クエスト出発でございます
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ALISA:質問! 魔力消費量2%軽減のスキルレベルが50になったら、無限に魔法が使えるのかな?
HELP:いいえ。スキルレベルは、スキルごとに上限が設定されています。また、レベルあたりの効果上昇率はスキルによって異なります。これは全ての個体で共通となります。例えば【魔力消費量2%軽減Ⅰ】は3レベル上昇ごとに軽減率が2%増加し、最大スキルレベルは20となります。このスキルにはレベル20達成時に1%のボーナスが加算されるため、スキル単体における軽減率の最大は15%となります。
ALISA:そうなんだ、残念。話は変わるけど、あんた好きな人とかいるの?
HELP:その質問は回答不可項目です。
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ギルドの受付カウンターでゴブリンの討伐クエストを受注し、三十分後に集合と言われて酒場に戻ってきた俺達。
この世界の一日は地球と同じ24時間で、時刻は砂時計や日時計を使って計っていた。
正確な標準時を知ることのできる魔力時計というのもあるが、極めて高価で貴重品なのだそうだ。都市に一つあるかないかであり、大抵は領主の館で時間を知らせる大鐘用として使われている。
もっとも、俺には地球から愛用し続けているソーラー腕時計があるから正確に計測できるがな。
ちなみに、腕時計と同じ唯一の電子機器であるスマホは、電波が届かず役に立たない。そのため、アイテムボックスの中に収納したままだ。暇つぶしで適当なゲームをするために起動しようかと考えたが、ここで文明の利器を取り出すとアリサ達に騒がれるからやめた。
「この三十分の猶予は、回復薬とか非常食を買いに行けって意味なんだろうな……」
「そうね。でも、あたし達の場合は特にやることも無いし、適当にくつろぎましょ」
アリサの言葉には妹達も同意見なのか、テーブルに座ったまま動き出す気配は無い。
飯は既に酒場で弁当を包んでもらい、俺のアイテムボックスに入れてある。いざとなれば採取と料理人のスキルを使って現地クッキングもできる。
その他も、物理も魔法も無力化する俺が治癒術師を兼任できるため薬が必要ないし、迷宮で必要だと思われる道具は先んじて購入済だ。
つまり、周囲が慌しく装備の点検や回復薬の補充をしている中、俺達だけは本当に何もやることが無い。
一部の冒険者から「あいつらみたいにゴブリン討伐をナメてるやつから死んでいくんだ」といった視線が突き刺さるものの、じゃあ何をすればいいんだという話だった。
唯一やることと言えば、作戦会議だろうか。
俺はウェイトレスが淹れてくれた水を一口含み、手元の用紙に目を落とす。
ゴブリン。
緑色の肌をした子どものようなモンスターで、危険度はEランク。
知能は低く、石槌や棍棒を自作して農村を襲う程度。一匹や二匹程度なら戦いの素人ですら狩れる。
しかし、問題となってくるのはその数。繁殖力が極めて高く、他種族の雌ですら胎があれば母体とする。
巣が何ヶ月と放置されてしまえば、その間に桁が一つ増えることも珍しくない。
「と、いうことらしいぞ」
参加手続きと引き換えに渡された羊皮紙を読み終えると、俺はその紙をテーブルの上へと放った。
特に誰も覗き込まない辺り、この世界では常識なのだろう。駆け出し冒険者の説明用みたいなもんか。
「まぁ、あたし達なら眠っていても勝てるから問題ないわね」
「そうですね~。赤ちゃんの手を捻るよりも簡単かもしれませんね~」
「それでも油断はしないがな」
「……ん。油断大敵」
アリサが鼻で笑うと、同調するようにシェリスさんが相槌を打つ。ツバキさんとベルンも頷いていた。
城から出たことが無いと言っていたのに、こいつらはどうしてこうも余裕そうなんだろうか?
