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異世界チートで姫様達と婚前旅行。  作者: 富士ヶ麓久遠
トランディア王国・迷宮都市レガル編
16/42

異常事態でございます

「すみません、通してください!」

「て、テルケスさん!」

「邪魔よ。早くどいて」


 俺と四姉妹はテルケスの後に続き、冒険者達が集まっている大岩の影へと向かう。

 近づけば近づくほどに濃くなる、錆鉄さびてつの匂い。

 それが最も強くなったとき、大岩に背を預けている人間の姿が視界に映った。


「うっ……!?」

「これは……ひどいな……」


 先ほど食べた昼飯が込み上げ、喉奥にすっぱい液体が溜まる。

 ゴブリン達が潜む山の方から血の跡が点々と続き、俺達の目の前で赤い水溜りとなって広がっていた。


「あ……アァあ……ぐっ……あ……」


 その血の主は体中に大小無数の傷を負っているのだが、特にひどい箇所が二つあった。

 右腕を力づくでもぎ取られたらしく、筋肉の繊維が束ねた藁のように肩から伸びている。骨も力任せに折られているため、枯れ枝のような白が真っ赤な液体に濡れていた。血が吹き出ていないのは、血管自体が潰されているからだろうか。

 そしてもう一つ。残った左腕は腹部を押さえており、鎧の合間に見える傷跡からは腸のような赤黒い内臓がデロリと垂れている。

 そんな重傷を負って帰ってきたのだから、文字通り彼は満身創痍。顔も土気色だ。

 誰が見ても、もはや死を待つだけの身体だった。


 いや違う。俺だけは、俺だけは彼を助けるすべがある。


(……何やってんだ。ここで吐く前に、やるべき事があるだろうにッ!)


 死に際の言葉を聞き取ろうと、冒険者の顔に耳を近づけるテルケス。

 そんな事をさせてたまるかとばかりに、俺は無理やり冒険者との間に割り込む。

 

「リ、リュウタロウさん! 何をしているんですか!?」


 憤慨するテルケスを無視して膝をつき、冒険者の腹へ手を当てる。

 このスキルは、対象の身体のどこかに触れていないと発動条件を満たさない。


『慈愛の女神よ。この者の勇気ある行動に敬意を表し、不遜ながらその微笑を賜らんと望む。下賜されること叶えば無限の慈愛が全てを癒し、正しき義にて命の灯火を補えるであろう。我が傲慢なる願いが享受されしとき、この世の森羅万象が紐解かれ、現実を思うがままにて掌握せしめん』


 あえて省略せずに詠唱させると、俺の背中に光が集まり始める。

 それは徐々に形を成し、俺の背後で女神の姿をかたどった。

 透き通った身体を持つ全裸の美女であり、魔力で構成されているためか何から何まで深緑の色をしている。

 その存在を感じながら、俺は魔法の名前を口にした。


『ヴィーナス・ヒール!』


 詠唱が完了し、魔法が発動する。

 すると、俺の手に女神の手が重ねられ、冒険者の身体へと魔力の波が流れ込んでいく。


「お、おお……」

「すごい……」


 周囲の冒険者達から声が聞こえるものの、俺にその意味を理解する余裕は無い。

 このスキルは魔力消費量が異常に高く、魔力増加Ⅰ~Ⅳと魔力消費量軽減Ⅰ~Ⅱを全て+20にしているのに、それですら意識を保っているのが精一杯だ。


(くそっ……こんなことなら、倍率強化の魔力増強にもSP振っとくんだった!)


