第1章 第4話 智の家族
鈴はトモの傷の消毒にと毎日神社に通い、包帯を替えながら食事を与えた。
鈴は、夜が来るのが待ち遠しくなっていた。
一ヶ月が過ぎる頃には、トモはすっかり元気を取り戻し、四本足の姿で神社を走り回っていた。
「元気になって良かったね、もう大丈夫じゃけんね」
トモは咆哮して、月光を浴びる。
二本足の姿になったトモが枝を使い地面に文字を書いていく。
「智」
大きな体格の智は、鈴の目線まで屈み自分の名前を伝えた。
「智が、あんたの名前で漢字がこれなんじゃね。ええ名前じゃねぇ」
表情は変わらないのに、尻尾を大きく振るのは嬉しかったのかな?
そう思うと可笑しくて、鈴は笑ってしまった。
「すず、は?」
智の手にしていた枝を取り鈴は地面に「鈴」と書いた。
「鈴!」
また、尻尾を大きく振っていた。
「あんたの家族は? どうしてここに居たん?」
鈴の質問は、それまでの智の様子を一変させてしまった。
「母さんはニンゲンに殺された」
「一番上の仁兄は撃たれた」
「二番目の臨兄は殺され、皮を剥がれた」
鼻先はつり上がり、口は裂け、牙が剥き出しになった。その表情は怒りに満ち溢れていた。
鈴は黙って聴いていた。不思議と、怖さはなかった。
「家族はもういない、仲間を探している。でも、どこにもいない……」
仲間を探しながら旅をしていたが、山で足を滑らせて怪我をし、そのままこの神社で休んでいたのだと、智は話してくれた。
「そう、人に襲われてからはあんたずっと一人で生きてきたんじゃね」
鈴も、一人ひっそりと生きてきた。そんな自分を智に重ね、そっと後ろから抱き締めた。
「鈴?」
智は困惑したが鈴の温もりは嫌ではなかった。
子供の頃、兄弟たちと身体を寄せ合った記憶が甦った。
「ごめんなさい、あんたの家族を奪って、居場所を無くしたのはウチらニンゲンなんよ。許される話じゃないけど、ごめんなさい……」
鈴の頬には、大きな涙がぽつぽつと流れていた。
空には雲がなく、神社の境内を月が照らし続けている。
智は、ニンゲンの中にも変わったのが居るのだと思った。
泣き止まない鈴に、智は静かに唄い始めた。
〽お前は誰ぞ 誰ぞや
人の子なりと 答えけり
されど本当は 誰ぞや
獣なりとて 月が嗤う
人か獣か 誰ぞや
やがて鈴の泣き声が止んだ。
「兄弟がぐずったら、母さんが唄ってくれたんだ。鈴にも効果あったな」
智を見ながら呟くように
「ありがとう……」と。




