葉で、俺は開いた口が塞がらなくなってしまった。
いやいや、そんな馬鹿な話があるか!?
「それって、つまり奴隷が死んで初めて罪が認められるってことじゃないのか!?」
目を見開き、思わず立ち上がって叫んでしまう。
洞窟に反響した声に、獣娘達がびくっと震えた。
小さい身体を怯えさせる原因は俺の怒声と、そして話の内容によるものだ。
「わ、悪い。お前達に怒っているわけじゃないんだ……」
獣娘達に一言謝ってから座り、俺は額に手を当てて気分を落ち着かせる。
大穴がぽっかり空いている司法だ。どう考えてもおかしいだろう。
法も法だが、それを実行する商人にも問題がある。
迷宮に潜るというのに食事をさせず弱らせるなど、完全に捨石じゃないか。
(まさか、それが狙いか……?)
目を覆って考えてみると、不安な考えが浮かんできてしまう。
迷宮内でチワ達が殺されてしまった場合、一人あたり金貨二十枚を奴隷商人に支払わなければならない。
金目当てで弱らせているとは思えないが……いや、今は最悪の事態を想定しておこう。
「奴隷の扱いにしても杜撰が過ぎるな。何か理由がある、ってことなのか?」
「……あの、ええと~」
俺の呟きを聞いて、シェリスさんが目をそらす。
その行動を見咎めた俺は、彼女から奴隷の扱いに関する話を聞き出すことにした。
そもそもこの世界における奴隷とは、重犯罪を犯した人間の処分として考案されたものだったらしい。
それを利用して、人員確保のためにわざと重犯罪を唆したり、逆に奴隷に落ちることで最底辺の生活から抜けようと画策した者が数多くいた。
結果、奴隷は卑しく汚らわしい最低の人種として、あらゆる点から差別を受けることに相成った。
しかし、これだけならまだマシだったのだ。
さらに奴隷の待遇を悪くさせてしまう出来事が、数百年前に起こった。
静かに暮らしていた獣人達を労働力として取り立てようとした国が、片っ端から彼等を捕らえ始めたのだ。
その国が発展した形こそ、現在の聖レッチェルト教国に他ならなかった。
宗教国家という特性上、国が持つ影響力は決して低くない。日本でも神頼みというものがあるし、海外でも多種多様な神話が構成されている。人の命が軽ければ軽いほど、縋る神は存在意義を大きくしていく。
そんな国が『獣人は汚らわしい生き物で、奴隷の扱いが相応しい。これは神より告げられたことである』と言ってしまえばどうなるだろうか。それは想像に難くない。
こと民衆への影響力が大きい宗教国家が獣人差別を煽動したところ、『人間用』の奴隷法と『獣人用』の奴隷法、二つの法律が誕生することになった。
周辺諸国の反応も、どちらかと言えばこれに賛同する形だった。せっかく法によって安上がりな奴隷が手に入るというのに、それを蹴ってまで大国を相手にする力などあるはずも無い。
古くから続く時代背景が、獣人奴隷の極端な差別へとつながっていたのだ。
現在のトランディア王国では一部の者に留まっているが、聖レッチェルト教国は国民感情からして酷いものらしい。
シェリスさんの話を聞いて、俺は深い溜息をついた。
「なるほど。皆が獣人奴隷に否定的な感情を持っていない理由は、城で暮らしていたからか」
「その通りだと思うわ。あたしの近衛隊には、剣を教えてくれた元獣人奴隷の師匠だっていたもん。ストイックな人だったし、むしろ尊敬していたくらいよ」
俺が小声でアリサに耳打ちすると、彼女は迷わず首肯した。
そういえば、迷宮の入り口でも思い当たる節がある。
あの時、俺達に声をかけようとしていた冒険者もいたが、チワを抱き上げたあたりで遠ざかって行ったのを覚えている。
あからさまに口にはしなかったものの、やはり獣人奴隷はトランディア王国でも忌避されるものなのだろう。
(思ったよりも根が深い問題だな……)
そう思いながら、俺は手元の皿に目を落とす。
内心を投影するかのように、胡桃色の液体は冷え切っていた。
(……少なくとも、俺達と一緒にいるときだけは色々と楽しませてやろうか)
