祝宴でございます
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AUTHOR:今更ですが、基本は20時10分前後に手動で投稿しています。投稿後30分くらいは、読み直したのにちょくちょく発見するミスで改稿しまくっているため、時間を置いてから読んだほうがいいかもしれませぬ。それと話は変わりますが、「小説家になろう」の小説を読んでいると、初投稿の場合はそのように明記している作品が多い気がしました。私も最初に書いとくべきでしたかね? 24話の現在だと、こちらも今更の気もしますが……。
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オッサンとの夕飯の待ち合わせ時間までは、残り一時間ほど。
ギルドのホールに戻ると他の冒険者達から色々聞かれる可能性があるということで、素材の換金は明日に回して、俺達は宿屋へ帰ってきた。その際に裏口を使わせてくれたあたり、ギルドにもそういった良心はあるようだ。
既に日の落ちた室内で明りを灯してみると、ベッドメイクが終わっているらしく綺麗になっていた。
「はい。これ、リュウに預けるわ」
防具を脱ぎ捨て、普段着に着替えると即座にベッドダイブしたアリサは、寝転がったままの姿勢で俺に向かって何かを放り投げてきた。
顔面直撃コースだったソレを片手でキャッチしてみると、俺自身も一つだけ持っている麻の袋。ギルドで報酬として貰った、白金貨の入った袋だった。
「何で俺に? あと、ダイブした時にヘッドボードで頭打っただろ」
「さ、さぁ、何のことかしら」
後頭部を押さえているアリサを見ながら、白金貨の袋をお手玉してみるが……おい、これ四枚どころじゃないぞ。明らかに二十枚以上は入っている。おそらく帰り道なんだろうが、いつの間に四人分をまとめたんだよ。
(いや、今回の報酬だけじゃないな。たぶん、今まで得た金の全部が入っている……)
訝しんでいる俺に、ワンピース姿のシェリスさんが口を添える。
「わたしたちが持ってしまうと、大金であっても簡単に使い果たしてしまうのですよ~。その点、リュウ様は庶民の感覚で貯金できますから、よろしければ生活費の管理をしていただけないでしょうか~」
「あー、要するに豪奢な城暮らしが長いから湯水の如く金を使ってしまいそうってことか?」
彼女の言葉に、少し悩んでから疑問を返す。
今までは金貨数枚程度しか持っていなかったので、生活費でカツカツだった。
しかし今回手に入れたのはかなりの大金だ。無駄遣いしようと思えば相当浪費できるだろう。
「そうなのですよ~。アリサ姉様は衣服を買い込んでしまいそうですし、わたしはお金があったら茶葉と食器を集めたいですからね~。ツバキちゃんとベルンちゃんは花よりケーキなのでお金が掛からないとは思いますけれど~」
うーん。それはどうだろうか。
ツバキさんは糖分を大量に摂取するような人で、ベルンに至っては腹にブラックホールでも飼っているんじゃないかってくらい食べるからな。甘い物、特に加工品のケーキなんかは非常に高価だし、消費量を考えれば大して変わらないと思う。形として残るぶん、姉二人の方がマシかもしれん。
「姉上! わ、私はそんな卑しい真似など……!」
ベッドに腰掛けていたツバキさんが憤慨する。こちらも防具を脱いで着流しに着替えていた。
そんな卑しい真似など……何かな?
