女は単純?中編
1ヶ月以上もたっててびっくり。
すみませんでした。
「ルナさん」
「ん?」
食堂で声をかけられたルナは、パンを頬張ったまま顔をあげるとケイトがお盆を持って立っていた。
「あぁ、ケイトさんも食事ですか」
「えぇ、前いいですか?」
「どうぞ」
ルナから許可をとり、ケイトはルナの前の席に座った。そして眉尻を下げて申し訳なさそうな顔をして口を開く。
「最近お手伝い出来なくて申し訳ありません。なんとか時間を見つけようと思っているのですが」
「いえいえ、見習い期間が忙しいのはしょうがないですよ」
見習い執事であるケイトは、言わば雑用係のようなものである。先輩執事に頼まれれば、嫌でもその仕事をしなければいけない。
それがわかっているルナは、ケイトには仕事に集中してもらって、手伝いは二の次で構わないと言ってある。
ルナの言葉にケイトは苦笑いを浮かべ、再び「すみません」と謝罪の言葉を口にする。
「でもルナさんは凄いですね。今までの教育係は、こんなに長くは続きませんでしたよ」
「そうなんですか?」
今までの教育係は2週間もてば長い方だったが、ルナがこの城に来て1ヶ月以上たつ。最高記録を更新したのだ。
そう褒められたルナだが、首を傾げて不思議そうな顔をした。
「これまであまり聞きませんでしたけど・・・教育係辞めるの早くないですか?」
いくら引きこもりや我が儘だとしてもプロである。そんなものは慣れているはずだ。そう考えると、これまでの教育係は辞めるのがいくらなんでも早い。
その節を伝えると、ケイトは困ったような表情をした。
「実は・・・辞めた原因のほとんどが、クリス殿下が関係してるんです」
「クリスが?」
ケイトは顔を近付けて、声を出来るだけ小さくする。
「その、クリス殿下はあらゆる手段を使って気に入らない人を排除するんですよ」
「へー、例えばどんな手段?」
「そうですね・・・僕が聞いたのは人の弱味を握ったり、侍女に協力させて嫌がらせをしたり・・・」
「侍女に?」
「クリス殿下は顔がいいじゃないですか。言い方が悪いんですが、侍女をたらしこんで協力させたらしいです。でも、前の侍女長が目を光らせていたんでそう酷いことは出来なかったようですが」
「ふーん、侍女をねー」
ルナが呟やきパンを頬張った時、二人の耳にガリッという音が聞こえた。
「・・・・」
口を開くと、ルナの口の中からコロンッと何かが落ちる。
「・・・石だね」
「・・・石ですね」
机の中央で止まったそれは、小さな石だった。パンの中を見れば、所々に石が埋っている。
「・・・道理で味が土っぽい訳だ」
「いや、気付きましょうよ!なに普通に食べてるんですか!
あぁ、そんなことより!なんですかこのパンは!」
怒鳴るケイトに、食堂にいた人間がそちらを見る。被害者であるルナは呑気に「まぁまぁ」とケイトを宥めて、転がった小石を手に取った。
「どうやら、始まったみたいですね。嫌がらせ」
台所では、料理人だけではなく侍女も食事を配ったりしている。料理作りのプロである料理人が、自分の料理に異物を入れるのは考えづらい。彼らにはプロとしてのプライドがあるのだから。ならば、侍女がすり替えたとしか思えない。
「そんな・・・侍女長は何をして」
「まぁ普通に考えれば、その侍女長も協力してるんじゃないんですかね」
ルナはこの食堂に入った時、こちらを睨んできた侍女長の顔を思い出す。やけにプライドの高そうな女は、初対面の時からルナの事を快く思っていないようだった。
「しかし食べ物を粗末にするなんて、まだエリーゼの悪戯の方が可愛いな」
「呑気に言ってる場合ですか。どうするんです?」
「いやいや、どうもしませんよ」
「へ?」
ルナは小石を口に放り投げた。それを歯で噛み砕き、ニヤリッと笑う。
「まぁ、お手並み拝見ということで」
なんのお手並みだ?と、ケイトは疑問に思い首を傾げるのだった。
それから、侍女達による苛めは度々行われた。パンの中に異物を入れるのは当たり前、廊下を歩けばわざとぶつかってくるか、ヒソヒソチラチラとルナを見るなど色々行われた。
なんとも地味な攻撃ではあるが、これでも常人ならば居心地が悪いと感じるだろう。しかし、ルナは全くそんな素振りを見せない。
ある日、痺れを切らした何人かの侍女が、ルナに「納屋になにかいる」と言って中に入れて外から鍵をかけた。
が、ルナは何事もなかったように侍女たちの前に現れて「なにもいませんでしたよ」と笑顔で報告してきた。侍女達が驚いたのは言うまでもない。
そんな彼女を叩きのめす方法などあるのだろうか。彼女たちは日夜研究に励んでいる。
「て、感じかな?」
「・・・・」
場所は城内にある一室。この場所には正式名称はないが、余っているという理由で使用人達の休憩室となっている。
その部屋に、ルナとケイトは向かい合わせに座っていた。二人の間にある机には、クッキーと二人分の紅茶が置かれている。
「ルナさん、そろそろ陛下にすべてご報告した方がいいと思いますが」