はぐはぐとパンを貪る獣娘達を見ながら、俺は形容しがたい想いを感じていた。
今日から三日間、チワとシャム、キキは俺達五人と共に過ごす。その間に少しでも、この子達の心が癒されますように、と。
それに、
(俺達の戦いを信じられないような目では見ていたけど、あれは全部が負の感情じゃなかったしな)
脳裏に浮かぶのは、先ほどまでの光景。
常識を破壊しながら進んでいくアリサ達と、それを見つめる三人の獣娘。
あの瞳から感じたのは、七割の畏怖と二割の憧憬、そして一割の希望。あの瞳に映ったのは、これまでの定石を悉く覆す華奢な背中。
なら、今のうちに見せてやるとしよう。
お前達が本当に縋るべきは神の宣告なんかじゃなく、目の前の俺達だって事。それを気づかせるために、な。
□
昼飯を終えて迷宮攻略を再開する俺達。
エンゲージ更新の為、休憩部屋で四姉妹の頬にキスもしておいた。
事前にエンゲージについて説明してはいたものの、それでも恥ずかしいらしく、彼女達は頬をほんのりと桜色に染めていた。俺の前で普通に着替える割には、変なところが初心だな。
獣娘達からは「な、なな、何をしているのです! 頭は大丈夫なのですか!?」「春だからご主人しゃまの頭が沸いているのニャ」「大胆だねぇ」と、俺の扱いがぞんざいになりつつあるお言葉を頂戴したが、必要なものは必要なのだ。これで準備は万端。
とはいっても、やることは残り一つしかない。
「ここがボスエリアか」
「はいなのです。ボスは、とーっても強いのです!」
目の前にある巨大な扉を見上げながら、チワが力説する。
今まで攻略してきた階層とは違い、ここは第二十層。迷路の中心部には巨大な石のドームがあった。
その一角を占める扉ですら家一軒ほどの大きさがあるため、ドーム本体のサイズは想像もできそうにない。
迷宮には強敵が出現する部屋、通称『ボスエリア』が一定の階層ごとに存在していた。この黒白迷宮においては二十層ごと、つまり最下層の百層までで合計五つあるらしい。
外から転移させられる雑魚モンスターとは違い、ボスだけは迷宮自身の魔力によって生み出される。それゆえに他とは一線を駕する戦闘能力を持っているが、やつらを倒さなければ次の層に進むことができない。
何せ、ダンジョンゲートはボスエリアを越えた先に設置されているからだ。
「ふぅん。ボスは時間が経ったら復活するの?」
「その通りニャ。だいたい三時間くらいで再生するって言われてるニャ」
アリサの疑問にシャムが首肯する。
その後を引き継いだのはキキだ。
「ボスの討伐証明はお金になりますしぃ、皮とかも強い防具になるんですよぉ。倒せれば、ですけどねぇ」
キキの話を聞くと、ボスに限り、その強さは迷宮のランクで計ることができないらしい。
つまり、例えDランクの迷宮であろうとも、BランクやAランクのボスモンスターが出てくることだってあるのだ。
これは迷宮のバランス調整能力に起因している。なんでも、弱すぎると判断されれば強力なボスが生み出され、逆にボスが強すぎれば何らかの弱点が設定されるようになるのだとか。
このボスという壁があるからこそ、迷宮の入り口に開店していたクリスタルショップは必要不可欠なのだろう。レア素材などの旨みがあるとはいえ、強さが未確定なボス部屋は回避して次に行きたい。そう思う冒険者は少なくないはずだ。
「ほう。もしや、ボスはリュウ殿でも苦戦するほどなのか?」
「それはあり得ないニャ。ご主人しゃまと比べたらモンスターが可哀想なのニャ!」
「ご主人しゃまみたいな人間辞めてる人間は、最初から計算に入れていないのです!」
「一般人のレベルで考えてほしいのねぇ!」
「そ、そうか。すまない……」
ツバキさんが話題を振ったのに、何故か俺まで矛先が向いた。
「アホなこと言ってないで、さっさと入るぞ」
「……どんな敵も倒すだけ」
ジト目で見上げてくるチワ達を放置して、俺は扉に触れる。