まるで、既にモンスターと戦ったことがあるような口ぶりだ。
「アリサ。お前、ゴブリンと戦ったことあるのか?」
「あるわよ。お母さんの召喚魔法で戦闘訓練用に呼び出してたもん。5歳の頃、集団戦相手に丁度良かったわ」
「さ、さいですか……」
ドヤ顔のアリサ。
どうやら、四姉妹は既に戦闘を経験済みらしい。
しかもそれが十年以上前なのだから、昨日までは何と戦って訓練していたのだろうか。
「リュウ様もすぐに慣れますよ~。剣も魔法も通用しないようなお方なのですから~」
「あー。まぁ、それもそうか。気を遣わせて悪かったな」
「いえいえ~」
俺だけ実戦経験が無いことで気後れしていると思ったのか、シェリスさんが励ましてくれる。
俺が考えていたのは人型の相手を躊躇いなく殺せるかなんだが……。深く考えず機械的に作業すれば何とかなる、かもしれない。たぶん。めいびー。
っと、危うく肝心なことを忘れるところだった。
気持ちを切り替えてクエスト概要を伝えねば。
「すまん、話を元に戻そう。このクエストの内容だが、難易度はDランク相当。参加人数にもよるが、報酬は一人につき金貨三枚の予定で、討伐証明の魔石は一つ銅貨二枚で買い取るそうだ」
つまり、五人で参加すれば最低でも金貨十五枚の報酬。
EランクとFランクの混在パーティーとしては破格の収入だ。
参考までに言うと、Fランク冒険者が一日働いて得る金は多くても銀貨数枚といったところ。Eランク以上は装備を整えたり修復する問題があるため、報酬金額が一気に上がり最低でも金貨一枚以上になる。今泊まっている宿屋を維持することはできるが、少し心許ない金額に思える。
そこにきて、いきなり金貨三枚ずつの報酬。なかなかに棚から牡丹餅だろう。
モンスターの動力機関である宝石『魔石』を持っていけば、さらに報酬が上がるのだ。文句のつけようが無い。
「報酬に文句は無いが、よく参加できたな。リュウ殿のランクが私達よりも高いとはいえ、それでもEランクだろう?」
「本当は無理なんだけどな。さっきも少しだけ話に出てきたんだが、緊急クエストに限り一つ上のランクまで受注することができるんだよ。放置すると大きい被害が出るときに、質ではなく数で挑むためらしいぞ」
その言葉を聞いて、ツバキさんは腕を組みながら「なるほど」と頷いている。
確かに実入りは多くなるが、死んでも文句は言えないのだから難しい線引きだ。
ときおり報酬に目がくらんで無残にも命を落とす冒険者がいると、クレアさんから聞かされていた。
「今回は緊急クエストに感謝ね。でも、迷宮はどうするの?」
「それも問題ない。ゴブリンが巣を作っているのは北西13キロの地点で、迷宮はそこから北に行った場所になる。クエストが終わったら、俺達だけ現地解散させてもらう手はずだ」
「……ん。ナイス」
無表情で親指を立てるベルンに、俺も笑い返してやる。
道中が片道二から三時間と考えれば、ゴブリンの殲滅が完了するのは昼過ぎといったところか。
普通なら、そこから迷宮まで行くと泊りがけで一泊するかもしれない。が、俺達には『アレ』があるから問題ない。
「お、お待たせしました!」
そこまで話したところで、遠くからぱたぱたと足音を立てて近づいてくる影が。
片手に数枚の羊皮紙を持ったクレアさんだ。
そういえばクエストの選定を頼んでいたな。
「時間が掛かっちゃってすみません。なにぶん規定で緊急クエストを優先しなければならないもので……」
「いえいえ。当然のことだと思いますよ」
クレアさんがぺこぺこと頭を下げてくる。
緊急性が高い案件を先に処理するのは当たり前だろう。
クエストの選定は俺達が目視で確認することだってできるが、窓口業務は彼女にしかできないのだから。
「そう言っていただけると助かります。あ、こちらが収集のクエストになります」
彼女が差し出してきた収集クエストの受注用紙を受け取り、テーブルの上に広げる。
陽光草、バレットワームの内臓、ケルト鉱石、解毒虫。
全部で4つのEランククエストだ。
「これは全部迷宮で獲れるんですか?」
「バレットワームの内臓とケルト鉱石、解毒虫は迷宮内で収集することができます。陽光草は迷宮に行く道すがら、街道脇を探すと獲れますね。昼間に太陽の光を吸収して、暗闇で少しだけ光る草なんです。イルミネーションとして綺麗なんですよ。こちらは少しでもお金の足しになればと思いまして……」