 ステータスウィンドウをチラ見してみれば、魔力残量は0になった傍から秒間回復量増加スキルによって回復され、さらにそれが消費され……のループを繰り返していた。

 もし詠唱省略を行っていたら一瞬で魔力枯渇に陥り、二秒と持たず気絶していただろう。

 しかしその効果は抜群で、冒険者が負っていた腹の重傷がグジュグジュと音を立てて塞がれていく。無くなった腕も再生するように切断面から生えてきていた。

 女神の方が魔力を血液に変換しているようで、土気色だった表情にも赤みが戻ってくる。

 それはまさしく、女神の祝福と言うに他ならない。

 

 時間にしておよそ数分。

 ようやく全ての治療が終わると、女神の姿がスゥっと掻き消える。

 それで緊張が切れてしまい、俺は数歩後ずさってから地面へと大の字に倒れこんだ。


(い、異世界に来てからの今迄で、一番やばかった……)


 俺は荒い息をつきながら、仰向けで空を見上げる。

 例えるなら、72時間不眠不休で働いた後に最高級羽毛布団へ潜り、そこで「寝たら死刑。でも布団から出るな」と言われたらこんな感じだと想う。

 気絶しそうな意識を数十回と覚醒させ続けていたので、あまり遠くない比喩のはずだ。


「お疲れ様。さすが、あたし達の旦那様ね」

「素晴らしいです~」

「うむ。誇っていいと思うぞ」

「……すごい」


 シェリスさんが頭を持ち上げて膝枕をしてくれ、額の汗をアリサがハンカチで拭いてくれる。

 ツバキさんは俺の手を握ってくれて、ベルンは俺の顔をキラキラした瞳で見つめていた。

 周りの冒険者達は……なんか生暖かい目で「リア充死ね」「爆発しろ」とか言ってるからスルーだ。嫌味を言えるのも、今までの緊迫した状況が無くなったからだろうしな。


 そんな光景が繰り広げられている中で。

 突然、さっきまで致命傷を負っていた冒険者が跳ね起きた。

 周囲をきょろきょろと見回し、遅れて自分の腹部を触っている。


「あ、あれ。俺は……やられて、それで……」

「重傷を負って帰ってきたんですよ。実際、ヴィーナス・ヒールでもかなり危うかったくらいの傷でした」


 自分の身体を撫で回している彼に、俺は寝たまま言葉を投げかけてやる。

 防具や服が切り裂かれて血がついているのに身体は無傷、となれば俺だって混乱するだろう。

 こういうときはリーダーシップのある人に丸投げだ。


「フリードさん、あなたはリュウタロウさんに命を救われたんです。たった一人で神聖魔法しんせいまほうを扱ってまで」

「しっ、神聖魔法!?」


 テルケスが補足すると、フリードと呼ばれた冒険者が驚愕をあらわにする。

 ヴィーナス・ヒールはSランクだからか、使える人間自体が珍しいのだろうか。

 っていうか、神聖魔法って何?


「神聖魔法ってのは、Sランク魔法の通称よ。リュウの使ったヴィーナス・ヒールが本来治せないはずの致命傷すら回復することができるように、Sランクは神の領域に足を踏み入れていることから広まったらしいわ」


 俺の疑問に気付いたらしいアリサが解説してくれた。

 余談だが、SSランクにも幻想魔法といった通称が付けられているらしい。俺の『魔力転換エレメンタル・コンバート』がそれに該当する。


「よくそんな魔法知ってたな……」

「ヴィーナス・ヒールだけは大都市の教会で使ってもらうことが出来るんですよ~。レガルにもありましたし~」


 治療費だけでも王都に小さな家が買えるほど高いですけどね~、とほわほわ笑うシェリスさん。

 しかし、さっきまでその魔法を使っていた俺には腑に落ちないことがあった

 

「あれだけの魔力消費、俺以外の人間に扱える気がしないんだけどな……」


 シェリスさんの膝に頭を預けながら、俺はポツリと呟く。

 自慢ではないが、スキルセットによって俺の魔力は倍率強化せずとも1400を超えている。

 レガルでステータスを見ていて思ったのだが、この世界の一般人は魔力100が平均であり、魔法の心得がある人は300~600ほどだった。今まで見てきた中ではベルンの魔力21600が文句なしに飛び抜けて最高だ。