ゴツゴツした無骨な石の扉だ。そういえばこれ開けられるのだろうかと思ったのだが、その答えは目の前で示された。
手をついただけで、ズズズと重苦しい音を立てながら扉が開いていったのだ。
「中は……何もいないな」
「見た限りはそうですね~」
俺達は足を踏み入れながら、周囲をきょろきょろと見回す
野球場ほどの広さがある石のドーム内は、ライト鉱石によって照らされていた。とはいっても特に何かあるというわけでもなく、石の床に石の壁、石の天井だけのシンプルな造りだった。
真昼ほどの明るさなので奥まで見通せるのだが、上下左右を見渡してもモンスターの姿は無い。
「ボスが討伐されていたら、入り口の扉が開いたままになるのです。ボスは扉が閉まってから出現するのです」
「つまり、後から誰かに助けてもらうことも、扉から逃げることもできないってことか?」
「そうなのです。それが普通なのです」
厚さ数メートルはある扉を見ながら言うと、チワからジト目が向けられる。
内心では『ご主人しゃま達なら扉を壊せるのです』とか思っているに違いない。できるだろうけど。
周囲を警戒しながら歩を進めていくと、ドームの中央付近まで行ったところで扉が閉まり始めた。
退路が断たれるという感覚は、普通なら相当なプレッシャーだろう。残る脱出手段はリジェクトクリスタルなのだが、あれは『取り出して砕き割る』というステップを踏むため、戦闘中では大きな隙を見せることになる。
相当な実力差でもない限り、逃げ道は無いと考えていい。
「でもチワは心配していないのです。ご主人しゃまがいるのです」
「怖くないニャ。頼もしいのニャ」
「それよりも巻き添えにならないか不安だよぅ」
おお。なかなかに信頼してくれているようだ。
さすがにフレンドリーファイアは無いと思うぞ。きっと、たぶん、おそらく。
「見て! あそこ!」
重厚な扉が音を立てて閉まると、アリサがドームの中央を指差す。
視線の先では、どこからともなく紫色の霧が集まっていき、徐々に徐々にと巨大な影を形成し始める。時間が経つにつれ、中心から感じられるビリビリと肌を刺すような威圧はどんどん大きくなっていった。
(あの霧の集まり方、アイテムボックスを使ったときに似ているな……)
そう思いながら見ていたところ、ついにボスモンスターが姿を現したようだ。
霧からザリッと音を立てて出てきた足は……おいおい、一本や二本どころじゃないぞ。
「ギシャアアアアアアア!!」
威嚇で霧が吹き飛ばされ、ボスの姿が露になる。
全長は分からないが、胴体の大きさは大型列車ほどにもなるだろう。檜皮色の胴体からは無数の足が伸びており、足の先は剣先のように鋭くなっている。
一言で言えば、巨大なムカデだった。
目算に過ぎないが、大鎌のような足だけでも成人男性と同じくらいの太さがある。地面の石が足で削られているくらいなので、人体など簡単に貫いてしまうに違いない。いや、貫くよりも引きちぎると表現するのが妥当かもしれない。
威嚇しながら口から飛ばした液体も酸なのか、地面がコポコポと音を立てて異臭を漂わせていた。
「こいつ、結構強くないか?」
威嚇してくるムカデを見ながら、口をへの字に曲げる俺。
低ランクパーティーの一つや二つで討伐できるような相手だとは、とても思えないんだが……。
「だから、みんな戦いたくないのです。あの『アシッド・センティピード』は、それだけ危険なのです」
「二週間前はDランクとCランクの冒険者が三十人がかりで倒してたニャ。シャム達は戦闘には参加してニャくて、素材運搬だったけど」
「あの時は五人死んじゃったんだよねぇ……」
おぉう。やっぱり強いんだな、アレ。
こちらにゾゾゾゾゾと音を立てて近づいてくるアシッド・センティピード。まるで足の生えた列車が牙を剥きながらこちらに迫ってくるのだから、正面から見るとかなりの迫力だ。しかも思った以上に速く、虫系特有の生理的嫌悪まで襲ってくる。うへぇ。
その顔面にエアショットを五十発ほど打ち込み、数十メートルほど吹き飛ばして時間を稼ぐ。
