第1章 第3話 会話
翌日の夜更け。
右手に包帯を巻き大きな風呂敷には焼酎と獣に使う包帯。
そして大量の食べ物を持った鈴は東山神社へ歩いた。
いつもより足取りが軽い。
昨夜はびっくりしたが、なんてことはない。
お腹を空かせた獣に食べ物を持ってきただけだ。
神社に着くなり、
「来たよ」
と叫ぶと、神社の下からのっそりと獣が現れた。
距離をとったまま、警戒を怠らない。
が、右手の包帯を見るなり耳を下げ、尻尾は丸まり、その場に伏せたまま動かなくなった。
「心配してくれとるん?」
恐る恐る右手を差し出すと、獣は包帯の上から舐め始めた。
「あはは、くすぐったいよ。さあ、手当てしよ」
風呂敷から焼酎を取り出し、丁寧に傷口を消毒して、包帯を巻いていく。
「毎日消毒するけん、舐めたらいかんよ?」
鈴の言葉を聴きながら、獣の耳は垂れていた。
「今日は鹿の干し肉があるけん、食べんさい」
地面に置くと、獣はすぐに平らげた。鈴は一つ、また一つと分け与えてやった。
ふと、鈴は昨夜の人ならざる姿を思い出した。
「あんたは何者なん?」
神社の階段に座り、目の前で干し肉を食べる姿は大きな犬にしか見えなかった。
食べるのをやめた獣は、空を見上げて咆哮した。
直後、雲間から現れた三日月を見るなり人の形に変わっていった。
「……綺麗……」
思わず、口から出た言葉だった。
その姿は、白い毛並みが月に照らされ、真珠のような鈍い輝きを纏っていた。薄いベールを纏うがごとく。
鈴は、しばらく見惚れていた。
「言葉は、喋れる……」
ゆっくりと続けて、獣は喋り始めた。
鈴は言葉に耳を傾けた。
「トモだ」
獣は言う。
「あんた、トモって言うん?」
獣は頷きながら、
「トモ」
続けてまた耳を垂らし、
「手、ごめんなさい」と。
耳が垂れている姿は、可愛く思えた。
「あんたはトモって言うんじゃね。ウチは鈴」
足を指差しながら、
「すず、ありがとう」
一つ一つの言葉が、鈴は嬉しかった。
「人語はもう忘れた」
辿々しく言葉は短い。
「ウチはあんたを治したい。明日も必ずこの場所におるんよ?食べ物も持ってくるけんね」
力強く、鈴はトモに向かって言い放つ。
人型のトモは美しく、容姿を化け物と言われてきた鈴には、羨ましく思えた。