「くっ! リュウ殿までそんな顔を……」
俺のニヤニヤした表情がバレてしまったらしい。
そう言われても、たった二日の経験が全てを物語っていますからなぁ。甘い物を止められたら禁断症状でも出そうだと思うくらいにはね。
「ごほん。ともかく、リュウ殿に管理してほしい理由はそれだけではない。アイテムボックス以上の盗難防止策は無い、というのもある」
まぁ、確かにそうだな。
異世界にもギルド銀行なる設備は存在するものの、使用可能なのはCランク以上の者だけだ。Dランク以下はどれだけの大金であろうと自分で管理し、盗まれないように注意しなければならない。四姉妹のようなワンマンアーミーから財布を盗むなんて自殺志願者がいるとも思えないが、今は置いておこう。
要するに本来は自分で管理する必要があるわけだが、俺はアイテムボックスという便利スキルを持っている。しかもアイテムボックスは俺以外には使えないため、そこらの銀行以上の守りだ。ついでに言えば、場所を問わず出し入れ自由ってのも銀行には無い利点か。
もっとも、俺が死ぬとアイテムボックスの中身がどうなるのか……といった問題点もあるのだが。
「意図は分かった。でも、俺が全部管理していたら金銭感覚が身につかないからな」
俺はそう言って袋を開け、一人に一枚ずつ白金貨を放る。
女性が必要な生理用品とかの相場は分からないが、これだけ渡せば大丈夫だろう。
「ひとまずは一般的な衣食住の生活を、俺が預かっている金でまかなう。それ以外の嗜好品は各自の持つ金から出す……で、いいんじゃないか? あと小遣いの追加分に関しては、全員の稼ぎによって随時相談していくってことで」
「……ん。問題ない」
受け取った白金貨を大事そうに財布(可愛らしい雪模様の巾着)へとしまいながら、普段着のベルンが首肯する。姉達もそれで異論は無いらしい。
俺は一つ頷くと、麻の袋をひっくり返して全ての金貨を掌の上に乗せる。
袋ごとアイテムボックスに収納することもできるが、それだとアイテムボックスを開いたときに『財布』とだけ表示されてしまう。一枚ずつ収納すれば『白金貨:4』や『金貨:10』と表示されるため、そっちのほうがいいだろう。瞬時に残金が分かるからな。
(お、これが虹金貨か)
一つだけ異質な硬貨があったので、それを目の高さに取り上げてみる。
サイズは五百円玉と変わらない。角度によってはルビーにもサファイアにもエメラルドにも光るような、特殊な金貨だ。まぁ今は使うわけも無いし、すぐにアイテムボックスに放り込んでおこう。
俺が一枚一枚数えながら収納し終わったところ、アリサが白金貨を手に持ったまま震えていた。
「こ、このお金を使い切ったら、次のお小遣いまで何もできないってことね……」
「別に死にはしないけどな」
「リュウ殿、それは違うぞ。女将にとって砂糖は生命線。枯渇すれば死あるのみだッ!」
「そうですよ~」
「……同意」
アリサの独り言に突っ込んでやったが、面倒なところから横槍が入ってきた。
ベルンとシェリスさんはまだマシだが、そんな砂糖がどうたらで仲間内にガチの殺気を放つのはあなたくらいです。これ絶対、ツバキさん甘いもの無いと変な病気が出てくるタイプだよ。
「まぁその辺はさっきも言ったが、稼ぎで多少は上下すると思うぞ。好きなことをする金が欲しかったら、ちゃんと稼ごうぜってことだ」
「……リュウさんのお小遣いは?」
俺がベッドに腰掛けると、ベルンがトコトコ歩いてきながら尋ね、ついでとばかりに膝の上に乗っかる。
君、ホントにその定位置好きだね。軽いから別にいいんだけど。
「俺は特に要らないな。男だから服とかも大して必要ないし、朝昼晩食えれば後は無くてもいいくらいだ」
「……趣味は無いの?」
「んー、無いわけじゃないな。しいて挙げるなら料理が趣味だったか」
こっちの世界にはゲームも漫画も無いのだから、その二つは外さざるを得ないだろう。
ベルンの問いかけに悩んだ末で出てきたのは、ごく普通で平凡な家事だった。
