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異世界チートで姫様達と婚前旅行。  作者: 富士ヶ麓久遠
トランディア王国・迷宮都市レガル編
23/42

ギルド長登場でございます

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AUTHOR:テンプレどばぶしゃああ&ひどいタイトルネタバレ回。ヒロインがチョロインなのには理由があります。これは七話後の【ツマミ食いでございます】にて判明するので、しばしお待ちヲー。こういうところを説明できない主人公視点にちょっと後悔し始めている今日のこの頃。


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「やぁ。初めまして、お嬢さん方」


 俺達に近づいてきたレオパルトの第一声は、確かに女性なら誰もが聞き惚れそうな美声だった。

 彼はアリサ達の傍まで寄ると、エスコートするかのように片手を差し出す。その仕草は堂に入っているもので、ここがダンスパーティー会場ならアリサもその手を取っていたかもしれない。

 が、俺としては『魅了』を使っていたことを知っているため、何となく信用ならない。

 男ならスキルに頼らずセンスとトークで勝負しろ。いや別に顔が負けてるからとかそういう意味じゃなくてな。


「これほど美しい女性は初めて見たよ。よければ、その綺麗な声で名前を聞かせてもらえないかな?」


 レオパルトは歯の浮くような台詞を吐いてくるが、それがまた良く似合っているのが悔しい。

 というか、こいつアリサのことしか見ていなくて、俺とオッサン達は完全に無視しているな。さすがにそれは失礼だろ。一言くらい言ってやらないと気がすまない。


「名前を聞くときはず自分からって教わりませんでしたか?」

「君に発言の機会を与えた覚えは無いよ。僕は彼女と話しているんだ。下がりたまえ」


 俺のありがたいアドバイスが一蹴された。

 しかもその際に俺のほうへ視線を向けもしない。完全にアリサしか眼中に無いのな。

 いやまぁ俺みたいな冴えない男を視界に入れる暇があったら、アリサ達を一秒でも長く見ていたい……ってのは男として同感だけどさ。

 今みたいにちょっとぽわぽわしているアリサも新鮮だし。


「えへへぇ……リュウが二回もキスしてくれたぁ……って、あれ?」


 と思っていたら、アリサが再起動した。

 真っ赤な顔で慌てた様に辺りをきょろきょろと見回し、最終的にレオポルトのところで視線が止まった。

 続いて妹達も正気を取り戻して、闖入者レオパルトを胡散臭そうな目で見ている。


「何でこの人がいるの?」


 アリサの訝しげな声で、オッサン達が「ぐふっ!」と噴き出す。どうやら笑いを堪え切れなかったらしい。

 レオパルトのご大層な台詞は、最初から聞いてもらえていなかったようで。ざまぁ。

 素晴らしいまでのスルーをされた奴は片手を差し出した姿勢で唖然としていたが、数秒ほどして持ち直したようだった。


「ああ、すまない。美しく魅力的な女性がいたからね、つい声を掛けてしまったんだ」

「そうなの。あんた、見る目があるのね」


 それだけを素っ気無く言うアリサ。

 レオポルトの後ろで彼のパーティーが何やら不穏な気配を発しているが、アリサはお構い無しに視線を逸らした。

 ……はずだったのだが、レオパルトの発言から何かが閃いたかのように、パッと俺へ向き直る。

 

「ねぇ。リュウから見たら、あ、あたしは、どうかな?」


 アリサが少し視線を逸らして恥らいながら、されど期待したような目で問いかけてくる。


「どうって、何が?」

「リュウタロウさん、話の流れくらい読みましょうね」

「……てやっ」


 うーん。アリサは何か返答を望んでいるらしいが、唐突過ぎて全然つかめないんだよな。

 クレアさんは当然の如く分かっているようで、気付いていない俺に対する声が冷たすぎてヤバい。あと膝上のベルンが俺の顎に入れた頭突きも、意外と痛い。

 

「だ、だから……魅力的とか、綺麗とか……」


 俺のハテナマークに焦れたかのように、アリサはボリュームダウンが止まらない声でゴニョゴニョと言った。

 もうほとんど蚊の鳴くようなレベルだったが、ここまで聞けばさすがの俺でも察することはできる。


(なるほど。そういうことか……!)