「でも今は魔法を使ってこないのです。ご主人しゃまなら楽勝なのです」
チワの『今は』という単語が気になる。
おそらく、迷宮によって強化された状態で出てきたら魔法を使うのだろう。
それでも問題なく倒せるだろうがな。
「さて、誰が行く?」
強さ的に全員でかかることも無いので、一人か二人で倒すことにしよう。
総攻撃したらボスが塵になってしまう。いや、塵が残るかも怪しいな。この階層ごと消える。
ボスの素材は高く売れるらしいので、できれば原型を留めたまま死んでほしい。……我ながら恐ろしいこと言っているよな。
「あたしは遠慮しておくわ」
アリサは両手を挙げて降参のポーズをとるが、それには全員が同意した。
元より虫系モンスターと炎熱魔法は相性がいい。三十人が苦戦するということは魔法に対して多少の耐性を持っていると考えられるが、アリサの『焔精霊装』は文字通り桁が違う。
その桁の差は、道中で明確に表れていた。威力を手加減したのに延焼してしまい、魔石や素材ごと炭になるといった形で。
つまり、虫系統モンスターが多く出る黒白迷宮は、アリサにとって最も相性が良く、違う意味では最も相性が悪いのだ。
「じゃあ、ツバキさん行ってみる?」
「フッ、いいだろう。私もそう思っていたところだ」
ツバキさんと目が合ったので問いかけてみたところ、本人は不敵な笑みを浮かべて頷いた。
アリサ以外なら誰でも良かったんだけど、ここはフィーリングで行かせてみようか。シェリスさんとベルンは昨日存分に暴れていたしな。
「少し遊んでみるが……なに、心配することは無い。飽きたら片をつける」
腰の剣を抜きながら、ツバキさんが一歩進み出た。
瞬間、彼女の姿が煙のように掻き消える。
レーダーを一瞥してから視線を動かすと、ツバキさんは俺達の数十メートル先。アシッド・センティピードに肉薄していた。
(二歩目以降がまるで見えなかったな……)
そう思いながら、目を白黒させている獣娘達に「あそこだよ」と指差してやる。
ボスはいきなり目の前に現れたツバキさんに一瞬だけ驚いていたようだったが、ほぼノーウェイトで口から酸の雨を吐き出す。
さすがの彼女でも触れたくは無いらしく、バックステップでそれを回避すると、物理攻撃を衝撃波として放つCランクスキル『武技・飛燕撃』を発動した。
剣から生み出された燕はボスに迫り、アシッド・センティピードの足を数本ほど切断する。そのまま空を切りながら飛翔すると、ドームの壁に当たって破砕音を立てた。
「まだ立てるだろう。次だ」
ツバキさんが左手の人差し指で挑発する。
もちろん、アシッド・センティピードはその意味を理解しない。
だが彼女の目に燃える闘志を捉えたのか、鎌首を擡げて襲い掛かった。
「そうだ! いいぞ、よく狙え!!」
正面から突撃してきたボスを剣一本で受け止めるツバキさん。
電車に轢かれたような衝撃のはずだが、それを受けても彼女は動いていない。まるで足が地面に縫い付けられているかのように、微動だにしない。
それどころか、逆に自らの衝撃で割を食ったアシッド・センティピードの背甲に、小さくひびが入っているくらいだ。
しかし、敵の武器は巨体だけではない。無数の足も致死性の威力を秘めている。ツバキさんは自身を丸呑みにしようとした牙を剣で受け止めているため、彼女の側面はガラ空きになっていた。
当然というべきか、アシッド・センティピードは左右から死神の鎌で襲い掛かる。
「ふっ!」
アシッド・センティピードの顎を、ツバキさんは流麗な動作で蹴り上げる。
ゴガァン!と先ほどの突進よりも大きな轟音が響き渡り、ボスの体がL字型に伸びた。そこを見逃さず胴体の下に潜り込むと、今度は身体を支えていた足を数本斬り落とす。
脳を揺らされ、さらにバランスを崩されたボスは、脱線した列車のように身体を傾けて倒れこむ。
それは大きな隙となり、アシッド・センティピードの足がさらに数本ほど消し飛ぶには十分な時間となった。