俺が住んでた孤児院では、ある程度児童の自主性に任せた運営をしていたからな。将来役に立つとかで、小さい頃は調理師の人に習いながら自分達で飯を作っていたもんだ。今思えば、孤児院としては結構恵まれていた方だったのだろう。
「へぇ。侍従みたいな仕事をしてたのね。料理は上手なの?」
「まぁそこそこだ。得意なのは和食かな。煮物とか天ぷらとか、あとは……わらび餅とか」
「ニモノ? テンプラ? ワラビモチ?」
ベッドに寝転がりながら俺の話を聞いていたアリサは、頭上に?マークを浮かべる。
妹たちも同様に首を傾げている辺り、和食を知らないようだ。
ここに来て未だ洋食しか食べてないから、もしやとは思っていたが……。まぁ無ければスキルを使って自分で作ればいいだけか。孤児院では自家製味噌とか作ってたし、やり方は多少なりとも分かる。
「煮物ってのは俺達の国の料理だな。こっちだとワインとかホワイトソースで煮込むんだけど、俺達は醤油って調味料を使うんだよ。甘辛に仕上がって結構旨いぞ」
まぁ海外には醤油の焦げた匂いを嫌うって人もいるから、そこは好みになるんだけどな。
ただ最近は日本食も海外に進出しているし、そういった好き嫌いは精神的なものって気がしなくもない。食べてみない限りは分からないだろう。
「ふむ。ワラビモチという語感からは、なにやら不思議な魅力を感じるな」
「……じゅるっ」
ツバキさんの嗅覚がヤバイ。
そして何かしらの想像をしたのか、魔女っ子帽の下から水音が。
おいベルン、膝の上で涎垂らすなよ? その爆弾、場所によっては俺に降りかかるんだからな。
「しかし意外な特技があったものですね~。機会があれば是非ご馳走していただきたいです~」
「いつになるかは分からないが、機会があればな」
今はまだ宿暮らしなのだから、腕前を披露するにしても当分先だろう。
シェリスさんの言葉に苦笑をする俺だったが、その返答は意外なところから来た。
「んー、そうでもないと思うけど?」
アリサがゴロゴロと寝転がりながら、何となしに言う。
それこそ、明日の夕飯を尋ねるような軽い声で。
「せっかく大金が転がり込んできたんだし、家を借りればいいのよ。そうすれば色々な事ができるじゃない」
「は?」
その言葉を聞いて処理が追いつかないのか、数秒だけフリーズしてしまう俺。
しかしながら四姉妹にとっては名案だったらしく、ポンと手を打って納得していた。
「そうですね~。言われてみれば、今は絶好の好機ですね~」
「うむ、それもそうだな。拠点があるに越したことはない」
「……賛成」
い、いや、気軽に言っているが、借りるにしても家一軒だぞ? 生半可な買い物じゃないと思うんだが。
「今より高くつくって可能性は……そうでも無いのか」
自分で口に出してみたが、それは無いだろうとすぐに否定できた。
少なくとも宿屋に泊まって生活している現状よりは、家を借りた方が安く済むだろう。
宿屋がある程度の値段するのは、そこに人件費が含まれているからだ。であれば一軒家を借りて人件費を浮かせた方が、そのぶん他のことにお金を回せる。幸い五人もいるのだから炊事洗濯を……まぁ城育ちのお姫様にできるかどうかは置いといて、人手だけは有り余っているのだから家事も可能だろう。
(ギルドであったテルケスの発言も、俺らには関係ないことだしな……)
そう。もう一つ、気にしなければならないことがあった。
俺達の旅の目的が『諸国漫遊』である以上、一箇所に留まる拠点を持つべきではない。それこそテルケスが言っていた「Aランク冒険者は諸国を飛び回るため家が必要ない」と同義。一つの拠点を持ち、そこから動かなくなってしまっては本末転倒となる。
本来なら。
しかし、俺のスキルセットには、とある便利なスキルが存在している。
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【瞬間転移】
RANK:S
