初夜(意味深)でございます
「これで、ひとまず今日中に解決すべき問題は全部終わりよね?」
「ああ。宿代も予想以上に浮いたしな」
宿屋の一室で、俺達は丸テーブルに座って歓談中だ。
既に皮の鎧は部屋の隅へと追いやられ、別に持ってきていた普段着に着替えていた。
ちなみに羞恥心が無いのかいきなり脱ぎ始めたので、俺はすぐさま部屋の外へと転がり出た後、数分ほどしてから恐る恐る入室する……といった事態もあった。城に住んでいたお姫様だったが、普段の着替えは自分達で出来るらしい。
アリサは青いシャツとチェック柄のスカートで、シェリスさんは薄緑のワンピース。ツバキさんは着流しのような浴衣に、ベルンは小奇麗なベストと短パンとトンガリ帽子。十人十色ならぬ四人四色の装いだな。
「どうかな? かわいい?」
「ハイハイかわいいかわいい」
「心が籠もってなーい!」
アリサがグラビアアイドルのようなポーズをとるので内心ドキッとしたが、それを適当にあしらって部屋の中を見回す。
俺達が取った一室は、現代で言えば十二畳ほどの部屋だった。木の温かみを感じさせる内装が心地よい。五つのベッドや円形のテーブルと椅子、それにクローゼットが設置されていた。
宿屋の三階に位置しているので、防犯の問題も申し分ないだろう。
店員が一泊あたり金貨一枚と銀貨五枚にまけてくれたのも嬉しいところ。彼のベルンを見る目が若干怪しかったので、もしかすると幼じ、
「……何か変なこと考えた?」
「いや別に」
言い直そう。小さい女の子が好きだったのかもしれない。
あの店員は色々な意味で要マークだ。
「明日から迷宮入りですか~、楽しみですね~」
「そうだな、今日はもう時間が遅い。さすがに暗闇で狩りをするわけにもいくまい」
シェリスさんが楽しそうにしている隣で、ツバキさんが窓の外に目を向ける。
既に太陽が完全に沈んでいる時間帯だ。今から依頼や迷宮をこなそうとしても危険すぎる。
初日から無理をしてしまうと、後日の要所でガタがくるだろう。
「……今日は、ゆっくり休む」
「そうですね~。リュウ様、一階の食堂で食べれば夕食が無料って言ってましたっけ~?」
「ああ、モーニングセットと日替わり定食が一回ずつだな」
宿屋の受付で交わされた会話を思い出し、シェリスさんに返事をする。
食事は朝夕が一回ずつ無料。風呂は予約が必要で、二十分につき銀貨三枚らしい。
「お風呂は今の時間帯に行くと混み合ってるから、後で入りましょ。今は腹ごしらえね」
アリサの鶴の一声で、俺達は一階の食堂に向かう。
既に大多数は夕食を食べた後なのか、食堂では数人が食後のお茶を飲んでいるだけで閑散としていた。
手近なテーブルに座り、ウェイトレスに声をかける。
「すみません、日替わり定食を人数分お願いします」
「承りました。お客様はお食事だけでしょうか、それとも宿泊でのご利用でしょうか?」
「宿泊です~」
「では、部屋の鍵をお見せください。無料にて提供させていただきます」
アリサが持っていた鍵を見せると、ウェイトレスは「305号室の方ですね。少々お待ちください」と言ってから立ち去った。
なるほど。部屋の鍵で記録しておくことで、何度も食事に来られないようにするのか。
歓談しながら待つこと数分、
「お待たせいたしました。本日の日替わりはレッドローズボウのステーキにグリン豆のスープで、付け合せがサラダとパン。デザートがダークオレンジとなっております」
ウェイトレスが持ってきたのは、予想していたよりはボリュームのあるセットだった。
特に、白い皿の上でステーキが油の弾ける音をさせ、温かいスープが食欲の刺激する匂いを振りまいているのは圧巻だ。
「悪くないわね。それじゃあ食べましょうか」
「だな。腹も減ってたし」
俺は日本式の、四姉妹は異世界式の『いただきます』だ。
異世界式は一分ほど黙祷して感謝の祈りを捧げるというものらしい。
おかげで数秒しかかからない俺は、餌を前にしてお預けを食らう犬の気持ちだったよ。
「このステーキ、結構いけるな。ボウってことは猪か」
「リュウ殿の予想は近いが、少し違うな。レッドローズボウは猪と似た姿をしたモンスターだ」
ステーキを一切れ頬張ってみると、豚よりも弾力のあるジューシーな肉だ。
噛むたびに染み出てくる脂が果物のソースと相まって、たまらない旨みを引き出してくる。
モンスターの肉と聞いても特に嫌悪感は無い。地球じゃゴキブリを食べてる国だってあるしな。
「モンスターの肉って、一般的に食べられるような物なのか?」
「そうね……。たぶん、普通の農村や都市部では少ないと思うわ。供給が多い迷宮都市ならでは、ってところじゃないかしら」
なるほど。
狩るやつが多いからこそ、宿屋でも普通に流通しているのか。
「もちろん、他でも食べられないと言うわけではないのですよ~。氷魔法で凍結させてから運べばいいだけですからね~。その分、お値段も高くなってしまいますけれど~」
「……ん。普通のお肉よりも美味しい(もぐもぐ)」
ベルンの話では、モンスターの肉は基本的に美味らしい。
元となった生物のワンランク上の味になっているそうだ。
(じゃあ、グリン豆のスープは……ん?)
