初めてのクエストでございます
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RYUTARO:質問だ。この世界の人たちはスキルセットとか使えないのに、どうやってスキルを習得しているんだ?
HELP:一般的な個体は、一定の条件を満たした際に自動でスキルポイントが使用され、スキルを習得します。個体ごとに設定されている才能によってスキル習得の必要シークエンス数が変動します。魔法スキルおよびBランク以上のスキルは特定の才能を持っていなければ習得することができません。
RYUTARO:へぇ。じゃあ、剣の才能を持っている人間の例で言うとどうなるんだ?
HELP:剣術の才能のみを設定されたヒューマンの個体は、『剣を振る』モーションを100回行うことで剣技ツリー最上段の前提スキル【初級剣士】を自動的に習得します。その後、『剣で前方を突く』モーションを規定回数行うことで、Eランクスキル【剣技・一閃突き】が使用可能となります。さらに『一閃突きで前方を突く』モーションを規定回数行うことによりスキルレベルが+1され、性能が上昇します。モーションは『一閃突きで敵を攻撃する』などでも代用可能であり、実行難易度によって必要な回数が増減します。この個体は剣以外の武器スキルを習得するまでの必要シークエンス数が増加します。また、この個体はAランク槍技などを習得することが出来ず、魔法を使用することも出来ません。
RYUTARO:なるほど。サンキュー。
HELP:どういたしまして。
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次の日の朝。
春先の快晴(宿の女将さんに聞いてみたところ、今は春だとか)の下、四姉妹は意気揚々とギルドに向かっていた。
朝の人ごみをスイスイと潜り抜ける足並みは、今にもスキップしそうなくらい軽い。
起きたときは宿屋の硬いベッドに文句を言っていた彼女達だが、朝食を腹いっぱい食べてたためか、それとも迷宮探索が出来ることへの期待ゆえか、今では問題なく機嫌を直している。
はずだったのだが、約一名は依然として冷たい目から変わっていない。
「……リュウさん。昨日の夜、どこ行ってたの?」
姉妹の後ろを歩いている俺に、ベルンが近づいて問いかけてくる。
魔女っこ帽子の縁から覗く、責めるような目線。
俺は危うく止まりかけた歩みを進めつつ、平静を装ってしらばっくれてみることにした。
「何のことだ?」
おそらくは森へ出かけてたことがバレているのだろうとは思いつつも。
「……リュウさんにつけていた魔力糸、切れてる」
「マリョクシって何だ?」
「……魔力を束ねて作った、透明な糸。昨日のうちに巻きつけた」
その言葉に苦笑する俺。
どうやら手綱を付けられていたらしい。俺はペットか何かか。
「その魔力糸ってのは何となく分かった。でも、手を洗いに行った拍子で切れただけかもしれないだろ?」
「……ベルンの糸は簡単に切れない。少なくとも数百メートルは伸びる」
完全にバレてるってか。
短距離追跡用の見えない糸。スキルでもない純粋な応用テクニックっぽいな。
おかげで何も無いと思って油断してた。
「へぇ。その魔力糸を見破る技術とかあるのか?」
「……魔眼を持っていれば看破できる。話を逸らさないで」
ジト目の温度がいっそう下がった。
すいません。
「……何をしてたの?」
「大した事じゃない。郊外に出てスキルセットの実験をしていたんだよ。安全面なら、周囲に敵がいるかどうかはスキルで分かるし、実験の魔法が大威力すぎて誰かを巻き込む……とかの心配も無いからな」
逆に言えば、近くに人間がいた場合、下手をすれば巻き込む危険性をはらんでいる。
俺が郊外でスキルの練習をしたいと言い出したら、間違いなく四姉妹はついてくると言うだろう。旅のパートナーが扱う技なら、是非とも知りたいはずだ。
興味本位で来て事故が起こってしまっては、目も当てられないことになる。
言外にその意味を含めたところ、頭のいいベルンはしっかりと汲み取ったらしい。