 対してヴィーナスヒールの必要魔力は、消費軽減スキル無しで毎秒1000。

 俺の場合は回復能力が凄まじいので気絶せずに済んだものの、ベルンすら二十秒少々で力尽きるほどの消費魔力なのだ。消費軽減スキルに振っていれば一分程度は耐えられるが、腕一本でも二分以上の継続時間を必要とするために意味が無い。とても一人の人間に扱えるような魔法ではないだろう。

 そんな俺の内心に気付いたらしく、ツバキさんが補足してくれる。


「そこは問題ない。Sランク以上の魔法は、複数人で協力して起動することができるのだ」

「……最低でも、神聖級魔法師一人がいればいい」

「あー、そういう手があるのか」


 ベルンの話を聞くと、そもそもSランク以上の魔法は複数人での起動が前提とされてるらしい。

 術者の一人が術式を担当し、残りが魔力の消費を担当。維持用の魔力が尽きそうになったら予備の人員と交代して回復する。

 そうやってローテーションすることで、結果的に神聖級魔法師が一人でもいれば残りはFランク魔法師でも発動が可能であるってことか。


「……ん。それで間違ってない」

「なるほどな。……さて、そろそろ雑談は終わりにしよう。皆、ありがとな」


 礼として四姉妹の頭を撫でていると、テルケスとフリードがこちらへ視線を向けてきた。

 テルケスはいつもの柔和なイケメンフェイスだが、フリードは顔面を涙と鼻水まみれにして泣いていた。


「本当に……本当に、ありがとう。この治療費は何年かけてでも必ず返すよ」

「じゃあ、都市に帰ったらオススメのレストランで飯を奢ってください。それでチャラです」


 何度も頭を下げるフリードに、俺はヒラヒラと手を振ってやる。

 だが、その言葉に待ったをかけたのはテルケスだった。


「そういうわけにも行かないと思いますよ。神聖魔法の対価に食事を要求したと知られれば、リュウタロウさんは市場に悪影響を与えます。ここは素直に虹金貨十枚くらいにしておいた方が……」


 言われてみると、テルケスの言葉も分からないものではない。

 適正価格を崩せば、それは結果的に市場へ混乱を与え、相場の波を大きくすることになる。つまり、経済が不安定になるのだ。


(それでもなぁ。虹金貨十枚って、かなりの大金だぞ……)


 金貨の上に白金貨があって、更にその上。なので、虹金貨は一枚百万円相当。

 となれば、虹金貨十枚は約一千万円ほどになるはずだ。ヴィーナス・ヒールの治療費が王都の家一軒とか言ってたし、妥当と言えば妥当なのだろう。

 だが、俺としては特に受け取る気は無い。頼まれたわけでなく勝手にやったことだし、それで金を取るような真似はしたくないのだ。

 ここは弁舌で切り抜けるとしようか。


「俺としては、フリードさんが帰ってきたことは虹金貨10枚に匹敵すると思いますよ」

「ど、どういうことですか、リュウタロウさん」


 フリードの顔に疑問符が浮かぶ。

 俺は寝転がったまま、自分の頭を人差し指でトントンと叩いた。


「フリードさんの持っている情報ですよ。何を見て、何が起こったのか……それは俺達全員を生かすことに繋げる値段です。なら、それをフリードさんから虹金貨10枚で買いましょう」