 要するに、ここはアリサを褒めちぎることで俺達の許婚関係を見せつけ、レオパルトを追い払おうというのだろう。魅力的や綺麗と言った単語を出したのはそれを示唆するためだと考えられるし、アリサがレオパルトを嫌がっていることは直前の素っ気無い返答からして推測できた。

 ならば、多少なりとも大げさなくらいがいいはずだ。


 俺は膝上のベルンを抱えて立ち上がり、彼女を椅子に置いてからアリサへと近づく。

 そして、片膝をついてアリサと視線を合わせ、できる限りの優しい表情を作る。ここでスキルを使うのは男としてどうかと思うので、今は素の俺で頑張るしかない。


「そうだな、アリサはとても魅力的な女の子だと思う。綺麗と言うよりは可愛い系だ」

「か、かわいい、かな?」

「ああ。犬耳のようなツインテールも、ぱっちりした真紅の瞳も、自信に溢れた笑顔も、桜の花びらのような唇も、勝気な性格も。それだけじゃない、アリサを形作る全部が愛らしいと思うぞ」


 アリサの頭に触れ、額から頬、そして唇へと円を描くようにして撫でていく。

 すると、なぞったところから肌が真っ赤に染まっていった。魔法みたいな変化だな。


「ふぁ……んっ、はぅぅ……」


 アリスの瞳が潤み、体から力が抜けていく。

 普段の生意気そうな眉がへにゃりと垂れている様は、発言に違わずとても愛らしい。

 

(よし。恥ずかしかったけど、何とか言えた!)


 主人に撫でられた犬のようなアリサを見て、俺は内心でガッツポーズをする。

 これだけ言えば大丈夫だろう。そういう関係だと匂わせておけば、レオパルトも何かしてくることはないはずだ。

 あと、地味にエンゲージの効果時間も延びた。


(だが、待てよ……。ここで終わっていいのか?)


 アリサの顎をカリカリと撫でながら、俺は先ほどの会話を思い出す。

 アリサとツバキさんは、レオパルト自体の戦闘能力は低く、周囲のパーティーメンバーの方が要注意だと言っていた。ということは、やはりレオパルトは『女性魅了インキュバス・チャーム』を使って強い女性を獲得し、それで名を挙げたのだろう。

 であれば、奴の目的は強い女性を手に入れることである可能性が高い。

 そして、ここにいる四姉妹は誰もが一騎当千の女傑だ。奴が狙う対象としては十分すぎる。

 ならば全員が全員、俺の許婚だということを示し、事前に防ぐ必要がある。


 ハッ。やってやろうではないか。


 と、いうわけで、次はシェリスさんだな。

 彼女は……そうだな、後ろから抱きしめるやり方でいこう。つかみどころが無い人だけど、いつもの癒しオーラはまず褒める点に挙げとくべきか。美人なのは今更だし、性格推しが妥当だろう。


「言うまでもないが、シェリスさんも魅力的だ。普段の柔らかな空気の中に、確かな芯の強さが見える女性だと思う。優雅な丸みを帯びた頬も好きだし、何より変わらない笑顔は俺にとっての癒しだな」

「あ、あらあら~、お世辞なんて言っても何も出ませんよ~……」


 更にツバキさんも。

 彼女は甘味が好きだからその付近から攻めるか。それと案外少女らしい思考を好みそうなので、ひざまずいて手の甲に口付けしながら。王女様を守る騎士的なシチュでどうだ。


「ツバキさんは、俺の中では一番のギャップ萌えだな。いつもは凛々しいのに、実は甘いものが好きで本当は乙女ってのが高ポイント過ぎる。女性としての気高さと愛らしさが同居した、つい守りたくなるような素晴らしい女性だと思う」

「お、おぉ……」


 ラスボスはベルンか。

 あえて対面になる形で膝の上に乗せてと。彼女は自由奔放なところがあるから、それを認める形ならいいんじゃないかな。あと無表情だけど感情自体は人一倍豊富って気がする。地味にアクション多いし。