スプーンで一口飲んでみると、意外な味に戸惑う。
「これは、枝豆か?」
この淡い緑色といい、茹でてからプチプチと食べたくなる味といい、名前が違うだけで枝豆だ。
俺の知っている枝豆より少し味が薄い気もする。スープの仕様だろうか。
(そういえば、こっちに来てからの食事は二回とも洋食だな。まだ半日だからなんとも言えないけど、食べ物や町並みが全部西洋風だし、もしかしたら和食と中華が存在しないんじゃないか?)
スープを飲みながら、俺は何となく思う。
スキルセットの中には『一流料理人』や『素材分析』といった料理系統、それに農業スキルもあったはずだ。
元々一人暮らしで自炊していたので、料理には多少の自信がある。
洋食もいいが、できれば和食が食べたい。
(肉じゃがとか和え物とか天ぷらとか。後は味噌汁も捨てがたいよな……)
そう考えつつも、俺達は異色文化漂う食事を終える。
デザートも芳醇な甘みを持つオレンジで、ツバキさんが幸せそうな顔をして食べていた。
□
草木も静まり返った深夜。
「さて、スキルセットの検証といきますかね」
四姉妹はぐっすりと部屋でお休みしている。
夕食を食べてから早々に部屋で狸寝入りをした俺は、皆が寝静まってからスキルの確認をするために郊外の森へとやってきていた。
アリサが「えー! 夜伽はしないのー!?」とか叫んで揺り起こそうとしていたが、んなことするわけない。俺は純愛が好きなんだ。出会って半日しか経っていないのに純愛も何も無い。
そのまま彼女達も諦めて寝付いた後、隠密スキル『忍び足』と『光学迷彩』と『気流操作』のトリプルコンボを決めて抜け出してきたのだ。
「周囲に敵影なし。実験開始だ」
視界はカンテラで確保したまま、周囲を見回す。
オブジェクトレーダーで周囲に人間と敵対生物がいないことを確認してから、スキルセットを起動。視界に出てきた大量の樹形図を無視し、地面近くにある【スキルリセット】に指で触れる。
「よし。これで初期化されたな」
そして初級空撃魔法師のスキルと初級空撃魔法『エアショット』だけを取得する。
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【エアショット】
RANK:E
前提スキル:初級空撃魔法師
威力:5
消費魔力:20(Active)
圧縮させた高密度の空気を発射する。さまざまな用途に使え、利便性が高い。スキルポイントを1追加することにより、同時に使用できるエアショットの数が増加する
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エアショットの前提スキルは『初級空撃魔法師』だけなので、今から行う実験には問題ない。
厨二病詠唱をするのは気が向かないが、詠唱省略スキルの『アリア・エリプシス』を取得してしまうと意味が無いので我慢だ。
溜息を吐いてから、土の地面に手をつけて詠唱を開始する。
『空の精霊よ。汝らの手を望む』
魔法の詠唱はウィンドウに出てきたので、それを喋るだけで良かった。
どうでもいいことだが、魔力の扱いってどうなっているんだろうな。
もっとこう、修行して自然体から魔力を感じられるように、的なシチュが欲しい。
『エアショット』
ドンッ!
