戦後処理でございます
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RYUTARO:ベルンの『連鎖魔界』の説明文って一見しただけだと弱そうに見えるんだけど、本当は強いのか?
HELP:一般的な個体と比較した場合、UnitNAME:Bernthoraに設定された固有技能【連鎖魔界】は強力無比と考えられます。例えば30回連続で同ランクの魔法スキルを起動させた場合、30回目の魔法スキルにおける威力補整の計算式は1.0*(1.2^29)であり、演算結果は約197倍となります。また、30回目の魔法スキルにおける消費魔力補整の計算式は1.0*(0.8^29)であり、演算結果は約0.001倍となります。したがって、単純に1回目と30回目の魔法を比較した場合、消費魔力あたりの威力倍率差は約197000倍となります。
RYUTARO:おぉう。そ、それは恐ろしい数値だな。あのペタンコな身体にそんな威力が秘められていたとは。
BERNTHORA:…………。
RYUTARO:あ、いえ、別に何も言ってませ……って寒い寒い寒い! 無効化できるのは身体の回りだけなんだって! ちょ、おま、明らかに『連鎖魔界』で重複起動して氷結スピード上げてるだろ!? ま、待って、ベルンさーん! 氷漬けにしたまま置いてかないでー!!
AUTHOR:雪祭りの氷像みたいですね……。あ、このお話はエグい表現あります。想像力豊かな方は食べながら読まないほうがいいかも。ドンと来いや!って人はカブトムシの幼虫を近くに置いて読んでください。
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ベルンが左手を振ると、徐々に氷の柱が降りていく。
それは壁無しエレベーターで降りるかのような微妙な浮遊感で、若干の怖さを感じながら俺達は土の上へと戻った。
「あー怖かった……」
「おう、やったのかボウズ?」
広場に広がる草の地面に安心している俺。そこに近づいてきた複数の足音は、オッサンとラウドのパーティーのものだ。
彼らの服や防具には緑色の液体がべっとりと付着している。ゴブリンとオークの血液だろう。
返り血の間で多少の擦り傷や打撲の痕は見えるものの、重傷者は誰も出ておらずピンピンしていた。
「ああ。そっちも、大して苦戦せずに終わったらしいな」
「おうよ。奇襲さえなかったら、あいつら程度は楽にいけるぜ!」
オッサンは、担いでいたメイスで自分の肩を叩く。
隣のラウドも、顔色を見る限りまだまだ余裕そうだ。
「それにしても、すごかったですね。空中での魔弾合戦」
「あれはベルンがやったんだ。俺じゃない」
「……むふん」
俺は近くに歩いてきたベルンを、魔女っ子帽の上から壊れ物を扱うように撫でてやる。
彼女は一見しただけでは無表情なのだが、よーく見てみると『ーωー』になっていた。ベルン流のドヤ顔なのだろう。器用なやつだ。
「時間があれば魔法について彼女と話してみたいところなのですが……。今はエリルの救出を急ぎましょう」
「そうだな。生きて帰れば、その機会もあるかもな」
ラウドや他の冒険者達が、ベルンを尊敬の眼差しで見ていた。
無理もない。あの弾幕戦は地上からも見えるほど凄まじく、綺麗な花火のようだったのだから。
しかし、ラウドの言うとおり、語り合うのはこのくらいにしておこう。まだ二人の救出が残っている。
人数を確認していたテルケスは、一人も減っていないことが分かると胸をなでおろしていた。
「全員、欠けることなく集まりましたね。リュウタロウさんによれば敵は全滅しているとのことですが、念のために警戒を怠らないでください。それでは行きましょう」
俺達は全員で集まり、岩石が山積みになっている入口を登ってから坑道へと入る。
坑道内も岩がゴロゴロとして進みにくいので、かなり慎重に動かなければならない。もっとも、太陽光で余すことなく見えている分、本来の探索よりは楽なのだろう。
「ダイヤとか落ちてないかな?」
「鉱石探知しながら採掘していたらしいからな。坑道付近のは採り尽くされているんじゃないか?」
「そういえば、そうだったわね。残念……」