「無愛想だけど表情がコロコロ変わるベルンは結構好みだな。悪戯っ子なところも悪くない。それと俺は料理が好きだから、自分の作ったものを美味しそうに食べてくれそうな奥さんは大歓迎だ」

「……ぁぃ」


 レオパルトが固まっている間に四姉妹の間を移動し、ベタ褒め祭りだ。

 全員が茹でトマト……じゃなかった、トマトは茹でようが茹でまいが赤かったな。茹でタコのように顔を真っ赤にさせている。

 ちなみに、俺がシェリスさんを褒め始めた辺りで、オッサン達は「なんだか凄く苦いものが飲みたくなってきました」「コーヒー飲んでくるぜ」「私もブラックで」「俺は酒だ。呑まないとやってられん」とか言って隣の酒場へ行ってしまった。ちょい待ちクレアさん、あんた業務時間中だろ。


「なっ、何故……!?」


 俺が四姉妹を褒め終わると、レオパルトの口から絶句したような声が聞こえる。

 奴の『女性魅了インキュバス・チャーム』がまったく効かないのだから、驚くのも無理はないか。

 正直、スキルで他人の好感度を操るのは嫌悪を感じるが、こっちの世界では認められるのかもしれない。現代日本で自分の学歴スキルを使って女性の気を惹くのと変わらないだろうしな。

 だからこそ、俺も無効化スキルで返させてもらったぞ。レオパルト、文句は無いよな?


「何故、とはどういう意味だ? それと見ての通り、この四人は俺の大事な女性なんだが……いったい何の用件だ?」


 ま、俺にも意地はあるんでね。

 多少はドスを込めて睨んでやってもいいと思う。ベルンの頭を撫でながらなので、あまり迫力は無いかもしれないが。

 もはや敬語も無しだ。


「い、いや、別に何かの用があったというわけではない」

「そうか。お前みたいな女性を魅了・・するカッコいい男に近寄られると、度量の狭い俺としては気になって仕方がないんでな。キツく当たって悪かった」

「……ッ!?」


 俺がニヤリと笑いながら言うと、レオパルトの顔色が青白くなる。

 これで奴は気付いたはずだ。俺の「お前の能力は見破っているぞ」というメッセージに。


 レオパルトの『女性魅了インキュバス・チャーム』は、本人にとっての生命線。

 魔法とかの目に見える形で使用されるスキルならともかく、奴のスキルは目に見えない。そのため、他者に知られること無く使ってこれたはずだ。

 しかし、もし俺に気付かれ、『女性魅了インキュバス・チャーム』のことを広められてしまえばどうなるか。

 まず間違いなく女性冒険者はレオパルトに近寄らなくなるし、そうなれば戦力は激減。冒険者としての活動は己が身一つでやらざるを得ないだろう。

 俺が内心でほくそ笑んでいたら、レオパルトの後ろで一人の女性が声を荒げた。

 

「レオパルト様。この者の不遜な物言い、看過できません!」


 彼女はレオパルトの隣に進み出ると、今にも腰の剣を抜きそうな姿勢で身構える。

 気の強そうな外見で、腰に差してある剣はフェンシングのような形状をしていた。かなりの業物っぽいな。

 しかし様付けとは。なんとまぁ恐ろしいスキルだこと。


「あなたに発言の機会を与えた覚えは無い、と言い返したいところだが……まぁ、いいか。言っておきますけど、俺だって初対面、しかもAランク冒険者である先輩に最初からタメ口なんて『普通は』しませんよ。それとも、普通に対応しなくなった理由を知りたいですか?」

「っ!? レラ、よせ!」


 俺が意味深に笑い、レオパルトは焦ったように女性冒険者を制する。

 奴にとって、今ここでとれる手段は一つ。諦めて身を引くことだけだ。

 俺にここでスキルのことをバラされた場合、戯言だと切り捨てられる可能性も無いわけではない。が、もし失敗した時には極めて高いリスクが生まれるわけだし、何よりも……奴は俺の素性、そして実力を知らない。