前提スキル:-
消費魔力:10000(Active)
次元を跳躍し、望む位相への扉を開く魔法。事前に設置した魔方陣『ディメンションゲート』の場所へ転移することができる。一度に移動可能な対象は6名まで。スキルポイントを10追加するごとに、一度に転移可能な対象枠が1増加する。
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要するにワープだ。
消費魔力が複数人使用を前提としているためか非常に燃費が悪いのだが、割合で最大値を増加させる『魔力増強』スキルにポイントを振った結果、今の魔力値は【14800/14800】と表示されていた。
魔力の回復値も一秒あたり2000に増えているため、瞬間転移を戦闘に応用することは難しいが、移動用程度なら五秒に一回使えることになる。
これがある以上、どれだけ離れた場所であっても俺達は瞬時に移動することができる。例えこの星の裏側であろうとも、家に帰りたければ帰れるし、転移前にディメンションゲートを設置しておけば元の場所に戻る事だって容易い。
つまり、拠点を持とうがどこにでも行けるということだ。
ディメンションゲート自体も小指サイズの魔方陣で、石の裏とかに刻んでおけば見つかることもないし消えることも無いのだ。移動先が安全でない場合は使用不可のログが出るため、「いしのなかにいる」状態も回避可能。
実は、この魔法は既に使用済みで、俺達は今日のクエストでゴブリンの巣穴付近にディメンションゲートを置いてきている。都市から十キロ以上歩くよりも、そっちからの方が断然早いからな。
とまぁ、話がズレてしまったので元に戻そう。
要は、今のところ『家を買う』という選択肢を否定できるだけの材料が見当たらない……ということだ。
アリサ達から預かった金をアイテムボックスで確認してみたところ、虹金貨一枚と白金貨十六枚。日本円にして260万だ。ベルンが倒したノーライフキングの討伐報酬、虹金貨一枚が加算されているため、予想以上の高額になっている。
これだけあれば、金銭的に足らないといった問題も起こらないだろう。買うのではなく借りるんだしな。
加えて俺達には装備を整えたり回復薬を調達する必要がないのだから、クエストを受ければ受けるほど黒字になっていく。家賃が払えないといった事態にならないか不安だが、まぁそこは所持金と応相談か。
「色々考えてみたけど、確かに家を借りるって案は悪くないな」
「でしょ?」
俺があごに手を当てて頷くと、アリサが片目でウィンクを飛ばしてくる。
宿で浪費しないためにも、この件は早めに検討するべきだろう。
「じゃあ明日一日迷宮に潜って、大体いくら稼げるかを見てみよう。それを目安にして、明後日に不動産を尋ねるってのはどうだ?」
俺は少し悩んだ末に、四姉妹に向けて口を開く。
今日の収入はあくまで臨時的なものなので、普段どのくらい稼げるかの指標は見極めておいた方がいい。明日一日はそれを計ることに徹するとしようか。
俺の提案を聞いたアリサ達は満面の笑みを浮かべると、
『賛成!』
と声を揃えて言ったのだった。
□
一時間後の午後七時。
暗くなった街中を進んで集合場所の店に行ってみると、そこは思っていた以上に高そうな店だった。
レンガ調の家屋が立ち並ぶ中でも一際大きい。一見するとダンスホールのような建物で、入り口の看板は陽光草の蛍光塗料によって大きくライトアップされている。装飾も派手で、素人目ですら一流の人間が描いたのだと分かるほどだ。
「いいお店じゃない。オッサンにしてはやるわね」
「そいつはどうも。ここは『シルバーレスト』って店でな。従業員に馴染みがいるから、今日は一席取らせてもらったんだ。感謝しろよ?」
俺と四姉妹が店の前に行くと、オッサンがいかつい笑顔で近づいてくる。
彼の後ろには、奢ると言ってくれたフリードにオスタ……どころか、今回のクエストで同行した全員が集まっていた。なんでも予想以上の収入になったとのことで、彼らも一緒に来て呑みたかったらしい。