などと、少々俗物っぽい会話をしながら坑道内を進んでいく。
モンスターの死体も大量に散らばっているものの、この剥ぎ取りは後でいいだろう。魔石を剥ぎ取らなければ風化することも無いんだしな。
「それに、剥ぎ取り自体の経験も無いしな」
「本当にボウズの強さは偏ってるな。よし、後でコツを教えてやろう」
「お、本当か。じゃあ、こっちからも礼として、都市に戻ったら一杯やろうぜ」
「いいぜ。ボウズもイケる口か。だが、金は俺が出してやるよ。お前らは今日が初のクエストらしいからな。成功祝いだ」
「それって金銭的に大丈夫なのか、オッサン」
「これでもCランク冒険者だからな。ある程度は稼いでいる。それと、俺はまだ二十八だ」
「へぇ。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな。オッサン」
「あたしはカクテルが飲みたいわ、オッサン」
「わたしはワインでお願いします~、オッサンさん~」
「ふむ。ならば、私は林檎の蒸留酒でも頂こうか、オッサン殿」
「……オッサン。食べ放題に行きたい」
もはや正式名称になりつつあるオッサン。ぷるぷるしつつ怒りを放出するかどうか悩んでいたものの、理性が勝ったらしく憎憎しげにこちらを見るだけだった。
いくら脅威が消えたとは言え、二人を救出しに行くにしては弛緩した空気だが、きちんと足は動かしている。
オッサンに言わせれば、警戒中以外は気楽に進んだの方が良いのだそうだ。
「誰もがボウズのように強いわけじゃないからな。普通の冒険者が常に気を張ってると、どっかで切れちまう。適度な切り替えが大事だ」
「戦場では生き死にが掛かっているぶん、気を休めるときには休む……って感じか?」
「そんなところだ」
と、会話している間に件の横穴へ到着する。
入口の地面に残されているのは、水晶の杖と黒いローブだ。
ノーライフキングなどのアンデッドを倒した場合、基本的に魔石は残らない。動力源である魔石を残しているということは、つまり倒しきれていないと同義であり、魔石までを完膚なきまでに破壊する必要があった。
今回も日光によって内側から破壊した為に、魔石は討伐証明として残らない。なので、アンデッドに関しては身に着けていたものが討伐証明として取引される。ノーライフキングの場合はローブがそれだ。
「見た限りでは大丈夫そうですが……一応、調べてみます」
残された杖とローブを拾い、テルケスが検分していく。
これだけは二人の救出を差し置いてでも先にやらなければならない。
もし杖やローブに魔石の欠片が付着、つまりノーライフキングの魂が潜んでいた場合、油断すれば死人が出る可能性がある。
オブジェクトレーダーに表示されていない以上は大丈夫なのだが、テルケスやオッサン達はそれが百パーセント安全だとは知らないからな。
そうして検分した結果、幸いにも魂は潜んでいなかったようで、テルケスは水晶の杖をベルンへと差し出す。
「この杖、かなりのマジックアイテムですね。敵の素材や武器は倒した冒険者の物になりますので、ベルントーラさんがお持ちください」
「……ん」
テルケスの言葉を聞き、ベルンはひとつ頷いてから受けとった。
長さ約1メートルの杖は、先端の青い水晶と朽ちた黒い木の枝から構成されていた。水晶のサイズは拳大ほどもあるので、観賞用としても使えそうだ。
念のため、ステータスウィンドウで確認しておこう。
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【霊仙杖ジャカコウ[+12]】
RARE:A
耐久力:55/420
不死の王が使用する杖。魔法の威力を5%上昇させる。Dランク以下の魔法発動時に消費魔力を30%増加させることで、発動した魔法の周囲を『メタオプティカル・カモフラージュ』で覆って透明化させる。
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戦闘中にテルケスが言っていた通り、この杖があったから敵の魔法が見えなかったんだな。
敵が使ってきたから分かるが、対人戦だと強力な効果だ。
「Aランクモンスターって、どいつもこいつもこんなに良い武器持っているのか……」
