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異世界チートで姫様達と婚前旅行。  作者: 富士ヶ麓久遠
トランディア王国・迷宮都市レガル編
27/42

余裕でございます

 イヌ耳の子が『チワ』、ネコ耳の子が『シャム』、キツネ耳の子が『キキ』という名前らしい。

 女の子同士の会話に入っていくのはマナー違反のような気がしたので四姉妹に任せていると、すぐに打ち解けたようだ。

 

 仲の良い光景にちょっと疎外感を感じながら、ダンジョンゲート前の兵士に全員のギルドカードを見せ、向こうが俺達の情報を台帳に記入していたときのことだった。


「そういえば、どうやってコインの表裏を当てられたの? 残ったほうを選ぶんだから、かなり不利なはずなのに……」


 デパートの親子連れのように狐娘キツネっこキキの右手を繋いだアリサが問いかけてきた。その目は興味津々といった光で輝いている。

 奴隷商人との一件はコインの出目を確実に操作できるからこその遊びであると理解したため、その手品のタネを知りたくなったらしい。

 ちなみに迷宮入りの直前なので、彼女の尻は治療済みだ。


「仕掛けは単純だよ。普通の人にはできないだろうけどな」


 俺は先ほど使った白金貨を放ると、アリサは右手でそれを受け取る。

 キキとその左手を繋いでいるベルンも一緒に、三人で白金貨を覗き込んだ。全員が見やすいよう自分の腰の高さに白金貨を動かしているあたり、アリサもちゃんとお姉さんしているんだな。


「何これ? 魔方陣?」

「……転移対象を指定する術式」


 アリサは眉をひそめているだけだが、魔法が主力となるベルンには分かったらしい。

 ちなみにキキは「これが白金貨ですかぁ」と言っていた。見る点が微妙にズレている。まぁ、暮らしが暮らしだと白金貨を見たことがないんだろうな。


「ベルンの言った通りだ。その白金貨には、転移対象を指定するための魔方陣が刻んであるんだよ」


 ツバキさんと猫耳娘ネコミミっこのシャム、そしてシェリスさんと抱きかかえられている犬耳娘イヌミミっこのチワも、アリサが持つ白金貨を覗き込んでいた。

 彼女達の目に映っているのは、幾何学的な文様を描く小指大の魔方陣だ。

 刻むと言っても、魔力を絵の具のようにして描いているだけなので、白金貨自体を削っているわけではない。


「その白金貨と対になる転移先魔法陣が、俺の左手に刻んである。ここまで言えば何となく予想はつくだろ?」


 俺がアリサへ言ったように、イカサマの原理は単純。

 転移対象指定用の魔方陣を刻んだ白金貨を用意し、普通に指ではじく。キャッチした後で瞬間転移を発動。手の中で己の出目に変更。それだけだ。

 転移させた時に白金貨の状態をある程度操作できるため、一枚だけでも表裏を出すことは可能。しかも魔方陣は俺の意思ひとつで簡単に消去できるので、イカサマがバレることもない。

 何回も使っているとさすがに怪しまれるから、頻繁には使えないだろうがな。


「あの。ご主人しゃまは転移魔法師様なのです?」


 四姉妹がナルホドと頷いている中で、シェリスさんの胸に抱えられたチワが気弱そうな目を向けてきた。

 ご主人しゃま呼びに変な感動を覚えてしまい、少し動揺してしまう。うむ、これは続けさせよう。


「ま、まぁ、そんなところだ」

「すごいのです! 転移の神聖魔法を使えるなんて、感動なのです!」


 犬耳を震わせ、チワがキラキラした目で俺を見つめる。

 神聖魔法、つまりSランクの『瞬間転移』は複数人での起動が基本となる。よって、一人では転移のイカサマができない、という前提があるからこそのトリックだったのだが……。

 うーむ、ちょっとマズったな。ご主人しゃま呼びに動揺して、他人の前で軽々しく情報を出しすぎた。緊急時に高位スキルを出し惜しみする気はないが、これからは気をつけるようにしよう。