 俺がニッと笑ってやると、フリードはもう一度だけ小さな声で「ありがとう」と言った。









 俺が地面から起き上がると、フリードが事の顛末を話し始める。

 彼の周りにはパーティーリーダーだけではなく、クエストに参加した全員が集まって円陣を組んでいた。



 偵察隊として組織されたフリード、エリル、オスタの三人はゴブリンの巣窟へと順調に近づいていたらしい。

 そして、いざ巣の入り口が見えるとなったところで、カランカランッと甲高い音が鳴ったそうだ。

 見れば掻き分けた茂みからは蜘蛛の糸が伸び、木の上にある錆びた鍋蓋へと結び付けられていた。日本でも古き時代に使われていた侵入者感知用の罠、鳴子なるこだ。

 三人が罠だと感づいたときには既に遅く、山に開いた坑道から大量のゴブリンが湧き出てきたらしい。

 その姿を見て即座に「逃げろ」のハンドシグナルをしたまでは良かった。Cランクが二人とDランクが一人の構成なのだから、ゴブリン達から逃げる程度であればどうということはない。

 しかし、その冷静な判断を意図も簡単に覆す事態が起こった。

 背後からオークの集団が襲ってきたのだ。

 オークとは二メートルもある人型のDランクモンスターで、ゴブリンと同じ緑色の肌に豚の顔が特徴として挙げられる。

 オーク自体は屈強な体躯と大柄な武器を操る怪力があるものの、見かけによらず大した脅威ではない。その筋肉質な身体は物理攻撃には強いが魔法攻撃にめっぽう弱く、ゴブリンと同様に知恵も無い。ともすれば初級魔法一発、ファイアーボール程度で倒すことが出来る。

 だが、それも冷静な判断があればこその話。

 前方にゴブリンの集団、後方にオークときてしまえば、もはや蹂躙されるを待つのみ。

 エリルが背後を突かれ、オークの棍棒に殴り飛ばされて気絶。それに気をとられ、フリード自身もオークに腕を引きちぎられた。オスタが囮とならなければ、フリードは確実に死んでいたはずだ。

 逃げようとしたところに殺気を感じ、咄嗟に伏せようとしたのも悪い判断ではなかった。

 巣窟の中から飛んできた風の刃が腹へと命中したものの、不幸中の幸いか逃げ帰るの出来る傷で済んだのだ。そうでなければ、ここまで戻ってくることすら出来ず、今頃はゴブリンやオークの腹の中に納まっていたのだから。



 全てを一息に話し終えると、フリードの目には涙が溜まっていた。

 透明な雫が頬を伝って流れ、鎧にこびりついた赤に新たな模様を作っていく。


「Cランクの俺が……二人を犠牲にして生き延びて……本当なら……」


 嗚咽を漏らしながら、フリードは悔恨の言葉を吐き出す。

 と、そこにオッサンの声が割り込んだ。


「それは違うんじゃねぇか?」

 

 オッサンは地面にどっかりと腰を下ろしていた。

 悲しそうな顔をしながらも、どこか怒ったようにして続ける。


「あいつは自分が犠牲になってでも確実に情報を持ち帰れるよう、Cランクのお前さんに託したんだ。それはお前さんを信頼しているからこその行動で、間違っても代わりに自分がなんて思っちゃいけねぇ」

「そうですよ。それに、まだ二人が生きている可能性もあります。万が一とは分かっているんですが、それでもレイドメンバーとして彼らの生存を信じましょう」


 おっさんの言葉に同調するようにして、ラウドも大きく頷く。

 全パーティーから偵察を出したということは、オスタはオッサンのパーティーだったはずだ。ついでに言えば、今朝の騒動でエリルがラウドのパーティーであることも分かっている。

 俺に二人の内心を正確に知るような経験は無いが、それでも荒れ狂うような衝動を必死で抑えているのは何となく予想がついた。


 彼らの言葉に慰められ、フリードは涙をぬぐって面を上げる。

 鋭く前を見つめるその眼差しからは、先ほどまで頬を濡らしていた後悔の念が消えていた。


「良い目に戻ったじゃねぇか。それで、レイドリーダーとしてはこれからどうするんだ?」


 オッサンが視線を動かし、フリードの隣に腰を下ろしていたテルケスへと話題を振った。

 それを受けて、テルケスは悩むそぶりを見せずに口を開く。


「まずはフリードさんの話から分かることをまとめましょう。一つ、敵にはBランク以上の強敵がいる。二つ、敵は私達と同じ人間並みの知能を持っている。三つ、坑道内には風刃魔法を使用してくるモンスターがいる。これだけは今の内容から推測できます」