「……ん。でも、こっそり伝えて。心配する」
いつもの無表情ではなく、少しだけ眉がひそめられていた。
朝起きてから気付いたのだろうが、それでも寝静まった後に抜け出されたとあっては心配もするか。
「ごめんな。確かに、少なくとも誰か一人には伝えておくべきだったよ」
俺は素直に謝る。
その姿を見て溜飲を下げたのか、少しだけ周囲の温度が元に戻ったような気がした。
「……ん。ベルン達にも責任がある。夜のお店に行きたくても、邪魔で行けなかった」
「え?」
突然、ベルンの話がどこかに飛んで行った。
俺は多分、ハトが豆ランチャーを喰らったような顔をしていたんじゃないだろうか。
「……結婚前で手が出せないから、発散してきた」
「待て待て待て待て」
ちょいとお待ちよベルンさん。
それはもしかして、俺がコソコソと寝床を抜け出して大人の時間を過ごしてきたと勘違いしていませんか? しかも嘘を用意してまで行くような野郎だと、そう思っていそうな口ぶりだ。
「……恋人としては病気が怖い。やめて欲しい」
「いや、だから、本当にスキルの実験に行ってきただけだから」
こくこくと頷いている彼女は無表情だが、その瞳には姉のアリサと同じ「男だもんね仕方ないよね」といった感情が張り付いている気がした。ダメだこの姉妹。
「というか、結婚前の王女に手を出せないって初めて知ったぞ」
「……正確に言えば、子作りはダメ。子どもができたら、旅を中断して強制送還」
俺は意味が分からずに疑問符を浮かべる。
その割には、昨日のアリサは夜伽だ何だの叫んでいたような気がするんだけど。
「……性交渉自体は可能。避妊していれば、体内に出しても大丈夫」
この子は無表情で凄いことを言っているな。
「……男は女に精を注ぎ込むことで至上の快感を得られる。本に書いてあった」
「さ、さすがに男全員がそういうものじゃないと思うぞ。多分だけど……」
一概にも言い切れず冷や汗が出てくる。
ベルンは外見がギリギリ中学生な女の子だ。彼女とキワドイ会話をするのは俺の罪悪感がやばい。
勉強熱心なのはいいことだけど、もうちょっと方向性をズラして欲しいところだよなぁ。
あと、その本を書いたやつは俺の前に来い。一発張り飛ばしてやる。
「……今はお金がなくて避妊薬が買えない。でも頑張る。娼館に行くのはやめてほしい」
何を頑張るのかについて疑問は残るものの、とりあえずベルンの言いたいことは把握できた。
えーっと、つまり、四姉妹に“ピーッ(自主規制)”ができないから、仕方なく娼館へ繰り出した……と思っているのか。
ここで気の効いた一言を返したいのだが、あいにく俺は御大層な言葉を交わせるほど女性と交流した経験が無い。
「安心しろ。俺は純愛至上主義だから、一晩だけの関係に興味はない。ついでに言えば金も無い」
素直に性癖を吐露……じゃなかった、ポケットマネーの事情を言い訳に使うとしよう。
実際、昨日の通行料で俺の懐はスッカラカンになっていたからな。
緋色の風からスった財布も、女性陣は何かと要用だからと渡している。
「……ん。ならいい」
最後に氷のような瞳で俺をジッと見つめるベルン。
俺の言葉に嘘偽りが無いと判断したのか、ほんの少しだけ口角を上げる。
本当によく見ないと分からない程度のものだったが、それは確かに笑顔だった。昨日は一度もそんなことをしなかったので、それが意外と新鮮だった。
「お前、笑えるんだな」
「……それは失礼。ベルンは人形じゃない」
「わ、悪かったよ。でも、ま、その笑顔は嫌いじゃないぞ。何て言うか、ベルンらしいしな」
「……そう」
何となく思った俺は素直に心情を吐いてみた。
それを受けた彼女は一言だけ残して魔女っ子帽を深く被りなおすと、端から覗く耳を真っ赤にさせたまま、すたすたとギルドの中に入っていた。
「ん~。隣三軒ぶんの距離にしては長話だったかな」
ベルンが入っていったことで気付いたが、いつの間にかギルドへ着いていたらしい。
俺もさっさと後に続くとしよう。
「リュウ、遅いわよ!」
「あっ、おはようごじゃいます。リュウタロウさん」