(いや、これは戦闘スキルと違って対処のしようがない。バレても構わないかもな)


 というより、既に大々的にバレている。

 感極まったチワが、感動のあまり大声で言ってしまったからだ。


「転移魔法?」

「ほら、あそこ。先頭にいる綺麗どころが集まった連中だ」

「昨日のノーライフキング騒動でも、あの美人が討伐したって話だぜ? アイテムボックス持ちもいるらしいし、類が友を呼んだのかもな。使えてもおかしくねぇだろ」

「マジかよ……。うちのパーティーに誘ってみるか?」


 ざわざわしつつある周囲、特に勧誘中だった冒険者パーティーの視線を受け、俺は溜息をつく。

 まぁ、深く考えるのはやめよう。転移魔法を使い続けていれば、いずれバレるのは時間の問題だっただろう。たまたま転移先に人が居合わせるとか、そんな形で。

 俺が『一人で使った』という点は聞かれていないので、この情報漏洩はマシな部類だ。


(しかし、いやに情報が出回るのが早いな。商人の爺さんが情報通ってだけじゃなかったのか)


 昨日は質問攻めされないようギルドの裏口から逃げたというのに、なんという情報拡散力だ。俺達がノーライフキングを討伐してから一日経っていないんだぞ。現代日本のネット社会を思い起こさせる早さだ。

 一昨日までは、まるきり無名の冒険者だったんだが……。Aランクモンスター討伐のネームバリューが効いている、ということか。

 俺達の場合、噂が立ってしまえば人相も広がるのは難しいことじゃない。絶世の美少女四人を連れた冴えない男なんて、この都市に二人と居ないだろう。


「わうぅぅ。ご、ごめんなさいなのです……」


 周囲が何故騒いでいるのかを悟ったチワは、シェリスさんの腕の中でシュンと落ち込み、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

 奴隷とはいえ、冒険者と共に迷宮を潜る身だ。能力を隠すことの重要性については理解しているらしい。

 

 迷宮内の敵はモンスターだけでなく、略奪を目的とした盗賊だって潜んでいる。

 そして何よりも怖いのは、同業である冒険者だ。

 その自由な職種ゆえ、ライバルを出し抜くためなら何でもやると、ギルドのクレアさんは言っていた。盗賊のように迷宮で直接危害を加えるほか、ネットゲームで言うMPK(大量のモンスターを引き連れて押し付け、間接的に殺す行為)をする者もいるらしい。

 ま、俺達は簡単に殺せるほどヤワじゃないから問題ないけどな。今はまだ。


「気にしないでも大丈夫ですよ~。わたし達の旦那様は、スキルの一つや二つを知られたところで倒せるような人ではありませんからね~」

「そうそう。人間辞めてる人間を人間が倒すことなんて人間には不可能よ」


 シェリスさんはともかく、アリサの慰めは人間がゲシュタルト崩壊しそうだな。

 というか人間辞めてる人間って何だそれ。


「ふむ。ある意味、リュウ殿はモンスターのような存在だからな」

「……ん。一理ある」


 ツバキさんとベルンが真面目な顔して頷いている。

 俺はゴブリンとかオークと同じ扱いッスか。

 ……いや別にいいけどね。動画なら『大剣を受け止めてみた』とか『鉱山にアタックしてみた』といったタイトルがつくようなことをやらかしている身だ。人間辞めているのは自覚してるよ。