柔らかい土の地面に向けて衝撃波が放たれ、その反動で身体が浮き上がる。
手をどけてみると、柔らかい土だからか、深さ10センチほどの穴が出来ていた。
ちょうどいい感じだ。
「未強化状態だと10センチか。じゃあ比較は単純強化版だな」
今度はエアショットにスキルポイントを2つほど追加し、[+3]にする。
先程あけた穴の近くでもう一度撃つと、ドドドンッ!と音を立てて地面に穴が穿たれた。
無事3発ほど射出することができたようだ。
なお、詠唱で特に変わったところは無く、三発撃ちたいと意識するだけで三発出るようだ。
「穴の深さは……約30センチってところか」
まず実験1終了。
回数が増えるスキルは、強化しても威力が分散されずに使うことができる。
同時に使用できるとあるので、エアショット自体を複数起動するのだろう。
ステータスウィンドウを見たところ魔力値が60減っていたので消費魔力は増えているようだが、威力が減らないのは助かる。
「次は別スキルによる強化だな」
今度の実験は、威力上昇系がどういう処理をされるのかについてだ。
威力上昇系のスキルは『空撃魔法威力増加』や『空撃魔法威力増加Ⅱ』のように、複数あった場合は別枠でナンバリングされている。
この二つの能力を習得した際、お互いのスキルが乗算されるのか加算されるのか分からないのだ。
「試すにしても、効果が明らかに分かるようにしないとな……」
そのためには生半可な強化では駄目ということだ。
まずは『空撃魔法威力2%増加』と『空撃魔法威力2%増加Ⅱ』を両方[+20]にすることで、威力40%上昇を二つ作る。
次に『空撃魔法威力3%増加』を同じく[+20]にし、こちらは威力60%上昇だ。
この状態でエアショットを放つことで、乗算か加算かが分かる。
元々の威力は5と表記されているが、仮に地面に何センチの穴を開けるかで考えた場合、
乗算:10cm×100%×140%×140%×160%=31cm
加算:10cm×(100%+40%+40%+60%)=24cm
ということになる。
「さて、どっちかなっと」
パワーアップした状態のエアショットを地面に向けて放つ。
ドゴンッ!っと、先程よりも重厚な音が響き、予想を超える大穴が生み出された。
俺の身体が反動で予想以上に浮き上がり、周囲の木々もびりびりと震えている。
「……明らかに30センチ以上あるな」
手をどけてみれば、そこにあったのは最初の3倍以上もある深い穴。いや、小さいクレーターと言うべきだろうか。
加算の場合、計算通りであれば深さ25センチ以下の穴になるのだが、どう見てもそれより大きい。穴自体の直径も広がっていた。
つまり、スキルの倍率補正は全て乗算ということになる。
「これは……かなりヤバイよな……」
地面に開いた穴を見て冷や汗を流す俺。
こういう倍率強化の場合、加算と乗算では当然乗算のほうが有利だ。倍率が低ければ大きな差は出ないが、倍率が高くなり累乗する数が増えていけば次元が違ってくる。
加算が一定割合で増えていく一次関数とするなら、乗算は二次関数。伸びれば伸びるほど極端な威力上昇に繋がっていく。
「初級魔法ですらこの威力だからな。既に人間相手に撃っていいレベルじゃないな」
柔らかい土とはいえ、地面に深さ30センチの穴を開ける衝撃を喰らえば、並の人間は原形をとどめないだろう。
入門用魔法なのに、対物ライフル並みの威力があるかもしれん。
まぁ、スキルの中には『金剛皮』のように受けるダメージを減らすものも存在していたので、一概に全員がオーバーキルとは言えないか。威力が乗算なら、ダメージ軽減率に関しても乗算の可能性があるしな。
「それなら、ある程度威力調節をしながら使っていくのが吉だな。もしくは魔法を絞って強化していくとか。殺傷用と非殺傷用みたいな感じで……」
我ながら物騒な考え方をするようになったもんだ。
ギルドで魔法を使わなくて本当に良かったよ。
「よし。今日はこの辺にして、宿屋に帰るか」
当初の目的は達成されたので、ひとまずの実験を終わりにしよう。
俺は土魔法で穴を埋めてから、都市に向かってゆっくりと歩き始めるのだった。
体力ツリー
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【忍び足】
RANK:C
前提スキル:下忍の心得、軽業師
消費体力:30(Active)
持続時間:2s
忍者の基本的な足運び。足と床の設置面から発する音を10%軽減する。スキルポイントを1追加するごとに、軽減率が10%上昇する。+10で足音が消える。
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魔力ツリー
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【メタオプティカル・カモフラージュ(光煌属性)】
RANK:C
前提スキル:中級光煌魔法師
消費魔力:200(Active)
持続時間:30s
光を屈折させ、使用者の姿を周囲から隠蔽する。匂いや音、気配は誤魔化せない。
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【エアクト(空撃属性)】
RANK:F
前提スキル:初級空撃魔法師
消費魔力:20(Active)
持続時間:10s
空気の流れを操作する。匂いを消す際や夏冬の温度調節に便利。
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