「サンキューな、オッサン。でも、ここ結構高い店だろ……いいのか?」
「外からは高そうに見えるけど良心的なんだぜ。なんせバイキングだから、いくら食っても呑んでも三時間で金貨二枚だ。獣人は金貨四枚だけどな」
「へぇ。良心的……なんだな」
一人ぶんの料金が、俺達五人の宿屋一泊(元々の値段)と同じか。結構高くないかと思ったが、全員が納得している以上は悪くないのだろう。
異世界の人って大食漢が多いし、機械を使った大量生産法も確立されていない世の中だ。大量購入で食材を割安にしたとしても、ある程度の経費は必要になってくる。
そういう点では金貨二枚、つまり二万円で妥当かもしれない。料理の質にもよるだろうけどな。
獣人が金貨四枚なのは、人間以上に食うからだろうか。獣人に会ったことがないので知らないが。
そこまで考えて納得した俺は、オッサンの後を追って店の扉を開ける。
チリンチリンと鳴る鈴の音が心地良い。
「獣人かどうかは、どうやって判断しているんだろうな。獣耳があったり毛むくじゃらだったりするのか……?」
「ふむ。これは予想だが、ギルドカードではないだろうか」
「そうですね~。食事処を利用する際に提示する必要がありますから、確認も簡単ですしね~」
「なるほどな。そういえば、ギルドカードには種族も記載されてたか」
そんな会話をしながら入口をくぐったところ、俺達の目に蝋燭の灯りが飛び込んでくる。
はたして期待していた店の中は、いわば舞踏会のホールのようになっていた。大きさもかなりのもので、百人は飲み食いできそうなほど広い。
中央の天井では大きなシャンデリアが輝き、その下には色とりどりの料理が無数に並べられているのが見える。蝋燭の炎で映し出された幻想的な光景は、まさしく御伽噺の舞踏会そのもの。店の一番奥にはステージもあるあたり、本当に踊ることもできるらしい。
ホールの端には座って食べるためのテーブルがいくつも設置されていて、多くの人々が舌鼓を打っていた。皆が一様に幸せそうな顔をしている辺り、ここの味は悪くないのだろう。
一瞬、ドレスコードは大丈夫かと思ってしまったが、客の大半は普段着だ。よかったよかった。
「……お腹すいた」
危ない気配を感じたのでベルンの首根っこを掴んでいると、入口の隣にある受付から従業員が出てくる。
きっちりとしたタキシードを着ている人物はオッサンの知り合いだったらしく、こちらに気付くと片手を挙げてフランクに接してきた。
「久しぶりですね、ロックさん」
「おう、元気にしてたか?」
オッサンに一礼したのは、オールバックにした茶髪が執事を思わせる男だった。タキシードを着ているぶん、余計にそう見えるな。
髭なども薄く、オッサンの知り合いにしては若い気がする。年の頃は二十代かそこらだ。
(って、オッサンも二十代か)
そんな事を思っていると、一言二言交わしていた二人が俺達の方へと向き直る。
いや別に失礼なこと考えてないよオッサン。
「そのボウズが今日の主賓、リュウタロウだ。今はDランク冒険者だが戦闘能力は既にAランク級で、将来はSランクも狙える逸材。今のうちに顔を繋いでおくといいぜ」
「そうでしたか。ようこそおいでくださいました、リュウタロウさん。私はエーデルと申します。お腹一杯食べていってくださいね」
「ど、どうも……」
お辞儀と共に差し出しだされたエーデルさんの右手。
それを恐縮しながら握っている間も、オッサンによる俺の紹介は続く。
「後ろの嬢ちゃん四人は……まぁ、ボウズの女だ。手を出すんじゃねぇぞ、エーデル。この店が消えるからな」
「そんなことしたら、先に妻に殺されてますよ。お嬢様方も、本日は楽しんでいってください」
俺が右手を離すと、エーデルも右手を離してアリサ達へ微笑を向ける。なんか、田舎のおじいちゃんっぽさを感じさせる笑顔だな。
外見はオッサンのほうがオッサンだが、中身はエーデルのほうが年寄りっぽい。
