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異世界チートで姫様達と婚前旅行。  作者: 富士ヶ麓久遠
トランディア王国・迷宮都市レガル編
14/42

大切な$■-l◇&d#でございます

 レガルから伸びる街道脇には、薄暗い森が続いている。

 森を切り開いて作られているのが街道であるため、正確には薄暗い森の中に街道が伸びていると言うべきだろうか。

 その森の中を、俺とシェリスさんを先頭にして歩く一団があった。


「あと20メートルで接敵する。準備はいいか?」

「ああ、こっちも問題ない」


 俺が後ろに声をかけると、残りのメンバーを率いていた冒険者がいらえを返した。

 ここにいるメンバーは、俺達のパーティー全員と別のパーティーから3人ほどが集められ、奇襲用の精鋭として組織されている。

 俺とシェリスさんが索敵と奇襲攻撃を担当。アリサとツバキさん、そして他パーティーの二人が前衛。ベルンと残った一人が後衛として魔法で援護する手はずになっていた。


「オッサン……ロックさんとラウドのパーティーが街道の反対側にいるゴブリンに強襲をかけたら、俺達も動きます。それまで気付かれないように可能な限り近づきましょう」


 今現在、オッサンの方も裏周りしようと動いているはずだ。

 向こうは派手に暴れると言っていたので、たとえ道の逆側にいようとも分かるだろう。


「作戦の確認だ。まず、ゴブリン達の注意が向こうへ惹きつけられている間に、シェリスさんがゴブリンアーチャー2匹を片付ける。その後、俺を除く全員が突撃して全滅させる。質問は?」


 俺の言葉に、一人の冒険者が手を上げる。


「作戦は分かったけど、君は見ているだけかい?」

「いえ、俺は討ち漏らしたゴブリンを確実に仕留めるための遊撃と思ってください。万が一にでも逃がさないための保険です」

「なるほど。Bランク相当の腕が後ろに控えてくれるのは、確かに心強い。それで行こう」


 質問をした冒険者が納得したので他のメンバーを見回す。

 四姉妹も特に異論は無いようだった。


「じゃあ、行きましょうか」


 目線だけで合図し、ゴブリン達が潜む木々へと近づいていく。

 密集している雑草は俺の腰までの高さがあるので潜むには最適だが、カサカサと音が鳴ってしまうので慎重に進まなくてはならない。

 できるだけ音を立てないよう、注意を払って草木を掻き分けると……


(いたな……)


 数メートル先に、街道を見つめる小人の群れがあった。

 緑色の肌をした子どものようなモンスターがボロ布を纏い、粗末な武器を持って静かに潜んでいた。

 ギョロギョロとした黄色い目が街道を凝視しているため、幸いにもこちらには気付いていない。

 

(モンスターって言っても見た目は人型だよなぁ……)


 背の高い草が密集した茂みに身を潜めながら、俺はゴブリン達を見る。

 いざとなれば躊躇いなく殺せはするだろうが、良い気分とは言えないだろう。


「どうかしましたか~?」

「何よ、そんな遠くを見るような目をしちゃって」


 同じ茂みに四姉妹も入ってきた。

 ここは結構スペースに余裕があるとはいえ、五人も入ってしまうとかなりギュウギュウ詰めだ。

 残りの冒険者達は、近くにある木の裏で待機しているらしい。


「大したことじゃない。人型のモンスターを殺すことに嫌悪感を抱くんじゃないかと思ってさ」

「ふむ。正常な人間なら最初はそういったことで悩むのだろう」


 ツバキさんが俺の隣でゴブリン達を見ながら言った。

 彼女の匂いなのか、柚子のような香りがする。


「慣れろとは言わない。そういった命を大切に思う気持ちは大事だ」


 ツバキさんの言葉がすんなりと耳に入ってくる。

 その直後、後ろから抱きしめられる感触と共に、バニラの香りが鼻腔をくすぐった。


「つらくなったら、いつでもわたし達に頼ってくださいね~」


 今度は、胸の中に二つの重みがのしかかってくる。

 片方からは薔薇のような香り、もうひとつはミントの香りだろうか。


「そうそう。泣きたい時には胸を貸してあげるし、あたし達がつらくなったら遠慮なく抱きつくからお互い様よ。こうやってね」

「……ん。夫を支えるのは、妻の役目」

「いやいや、まだ予定だろ」


 苦笑しつつ返すが、四人の気持ちは十分すぎるほどに伝わった。

 彼女達は、命を奪うことが正義であるとも悪であるとも言っていない。義務であるとも権利であるとも言っていない。

 ただただ、俺が自らの行いに疑問を持ったとき、共に支えるための存在であろうとしてくれた。

 それが何よりも嬉しかった。


(ま、信じるがままに進むしかないって事か。万が一にも俺が殺すのを躊躇い、もし負けてしまったら……)


 と、何となく考えてしまう。

 俺は用済みとして殺され、食事にされるのだろうな。他の皆は……。




『そこの冒険者さんが攫われて再繁殖されたら本末転倒じゃない』




 不意に頭の中に浮かぶ声。


「ッ!?」


 今のは、エリルの声か?

