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BAKE-MONO  作者: 森村征爾
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第2章 第3話 日常(過去編)

5年が経った頃。

三兄弟は、それぞれ身体も大きくなり、夜になると月明かりの下で狩りに出るようになっていた。


「今日も獲れたな、母さんが喜ぶぞ」

仁は仕留めた鹿を眺め、満足そうに笑った。


「仁は前に出過ぎじゃ。あれなら、もう一匹は獲れとったはずやろ?」

臨は不服そうに言う。


「二人とも凄いよ」

智は兄たちの動きを見ながら嬉しそうに笑っていた。


「さあ、帰ろう。」

臨が仁に応える、

「せやね、これだけ月の光を浴びればしばらく人の形は保てるけんね」

仁は鹿を軽々と担ぎ上げ、三人は山を下りていった。


「ただいま、父さん、母さん」

囲炉裏の前で待っていた両親が振り返る。


「おかえり。おお、今日も大量じゃが」

父親が目を細める。

三兄弟は顔を見合わせ、嬉しそうに笑った。


臨は智を見ながら意地悪そうな顔をした。

「でも、智はなんにもしとらん」


智は何も言わず、俯いた。

足元の土を、つま先で何度も擦っている。


「智は優しいけん、かまんのよ」

母親の早苗が、智の肩に手を添えた。


「無理に狩りなんかせんでええんよ」


「母さんは、いつも智に甘いけんなあ」

臨が口を尖らせる。


「うちには皆、可愛い子やけんな。怪我だけはしたらいかんよ」

早苗は三人を見つめた。

幼かった三兄弟は、いつの間にか逞しい若者へと成長していた。


「仁、臨。ちょっと話がある」

父親が二人を呼び止めた。


「智は母さんと肉捌いてくれ、晩飯任せるぞ」


「うん」

智は頷き、囲炉裏のそばを離れた。


やがて、家の中には三人がそれぞれ動く音だけが残った。


父親は仁と臨を囲炉裏の前に座らせた。


「次の満月は、狩りに出るな」

突然の言葉に、臨が眉をひそめる。


「なんで?」

臨が不思議そうに尋ねた。


「お前ら二人は、まだ正気がある」

父親は静かに二人を見た。


「だが……智は違う」


臨が首を傾げる。

「智が?」


「前の満月の夜、智が山に入ったのを覚えとるか?」


「ああ。山に入っただけやろ?」

臨は気にする様子もなかった。


父親は答えず、仁を見る。

「仁は知っているな?」

仁は黙って頷いた。


「あの翌朝、山がどうなっとったかを」


仁の表情が曇る。

「……生き物が、たくさん死んどった」


「何を殺した?」

臨の表情が固くなった。


「鹿も、猪も……鳥もおった」

仁は言葉を選ぶように続けた。

「食べるために殺したんやない」


父親は囲炉裏の炎へ視線を落とした。

「そうじゃ」


囲炉裏の炭の爆ぜる音が鳴る。


「智は……狩りをしたんじゃない」

しばらく、誰も言葉を発しなかった。


部屋の奥の台所から、智が包丁を使う音だけが聞こえていた。


「良いな、お前たちで智が外に出ないように見張っておけ、わかったな?」

二人は頷いたまま、言葉が出なかった。


「鹿汁出来たよー!」

智は囲炉裏前の家族に向かって叫んでいた。



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