四姉妹も既婚者には警戒をしてないらしく、優雅に一礼してからエーデルの握手に応じていた。
「わざわざありがとう。よろしくね」
「はい~。楽しませていただきます~」
「この身には過分な歓待。礼を言おう」
「……ん」
一言で済ませたのもいるけど、服の裾を摘んで片足を後ろに引く動作はしっかり外さない。
その所作は普通の人なら見惚れるほどで、やっぱり一国のお姫様なんだなぁと実感してしまう。ベッドに頭を打ちつけたり致命傷の雨を降らせる様からは、とてもそうは見えないけど。
(今は金に余裕があるんだし、礼服の一つや二つは買っておくか……)
必要になるかもしれないというのもあるが、見てみたいといった私情のほうが大半だ。
うん、絶対可愛い。絶対買おう。
そう決意しつつ、俺はオッサン達の後について行った。
□
パーティー会場や高級料理店などにある、白いクロスのかけられた円形テーブルへ案内されて五十分後。
さすがに人数が多いので4グループに分かれたのだが、席は近いのでそれぞれのテーブルを行き来して談笑している。
な、の、に。
俺達のパーティーがいるテーブルには、オッサン以外は誰も声をかけない。かけられない。
驚嘆するギャラリーなら、周囲を取り囲むようにいるんだけどね。
「まぁ、うん、大体予想はついてたよな」
いや、原因は分かってるよ。
あれだ、一言で言えば異常だからだ。
「んゅ……そぅ、ね……」
カクテルをグラス三杯呑んで酔いつぶれてしまったアリサは、まだマシな方だ。
たとえベルンのお株を奪う形で俺の膝上に座り、そのままコアラのように抱きついて寝ている現状ですら、まだマシな方なのだ。
本来ならアリサの柔らかい感触を楽しみたいところなのだが、眼前の光景がヤバすぎるのでそんな余裕は無い。冷や汗を流すことで余裕メモリを全部使い切っている。
「ん~、これはとっても美味しいですね~。リュウ様もご一緒にどうですか~?」
「あ、ああ。じゃあ一杯だけ……」
チーズを肴にしてワインに舌鼓を打っているシェリスさんから、手酌で酒を注いでもらう。彼女の近くに乱立している空きボトルを視界に入れないようにしながら。
ぐずるアリサを左手で抑えながら一口飲んでみると、葡萄の甘みと渋みが凝縮された味が喉を通り、アルコールの熱い感触が口に残る。この世界では十六歳から飲酒可能なので初めて飲んだが、酒の味が良く分からない俺でも美味しいとは思う。
思うんだけど……。
「シェリスさん。空けたボトル、それで何本目?」
「うふふ。メッですよ、リュウ様~。女性に数を聞くなんて~」
上品にワインを飲み干したシェリスさんは、すぐさまボトルを傾けてワインを継ぎ足そうとする。
が、その口から葡萄色の液体が流れてくることは無い。
「あらあら~、もう無くなってしまいましたか~。次のボトルをいただいてきますね~」
そう言うと、シェリスさんは酒を飲んでいるとは思えないほどしっかりした足取りで、酒が置いてある中央のテーブルへと歩いていく。ギャラリーは恐れをなしているのか、素直に道を譲っていた。
シェリスさんのいない間、転がっている空きボトルを数えてみると……4レーンでボウリングができるぞ、これ。
どう考えても、普通の人間なら嘔吐を超えて致死量になるほどのアルコールを摂取している。一人で。
「すみません~、さすがに時間が掛かってしまいました~」
ワインを選ぶのに迷ったのか、数分ほどしてシェリスさんが戻ってくる。
次は何の酒を選んだのかと振り返ってみると、
「おかえり、シェ……何それ」
「うふふ。もうボトルでは供給に追いつかないとのことで、酒樽でいただいてきました~」
「「「「「「た、樽!?」」」」」」
ギャラリーと俺の驚愕がハモる。
シェリスさんがゴロゴロと転がしてきたのは、まさかの木で作られた酒樽。
それも、シェリスさんの身の丈半分近くはあるという巨大なものだった。
え。まさかそれ飲む気ですか?