「ほう。貴殿は気が利くな」
「……ぐっじょぶ」
さすが受付嬢。地味に嬉しいことをしてくれる。
迷宮にばかり目が行っていると見過ごすところだったな。
「じゃあ、これ全部受けておきます。必要な道具があったりは……」
「特に無いですね。ケルト鉱石は3層以降の黒白迷宮で精製される赤色の破片ですから、壁際に注意して進めばすぐ見つかると思いますよ。解毒虫は掌サイズの飛ばないテントウムシで、動きも遅いです。こちらは素手で捕まえられるかと」
「この解毒虫って、殺しちゃダメなの?」
「死体でも構いませんが報酬金が減額されます。可能な限り生体が望ましいですね」
クレアさんから注意事項を聞きながら、クエストを受注する旨を伝える。
これらクエストには納品期限が無いので絶対に失敗せず、常に受ける事が出来る。要するに『暇があったら採ってきてくれると嬉しいです』といったタイプのクエストだ。迷宮に入れば誰でも採れるような素材なので在庫が飽和しているらしく、小遣い稼ぎ程度の報酬しか設定されていない。
しかし、冒険者を始めたばかりの今は貴重な収入源だ。
4つのクエスト受注を了解すると、彼女はこちらに心配そうな目を送ってきた。
「気をつけてくださいね。緊急クエストや迷宮では何が起こるか分かりませんから」
「お気遣いありがとうございます。もし危険になったら、皆を連れて逃げますよ」
「ええ。クエスト失敗とかは考えず、命を大切にしてくださいね」
クレアさんの目は、俺ではないどこか遠くを見ている気がする。
彼女も受付嬢だから、きっと色々とあるのだろう。
自分の送り出した冒険者が死体で帰ってきたとかの報告を受けたら、俺なら立ち直れない気がするな。
「では、カウンター業務に戻ります。無事に帰ってきてくださいね」
クレアさんはそう言って一礼すると、ギルドの方へ歩いていく。
彼女が潜ったスイングドアの音は、雑多な喧騒の中に消えていった。
□
「では、これより大規模緊急討伐クエストを開始します。統率はこの私、テルケスが行います」
酒場の一角に、爽やかな声が響き渡る。
俺達の周りには数十人の冒険者が集まり、彼の方に耳を傾けていた。
「おい、アリサ。寝るな」
「ひにゃっ!?」
テーブルに突っ伏して寝ようとしていたアリサのわき腹を肘で小突いて起こし、再度彼の方向に向き直る。
二十人ほど集まったレイドメンバーを統括している男。
彼はギルドの職員で、名をテルケスと言うらしい。
銀色の軽金属防具に包まれた細い身体は、一見すると補足頼りないように見える。が、肌をよく見てみれば血管が浮き出るほどの筋肉が細腕に集約されていた。要は細マッチョってやつだ。
金髪を短く刈り上げた下には、彫りの深い顔立ち。年の頃は二十代後半か。容姿は一般的にイケメンと言われる類のものであり、それに似合った声でテルケスは先を続ける。
「現在集まっている人員は18名。4パーティーで構成されています。Cランクが4名、Dランクが8名、Eランクが2名、Fランクが4名です」
テルケスが目を落としているのは手元の紙だ。
おそらくそれに要綱が書かれているのだろう。
だが、話の内容に待ったをかけた奴がいた。
「なっ! FランがDランク緊急にいるってのか!? 悪いが、俺達の足を引っ張るような奴をレイドメンバーとして認めるわけにはいかないぞ」
立ち上がったのは生真面目そうな男。
重厚な鎧と大きな盾を背負ってる姿からして壁役だろうか。
周りを見回してみると、さっきツバキさんを勧誘していたラウドパーティーの姿もあった。
(ま、あいつの言うことは至極当然の話だな)
俺は小さく溜息を吐きながらテルケスに目配せする。
説明はレイドリーダーの役目だ。
彼も同じことを思っていたようで、俺の方を一瞥すると小さく頷いた。
「Fランク冒険者4名を率いているパーティーリーダーはEランクです。規約上は参加しても問題ありません」
「そ、そうじゃねぇだろ!」
「私もその意見には同感ね。このクエストは十中八九、包囲殲滅戦になるはずよ。Fランクの穴からゴブリンを取り逃がすのならまだ良い方ね。そこの冒険者さんが攫われて再繁殖されたら本末転倒じゃない」
真面目そうな男の発言に乗っかるようにして、ラウドパーティーのエリルも続く。
彼女が「そこの冒険者」と言った際に俺達のテーブル席を指差している辺り、おおよその見当はついているらしい。