ギルドに入り、四姉妹のいるカウンターまで行って一言詫びる。
ベルンの表情はいつも通りだ。
(……耳が赤かったのは見間違いだったか)
無表情のベルンを見ながら視線を移すと、受付にいたのはクレアさんだった。
笑顔に陰りは無いものの、挨拶を噛んだからか頬が微妙に赤くなっている。
「おはようございます、クレアさん。今から迷宮に潜るのですが、何か関係のあるクエストでも受けておこうかと思いまして」
そう言いつつ、俺はギルドの一角にある巨大な掲示板へ顔を向ける。
ギルドに届けられた多種多様な依頼が張り出される場所で、コルク板には無数の羊皮紙が打ち付けられている。
冒険者の間ではクエストボードと呼ばれているらしい。
「そうでしたか。昨日の騒動を見る限り実力は問題ないようですが、迷宮では注意してくださいね。危なくなったら引き返すこと。……ちなみに、どの迷宮に潜られるのですか?」
「黒百迷宮の浅いところで活動しようと思っています。3つのうちで一番低いDランクの迷宮ですし、二十層くらいまでならトラップも無くて入門にちょうどいいと聞きました」
クレアさんの質問に、俺はスラスラと答えていく。
朝食のとき、宿屋に泊まっていた他の冒険者にオススメを聞いておいて正解だった。
後ろでアリサが「へぇー」って言ってる。お前、ちゃんと人の話くらい聞いておけよ。
「では、関連クエストの選定に関してはこちらにお任せください。リュウタロウさんのランクに合わせたクエストを集めておきます」
今からクエストを探そうと思っていたところに、クレアさんから一声。渡りに船だ。
にっこり笑顔が頼もしい。
「いいんですか?」
「ええ。私どもは冒険者の実力に合ったクエストを紹介するお仕事ですから」
言われてみれば、受付嬢はそういう役割だったな。
ひとまずは素材収集系と討伐系のクエストを探してもらうように頼み、俺達は十分ほど待つことにした。
隣接された酒場で待っているとクレアさんに伝え、バーテンに軽食を頼んでから席に着く。
「何で収集と討伐だけなの?」
「うむ。それは私も気になっていたな」
椅子を引いて座ると、アリサとツバキさんが疑問を口にした。
クエストは大まかに6種類で分けられており、
野草や鉱石、モンスターの部位を収集する『コレクト』。
人家のある場所に出現した凶悪なモンスターを討伐する『アサルト』。
人間の犯罪者を強襲して無力化する『サプレッション』。
アサルトやサプレッションの下見や偵察任務を請け負う『スカウト』。
商隊や要人の護衛を行う『プロテクション』。
そして、いずれにも含まれない『アザー』だ。
内訳は収集が一番多く、次に護衛と該当無。残りの討伐と強襲、偵察はドベ3位だ。
強襲と討伐は、定期クエストか緊急クエスト扱いで貼り出されることが多い。そのため、どうしても他の種類に数の面で一歩劣る。
人間相手か否かで種別が分けられているのは、おそらく受注した冒険者の心理的抵抗を考えてのことなのだろう。強さはともかくとしても、人間よりはモンスター相手のほうが気楽に決まってるからな。
「ということなんだが、まず一つ目。迷宮内で達成できるクエストは基本的に収集だけなんだよ」
「そうでしょうね~。わざわざ護衛対象が危険な迷宮に入る事態は~、よほどの事情があるときだけでしょうからね~」
「……ん。ただの馬鹿」
シェリスさんとベルンが補足をしてくれる。
確かに、危険地帯に自ら足を踏み入れるような護衛対象がいたら、俺なら即刻クエスト放棄して帰るだろう。お偉いさんとかが視察のために赴くなど、その行動に理由があるならともかくとして。
ちなみに、討伐クエストは迷宮内のモンスターには適応されず、それ以外の場所で危険なモンスターが出現した場合に発行される。迷宮のモンスターは基本的に迷宮内部で一生を終えるため、名声や素材などを目的にしない限り犠牲が出ることが無いからだ。
「ふむ。では討伐を受けたのは何故だ?」
「まず前提として、迷宮は周囲にいるモンスターを引き込む性質がある。だから、逆に迷宮の周りにある集落は安全になるんだ」
