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BAKE-MONO  作者: 森村征爾
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第3章 第7話 邂逅

二人の間に流れていた沈黙は月の光に照らされゆっくりと動き始めた。


獣の身体を包んでいた白い毛が月明かりの中で揺れる。

その姿は少しずつ人の形へと変わっていく。

鈴の前に立っていたのは、見慣れた智だった。


「智……」

鈴が一歩近づく。


だが智は、怯えるように身体を震わせた。

「鈴……」

声はかすれていた。


「おれは……取り返しのつかないことを……」

智は顔を上げられない。

あの夜のことが頭から離れなかった。


父さん母さんを殺め、さらにニンゲンたちを殺した。

血に染まった自分の姿。


鈴の前に立つ資格さえないと思っていた。

「ただ……」

智は震える唇を噛んだ。


「ただ、鈴に一目会いたかった」

耳を垂らし俯く姿は、あまりにも弱々しい。


「鈴……おれは、どうすればええんじゃ……」

頬を伝った涙が、ぽたり、ぽたりと地面に落ちる。

智が顔を上げたとき、鈴の腕がスッと伸びた。


智の身体を強く抱き締める。

智の震えた身体が止まった。


「大丈夫……」

鈴の声も震えていた。

「大丈夫じゃけんな」


智の肩に顔を埋める、恐れはなかった。

逃げようとも思わなかった。


「全部、本当かもしれん」

鈴は涙を流しながら続けた。

「智がしたこと…………全部」

少しだけ腕に力を込める。


「でもな、今の智をウチは好きなんじゃ」

智の目から、また涙が落ちた。


「離れたらいかん……」

鈴の声が途切れる。

「もう、離れたない」

泣いているのは智だけではなかった。


二人は互いの身体を離そうとはしなかった。

しばらくして、月が雲の向こうへ隠れた。

暗闇が二人を包む。

やがて智の身体は再び獣の姿へと変わっていく。

鈴は白い毛に覆われた智の頬に触れる。


「ここから連れ出して」

智は鈴を見る。

「智と二人で暮らせたら、ウチはかまん」

鈴の手は暖かく、求めた温もりであった。


「明日、迎えに来て」

鈴は呟く。

「吠えたら、ここに来るけんな」


智は何も言えない。

ただ、鈴の手に頬を寄せた。


ふと我に返った智の中に、ひとつの不安がよぎった。


満月が近い。

今は駄目だ、明日満月になれば――。


智は立ち上がることもできず、その場をうろうろと歩き回った。


「智?」

鈴が不思議そうに首を傾げるが、智は答えられない。


境内の遠くから人の声が聞こえた。

「和尚さんが探しとらいかんけん……ウチ、戻ろうわい」

鈴は立ち上がる、そして何度も振り返る。


「明日じゃけんな」

そう言って、また手を振る。

智はその場に座ったまま、鈴の後ろ姿を見つめていた。

小さくなっていく鈴の姿。


最後にもう一度、鈴が振り返る。

智は動けなかった。


どうすればいいかわからぬまま再会は別れとなった。

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