「そういうわけではないですね。少なくとも、魔弾が見えなくなる杖を持ったノーライフキングは、今までに聞いたことがありません」
黒いローブを折りたたみながら、テルケスが言葉を返す。
しかしこの説明文に『不死の王が使用』と書いてある以上は、ノーライフキング全てが同じ杖を持っていると思うんだが……。
そんな俺の心中に気付いたのか、テルケスが苦笑いして口を開く。
「ああ、そういえばリュウタロウさんは無手の体術で戦っていましたね。でしたら知らないのも無理はありませんか。見えない魔弾は、武器の強化で発生した付加効果だと思います」
「付加効果?」
「んーとな、ボウズ。武器と防具は、モンスターの素材や希少鉱石を使って強化することが出来るんだよ。ここが廃坑で、ノーライフキングが知性を持っていたからこそできたんだろうな。そんで、ある程度強化したり、他には強化素材を特別な組み合わせで使ったりとかすると、武器に新しい能力が生まれることがある。これが付加効果だ」
俺の疑問にオッサンが答える。
もしかして、このジャカコウの後に付いている[+12]が強化した回数なのだろうか。だとすれば、シェリスさんの弓に表示されていた[+53]って相当強化されてるよな。
まぁ、俺も武器を買ったら気をつけることにしよう。
「なるほど。サンキュー、オッサン。悪かったな、作業の邪魔して」
「いえいえ、気にしないでください。それと、こちらのローブは討伐証明になるのですが、私が一時的にお預かりしてもよろしいでしょうか? その、ギルドに戻ったときにですね、最高Cランクの混成レイドがノーライフキングを討伐したと言っても、口だけでは信じてもらえそうに無いもので……」
そう言って、テルケスがノーライフキングのローブを持ち上げる。中間管理職は大変そうだな。
俺達の戦闘を一行でまとめてみると『山を貫通させて斬って飛ばして魔法の雨で敵を殲滅しました』か。
うん。自分達でやっていて信じられないよ。
「いいんじゃないか? ベルンはどうだ?」
「……ん。問題ない」
ベルンがこくりと頷く。
どの道、ローブには討伐証明以外の使い道が無い。ノーライフキングを倒した証として欲しがる好事家もいるらしいが、ランクが低いうちは自分達の武功を稼ぐために使わせてもらおう。
そう思っていると、
「……杖も必要ない。帰ったら売って」
杖を俺に向けて差し出してくるベルン。
まぁ本人は魔法が見えようが見えまいが質量で圧殺するスタイルなんだし、必要ないんだろうな。
「分かった。とりあえず、アイテムボックスに預かっておくよ」
「……ん」
ベルンから受け取って、トトンッと杖を二回タップする。すると、ポップアップウィンドウが出たので『収納』を選択。これで霞のように杖が掻き消え、無事にアイテムボックス内へ収納された。ちなみに生物をタップしても収納できないようだった。
背後にいる冒険者達から驚きの声が聞こえたが、今はスルー。
残るは横穴の調査のみ。二人を助け出すだけだ。
「リュウタロウさん、中に罠は?」
「今、見てみる」
テルケスの言葉を受けて、オブジェクトレーダーに触る。
ポップアップウィンドウを表示させて、設定を『罠』と『薬』に変更。
パントマイムの動きには、誰も何も言わないでくれた。
「……罠は無いな。ただ、劇薬が大量に置いてある。俺が行こう」
「あたしも行くわ」
俺の隣から進み出たのはアリサだ。
ずっと『焔精霊装』を起動させたままなので、何があろうと彼女は死なない。たとえそれが毒であっても。
その代わり周囲が暑いというデメリット(?)があるのだが、ベルンが魔法で冷気を放出させていたため、相殺されて適温になっている。エアコン要らずだな。
「アリサ、中の薬には触れるなよ? 割れて気化したら外にまで広がるかもしれないからな」
「分かってるわよ」
アリサと二人で頷きあい、テルケスに視線を向ける。
オッサンやラウド、フリードとも目で会話するが、全員異論は無いようだ。
まぁ毒があると分かっているのに自分から飛び込むには中々の勇気がいるだろうな。二人を助けに行って自分が毒で死にましたとか、目も当てられない悲劇だ。
「シェリスさんとツバキさん、ベルン。何か異常を感じたら、全員をここから離れさせてくれ」