「そうなんですよね~。例外もありますけど~」
「……その例外が、一番厄介」
モンスターは強い魔力を求め、近くの農村よりも迷宮に惹かれて動く。
しかし、時折出現するレアモンスターは逆だ。彼らは非常に頭がよく、冒険者達が活動する迷宮には住まず、襲い易い近隣の人間に手を出すことがあるのだ。
そのため迷宮付近の村々には冒険者や騎士が数人ほど常駐しているのだが、事が事だけに生半可な戦力では手に負えないモンスターとなっていることもある。
その救援や被害拡大の抑止として出されるのが『討伐クエスト』だった。
これを聞くと迷宮付近に住まなくてもいいではないかと思うかもしれないが、迷宮の近くは税金が安い。しかも、襲ってくるのはレアモンスターという『質』であり、大群に押しつぶされてしまうといった『数』の勝負になることはめったに無い。ある程度の冒険者か騎士さえいれば、彼らが耐えている間に救援を呼べば問題なく被害ゼロに抑えることが出来る。
また、そのほかの土地であれば繁殖したモンスターの大群や飛竜の襲来といった災害レベルの問題が稀にあるが、迷宮近くではそれが極めて起こりにくいといった利点もあるだろうか。
「緊急クエストで発行された場合は参加ランクの敷居が下げられているんだけど、本来は難易度が高くて危険なんだよ。でも、そのぶん報酬金額が高いから、俺達みたいなパーティーにはうってつけってわけだ」
「そうだったのね。護衛とか、面倒くさそうなクエストは除外したのかと思ったわ」
もちろん、それもあるけどな。
「お待たせしました。オレンジジュースとフルーツサンドイッチになります。お弁当は別に包んでおりますので、どうぞお持ちください」
ちょうど話が終わった辺りで、酒場のウェイトレスが軽食と、ついでにアリサが頼んだ弁当を持ってきた。
うちのパーティーは俺がアイテムボックスを使うことが出来るので、干し肉や硬いパンといった非常食を用意しなくていいのは助かる。
最初は弁当だけにしようと思ったのだが、アリサ達の「デザートは別腹」という一言で軽食も注文している。
テーブルの上に置かれたのは、イチゴのようなフルーツがたっぷり挟まったのサンドイッチ。
朝食をたらふく食べたのだが、実物を目の前にすると腹が減る。
姉妹に続いて、俺もサンドイッチに手をつけようと――。
「すみません。ちょっといいですか?」
全員の注文がテーブルに運ばれた途端、機を窺っていたらしい冒険者のパーティーが声をかけてきた。
俺達と歳は近いようだが、あちらは鉄の防具を使っているので、見かけは強そうに見える。
男女混合の構成で、1、2……全5人か。
「あらあら~。何か用ですか~?」
「あ、いえ、その、あなたではなくてですね……」
シェリスさんに目線を向けられたリーダーらしき青年は、真っ赤な顔して慌てている。
防具の上にマントを羽織り、腰には鉄の剣。おまけに剣と同じ長さの杖があった。おそらく、ベルンと同じ魔法師なのだろう。ベルンは杖を持っていないが、格好が似ている。
青年はシェリスさんから視線を外し、先ほどまで目を向けていた人に話しかけた。
「えっと、僕はラウドと言います。そちらの剣士さんに用件があるんです」
「む。わらふぃは?」
フルーツサンドを幸せそうに食べていたツバキさんの動きが止まる。たぶん、「私か?」って言ったんだと思う。
甘い時間を中断させられてしまい、眉をひそめて若干不満そうだ。
どんだけ甘いもの好きなんだこの人。凛々しい普段とのギャップは悪くないんだけどさ。
「ええ。ウチのパーティーなんですが、前衛のアタッカーが一人足りなくて、もしよかったら手伝っていただけないかと思いまして……」
どうやらラウドの用件とは野良パーティーの勧誘だったらしい。
ツバキさんを選んだのは、純粋に所持武器から前衛職だと分かったからか。
他の姉妹や俺は獲物らしい獲物を持ち歩いてないし、唯一推測が出来るとしたら魔女っ子帽子とローブを身に着けているベルンくらいだろう。
アリサも前衛らしいのだが、面倒なので言わない。
