幕間:とある屋敷の一室
リュウタロウが『萌えと四姉妹の因果関係について(ふともも編)』を大音量で演説している頃。
レガルに立ち並んでいる貴族屋敷の一つ。
そこに迷宮都市での活動拠点を構えるAランク冒険者のレオパルトは、見たこともないほど厳しい顔を作っていた。
豪奢なベッドで、自身と同じく全裸となっている美女に圧し掛かられ、柔らかな舌で胸板を舐め清められているにしては有り得ない表情だろう。
「失礼します」
寝室の扉が開き、事の最中にもかかわらず入室してきた女性。
その光景を見ても顔色一つ変えない彼女は、レオパルトに一礼すると報告を始める。
レオパルトにとってもその報告の方が大事なので、奉仕は止めさせずとも意識は耳に傾けていた。
「かの冒険者について、現在判明している情報をお伝えします」
「ああ。頼む」
レオパルトの声に、女性は手元の書類へと目を落とす。
「名はリュウタロウ。ポジションは魔法戦士。先日登録したばかりのため、冒険者ランクはEとなっています。聞き込みでは知略と策謀に長けているとのこと。近接戦闘能力に関しては、Cランク冒険者数人を無傷で取り押さえる程度のものはあるとされます」
「そうか。奴のパーティーメンバーについてはどうだ?」
「金髪の女性はシェリス、黒髪の女性がツバキ、赤い髪の少女はアリサ、魔女帽子の少女がベルントーラという名前で登録されています。ポジションは、それぞれ弓術師、剣士、魔法拳士、魔法師となっています」
「……能力の情報は?」
「アリサは炎の精霊を操り、山すら貫く一撃を放つことができるとの事です。ツバキは全てを切り裂く剣豪であり、シェリスとベルントーラは百の大群とも渡り合える殲滅魔法の使い手だとか」
報告を聞いたレオパルトの顔に、黒い笑みが現れる。
(僕の持っている女の誰よりも美しく、そして何よりも強いじゃないか。あの四人を手に入れれば、僕はSランク冒険者になれるぞ……!)
絶世の美女美少女。それぞれに違った魅力のある四人をはべらせる自分を妄想し、心が言いようもなく沸き立つレオパルト。
その脳裏に強く浮かぶは、燃えるように赤い髪の美しい少女。
純粋さに溢れ、それでいて凛々しく、生意気なあの女を啼かせたら……いったいどれだけ気持ちの良いことだろう。
それだけで情欲に火がつき、身体が女体を求めてしまうほどに、その想いは熱く狂おしい。
「よくやった、エレン。今日は君も一緒に可愛がってやるとしよう」
「あ、ありがとうございます。感激です!」
先ほどまで事務的に情報を伝えていた顔が蕩け、いそいそと服を脱ぎ出す女性。
その光景を横目で見ながら、レオパルトは思案にふける。
(……厄介なのは、あのリュウタロウとかいう男か)
短い黒髪と黒い瞳が特徴的な、異国情緒漂う外見。
容姿が悪いというわけではないが、あの美女美少女と釣り合うほどでもない。
身体つきは別段筋肉質というわけではなく、かといって横幅が大きいわけでもない。背丈においても同様で、低くもなく高くもない。
どこにでもいそうな平民の青年だった。
(とりたて強くは見えない。なのに、僕の『女性魅了』を見破った……)
そんな馬鹿なはずは無いと、レオパルトは一蹴する。
レオパルトの使う『女性魅了』は、現存するどのスキルを使おうとも事前に察知することはできないのだから。
それが分かるとすれば……。
(僕と同じスキルを持っていなければ、そんなことは……同じスキル!?)
そこまで考えたところで、レオパルトの頭に閃くものが生まれる。
(そうか! リュウタロウは僕と同じ、『女性魅了』のスキル所持者か!)
だとすれば、色々と辻褄の合うところがある。
例えば『女性魅了』に『女性魅了』を上書きすることで、本来のレオパルトが使った方の効果を消失させることができる。
ギルドで四人にリュウタロウが愛を囁いていたのは、そのためだろう。同じ能力者ゆえに魅了をかけられたと気付き、すぐに上書きに回ったのだ。
他にも、ギルドにリュウタロウの詳細な戦闘記録が無かったのは、あまり戦闘に長けていないからだと推測できる。
よくてCランクを取り押さえられる程度であり、レオパルトが手に入れたAランクの実力を持つ女冒険者達ほどではない、と。
なにせ『女性魅了』を習得している場合、他の能力に関しての伸びは期待できない。それはレオパルト自身が一番良く知っていた。
(ひひひ。それなら、幾らでもやりようはあるじゃないか……)
レオパルトが、勝利を確信した醜悪な笑みを浮かべる。
かの女性をモノにすべく、その邪悪な思想を現実にしようと策を練り始めた。
このとき彼の不幸な点は、ギルドが情報を隠していたこと、そしてリュウタロウの能力を誤認していたことだろう。
まず、ギルド長であるミストがリュウタロウの能力を記録しないよう手回しをしていたことが功を奏した。
ギルドの職員は契約魔法によって外部へ情報を漏らさないよう縛られているため、レオパルトは盗賊の女を使うことでギルド内部を漁って調べていた。
しかし、ミストが意図的に隠していたリュウタロウの戦闘能力についてはギルドの戦闘履歴に記載されておらず、彼の強さを測る情報が『緋色の風』の一件しか無かったのだ。ミスト本人は、リュウタロウと会った時に今まで無いほど精霊が騒いでいたので、これからの関係に役立つかもしれないと独断で秘匿した……というだけなのだが。
そして唯一リュウタロウの能力を少しでも知っているのが、ゴブリン討伐戦に参加したパーティーメンバーだ。
それに関しても、リュウタロウによって助けられ、さらには手柄を分けてもらった恩から口を割らなかった。
拷問や自白剤の使用などをされれば別だったのだろうが、打ち上げの集合場所に来ない冒険者がいれば感づかれる可能性もあったうえ、何より聞き込みを行っていた女性はそこまでの必要性を見出せずにいた。
その結果、冒険者達が適当に言った「リュウタロウは作戦立案役だったな」を完全に信じてしまったのだ。
確かに間違ってはいないし嘘も言っていないため、もし真偽官に問われたとしても真実となっただろう。が、山を吹き飛ばした一件を口にしていないことで、情報としては過分に違ってくる。
圧し掛かってくるもう一つの女性に意識を向けたレオパルトは、それに気付かない。
自身が踏みつけようとしているのは、ドラゴンの尾よりも危険な底なしの闇であること。
そうとは知らず、目の前の女体にアリサの姿を重ね、玩ぶように嬌声を上げさせる。
屋敷の一室に、レオパルトの笑い声が響き渡った。