 対策をとるにしても、俺のことを調べてからにするはずだ。


 レオパルト自身もそう考えていたようで、苦々しげな顔をして口を開く。


「す、すまないが、もう少しでクエストに行かなければならないんだ。君達のような可憐な女性を放っておくのは心苦しいが……また次の機会に期待することにしよう」

「そうか、それは残念だったな」


 さっきよりも少し硬い笑顔で、アリサ達に視線を移すレオパルト。

 お前、次の機会にまた何かしてきたら、今度こそ本当にバラすぞ。

 ちなみに四姉妹の様子は心此処にあらずといった感じなので、奴の言葉を聞いているかどうかは正直疑わしい。剣を抜きそうな空気になっても、頭から湯気を出したままだったからな。ざまぁないね。


「くっ。僕はこれで失礼するよ」


 そう言って、レオパルトは俺達から遠ざかっていく。

 その途中、首だけでこちらを振り返った奴の顔が、まるで獲物を逃した肉食獣のように歪んでいるのが見えた。一瞬だけだったが、ギリィと歯軋りの音もかすかに聞こえてくる。

 

(諦めた様子は無いな……)


 念のため、あの男の反応をオブジェクトレーダーに登録しておくか。

 何かあってからでは遅いからな。









 それから数分ほどして。

 テルケスに呼ばれた俺達はギルドの奥へと通され、そこにあった階段を上がって四階の廊下を歩いていた。

 磨きぬかれた壁の大理石はかなりの威圧感があり、コツコツと音を反響させている様はまるで映画の中にでもいるかのよう。壁に飾ってある絵画や壷などの装飾品も、かなりの値打ちがありそうだ。

 オッサン達(酒場にいたのを無理やり引っ張ってきた)もギルドの裏方には足を運んだことが無いらしく、もの珍しそうに色々と辺りを見回している。

 

「やっぱり、上の方は良い暮らしをしてんだな」

「ギルド長は、こういった仰々しい場所は苦手らしいですけどね。質素な生活をしたいと仰られているのですが、一組織のトップとしては権威が重要になってきますので……」


 歩きながら愚痴を溢すオッサンに、クレアさんが反応する。

 まぁお偉いさんがボロ小屋でダンボール机を使って執務していたら、体面的に舐められそうだしな。当然と言えば当然だろう。


「オッサンだって強いし、頑張ればいけるんじゃないか?」

「馬鹿言え。ボウズみたいな規格外ならともかく、Cランク冒険者がこんなところで暮らせるかよ。Aランクになれば分からないけどな」


 オッサンに鼻を鳴らして否定された。

 冒険者業界も実入りの差が激しいらしい。

 その光景を見て、先導を勤めていたテルケスが苦笑した。


「Aランク冒険者の収入が多いことは確かですが、そのぶん命の危険性も高いですし、装備の調整だってあります。収支の変動も大きく、中々こういったところには住みづらいと思いますよ」

「あらあら~。意外に儲からないということでしょうか~?」


 シェリスさんが疑問を呈するも、テルケスは歩きながら首を横に振る。


「収入だけでいえばこういった拠点を持つことは難しくありません。ですがAランク冒険者にもなると、トランディア王国だけでなく他国のギルドからも声が掛かりますからね。一箇所に長期間滞在することが難しいのですよ」

「なるほど~、家を買っても意味が薄いということですね~」


 テルケスの言葉に、俺達は納得する。

 ま、俺達には家を買う金すら無いのだから、今は関係の無いことか。


「っと。ここです」


 先頭を歩いていたテルケスの足が、一つの豪奢な扉の前で止まった。

 石造りの壁と床が並ぶ中で、その扉だけが木製だ。漆が塗られているのか、とても高級なものに見える。いや実際高級なんだろうけどさ。

 ライオンのような飾りについた、ノックをするための金属の輪(なんて言うんだろうなコレ)をテルケスが三回ほど鳴らし、そのまま数秒ほど待つと――。


「質問します。どなたですか?」


 中から女性の声でいらえがあった。

 澄んだ空気のような透明感がある、不思議な印象を抱く声色だ。


「テルケスです。ノーライフキングを討伐した冒険者の方をお連れしました」

「許可します。お入りなさい」


 その言葉が合図だったかのように、扉が音を立てて開く。

 テルケスに促されて足を踏み入れてみると、そこは応接室と執務室を合わせたような場所だった。

 入って数歩の距離には大きなソファがテーブルを挟む形で二つほど置かれ、その奥には本棚、そして書類が積み上げられた執務机が見える。

 