ケイトは頭を抱えつつそう言った。
ルナから侍女達の嫌がらせを聞いたが、どれもこれも幼児レベルである。そろそろこんな茶番はお開きにした方がいい。
たが、ルナは首を横にふる。
「いやいや、すべて報告するのはまずいですよ。だってそれはまだ半分ですから」
「まずい?」
半分だろうがなんだろうが、そんなくだらない嫌がらせを報告する事のどこがまずいのだろうか。首を傾げるケイトの前に、ルナはクッキーを一つ摘まんで見せた。
「例えばこの頂いたクッキー」
「はい」
「毒入りです」
「・・・え?」
ケイトはしばらく放心したが、バンッと席を立った。
「ちょっ、ルナさんさっきからバクバク食べてるじゃないですか!?」
「いやいや、毒と言ってもすぐに死ぬ量じゃありませんよ。ただ、食べ続ければ死にますけど」
言いながらルナはクッキーを食べる。
「言ってるそばから食べないでくださいよ!!」
「毒の風味がなかなか美味なんですが」
ルナは残念そうに食べかけのクッキーを戻した。毒の風味ってなんだよ、とケイトは思ったが次のルナの発言に再び固まる。
「まぁお菓子だけじゃなく、最近は食事にも毒が入ってますが」
「・・・」
固まるケイトにルナは笑って見せた。まったく笑い事ではないのだが、食べても体調を崩してないところを見ると、どうやら耐性があるようだ。
それにしても、やることが幼児レベルではなくなっている。明らかに、ルナを抹殺するつもりだ。
「ルナさん、今すぐ陛下に報告しましょう。今!すぐに!」
「まぁまぁ、落ち着いてケイトさん」
「むしろ貴女がそんなに落ち着いているのが不思議でなりませんよ」
ケイトは深くため息を吐き出した。最近彼の顔から疲労の色が濃くなっているのは、きっと気のせいではないだろう。
周りを心配させている当の本人は、余裕の表情でクッキーを眺めている。
「今この事を報告したら、関与した侍女達は皆クビになりますよ」
「そんなの、当たり前じゃないですか」
そんな者達を城になど置いておけないのは当然である。信頼出来ないだからだ。
だか、ルナは首を横にふる。
「でも彼女達は毒を盛ってるって認識してませんよ」
「は?」
「多分、痺れ薬とか言われてるんじゃないですかね?首謀者に」
「首謀者って・・・」
「もちろんクリスですよ」
ルナは食べかけのクッキーを手に取り、説明を始めた。
「このクッキーに盛られている毒は、侍女や一般人がやすやす手に入れられるものではありません。
毒を盛るときの一番のポイントは、相手にバレないことです。臭いや味、それが無味無臭に近ければ近いほど、毒ってのは裏社会で高額で取引されます。
この毒はほぼ無味無臭です。だからそれなりのお値段がしますよ、これ。それこそ、王族ぐらいにしか手の届かないレベルで」
「そうなんですか・・・」
試しにケイトが臭いを嗅ぐが、バターのいい香りしかしない。毒の価値など知らないが、ルナが言うならそうなんだなと納得する。
だから裏社会がどうとか、なんで無味無臭に近い毒がわかるんだとか、突っ込むのは止めておく。きっとため息しかでないのだから。
「でもこのままでいいんですか?」
「まぁよくはないですね」
クッキーをヒラヒラと揺らしながら、ルナは頬杖をつく。王族が毒殺事件を起こすなど洒落にならない。そろそろ動くべきか。
「でもまだ掴めないんですよねー・・・」
「なにがです?」
「証拠です。クリスが首謀者っていう証拠」
「なかなかしぶといんですよ」と笑うルナは、楽しそうである。まるで子供とゲームをしているような感覚。ケイトは再びため息をつきそうになった。
しかし、そのため息は突然の訪問者にかきけされた。勢いよく開いた扉に目を向ければ、王国騎士の姿をした二人組がこちらに向かってくる。
なんだ?とケイトが首を傾げれば、二人はルナの前に立った。
「教育係ルナ。貴様を連行する」
「はぁ!?」
ケイトが驚きの声をあげるが、ルナは至極冷静に騎士の二人をみやる。
「何故?」
「クリス殿下の指輪を盗んだ罪だ。貴様の部屋から指輪が出てきた」
「ふーん・・・」
ルナは立ち上がる。歯向かうのかと構える騎士二人だったが、ルナは二人に向かってニコッと笑う。
「抵抗なんてしないわ。早く連れてって」
そう言われた騎士二人は、警戒しながらも構えを解いた。それを見たルナはケイトに顔を向ける。
「ケイトさん、そういうわけなんで行ってきます」
唖然としているケイトにも笑いかけ、食べかけのクッキーを口に放り込むとルナは騎士達に連れていかれた。
残されたケイトが我に返り、慌てるのはその数分後。
毒の価値については自己流の考えです。
世界観的には中世ヨーロッパあたりなので、その時代には毒を無味無臭にするのは難しかったんじゃね?という自己流の解釈。
多分、薬みたいな感じで苦味とか臭いがあったんじゃないかと。
違ったとしても、この世界では毒を無味無臭にするのは難しいと思ってください。
以上、言い訳でした←