俺が目配せをすると、四姉妹はこくりと頷いた。他の冒険者達も同様だ。
既に俺達が色々やらかしている為、Fランク冒険者が指図するな!などといった反論は見られない。
「アリサ、行くぞ」
「うん。行きましょ」
俺が先頭になり、アリサと共に横穴へと足を踏み入れる。
足元がギリギリ見える程度に薄暗く、そして狭い空間だ。おそらく横幅は二メートルも無い。
そして何よりも、鉄錆の嫌な匂いが鼻腔を衝く。
「この横穴以外、他に出入り口はなさそうだな」
「そうなの? どうして?」
「空気を入れ替えるためには、出口と入口が別々で必要なんだよ。部屋の換気で窓と扉を開けるのはそういう理由だ。だから、道が一本だけだと空気が入れ替えにくくて、こんな感じで匂いが篭る。……血の匂いがな」
「……そういうことね」
奥に進むにつれ、血の匂いに混じって腐乱臭までしてくる。
こいつは本格的にヤバイぞ。
「無事だといいが……」
「生きてはいるんでしょ?」
「ああ。でも、レーダーで分かるのは生死だけなんだよ。例え残り一秒で死ぬほどの瀕死であっても、生きている場合は表示されるからな」
俺達は壁に手をつきながら進み、数十秒ほどで横穴の奥へとたどり着く。
そこは、学校の教室ほどの広さの空間があった。アリサの『焔精霊装』が発する炎の光に照らされ、その全貌が浮かび上がる。
「ひどい、わね……」
あまりの光景に、あのアリサが絶句している。
俺だって同じだ。もし『ポーカーフェイス』と『錬鉄の心胆』のスキルを習得していなかったら、ここで胃の中身をぶちまけていただろう。
洞窟の中央には幾つかの手術台。それを取り囲むようにして、本棚、薬品棚、机、そして実験材料の保管棚などが壁に設置してあった。
中央の手術台には、俺達に一番近い場所に二人の人間が裸で寝かされていた。
片方は俺達にギルドでつっかかってきたエリルで、もう一人にも見覚えがある。
オスタの方は片足が無いものの出血は止まっている。それなら『ヴィーナス・ヒール』でどうとでもなるだろう。攫われた二人は無事に帰ってこられるのだ。
しかし、その向こうにある死体は……解剖の途中で放置されたのか、蛆が沸いて骨まで見えている。更に向こうにある手術台には、胴体を何らかの薬品で溶かされた遺体が横たわっていた。
「ここ、火をつけて完全に弔ってやったほうがいいかもな。まずは早く二人を背負って帰ろう」
「うん。そう……」
ボトッ
「……ねぇ。今の音、聞こえた?」
「……聞こえたよ」
俺の言葉にアリサが同意しようとした瞬間、保管棚の方から何やら粘着質で不快な音が響いてきた。
生理的に忌避されるような異音だが、確認しないわけにはいかないだろう。
二人で顔を見合わせて同時に頷き、勇気を出して保管棚へと近づいてみる。
「これは……人間、か……?」
保管棚の一角にあったのは透明な棺。死者を弔うための道具だ。
いや、道具だったと言うべきだろうか。
これではあまりにも死者を愚弄しすぎている。
中に入っている人間は……まだ動いていた。
動いているのだが、その動きに意味が無い。
だって、全身の生皮を剥がれ、虫の標本のような釘で全身を縫い付けられているのだから、満足に動けるはずが無い。
内臓は近くに置かれている瓶でホルマリン漬けにされ、その中には脳もあった。
じゃあ何故、生皮を剥がれて筋繊維を剥き出しにした人体がピクピクと動いているのだろうか。
そう思っていると、眼球があった場所から何かが這い出てくる。
そして、ボトッと生々しい音を立てて棺の下、人体の足元へ落ちた。
そこにいたのは、小指大の白い幼虫。
芋虫のようなそれがグネグネともがき、再び脳がある場所を目指して這い上がっていく。
きっと身体の中にはあの幼虫が何百何千匹といて、中身の無い人間を操ろうとしているのだろう。
もちろん予想だ。予想ですら怖気がする。それを確かめるなんて、できるはずもない。いくら俺でも、そんなクソ度胸は無い。
「……こ、こんなのって」
「アリサ、お前はもう見るな」
俺の中にやり場の無い怒りが湧き出てくる。
これを生み出した主は、既に魂まで完全に消滅していた。だが、それで満足かといわれると、こんな光景を見てしまった後では疑問が残る。