「泣きながら樽ごといただけるなんて、良心的なお店ですね~」
「あ、うん……そうだな」
アリサが座っていた椅子に酒樽をドンッ!と置き、樽の下部にある蛇口からボトルに中身を移し変えるシェリスさん。
バイキングで店側が泣くなんて余程のことだぞ。
……いや、もう何も言うまい。後で裏方さんに頭を下げて白金貨を握らせておこう。それで足りるかは知らないけど。
「姉上。すまないが、もう少し優しく置いてくれ。危うく崩れるところだった」
「……ん。次の料理、お願い」
「あらあら、ごめんなさいね~。ツバキちゃん、ベルンちゃん~」
ツバキさんとベルンの声が聞こえたので、俺は頭をそちらに向けてみる。
見たくないスキルが発動したのか、普段よりも99%減で動きが鈍くなっている首を動かすと……。
「む。一つ食べるか?」
チョコレートドリンクにコーヒー用の砂糖を入れているツバキさんの顔が、半分だけ視界に移る。
もう甘党とかそういうレベルじゃないだろ。糖尿病とか大丈夫なんだろうか。
「う、うーん。さすがに『それ』は、見ているだけで胸焼けがしそうだから遠慮しておくよ」
「そうか……」
いやそんな悲しい顔されても物理的に無理。『それ』を食ったら胃が破裂する。
俺の言っている『それ』とは、ツバキさんの前に置かれているウェディング用と見まがうような巨大ショートケーキのこと。この場合のショートは『サクサクした』という意味合いなので間違ってはいない。違っていたらビッグケーキと言うほか無いからだ。もしくはドレッドノートケーキ。
というわけで、ツバキさんが半分しか見えない理由はケーキのせいでした。そんなのありかよ。
「すげぇよな。ウチの女房も甘党だけど、いくらなんでも……」
「うっぷ。見ているだけでも腹いっぱいになるよ」
ギャラリーも胸焼けしているらしい。
本来は数十人で食べるようなサイズのケーキタワーなのだが、もの凄い早さで切り崩され、ツバキさんの胃の中に納まっていく。もはやフォークの動かされるスピードは俺にすら目視することができず、ときおりチョコレートを飲むときにだけ存在が確認できる。なんという身体性能の無駄遣いだ……!
「つ、次の注文お待たせしました!」
と、ツバキさんの食べっぷりを見ていると、ウェイトレスの人が料理の皿を持って来た。
…………バイキングなのに。
それを受け取ったのは、屋内でも魔女っ子帽子をかぶった少女だ。もったいぶった言い方をしても一名しかいないんだけどさ。
「……ん。ありがとう」
今回来たのは麺料理らしい。
軽く五人前はありそうなナポリタンが大皿に盛られ、今か今かと待ちわびていたベルンの前に置かれる。
ケチャップの匂いが湯気に巻かれて立ち上ると、彼女の目がキランッ!と光った。
「……美味しそう。リュウさんも食べる?」
「うーん、さすがに結構食べたからな。そろそろ選びながら食べることにするよ」
「……そう。ご馳走様」
ベルンが落胆した瞬間、ナポリタンが消えた。
…………。
わ、け、が、わ、か、ら、な、い、よ。
「これで何回目の確認になるか分からないけど、一応聞いておく。もう食ったのか?」
「……けぷっ。美味しかった」
新品に戻ったかのようなナポリタンの皿を見て、満足そうな息を吐くベルン。
その頬には小さくケチャップの痕がついている。本当にあの一瞬で食べ終わったようだ。
「む。ベルン、じっとしていろ」
「……ありがとう」
ベルンの頬についていたソースを、ツバキさんがぬぐってやっている。
五人前を完食したというのに、ベルンの体積は1ピコグラムも増えているようには見えない。本当にブラックホールでも飼ってるんじゃないのか、この子。
スキルセットやメニューに頼っても理解できない領域がある、ということなのだろう。げに恐ろしきは女性の胃袋なり。
「昨日の晩飯とか今日の昼飯は、ある程度普通に食っていた気もするんだけど……」
「……あれは手加減」
「「「「「「手加減!?」」」」」」
そして被るギャラリーと俺の驚愕。
食欲に手加減とか本気とかあったんだな。今初めて知ったよ。
初日のお茶会で四姉妹(いや、アリサを除くから三姉妹か)が普通に食べていたのは……たぶん猫をかぶっていたんだろうな。初対面の印象が悪くならない程度に。
今となっては猫をかぶる必要が無いから全力なのだ。こんなことで全力出してほしくないけど。
バイキングなのにベルンの皿だけ別個に持ち込まれていたのは、まぁ、お察しの通りそういうこと。
俺達が来てから料理が消え行くことでヤバイと判断した料理長が、直々にホールの見張りを行い、そしてベルンを発見したというのだ。その料理長、本当に人間か?