「どうだ、痛いか? まだ殺さんぞ!」
ツバキさんは横倒しのまま遮二無二に振り下ろされた鎌を受け止め、返す刀で斬り裂く。
今度はそれだけに留まらず、落とした足をツバキさんが蹴り飛ばしたため、思い切りアシッド・センティピードの胴体へと突き刺さった。
「ギシャアアアアァッ!?」
足の一本一本はたいした傷で無かろうと、本体が攻撃されては別。
痛みゆえか、ボスは大きな悲鳴を上げる。
「ははははははは! まだだ、まだ終わらせない!!」
哄笑を上げるツバキさんの口元が、三日月形に割れていた。
彼女の頬は紅葉色に高潮し、その吐息は荒い。
あえてボスを一撃で仕留めず、遊んでいるのだ。壊れないギリギリの位置で。
「「「ぴいいぃぃ……」」」
遠くで乱れ舞う剣戟を見て、獣娘達はガクガクブルブルと頭を抱えている。
その耳を優しく撫でつつ、アリサが溜息をついた。
「ツバキったら、相当溜まってたのね……」
「らしいな。まぁ、普段がお堅いイメージあるし、ああいう一面もアクセントになって良いと思うぞ」
「あらあら~。リュウ様はそういう趣味もおありなのですか~?」
「……被虐体質?」
「違う違う」
今までの言動で分かってはいた。彼女の本来の性格が、本人の言った通り戦闘狂そのものであることに。
昨日のノーライフキング戦では妹を優先させて大人しかったが、内心では戦いたかったのだろう。今日の迷宮探索では雑魚を魔法の狙撃で倒していたため、ツバキさんはほぼ岩しか斬っていない。
同情するよ、巨大ムカデ。意図して彼女の欲求不満につき合わせたわけじゃないから、死んでも恨まないでくれ。
「どうした! その程度か!!」
二十を超える足を一回の斬り上げで破壊し、ツバキさんは空中からボスを見下ろす。
そこへボスが酸を吐きかけるものの、彼女の姿が一瞬にして消える。酸の雨は、むなしく地面の石を溶かしただけ。必殺の攻撃も、当たらなければ意味が無い。
ツバキさんを見失ったアシッド・センティピードが混乱している間に、さらに数本の足が宙を舞う。
「ふぅ、多少は楽しめたな。そろそろ終わりにしよう」
七割がたの足を斬り落とされたボスを見つつ、ツバキさんが口を開く。
よく見ると敵の足は数本間隔で残っており、それは彼女がわざと戦いを長引かせる為にやったものだと推測できた。例えば片側だけを全部斬り落としてしまうと、敵はバランスを完全に失って立ち上がることすら困難になるだろう。
己が楽しむ為に敵を生かす……言葉にしてみると何ともサドいな。
「キシャアアアアアアァッ!!」
ツバキさんの目を見て己の死期を悟ったらしい。
最後の切り札、自身の巨体を使って押しつぶそうとしてくるアシッド・センティピード。
その姿にツバキさんは瞑目すると、初めて剣を構えた。
右足を後ろに下げて左足を前に出し、剣を身体の後ろに隠す。日本の剣術でいう『脇構え』だ。
その構えが最も得意とするのは、一撃必殺の交叉法。
「その命に感謝する。さらばだ」
何が起こったかを理解する前に、アシッド・センティピードはその命を散らす。
分かたれた首と胴体が、ドームの地面を大きく揺らした。
体力ツリー
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【武技・飛燕撃】
RANK:C
前提スキル:中級拳闘士、初級剣士、初級槍術士、ソニックムーブ
威力:特殊
消費体力:+500(Active)
有効射程:40m
己が技により衝撃波を生み出し、離れた敵を屠る。威力は同時に起動したスキルもしくは通常攻撃の80%に準拠する。発生から0.1秒ごとに威力が100減少する。スキルポイントを1追加するごとに、1秒あたりの威力減退率が2%軽減され、有効射程が2.0m増加する。
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注:ブームではなくムーブ(動き)です。