「歓迎します。ようこそおいでくださいました」


 俺達に声をかけながら、執務机に座っていた女性が立ち上がる。

 新緑色の髪をなびかせ、端正な顔立ちに笑顔を浮かべる美女。薄い素材でできたドレスを着ているらしく、スレンダーなボディラインが丸分かりだ。

 穏やかな表情もさることながら、何よりも特徴的なのは一般的な人間よりも長く細い耳だった。


「苦笑します。皆様方、わたくしと初めて出会うときは誰もが驚かれるのですよ」


 そう言って、女性は俺達にソファへ座るよう促す。

 片方にオッサンとラウド、フリードと俺が座り、もう一つのソファには四姉妹が座る形だ。見事に男女が別れたな。ちなみにクレアさんとテルケスは座るわけにはいかないのか、部屋の入り口付近で立ったままだ。

 

「紹介します。私、当レガルの冒険者ギルド長をしております、ミストと言います。以後、お見知りおきを」


 執務机の椅子に座りなおすと、穏やかに笑うミストさん。

 何となく偉い人なんだろうなと予想はしていたが、思ったよりも大物だった。いきなりギルド長ですかい。

 まぁ誰であろうと自己紹介を受けたわけだし、俺達も返さないとな。

 

「あの、俺は、」

「拒否します。それは必要ありませんよ、リュウタロウ氏。皆様方のお名前は、既に報告を受けて知っていますので」

「あ、そうですか……」


 俺が口を開こうとすると、先にミストさんから釘を刺されてしまった。

 今気付いたことだが……この人、最初に二字熟語で簡潔に表す癖があるんだな。


「準備します。せっかく来ていただいたのですから、お茶菓子でもどうぞ」


 ミストさんが執務室に座ったまま、細長い指を指揮棒タクトのように振る。

 すると、壁際に設置されていたティーセットがひとりでに動き出し、魔法瓶から紅茶らしき液体がカップへと注がれる。

 そのまま人数分のティーセットが用意されると、今度はクッキーの乗った皿と共にカップがお盆の上に並べられる。

 ティータイムの準備が整い、最後はふよふよ浮きながら俺達の真ん中にあるテーブルへとお盆が運ばれた。


(今のは精霊魔法、か……)


 おっさん達や四姉妹が、ほぅと感嘆の声を上げる。

 ログウィンドウに表示された魔法名を見ていたので、俺はそこまで驚かなかったが。

 そしてツバキさんとベルンの目はクッキーに釘付けになっている。


 ヘルプによると、精霊魔法とは通常の魔法のワンランク上に位置する魔法形態だ。

 とある種族のみが扱うことができ、精霊と直接意思疎通を交わすために魔力の消費が極めて少ない。

 何より最大の特徴は、ノーコストで呪文詠唱と術名発声を省略できるといった点にある。わざわざ発動する魔法を宣言せずに済むので、戦闘におけるアドバンテージは極めて大きい。

 そして、この精霊魔法を操ることのできる種族と言うのが――。


「肯定します。お察しの通り、私はエルフです」


 ティーセットの魔法に唯一リアクションを示さなかった俺へ、ミストさんは穏やかな微笑を向けてくる。

 穏やかなんだけど……目だけが全然笑ってない。何が気に入らなかったんだよぅ。本人がなまじ美女である分、その差が怖いからやめてください。

 さすがに居心地が悪いので、本題をさっさと言わせることにしよう。


「そ、そうですか。その綺麗な耳から何となく予想はついていたんですよね。で、何で俺達はここに呼ばれたんですか?」


 紅茶に口をつけながら冷静に反応しようとするが、少し口ごもってしまったな。まぁ呼ばれた理由なんざ一つしかないだろうし、向こうだってそれを分かってる。

 ミストさんはそのまま数秒ほど俺の方を凝視し、やがて「この程度で許してやるか」とでも言うかのように目元を和らげた。


「応答します。本日発行された『ゴブリン討伐緊急クエスト』において、ノーライフキング他二百を超える敵の住処を発見したとの報告を受けました。そこでの出来事を質問するために、皆様方のお時間を頂いたのです」