「すまないが、私は今の五人でクエストを受けるもりなのだ。どれだけの報酬が出ようとも他のパーティーに所属する気はない。他を当たってくれないだろうか」
姉妹と俺を見回しながら、ツバキさんが口の端を上げる。
なんともカッコいい返しだ。この人は、実は性別が男なんじゃないだろうか。
その光景を見ていたラウドのパーティーの中から、肩を怒らせた女性が口を開いた。
「ちょっと。せっかくウチのパーティーが誘ってあげてるのに、断るっていうの? いくら顔が良いからって、ルーキーが調子に乗ってんじゃないわよ」
「いや、顔の良し悪しは関係ないと思うのだが……」
どうやら断られたことに不満を持っているらしい。
ツバキさんの微笑が苦笑いに変わるのも無理は無いだろう。
「エリル。冒険者は自由稼業なんだから、相手に無理強いするわけにはいかないよ」
「そんなんじゃ駄目よ、ラウド! これでもウチらはCランククランなんだから、こんな新人に舐められると評判にかかわるのよ」
ラウドの注意に、エリルと呼ばれた女性が憤慨したように抗議している。
こっちは誘いを断っただけなんだが、これはそんなにクランの名前に傷をつけるようなことなんだろうか。
「あら、それは奇遇ね。Cランククランの『緋色の風』とかいうお馬鹿さん達に喧嘩を吹っかけられたのが昨日。それで今日もCランク。Cって言葉に何か因縁でもあるのかしら」
アリサが人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべながら、オレンジジュースを飲んでいる。
それは小さな独り言だったのだが、不思議とラウド達に届いたようだ。
ギギギと金属がきしむかのような音を立てて、全員の視線が俺のほうに向く。
「な、何だよ……」
「うふふ、わたし達の旦那様は人気ですね~」
いや、そんな数人によってたかって凝視されると居心地が悪いんだけど。
ラウドのパーティーに至っては、なんか幽霊にでも出会ったかのように唇が震えている。
唯一変わっていないのは四姉妹と、ツバキさんに詰め寄っていた女性冒険者のエリルだけだった。
「じゃ、じゃあ、お前が……緋刃の大剣を素手で防いで、五人いたCランクを一人で叩きのめしたルーキー、か……?」
ラウドの後ろにいた男の声に、他のメンバーが息を飲む音が聞こえる。
よく分からないが、俺が防いだ大剣といえば昨日喧嘩を吹っかけてきた『緋色の風』のリーダーしかいない。ヒジンは、あいつの異名か何かだろうか。
それと一人で五人叩きのめしたのではなく、二人殴って残りは逃がしたが正しいけど……まぁそこには突っ込むまい。
「リュウは見た目だけ一般人だけど、魔刀でもポキポキ折っちゃうくらい中身はモンスターだもんね。相手に同情するわ、うんうん」
「……ん」
おいアホアリサ。これ以上話をややこしくするんじゃない。
ベルンも真顔で頷くなよ。
「ハッ。そんな話があるわけ無いじゃない。Cランクって言ったら、一人でEランク十人と遊べるくらいの戦力差があるのよ。それこそ最低Bランク以上でない限り、Cランクパーティーを手玉に取るなんて出来るはずないわ」
そんな中、エリルだけは鼻で笑い、余裕の態度を崩さない。
多分コイツ空気読めないタイプだな。
エリルに「KY乙」と返してやろうと思った、その時だった。
「……ん?」
かすかな焦りを含んだ声が聞こえた。
普通なら酒場の喧騒に紛れて聞こえない音に、俺の『地獄耳』スキルが反応する。
出所は隣のギルドのようだ。先程より騒がしくなっている。
「行こう。何かあったみたいだ」
俺は残りのサンドイッチを口に放り込み、弁当を持って席を立つ。
すでに食べ終わっていた四姉妹は、俺の行動に黙って頷いてくれた。
こういうとき、空気を読んでくれるのは助かるよ。
「すみません、俺達はこれで失礼します」
「ちょっ、話はまだ……!」
エリルはまだ言いたいことがあったようだが、その言葉は途中で止まる。
ギルドの方から、焦ったような大声が聞こえてきたからだ。
「北西にゴブリンの巣窟が発見された! 敵の数はおよそ百! これより大規模討伐クエストの参加を募集する!!」




