第3章 第2話 浮かび上がる真実(面影編)
和尚の話に聴き入り鈴はゆっくりと顔を上げた。
「夫婦は、拾った仔犬らを犬として育てとったんじゃ。じゃが、その中の白い仔犬が暴れてのう。夫婦らは切り刻まれたんじゃ…」
和尚はその場で手を合わせた。
「白い犬?」
鈴の声がかすかに揺れる。
「あれは犬ではない、狼の化け物じゃ。三匹のうち一匹は猟師らが退治したが白い狼ではなかったんじゃ」
鈴は言葉を失った。
「おまえさんの親父さんから話は聴いとる。おまえさんが見た獣はソレじゃ」
膝が震え立つことができず、鈴はその場に座り込んだ。
「取り憑かれとったんじゃ、おまえさんは何も悪くない。じゃがの、また会う事だけは止めておけ。アレは化け物じゃ」
顔面蒼白のまま、鈴は唇を噛んだ。膝の上で握った手に、爪が食い込んでいる。
「…わかりました…」
絞り出した声は、自分の耳にも他人のものに聞こえた。
*
智は昼間、猟師たちが休んでいる場所に出くわした。
「おい、聴いたか?あの取り憑かれた娘の話」
キセルに火を入れる猟師の煙が、智の鼻を突く。
「ああ、昔夫婦を殺した白い狼に取り憑かれた娘じゃろ?」
もう一人は銃の手入れをしながら答えた。
「むごたらしい話よのう。育てた親を殺して逃げとるんやけんのう」
(何の話だ?仲間が居るのか?)
煙に咳き込みそうになるのをこらえ、智は耳を傾けた。
「あの娘は石手寺に預けられたそうじゃぞ。白い狼が生きてる間は家には帰さんと、親父殿は躍起じゃけんな」
キセルを片付ける猟師。
「三匹のうち、残るは白い狼だけか。化け物め」
尻についた葉を払い、猟師は立ち上がる。
二人は山頂に向かい歩き去った。
(鈴は石手寺か。匂いがしないはずだ。あの寺は他の寺より線香を焚いている。……それより、今の話は)
昼間であるため、智は四本足の獣の姿のまま石手寺へ向かって走っていた。
(三匹のうち、白い狼が夫婦を襲った? 捕まっていないのは、白い狼だけだと?)
走る足を止める。
(三匹。仁兄、臨兄、そして――)
そこで考えが途切れた。
(臨兄は、ニンゲンに父さんも母さんも仁兄も殺されたと言っていた)
(父さん母さんを襲った白い狼は俺じゃない。……俺は、何も)
智は四つの足を動かせないまま、石手寺の方角を睨んでいた。




