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BAKE-MONO  作者: 森村征爾
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第3章 最終話 古唄

翌日の夜。

鈴の耳に智の咆哮が届くことはなかった。

次の日も。


その次の日も。


寺の境内を掃除しているときも、食事をしているときも、鈴の中から智が消えることはなかった。

いつか、またふらりと現れる。


大事な、大事な「人」


そう信じて、鈴は待ち続けた。

参拝に訪れる者の中には、鈴の真面目な性格を気に入り、嫁入りの話を持ちかける者もいた。

けれど鈴は、そのたびに丁重に断った。


「ウチには、待っとる人がおるけん」

それだけを伝え、寺での暮らしを続けた。


三年が過ぎた頃、和尚が亡くなり

あの猟師の男も寺へ参拝に来なくなった。

季節が巡り、境内の木々が何度も葉を落としては芽吹いていく。

それでも鈴は、待っていた。


いつか聞こえるかもしれない。

あの声が、あの咆哮が。

あの白い獣が。



ある夜、寺から鈴の姿が消えた。

書き置きもなく、荷物もそのまま残されていた。

寺では神隠しだと騒ぎになった。


ただ、鈴が消えた夜。

遠い山の方から、獣の咆哮が聞こえたという。

そして仁王門には何か大きな獣が爪を立てたような傷跡が残されていた。


それから先、白い狼を見た者はいない。

鈴を見た者もいない。

二人がどこへ行ったのか。

知る者は、誰もいなかった。


令和の現在、東野の一部では古い唄が唄い継がれている。

誰が作った唄なのか。

いつから唄われているのか。

それを知る者も、もういない。


〽お前は誰ぞ 誰ぞや

人の子なりと 答えけり

されど本当は 誰ぞや

獣なりとて 月が嗤う

人か獣か 誰ぞや


そして、唄の最後には、こんな言葉が残されている。


獣の名は、智ぞ。

人の名は、鈴ぞ。

二人同じく、化わり者。

二人交わり、変わり者。

されとて……二人


とこしえに。



BAKE-MONO  完

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