 それだけを言うと、ミストさんはパチンッと指を鳴らす。

 その音を合図に入り口の扉が開くと、入ってきたのはメイド服を着たメガネの女性。キツめの美貌が特徴的で、もしスーツを着ていたら弁護士と見まがうほどの空気を纏っている。

 一見すると普通の人に見えるのだが、右目だけは虹色に発光している。全然普通じゃない。

 彼女を自身の隣に立たせたミストさんは、一言二言小声で会話をしてから俺達へと向き直った。


「説明します。彼女は『真偽官』のイルゼーラと言います。この場での嘘は全て彼女によって見破られるため、誤魔化しは効きません。ご自身の秘密にしておきたい情報など、答えたくないことであれば黙秘をお願いします」


 なるほど。真実と黙秘以外の回答が封じられるって訳か。

 真偽官という通称があるところを見るに、何らかのスキルによる職業なのだろう。スキルセットにそれっぽい効果がないか、後で調べてみるとしよう。


「へぇ。じゃあ例えば「俺は変態です」とか、こんな明らかな嘘も分かるんですかね?」

「…………」


 俺の適当な発言に、イルゼーラさんは何も言わない。

 そしてミストさんの笑顔が微妙に嫌そうなものへシフトしている。え、何これどういうこと? 


「やっぱり聞かなかったことにしてください。……えーと、ギルドとしても本当かどうかの裏付けは必要でしょうからね。何なりとどうぞ」


 俺がミストさんに返答すると、オッサン達や四姉妹もコクリと頷く。若干笑いをこらえながら。

 迂闊に声を出すとヤバイからか、揃って言葉少なげだ。全員が見せる信頼の表情(口の端がヒクヒクしている)から察するに、基本的には俺に任せてくれるらしい。嘘がつけないのであれば、開く口は少なければ少ないほどいいからな。


「感謝します。では、質問を始めましょう。まずは……ノーライフキング他、ゴブリン、オークやアンデッドなど、二百近くに上る敵の巣窟を発見した、というのは事実ですか?」

「事実ですね」

「継続します。その全てを討伐し、犠牲無く戻ってきたというのは事実ですか?」

「それも事実ですね」


 俺はミストさんの質問にスラスラと答えていく。

 今はまだ問題が無いのか、真偽官イルゼーラさんからの動きは何も無い。ただ黙って聞いているだけだ。

 もしかして反応無しイコール真実、なのだろうか。だとすると、さっきの気まぐれにした俺の質問は……いや忘れよう。そんなはずはない……と思う、たぶん。


「質問します。ノーライフキングを倒した者は、どなたですか?」

「そこの帽子をかぶった女の子、ベルントーラですよ。ノーライフキングどころか、半分以上のモンスターを倒したのはシェリスとベルントーラですね」


 俺が二人を褒め称えるように目線を向けると、シェリスさんは頬を押さえて恥じらい、ベルンはオリジナルドヤ顔を作っていた。

 年端もいかない少女がAランクモンスターを倒したという事実はさすがに信じがたいのか、チラリと横目でイルゼーラさんを見やるミストさん。

 だが、真偽官の彼女は依然として何も言わない。

 それが何よりの証拠だったようで、ミストさんは大きく溜息をついた。


「驚嘆します。この調子であれば山を貫いた、斬った、吹き飛ばした、などという妄言もあながち間違いではないようです」

「まぁ、高ランク冒険者ならともかく、俺達だと信じられないでしょうね」


 作戦を組み立てておいてなんだが、自分でも信じられないくらいだからな。

 そのまま二言三言ほど質問が続くものの、それら全てに問題が無かったようで、ミストさんは深く黙考してから口を開く。


「了承します。皆様方がノーライフキングを討伐し、未然に脅威を防いだことを確認しました。……イルゼーラ。階下に集めた冒険者達へ解散をお願いするよう、言伝を頼みます」