隣に置かれた棺。透明なゼリー状の何かで全身を固められ、苦悶の表情で死んでいった人間を見ると尚更だ。
女性と蜂のモンスターを掛け合わせたらしいキメラの標本まで見てしまうと、俺は反射的に目を閉じてしまった。
「燃やしてやろう。それが一番だ」
「……そう、ね」
拳を握り締めて俯くアリサ。
思わず、その小さな背中を慰めるように抱きしめる。火傷しそうなくらい熱かったが知ったことか。
そのまま数秒ほど腕の中にいたアリサは「ありがとね。もう大丈夫」と言ってから離れた。彼女を連れて、こんなところからは一刻も早く出よう。
俺はアイテムボックスに薬の瓶を全部放り込み、エリルとオスタに近寄る。
二人の近くにあった貫頭衣(ポンチョみたいな服)を、アリサに手伝ってもらいながら着させた。さすがに全裸のまま運ぶのは気の毒だ。
そして俺は二人を両肩に担ぎ、アリサと共に、来た道を一歩一歩踏みしめながら戻るのだった。
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ガタンゴトンと音を立て、テルケスの操縦する馬車が進む。
俺は幌を捲り、鉱山があった場所から黒煙が立ち上るのを見て溜め息をついた。
「これで、あいつらの魂も成仏してくれるといいんだけどな……」
近くに座っていたアリサが小さく頷き、俺と同じ方向を見つめている。
あの後、俺とアリサが二人を抱えて戻り、陽の差す坑道で気絶から回復させた。
重傷とは言え『ヴィーナス・ヒール』があるので傷は跡形も無く治り、エリルとオスタは無事に皆のところへと戻ってきたのだ。
冒険者ギルドにいた時はあれだけ勇ましかったエリルなのだが、やはりゴブリン達とノーライフキングに攫われるというのは女性的に怖かったらしく、意識を取り戻した後も馬車の隅で震えていた。
オスタの方は、片足を治した俺が相変わらず虹金貨十枚の報酬を断った為、「ありがとう。帰ったら奢るよ」と言ってくれた。遠慮なくオッサンと共に打ち上げの代金を支払わせることにしよう。
なお、横穴に潜んでいた醜悪な悪意についてだが、俺が中の惨状を説明すると、全員が火をつけて弔うことに賛同してくれた。俺がああやって飾られる側なら、あんな姿を大勢の目に見られたくは無いからな。
そして、馬達の餌として持ってきていた枯れ草を横穴の中に放り込み、火をつけて完全に燃やしたのだ。他に似たような横穴が無いかと確認したが、あの一本しかなかったらしく、誰かが吐くような事態は避けられた。
その後は討伐証明の魔石やサロメレディーが持っていた小さなナイフを回収し、現在は馬車に乗って都市に戻っているところだ。
「ギルドに戻ったら、すぐに今回の件を上部に報告します。おそらくリュウタロウさん方も呼ばれることになると思いますが……」
「別にいいぞ。今日は疲れたから、迷宮は明日以降にしとく」
本当は迷宮に行く予定だったのだが、既に十分な戦果は得られているため、今日はもう帰ることにしたのだ。一番の目的だった『アレ』の設置も済んでるしな。
ま、本当のことを言えば、色々とマズい者を見てしまったアリサのメンタルケアを優先するためだけど。
「だ、大丈夫よ。気にしないでってば……」
体育座りをしているアリサの声は、いつもより少しだけ弱弱しい。
妹達はすぐに察したらしく、馬車の中でも彼女の背を撫でさすってやっていた。普段あれだけ元気なアリサが悲しそうにしている姿は、かなり耐え難いものがあったのだろう。
「何なら、都市に戻ったら宿屋で休むか? ギルドの報告には俺が行ってくれば十分だろ」
俺はアリサを気遣って声をかける。
だが、彼女はふるふると首を横に振った。
「ううん、あたしも行くわ。ここまでやった仕事を放り出したくは無いもの」
「……無理はするなよ?」
アリサに近づき、緩やかな曲線を描く頬に手を添える。
今は『焔精霊装』を起動していないので、程よい人肌の温もりが伝わってきた。
「ありがと……もう少しだけ、このまま……」
「どうぞ。いくらでもお命じくださいませ、王女様」
テルケスに聞こえない程度の声で言葉を返すと、俺はアリサの隣に座って頭を撫でる。
たったそれだけで、アリサは安心したように笑うのだった。