「まぁ、そういうことだ。気にするな」


 ひとまず行動で示すために、チワの銀灰色の頭を優しく撫でる。

 手を近づけた時に「ビクッ」とおびえたのが気になったが、少しすると安心したように身を委ねてくれた。

 汗を流せていないのか少しだけごわごわしているものの、犬耳の感触は悪くないな。


「うふふ。リュウ様との赤ちゃんができたら、こんな感じなのでしょうか~」

「さすがに気が早すぎるだろ……」


 シェリスさんに抱かれたチワの頭を俺が撫でている構図だし、客観的に見れば確かに分からなくもないのだが……。

 約三名から形容しがたい威圧が発せられているんで、変なことを言うのはやめてほしい。

 しかし幸いと言うべきか、背筋が思わず震えるような視線を三秒ほど耐えたところで、ギルドカードを記録していた門番から声がかけられる。


「よし、通っていいぞ。健闘を祈る」


 俺達全員(獣娘も含む)のギルドカードを返却し、ダンジョンゲートへと先を促す兵士。

 念のためにと、シェリスさんはチワを下ろしていた。アリサとベルンも同じで、キキから手を放している。何かあったときに各自で動けたほうがいいのだろう。


「さて、それじゃ行きますかね」

 

 俺は目の前にあるダンジョンゲートを見やった。

 波紋のように広がる空気は、先ほど見たときと変わらない。

 ゲートの地面には半径数メートルの円が左右に一つずつ。複雑な文様を浮かび上がらせて、神秘的な光を放っている。この魔法陣の中にいる者がひとつのパーティーとみなされて同じ階層へ飛ばされるらしい。

 魔方陣が二つあるのは、入る側と出る側に分かれているからだろう。魔方陣がひとつしかなかったら、出る人間と入る人間がカチ合ってしまうかもしれない。

 

(まぁ今は考えても分からないことか……)


 その答えは迷宮から出るときに判明するだろう。

 大きく深呼吸をしてから、俺達はゲートの中へ足を踏み入れた。

 ぬるりとした粘液のような空気を通り抜けると、目に飛び込んできたのは灰色のそら


「……空?」


 自分で言っておいて妙だと思ったが、紛れもない空だ。

 ちょうど曇りのような様相を呈しているので、太陽らしきものは見えない。


「ダンジョンってハンパないな……」

「すごいわね……」

「ほぅ。面妖な光景だな」


 続いてゲートをくぐってきたアリサ達も驚いている。洞窟の中に空があるなど、さすがはファンタジーの世界といったところか。

 クレアさんから話は聞いていたのだが、この『黒白迷宮』は巨大な迷路になっているらしい。

 今立っている床は、横幅が日本の大きな道路ほどもある岩石の道。その両脇に聳え立つのは、高さ数十メートルはありそうな岩石の壁だ。空以外を岩で囲まれるようにして、ぐねぐねとした巨大な迷路が築かれていた。

 この景観を例えるなら、グランドキャニオンの谷底にいるような感じだろうか。色は茶色じゃないけど。

  

「ご主人しゃま、迷宮に潜るのは初めてなのかニャ?」


 感嘆の声を上げていると、いつの間にか隣にシャムがいる。

 瞳孔が縦に割れている黒曜石の猫目で、俺をキョトンと見上げていた。

 

「ああ。俺達のパーティーは迷宮初挑戦だよ。だからこそ、迷宮に潜ったことのありそうな三人を雇ったんだ」


 本当は奴隷商人の視線にイラっときたのと、獣娘ケモノっこ達の存在に癒されるのではないかという打算だ。口には出さないけどね。

 まぁそんな真意はさておき、俺の言葉を聞いたシャムは薄い胸をトンと叩いた。


「ニャるほど。じゃあ、ここはシャム達が案内してやるニャ」

「お。それはありがたいけど、戦闘はできるのか?」

「もっと下の層なら無理ですけどぉ、第一層ならぜんぜん大丈夫ですぅ」

 

 シャムの後ろからひょっこり顔を出してきたのはキキ。

 尻尾をふわふわと揺らしながら、シャムと同じようにして俺を見上げた。


(素材運びしかできないのかと思っていたけど、そりゃ迷宮に潜る以上は最低限の戦闘能力が無いと駄目だよな……)