 テルケスの言葉を脳内で反芻する俺。

 人間と同じ知能を持っていることは、鳴子を使っていることと奇襲を仕掛けてくることから推測できる。風刃魔法の使用も、フリードの腹を斬った技からして間違いない。

 だが……。


「一つ目のBランク以上の強敵がいるってのは、どういうことなんだ?」


 俺は首をかしげながら、テルケスに向けて質問を返す。

 場に「んな事も分かんねぇのかよ」といった空気が流れたような気がしたが、パーティーリーダー達だけは俺のチグハグな知識と能力を知っていたので苦笑いだった。

 しょうがないだろ。まだ冒険者成り立て二日目なんだから。


「ふむ。では私が説明しよう」


 いたたまれなくなってきた俺の隣に進み出てきたのは、後ろで待機していたツバキさんだった。


「オーク自体は大して頭の良いモンスターではない。せいぜい仲間と食って寝て繁殖する程度だ。なにせ『オークに真珠』という言い回しもあるくらいだからな」


 そこまで言うと、こほんと一息おいてから説明を続ける。


「それは戦闘や戦術に関しても同様で、罠にも平気で飛び込んでくるうえ、相手の力量を測る術も大したものではない。よって、オークを従えて奇襲させることができる者は、奴らですら分かるほど圧倒的な実力を持ったモンスターだけ……ということになる」


 ツバキさんは凛とした声で話し終え、そこから先は俺の返事を待っているかのように口を噤む。

 なるほど。さすがにここまで言われたら俺でも分かる。


「つまり、オークを従わせることのできるランクがB以上ってことか」

「そういうことだ」


 俺の回答に、ツバキさんは満足したように頷いている。

 そこまで見届けた彼女は再び俺の後ろへと下がり、草の地面に正座をして瞑想を始めた。

 ほんとサムライみたいな人だ。


「ありがとう、ツバキさん。……それと、話を中断させて悪かったな。テルケス」

「いえいえ。あなたの力は今作戦で頼りになる可能性が高いですから、不安要素は今のうちに潰しておきましょう」


 テルケスに一言謝ると、彼は相変わらずのイケメンフェイスで笑っていた。

 くそー。イケメンは何をしても似合うからズルイ。


「美しい女性四人を侍らせているリュウタロウさんに言われたくはありません」


 イケメン爆発しろといった念がマイフェイスに出ていたらしい。

 否定できないのが悲しい。


「何の話か分からないな。で、それを踏まえてこれからどうすればいいんだ?」

「そうですね……まず何をするにしても敵の戦力が分かりません。この場所に到着したとき、リュウタロウさんは確か『ここからでも敵地の様子が探れる』と言っていましたよね」

「ああ、できるぞ」


 俺が即答すると、テルケスは縋るような目でこちらを見てきた。

 言われなくても分かってるよ。


「んーと、ちょっと待ってくれ……」


 俺は全員に一言断りを入れると、視界右上のレーダーに触れて小さなポップアップウィンドウを呼び出す。

 半径を五百メートルから一キロに拡大し、鉱山付近に存在する敵性生物を示す光点に触れる。

 一匹の名前をログウィンドウに表示させ、次のモンスターに取り掛かる。そして、それを何度も何度も繰り返して数を確認していく。視線だけだとログウィンドウには記録されないので、面倒だが手作業でやるしかない。


