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BAKE-MONO  作者: 森村征爾
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第1章 第2話 似た者同士

「あんた、足を怪我しとん?」

獣は、その声を理解したかのように左足を舐め始めた。

小さな枝が獣の後ろ足を貫通したまま止まっている。


「ウチを食べんよね? 抜いてやるけん、食べたらいかんよ?」

左足が不自由な自分自身を見ているようで、何とか助けてやりたくなった。


鈴が近寄ろうとすると、獣は低く唸って警戒を怠らなかった。

しかし、ずっと飲まず食わずの獣に、逆らえる力は残っていなかった。


やがて動きを止めた獣に近寄った鈴は、刺さった枝を握り、


「いくよ……」

一気に引き抜いた。

その瞬間、獣は鈴の右手を反射的に噛んだ。

右手から滴る血が、獣の口に流れ込む。

枝は、鈴の左手にあった。


「抜けたけん、怖くないよ……大丈夫じゃけん」

噛まれた右手の痛みに、鈴は耐えた。


目の前の弱々しかった獣が、突如、本来の姿に変わり始める。




「えっ……」



血の味が、獣を興奮させた。

背中の毛は逆立ち、尻尾は天に向かって立つ。

雨上がりの雲は切れ、三日月が顔を覗かせた。


白い毛並みは、月の光を反射するように輝いている。

鈴の目の前で、獣は姿を変えていく。


四本足の姿が、徐々に二本足へ……。


人間の姿に近いが、上半身の毛は薄く生え揃っていた。

太ももは太く、明らかに人とは違う。膝から下は獣そのものだった。

顔は人に近いが、口元から鈴の血が滴り落ちたまま、鈴を見ていた。


「ば、ばけも……」

言いかけたとき、鈴は自分の足を見た。

誰にも必要とされず、顔の痣は哀れみの視線を向けられ、不自由な足は普通の人として扱われない。


鈴は、目の前の生き物に恐れを感じなかった。



「なんじゃ、ウチも同じか……」



そう思うと、怖さは無くなっていた。


「あんた、明日もここにおるんよ。ウチが手当てしてあげるけんな」

獣は鈴の言葉を理解したのか、ゆっくりと頷き、鈴の右手を舐め始めた。

そして身体は、また元の獣の姿に戻っていった。


「大丈夫、あんたの傷が治るまで、ウチが面倒みるけん」


雨の上がった夜、鈴の中に生まれて初めて必要とされる気持ちが芽生えていた。


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