 だぼだぼのリュックサックが目に付く獣娘達だったが、その腰には短いダガーも差してある。

 ちょうどいい機会だし、戦えると分かった以上は聞いておくことにしよう。レーダーを見ても周囲に敵影は無いため、話すなら今しかないしな。


「三人は魔法を使えたりするのか?」

「使えないニャ。でも、シャム達は全員『気配探知』のスキルを持ってるから、斥候としてなら役に立てるニャ」

「チワは『暗殺技』も使えるのです!」


 スキルの話をしていると、今度はチワも会話に飛び込んできた。

 先ほど転移魔法を大暴露してしまった負い目からか、積極的に自分を売り込んでくる。そんなに気負わなくてもいいのにな。

 俺は周囲を警戒しつつも、四姉妹と一緒になって円陣を組み、獣娘達のポジションを吟味し始めた。


「そうすると、シャムは前衛アタッカー向きかもね。あたしとツバキを先頭にして歩くから、道案内とサポート役をお願いするわ」

「分かったニャ」

「うむ。よろしく頼むぞ」


 アリサの言葉で、シャムがこくりと頷く。

 話を聞いたところ、獣娘三人の中で一番素早いのは彼女だ。猫科の動きで翻弄して戦線を維持できるため、フロントの壁役として機能するだろう。

 加えて、案内役も彼女の重要な役目となる。

 一応、ギルドで第一層から第二十層までの地図(お値段は金貨四枚。地味に高い)を買ってはいるのだが、迷宮は方向感覚が狂いやすい。コツを掴むまでは、慣れた者に案内してもらうのが一番だ。魔力が充満している影響で方位磁石が使えないというのも一因か。

 俺のオブジェクトレーダーを利用するという手もないわけではないが、レーダー上に地形が表示される範囲は迷宮全域をカバーできるほど広くない。迷宮内では近場の確認程度しか役に立たないだろう。

 これらの悪条件を解決するためには、迷宮に慣れており、かつ動物の感覚を持つ獣娘に頼るのが最適解となる。


「チワは俺と一緒に中衛ミドルレンジの担当。前衛と交戦している敵に隙ができたら、スキルの『暗殺技』で仕留めるんだ」

「わ、分かったのです! ご主人しゃまはどうするのです?」

「俺は戦況を判断して動く。最初から数に入れないでくれると助かるよ」


 チワは役目を与えられて嬉しそうだ。

 中衛ミドルレンジでは、前後の状況を見て適切に動ける者が勤めなければならない。背後からの奇襲を受けてそちらの対応に回ったり、拮抗している前衛に加勢したりする必要がある。

 背後からの対応はともかく、前衛への加勢についてはチワの持つ『暗殺技』が非常に強力だ。これは俺も習得しているのだが、意識が自分に向いていない相手を攻撃した際に威力が3%上昇する、というスキルだ。

 前衛との交戦中に隙を突けるミドルレンジでこそ、チワの才能は輝くと言えるだろう。


(とは言っても、アリサとツバキさんを相手に1秒以上生きていられるような相手がいるとも思えないんだけどな)


 内心ではそう思っていたが、今は迷宮に慣れることが目的だ。

 簡単だからこそ、今のうちにフォーメーションをきちんと確認しておこう。


「キキちゃんは後衛バックアップですね~。背後への『気配探知』を怠らないようにお願いします~」

「はいぃ。わかりましたぁ!」

「……よろしく」


 少々ビクついた声で、キキがシェリスさんとベルンに頭を下げる。

 後衛は魔法や弓によって遠距離から攻撃できる分、近接戦闘に難がある者が多い。実際、シェリスさんとベルンも肉弾戦を不得手としており(それでも達人レベルだが)、また戦力の分散を防ぐ意味でも背後の警戒は必須となる。