周りがモンスターの素材や鉱石を使った防具を身につけているなか、俺達だけが牛革の防具なのだ。これで察するなと言うほうが難しいか。
「何よ。あたし達がゴブリン程度に負けるとでも思ってるの?」
「そのランクが何よりの証拠じゃない!」
勢いよく立ち上がったアリサが、エリルと睨みあう。
シェリスさんは「あらあら~」とニコニコしているだけだし、ツバキさんは目を閉じて瞑想している。
ベルンは……特に反応無しで、静かに聞いているだけだ。
マイペースな俺達を見て、テルケスも苦笑している。いやー、ほんとすいません。
「確かに、そのパーティーはEランクとFランクの混成です。本来なら、ギルドの方からも参加を辞退してもらうよう勧めるでしょう」
「なら、何でこいつらがいるのよ!」
テルケスの静かな声に、エリルが激昂する。
テーブルに音を立てて手をつくと、何人かの冒険者の肩が動く。
が、テルケスに動揺の気配は微塵も無い。
「その答えは単純明快です。彼らのパーティーリーダーがこのレイドで一番強いと、当ギルドがそう判断しているからです」
「「はぁ!?」」
その言葉に、立ち上がっていた二人が絶句する。
彼らの表情には、黒マジックでデカデカと「そんな馬鹿な」って書いてある気がするな。
ほかに集まっていたレイドメンバーも、驚愕で見開かれた瞳でこちらを見ていた。
唯一驚いていないのは、昨日の一件を知っているとみられる数人だけだ。
(ん? あれは昨日、門の所で解説してくれたオッサンじゃないか)
特に動揺していない人達の中に、見知った顔を見つける。
頬に傷のある中年のオッサンがニッと笑い、こちらに親指を立ててきた。こちらからも『b』してやると、おっさんは満足したのようにテルケスへと視線を戻した。顔は厳ついが、好感の持てるオッサンだ。
彼に倣って視線を戻すと、テルケスはエリルを説得するように言葉を続けていた。
「パーティーリーダーであるリュウタロウさんは、Cランク冒険者数人を手玉に取るほどの強者です。しかも、登録初日に一人で。緋刃の一撃を生身で受け止めて無傷、かつ指一本で彼を倒すほどですから、実力を疑うべくは無いでしょう」
「そっ、そんなのただのデタラメよ!」
「私も他人から聞いたことであれば、そう思わざるを得ません。しかし、これは当ギルドの職員が実際にその目で見て判断されたことです」
エリルの言葉を静かに否定していくテルケス。
そういえば、あの時は周囲のギャラリーも多かったし、ギルド職員もクレアさん他少数がいたな。
「つまり、リュウタロウさんは戦闘能力だけならBランク以上ということです。彼であれば、Fランク冒険者数人を守りながらでも問題なく戦えるでしょう」
テルケスがきっぱりと断言する。
レイドリーダーにそこまで言い切られてしまえば、いち冒険者でしかないエリルは口を挟む余地を見出せない。それは壁役の冒険者も同じだ。
ここまで言われれば大丈夫だろうが、一応俺からもダメ押しをしておくか。
「ま、そういうことだ。確かに俺は登録して二日目のEランクだが、今までに習得した技能が登録して消えるわけじゃないんだぞ。ついでに言っておくと、お前らと睨みあっていたアリサも同じくらい強いからな」
「そ、そんな……うそ……」
「残念だけど本当だ。仮にお前が百人いようとも、アリサには勝てないだろうな」
俺の吹かしに、エリルは気の毒なくらい縮こまり、テルケスは「ほう」と感心したような声を出した。
実際、エリルとアリサのステータスウィンドウを見た限りではかなりの差がある。
ステータスでは百倍の差とまではいかないのだが、アリサには隠し玉の固有技能があるからな。あれを使えばエリルがどれだけいようと負けないだろう。
「ほら、言ったでしょ? ばーかばーぁいたっ!?」
「調子に乗るな、アリサ。俺達が駆け出し冒険者って事に変わりは無いんだ」
「わ、分かったわよ……」
アリサの頭に拳骨を一発落として静かにさせる。
大人しくなったアリサは席に着くと、頬を膨らませて不満を訴えていた。
気持ちは分かるが、今から一緒にクエストを受けるんだ。私情は後回しだ。
「これで文句は無いですね。では、表に馬車を用意してあるので行きましょう」
テルケスが満足そうに頷くと、酒場の入り口に促す。
彼に続いて、俺達はクエストへと出発した。