 その音をトリガーにして、もう一つの言葉が浮かんでくる。

 それと共に、今まで味わったこと無い寒気も。


『繁殖力が極めて高く、他種族の雌ですら胎があれば母体とする』


 これは……ギルドから貰ったゴブリンの解説に書いてあったものだ。

 何故、今になって。

 その情報を処理する為に頭がクリアになり、真相に近づくたび身体が冷え切っていく。


「繁殖……他種族の雌……女?」


 今更ながらその意味を知り、思わず舌打ちしてしまう。

 何故今まで気付かなかったのだろうか。

 もしかすると、意図的に考えることをやめていたのかもしれない。


(……そうか。そういうことかよ、くそったれが)


 二つのピースがカチリと音を立ててかみ合わされる。

 それから導き出される結論に、俺の心が黒い感情で支配されていく。

 



「ふざけんじゃねぇぞ……」




 口から低く怨嗟の声が漏れた。

 黒い魔力が体にまとわりついてくるが、この破動が周囲の木々を揺らすことは無い。

 極限まで澄み切った感情であり、同時に限界まで強くなりすぎた感情だからだ。

 木の葉やゴブリン程度では、『オレ』に気付くことなんてできやしない。


「汚させるものかよ……」


 何だか自分の心じゃないみたいだ。

 だが、俺は心のどこかに『オレ』が潜んでいたのだと確信できる。


「こいつらは俺の……オレの大切な……」


 アリサの生意気そうな笑顔。

 シェリスのほわほわした笑顔。

 ツバキの男らしい笑顔。

 ベルンの口角を上げただけの笑顔。


 それが崩されるかもしれないと考えただけでも、熱く焼き切れるような衝動が身体を襲う。


 思うままに敵を蹂躙し、芥子粒一つらず残さないように今すぐこの世から滅ぼし尽くさなくてはならない。

 ……いや、それじゃ駄目だ。簡単に殺すわけにはいかない。

 死んだほうがマシだと思えるほどの苦痛を味あわせ、散々魂を辱めた上で殺す。




「オレの大切なものを奪う奴は、一人残らずころしてやる……!」




 目の前のゴブリン達も同じだ!

 その可能性があるというだけでも万死に値するッ!

 今すぐ壊しつくして……ッ!?


「リュウ?」


 感情のままに一歩踏み出そうとしたとき、不意にかけられる言葉。

 隣からかけられる心配そうな声と、オレを包む暖かな感覚。


「ど、どうしたんだ?」

「あの、ええと、かなり怖い顔していましたよ~……」


 ツバキさんとシェリスさんの心。


「ちょっ、そんなに抱きしめなくても、分かったから、痛い……」

「……すごく、暗い魔力だった」


 腕の中で震える、アリサとベルンの存在。


 それらが、俺を埋め尽くしていたオレを洗い流していく。

 たったそれだけで、あれだけ強かった殺意の感情がいとも簡単に消えていく。


(な、何だったんだ……今のは……!?)


 あまりにも突然に出て、あまりにも一瞬で消え去ってしまった激情。

 その正体は分からない。

 

 でも、俺の根底、心臓の奥深くに流れるモノだった。


「……いや、何でもない。ちょっとな、色々と嫌な気分になっただけだ」


 心配してくれる皆に笑いかける。

 今でも、あの黒い残滓はほんの少しだけくすぶっている。

 だけど、さっきみたいな冷たい気持ちとは正反対で。

 なら、それに身を任せてもいいんじゃないかって、そう思わないでもない。


 俺は、ゆっくりと四姉妹の顔を見やる。

 

「何よ?」

「どうしましたか~?」

「どうした?」

「……ん?」


 そうだ。

 きっと、あれは危険な感情であっても、このぬくもりを傷つけることは絶対に無いだろうから。


「あー、その、な。ちょっとだけ目を瞑ってくれないか?」


 だから、今は俺の心のままに動こう。


「えっ? 何々? 何かくれるの?」

「いいですよ~」

「ああ。構わないぞ」

「……分かった」


 俺は皆を順番にを抱きしめると。

 突き動かされる衝動のままに、その額へ口付けた。


「あばっ! ちょちょ、ちょっと! な、何をし、き、キスって!」

「ふぇっ!? ど、どうしたんですか~。いきなり、そんな~……」

「ッ!? り、リュウ殿!?」

「……ぁ。ぇ?」


 敵地だからと声は抑えていたが、それでもアワアワと慌てる四人の女性。

 その可愛らしい表情にニッと笑いかけてやる。


「ん~、何となくな。勝利のおまじないってやつだ。ほら、いつ合図が来るか分からないんだから、しっかり前を向いとけよ」


 先ほどまでの自分を棚に上げて十六歳組の背中を叩き、胸の中の二人を前に向かせる俺。

 もはや敵を倒すことに躊躇いは無かった。

 

 何だか、とても大切なものを見つけた気がする。

 もっと、みんなのことを知りたい。


 アリサと一緒に街遊びへ行ってみたい。

 シェリスさんに甘えられたい。

 ツバキさんに女の子らしい格好をさせてみたい。

 ベルンの色々な表情を見てみたい。


 何故かは分からないけど、そんな想いが溢れてしまう。

 なら、今を生き抜かなくては。


「そのための条件は整った。万が一にも、負けることなんてありえない」


 そして、俺は一つのスキルを口にする。

 スキルツリーには存在しないのに、何故か発動できると分かっていた。


 大切な人を守るための固有技能。

 この分からない感情が生み出した、唯一つの俺自身オリジナル




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SYSTEM:ユニークアクティビティ「恋力れんりょく」がアンロックされました

SYSTEM:ユニークアビリティ「エンゲージツリー」がアンロックされました

SKILL:ユニークスキル「エンゲージ」がアンロックされました


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 直後、林の向こうで木々の薙ぎ倒れる音がした。


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【エンゲージ】

RANK:UNIQUE

詳細は不明。

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