 奇襲については俺が対応できるものの、戦闘中までレーダーを凝視できるわけではない。

 つまり、キキの役目は戦闘中も逃げに徹して周囲の状況を伝えることであり、単純ながらも責任重大だったりするのだ。


「ひとまずは、こんなところか?」

「そうね。後は進みながら調整しましょ」


 あらかたのポジションを決めると、俺達は迷宮を歩き始めた。

 シャムとアリサ、ツバキさんが先頭を進み、俺とチワが後に続く。


「一層あたりの攻略には、大体どのくらいの時間がかかるんだ?」

「パーティーの強さにもよるのです。普通のDランク冒険者なら、一層上がるのに三時間くらいなのです」

「……Aランクパーティーなら?」

 

 俺とチワの会話を聞きつけたのか、ベルンが後ろから問いかけてくる。

 その質問に獣娘達がそれぞれ顔を合わせ、少しだけ悩む素振りを見せてから――。

 

「Aランクだと、運が良かったら三十分くらいで突破できると思うのです!」

「キキ達三人なら四時間だねぇ」

「ご主人しゃまもいるし、二時間で次の層に行けるくらい頑張るニャ!」


 満面の笑みで言い切った。









 それから約三時間後。

 腕時計を見てみれば、現在は十二時半。お昼時真っ只中である。



「おかしいのです……ありえないのです……」

「これは夢なのぉ……幻なのぉ……」


 相変わらず曇天と岩石の壁に囲まれた中で、隣を歩いているチワがぽつりと呟く。後ろからは、キキの茫然自失とした声まで聞こえてきた。シャムだけはキッチリと地図を見ながら歩いているが、その表情は疲労の色を隠しきれていない。

 迷宮に入った直後の威勢の良さは何だったのか。そう思うほどの変容だ。

 チワの俯いている顔を覗き込んでみたところ、俗に『レ○プ目』と呼ばれるような、完全に意識の無い表情をしていた。足だけは普通に歩を進めているんだけど……それが逆に怖い。幽霊みたいにダランと腕を下げてるから。


 チワが幽霊化した理由はひとつしかない。

 俺達の姿が『第十九層』にあったからだ。

 単純に考えても、一層あたり10分でクリアしたことになる。四方十数キロにも及ぶ巨大迷路を、だ。


「良い意味で予想が裏切られたんだから別にいいじゃないか」

「常識ってものがあるのです……。これで手抜きとか、ご主人しゃまは頭がおかしいのです」

「ひどい言われようだなオイ」


 俺が苦笑いでチワの頭を撫でても、レイ○目は一向に改善されない。

 これまでも階層を下っていくたびに、獣娘ケモノっこ三人からはどんどん表情が消えていた。


「あ、ここ行き止まりね」

 

 アリサの声が聞こえたので、横にいるチワから正面へと視線を向ける。

 目の前にそびえ立っているのは、灰色の岩壁。迷宮を迷宮たらしめる重厚な要素が、擬似的な圧力となって降り注いでいた。

 

「次は誰がやる?」

「……じゃんけんで」

「それじゃ、俺は周囲の警戒をしとくよ」


 俺は四姉妹を尻目に、レーダーへと視線を移す。

 もはや数え切れないほど行われたやり取りだ。なんせ壁に行き当たるたびにやっているのだから。

 お、壁の向こうにフォグモス(蛾のモンスター。霧のような燐粉を振りまいて視界を奪ってから攻撃してくる面倒な敵)がいるな。邪魔だから空撃魔法で狙撃しておこう。


「あらあら~。今回はわたしとツバキちゃんですね~」

「ふむ。先手は姉上で頼む」


 じゃんけんの結果、どうやら今回はシェリスさんとツバキさんがやるらしい。

 その瞬間、獣娘達がものすごいスピードで二人から離れ、一目散に俺の背中へと隠れた。完全にトラウマじゃないですかやだー。

 