「何をしているんだボウズ」


 ぽちぽちと地道に光点をタップしていく俺の耳に、オッサンの野太い声が被さる。

 言われてみれば、今はウィンドウを可視化していないので、周りから見ると怪しげなパントマイムを踊っているアホそのものだった。


「これはリュウが索敵をするときの踊りなのよ。大目に見て……ぶふっ!」


 おい。アリサ、お前説明の途中で堪えきれなくなって噴き出しただろ。

 シェリスさんの「んっふふふ」って笑いも聞こえるし、ツバキさんも「ぐっ……」って明らかに笑いを堪えている声がする。

 ベルンの「……ククク」って声も絶対笑っていやがるな。


「お前ら、帰ったら覚えてろよ……」


 後ろに向かって怨嗟の声を出しつつも、ぽちぽちと順調にタップを繰り返していく。

 なにぶん数が多いので時間が掛かると予想されていたのだが、その予想が大きくハズれていることに気付くには時間が掛からなかった。

 俺の顔が険しくなっていくにつれ、周囲からも笑みが引いていく。


「……この数、百体どころじゃないぞ。おそらく二百近くになる」


 八割がた敵の情勢を把握したとき、俺は思わず声が出てしまう。

 事前情報の倍になっているとは、さすがに予想もできない。


「なっ! こ、この人数で相手にするなら、ランクは最低でもC、下手すりゃランクBだぞ……」


 俺の発した言葉で、一人の冒険者が叫ぶ。

 彼の発言の矛先は、このクエストのランクを設定したギルド。ひいてはテルケスへと向いていた。


「おいおい、こいつは緊急クエストだぜ。ランク一つ程度の上下はあってもおかしくねぇぞ」 

「ええ。それに、元々は街道にゴブリンが出現したことから、その数を見て判断したのでしょう。もしそのまま後を追って罠に嵌ってしまえば、情報を持ち帰ることすら困難だったはずです。結果的にその判断は偵察スカウトした冒険者達の命を救うことになったと思います」

「でも……だったら、やられた二人が……エリルが、せっかく……」


 憤慨していた男が地面を殴りつける。

 ラウドのパーティーに所属しており、かつエリルの名前を溢していた冒険者。

 それは何となく同じパーティーメンバーにしては行き過ぎているような気がしないでもなく、つまりはそういう関係だったのかなと思ってしまわざるをえない。

 その感情には何故か同情せざるを得ないのか、俺の口から素直に謝罪の言葉が滑り出てきた。


「それを言うなら、俺が最初から敵地の偵察をしておけば、今回の事態を防げたでしょうね……すみません……」

「あ、ああ……いや、いいんだ。俺達も自分の経験になるだろうと思って、ゴブリンの集団程度だと侮ったのが原因だ……」


 場が重苦しく、沈痛な雰囲気に包まれる。

 その中で敵の捕捉を完了した俺は、この言葉を口に出すのをためらってしまう。分からないモンスター名が出るたびにヘルプで調べていたので、脅威の度合いも分かる。これは、この場が恐慌状態になってもおかしくない事実だ。

 だが、言わなければならない。


「……今、あの鉱山に生息する敵性モンスターの索敵が終わりました」

 

 言わなければ、更なる犠牲が出る可能性がある。

 だから、言うしかない。



「ゴブリンの数が122匹。オークの数が47匹。……坑道内にゴーストソルジャーが10体、サロメレディーが二体。そして、Bランクモンスターのマッドネスリッチが五体と、Aランクモンスターのノーライフキングが一体です」


魔力ツリー

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【ヴィーナス・ヒール(治癒属性)】

RANK:S

前提スキル:神聖魔法師、上級治癒術師、上級薬学師、上級錬金術師、アドバンスド・ヒール、薬草学の極意、人体練成、女神の慈愛、全体回復魔法範囲拡大Ⅱ

回復値:1pt/s(致命傷回復、欠損回復)

消費魔力:1000(Active)

持続時間:600f

慈母の女神ヴィーナスを召喚し、その協力によって致命傷をも治癒する魔力フィールドを展開する。発動中、3秒経過ごとに全ての状態異常を回復する。効果は絶大だが魔力消費と治癒速度の効率が極めて悪く、かつ発動中は対象者に触れていなければならない。

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