まぁ人間かどうかはともかく、そこでベルンの食欲に敬意を表した彼は、今現在もキッチンで「負けていられん!」と叫びながら料理の真っ最中らしい。人外には人外なりの絆が芽生えたのだろう。そんな絆、俺は生涯ノーサンキューだ。
「おう、楽しんでるかボウズ!」
「見れば分かるだろ。色々な意味で楽しめているよ」
次に運ばれてきたチキンカツが旨そうだったのでベルンに消去される前に一枚貰い、それを小さく切って素手で摘んでいたところ、他のテーブルにいたオッサンが話しかけてきた。
オッサンの頬は赤く、足取りもフラフラだ。
「結構飲んだんだな」
「まぁ、こういうところなら呑まれてもいいって思うからな。面白い肴もあることだしよ」
シェリスさんからワインを貰ったオッサンは、俺に抱きついているアリサを見やる。
なんだよ、その初々しい中学生カップルを見守る近所のおばちゃんのような目つきは。
「昨日からボウズに聞きたいと思ってたことがあるんだけどな……」
「聞きたくないけど、今は逃げられないから聞いてやる。何だ?」
オッサンのニヤニヤした表情が、とてつもなくウザイ。
早く言え。
「ボウズが嬢ちゃん達とそういう関係だってのは分かる。で、ボウズは誰が一番なんだ?」
「…………は?」
もったいぶった割に微妙な質問だなと思ったのは、どうやら俺だけだったらしい。
シェリスさんも、ツバキさんも、ベルンまでもが食べる手を止めて、じーっとこちらを見つめている。まるで周囲の時間が止まってしまったかのように、三人が静まり返っていた。唯一目を閉じているのは、腕の中ですやすやと寝ているアリサだけだ。
周囲のギャラリーもその様相に呑まれているのか、じっと止まって動かないでいる。
ホール内にいる他の客の声が、やけに大きく響き渡った。
(こ、この状況は……)
何故かは分からないが、すごくマズい気がする。
ここで全員が好きだとだけ言っても、その答えは間違いなく否定されるだろう。何となくそんな予感がする。
かといって誰か一人が好きだと言っても、それはそれで論争の種を撒き散らすだけだ。
「あー、えーっとだな……誰が一番か、うーん……」
オッサンのニヤニヤ顔は後で張り倒すとして、ともかくこの窮地を抜け出す方法を考えなければ。
救いを求めるようにシェリスさんを見やったところ、凄く穏やかな顔をして「大丈夫ですよ~。わたしを選んでくださいますよね~」と目で語っていた。ダメだ、これは裏切れない。
ツバキさんに縋るような視線を向けても、胸を張って「大丈夫だ。信じているぞ」といった視線が返ってきた。こんな人を裏切れるわけ無いだろう。
ベルンから無言の威圧を受けて振り向いたら、子どものようにキラキラした目で「……大丈夫。ベルンが一番」と宣言された。これを裏切ったら、俺は人として大事なものを失う気がする。
「ぐっ……」
そこから数分間、針の筵にいるような無言の時間が続いた。
なお、この問いに関しての答えを全て記述するのは、俺の精神衛生上やめておくとしよう。
なにせ、「全員が好きに決まってんだろうがああ!!」と叫んだ上、反論を許さないかのごとく一時間に渡って四姉妹のチャームポイントを大声で挙げ連ね、意識のあった三人が「恥ずかしくて死んでしまいそうです~……」「わ、私が悪かったから、もうやめてくれ」「……ぅぅ」と真っ赤な顔を覆ってテーブルに突っ伏すことになり、俺の演説にも爆睡中だったアリサが首筋に顔を擦りつけてくるほどの惨状となってしまったのだから。
うん、率直に死にたい。明日から表に出れないな、俺。
それともう一つ。
これだけ騒いだというのに、結局『シルバーレスト』からは出禁を言い渡されたりなどはしなかった。
主に、俺が無理矢理エーデルに渡した白金貨、ウワバミ美女と大食い少女の集客力、そして料理長とベルンの間に芽生えた友情のおかげで。
次からは全員獣人料金になったけど……まぁ、あの飯が食えるならそれでもいいか。