「リュウ様~。距離はどのくらいですか~?」

「んー。五十メートルってところか」


 俺はレーダーを見ながらシェリスさんに言葉を返す。

 ある程度の地形なら、近づくことでレーダーが表示してくれるのだ。


「了解です~。それでは、離れていてくださいね~」


 俺の後ろで獣娘達がビクリと身体を震わせた。

 それを知ってか知らずか、シェリスさんは壁から数メートルの位置に立つと、どこからとも無く弓を呼び出して矢を番える。

 弓の装飾に本人の美麗さが加わり、ついつい視線が向いてしまいそうなのを堪えてレーダーを凝視する俺。


「えい~」


 相変わらず気の抜けるような発射ボイスの後――。


 目の前にあった壁が、消失した。


 そして発生する、あまりにも巨大な突風と衝撃波、轟音。

 音というよりは空気の暴力といったほうが良いかもしれない。

 破壊の権化がシェリスさんの近くにあった岩石を根こそぎ吹き飛ばし、デコボコしていた地面を完全な更地に変えていく。

 飛ばされた岩が別の岩を削り、周囲にある尖った部分がヤスリ掛けでもされたかのように丸くなっていった。

 そして何よりも怖いのが、シェリスさんの横顔。

 破壊が破壊を呼んでいるというのに、いつものほんわか笑顔に変わりはない。

 平時となんら変わらぬそれが、根源的な恐怖を呼び起こす。得体の知れないナニかを。


「「「ぴいいいいぃいいぃぃ!!」」」


 獣娘達の叫びが木霊する。

 ちなみに、アリサは『焔精霊装ファイアスピリット・ドライヴ』状態で平然と立っているし、ツバキさんは飛んでくる無数の岩を全部斬ることで回避していた。

 ベルン? 結界があるから気にするだけ無駄です。


(昨日も似たようなオチあったよな……)


 吹き荒れる突風から獣娘達を庇ってやりながら、俺は何となしにそう思った。

 もはや物質が消滅する程度は日常茶飯事になってしまったので、特に驚きは無い。完全に人外の感覚になっちゃったよ。


 しかし、あっけなかったゴブリンとは違う点が、ひとつだけある。

 それは壁の様相だ。


 シェリスさんの弓矢は五十メートルもあった岩壁を確かに貫いているため、突貫工事で造られた洞窟の奥には反対側からの光が見える。

 だが、その洞窟が徐々に塞がれていくのだ。壁からプラナリアのように増殖した岩石によって。

 これは迷宮自体の防衛機構らしく、要は「ショートカットなんて企むんじゃねぇよタコ助野郎。ちゃんと戦ってオイラに死体を貢げや」ということらしい。

 それを反映してか修復速度が尋常ではなく、過去に同じ事を試した人間は岩石に押しつぶされてその命を絶たれたとのことだ。

 ついでに言うと、迷路の壁を登ってのショートカットも駄目なようで、高所に滞空すると凄まじい電流が発生して干物が完成するらしい。

 つまり基本的には、フツーに戦闘しながら攻略する以外の手段が無い。


 しかし、うちのパーティーには人外しかいない。

 よって、その定石は意味を成さない。岩石だけに。


「フッ!」


 数秒で三割ほど穴を埋めてしまった洞窟の前に、ツバキさんが立つ。

 彼女は深く腰を落とすと、俺でも空気がブレた程度にしか見えない速度で剣を振るった。

 