 指示を受けたイルゼーラさんは、ミストさんと俺達に一礼してから扉へと足を運ぶ。

 その動作にも一切の淀みが無く、何から何までキッチリとした几帳面さを感じるものだった。というかあの人、終始一言も喋らなかったな。

 彼女が完全に退室したのを見届けると、ミストさんが再度指をタクトのように振った。


「贈呈します。こちらはギルドからの報奨金です。元よりDランククエストとして発行していたのでAランクと同等とはいきませんが、ある程度の心づけはしております。お受け取りください」


 ミストさんの言葉と共に、執務室の机から幾つかの袋が浮き上がる。

 それらは俺達の前まで移動すると、チャリンと音を立ててそれぞれの前にと落下した。

 俺を除いた全員がすぐさま中身を確認している辺り、こういったところでも日本とは違うんだな。貰った金を本人の前で確かめるのは失礼にあたる気がするけど、ここは郷に入っては郷に従えか。命の軽い世界だと、その次に大事な金も疎かにできるモノじゃないしな。


(白金貨四枚……日本円にして40万円か。一気に所持金が増えた)


 麻の袋を開けて確かめると、金貨よりもさらに眩い、白金の輝きを持つ硬貨が四枚ほど入っていた。一日クエストに出かけただけでこの金額か。Dランク緊急クエストの報酬である金貨三枚の十倍以上だ。

 これでもAランククエストの報酬に届かないとは、プロはどれだけお金を貰っているんだろうな。一週間に一回Aランククエスト受ければ、それだけで年収二千万くらいになるぞ。

 まぁ、多分そんなペースでやっていたら命がいくつあっても足りないから、実際はもう少し間隔をあけるのだろう。安全重視で人数が増えたら、一人当たりの取り分も減るんだしな。


「伝達します。ノーライフキングの討伐証明は既にこちらで預かっておりますので、ベルントーラ氏の報酬金に加算されていると思います。また、リュウタロウ氏の冒険者ランクがDとなります。シェリス氏とベルントーラ氏、そしてアリサ氏とツバキ氏の冒険者ランクはEとなります」

「えーっ! あたし達はDランクにならないの!?」

「否定します。一回のクエストで上昇可能なランクは一段階のみとなります。それでもここ数年はこの措置がとられなかったほど異様なことです。本来であれば数十回にもなるクエストを、身の丈に合わせた上で受けなければなりませんから」

「ふむ。当然の話か」


 今回は緊急事態としてAランククエスト認定されたことでランクアップできたが、普通は汗水流して大量のクエストを受けなければならないのだ。俺達は運がよかったに過ぎない。ワンランクでも喜ばしいことだろう。

 実はギルド内で魔石を売り払うことによっても貢献度が上がるらしいのだが、こちらに関しては本当に微量しか上がらないため、ランクアップに直結するような影響は出ないとのこと。

 もっとも、塵も積もれば何とやらではあるため、普通の冒険者は魔石によってちょこちょこ貢献度稼ぎをするそうだ。


「追述します。その他パーティーリーダーであるロック氏、ラウド氏、フリード氏に関しては冒険者ランクに変動ありません。報酬金額に関しても、あまり色をつけることはできませんでした。ご了承ください」

「まぁ当然だわな」

「ですね。僕たちは何もしていませんし」

「むしろ予想より金がもらえて嬉しいくらいだ」


 オッサン達は苦笑いしつつも嬉しそうだ。

 いいじゃんいいじゃん、貰えるもんは貰っときな。


 などと思っていた辺りで主要なことは伝え終わったらしい。

 それより後はただの座談会になってしまった。主にミストさんの愚痴(下の育成とか、他のギルドとの軋轢とか)を聞かされながらの。

 そして、大半がツバキさんとベルンの腹に消えたクッキーの皿を見て苦笑しつつ、俺達はミストさんへお礼を言ってその場を後にするのだった。


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