 Aランクスキル【剣技・次元斬】


 空間ごと切断することで一定時間、そこにある物質、そして事象を斬り続ける。

 たとえ剣を納めようとも、その黒い稲妻のような太刀筋は残存し、次元を壊し続ける。

 全てをことごとく、喰らい尽くす剣技。


 洞窟の壁面に沿って生み出された黒い剣閃は強力無比だ。

 その証拠に、修復されようとしていた岩壁が即座に崩れ、目に見えないほど細かい砂と化していく。

 極限まで斬られすぎているのか、その粒子は積もることすらしない。ただただ、川の流れのように漂い、風のように消えていくだけ。

 いくら迷宮が頑張ろうと、それは人やモンスターの干渉を防ぐための機構だ。ことわりの外にいる者へ通用する、そんな道理は無い。

 ツバキさんはこれでも手加減をしているというのだから、恐ろしいにもほどがある。


「それじゃ、お先に行ってくるわね」

「……また後で」


 俺がガクガクブルブル震えている獣娘達を慰めていると――。

 ベルンが空撃魔法を使って宙に浮き、アリサは普通に歩いて洞窟の中に入っていく。数え切れない斬撃の嵐へ、足を踏み入れていく。

 不滅の結界と不死の能力を使いながら、二人は難なく危険地帯を踏み越えたらしい。

 洞窟の奥を凝視したところ、アリサがこちらに向かって大きく手を振っているのが見える。あれは事前に打ち合わせていた『こちら敵影なし人影なし。転移可能』を意味するサインだ。


「よし。シェリスさんとツバキさんも、こっちに来てくれ」

「分かりました~」

「うむ。頼むぞ」


 俺は獣娘達を抱きかかえ、肩に二人の手が置かれたことを確認してから転移魔法を発動する。

 一瞬だけ視界が暗転すると、目に映る景色が今までとは違うものになった。

 目の前にいるのは赤いツインテールの焔と、魔女っ子帽子をかぶった少女。左右を見渡してみると、ごつごつした岩壁が高々と聳えている。それは先ほどの惨状とは打って変わり、今まで通りの迷宮。

 うん、ちゃんと別の通路に出たようだ。後ろを振り返れば、先ほど作られた洞窟がぽっかりと口をあけている。

 あらかじめアリサに刻んでおいた魔法陣への『瞬間転移』が発動したのだ。


「さて、先に進むか」

「うむ。そうだな」

「お腹も減ったし、この階層終わったらお昼ご飯にしましょ」

「……ん。行こ」

「はいなのですよ~」


 俺は獣娘を下ろし……ちょっと三人の足元がフラついているけど、まぁ大丈夫だろう。いずれ慣れる。

 それにしても次のゲートまで直線距離でショートカットできるってのは、非常にラクチンだな。いや~、規格外の四姉妹様々ですわ。


「一番の規格外が何か言っているのです。まだチワは一回もモンスターと戦闘していないのです。エンカウントしても、ご主人しゃまの空撃魔法で長距離狙撃された死体だけなのです。チワのお仕事は魔石の採取だけなのです……」

「魔法陣の刻んだ石を全力でおそらに投げて、数キロ先のゲートに転移。第十二層のクリアタイム十秒以下。狂ってるとしか思えないニャ……」

「ううぅ。キキたち、実はすっごく危ないご主人しゃまに捕まったんじゃないのかなぁ……」

「同じ階層の冒険者に巻き添えの被害が出ていないのが、ものすっごく不思議なのです。天変地異かと思ったのです」

「今は飽きてピクニックしてるから良い方ニャ。四人でタイムアタックしてた時とか、絶対一人は殺ってる気がするニャ」

「すごかったよねぇ。壁は何枚抜きが最高だっけぇ? キキ、二十枚から数えるの止めたんだよねぇ」


 ハハハハ。聞こえんな。


体力ツリー

===========================================

【暗殺技】

RANK:D

前提スキル:下忍の心得、軽業士、忍び足[+3]

威力:特殊

消費体力:0(Passive)

暗殺者としての基本的な動作を会得する。意識が自分に向いていない相手を攻撃した際に、全ての威力が3%上昇する。スキルポイントを3追加するごとに、威力倍率が2%増加する。

===========================================

【剣技・次元斬】

RANK:A

前提スキル:体力増強Ⅱ[+20]、特級剣士、熟練闘士、抜刀術の極意、深遠の刃、剣技・天狼斬牙、武技・飛燕撃、マテリアル・ゼロ

威力:5000

消費体力:7500(Active)

持続時間:5s

次元を切り裂き、全てをことごとく喰らい尽くす剣技。1秒につき威力200の斬撃を五回発生させる。スキルポイントを5追加することにより、同時に起動できる剣技・次元斬の数が増加する。

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