第8話 神制度
第8話 神制度
翌日。
カイルには早急に解決しなければならない問題が一つ増えていた。
No.1《始まりの勇者》のパーティから、どうやって穏便に抜けるかである。
今すぐ事務局へ駆け込んで脱退届を叩きつけたいところだが、昨日の職員の反応を見る限り、No.1の従者に選ばれたことは名誉以外の何物でもないらしい。そんな状況で理由もなく必死に抜けようとすれば、かえって目立つ。
ましてや、そのNo.1が討伐するべき魔王と使徒が自分だなどとは口が裂けても言えない。
結局、リリアをどう説得するか考えながら、しばらく様子を見るしかなかった。
だからといって、本来の目的まで止めるわけにはいかない。
勇者武器を破壊する。
神から押しつけられた、カイルが生き残るための仕事である。
とはいえ、現状では肝心の勇者武器について知らないことが多すぎる。幸いNo.27《ハープ》を持つフィーネのパーティには正式に入れた。まずは彼女の勇者武器を間近で調べながら、学園が保有している勇者武器の情報を集めるつもりだった。
そんなことを考えながら校内を歩いていたカイルは、掲示板の前で足を止めた。
「……ロスト武器探索?」
貼り出されていたのは、学園が常時募集している調査依頼だった。
学園が把握している勇者武器は、百本すべてではない。過去には所在が判明していたものの現在は行方が分からなくなっている武器、伝承だけが残っている武器、最後の所有者が死亡して以降発見されていない武器も存在する。
それら《ロスト武器》について、学園が集めた情報をもとに現地を調査する。
参加するための条件はない。
既存情報を調査して報告すれば通常報酬。学園が把握していなかった有益な情報を持ち帰れば一・五倍。そしてロスト武器そのものを発見すれば三倍。
「これなら……」
勇者武器について調べる理由として、これ以上自然なものもない。
学園から資料を受け取って、学園公認で勇者武器の痕跡を調査できる。運が良ければ実物を見ることさえできるかもしれない。
破壊方法が分からない以上、今のカイルに必要なのは情報だった。
問題があるとすれば、一人で動くより勇者パーティとして参加した方が都合がいいということだが――その点についても、ちょうどいい相手がいる。
◇
「ロスト武器探索、ですか?」
「ああ。やってみないか?」
昼休み。
カイルが依頼書を見せると、フィーネは少し不安そうに首を傾げた。
「でも、私のハープって戦えませんよ?」
「別に戦闘任務じゃないぞ。条件もない。学園が集めた情報を現地で確認してくるだけでも報酬は出る」
「それなら私でもできそうですけど……」
「それに、フィーネには実績が必要だろ」
「実績?」
「今、お前のパーティにいる従者は俺一人だ」
「……はい」
少し悲しそうになった。
「戦闘能力がないってだけでNo.27を敬遠してる奴もいる。でも、ロスト武器探索で何度か結果を出してみろ。少なくとも『何もできない勇者』とは言われなくなる」
フィーネが顔を上げた。
「戦えなくても探索で実績を作れるパーティだって分かれば、興味を持ってくれる奴が出てくるかもしれない。卒業するにはあと四人必要なんだろ?」
「……なるほど」
「しかも報酬も出る。新しい情報なら一・五倍。現物を見つければ三倍だ」
「三倍……」
「実績が作れる。報酬ももらえる。新しいパーティメンバーも集めやすくなる。悪くないだろ?」
「やります!」
フィーネはあっさり陥落した。
「私、やってみたいです!」
「決まりだな」
カイルも笑顔で頷いた。
フィーネは実績を作れる。
自分は勇者武器について調べられる。
双方に利益がある。
実に健全な協力関係だった。
◇
「ロスト武器探索ですね」
放課後、二人で受付を訪れると、職員は慣れた様子で資料を取り出した。
「特に参加条件はありませんので、お二人でも問題ありません。こちらが現在学園で把握している調査対象です。この中から好きなものを選んでください」
「本当に調べてくるだけでもいいんですか?」
「ええ。過去の情報が現在も正しいか、それを確認するだけでも立派な調査ですから。通常の報酬をお支払いします。新たな有益情報があれば一・五倍、ロスト武器そのものを発見して持ち帰った場合は三倍になります」
「おお……」
フィーネが目を輝かせている。
「ただし、もしロスト武器を発見した場合は、慎重に持ち帰ってくださいね」
「慎重に?」
「そうそうありませんが、破損する危険があります。まだ勇者を選んでいない勇者武器は、選定後と比べると強度がそれほど高くないらしいんです」
カイルの視線が止まった。
「……勇者武器って、壊れるんですか?」
「壊れるというほどではありませんが、欠けることはありますよ。以前、発見した学生が適当に運んでしまって、一部を欠損させたことがありまして」
「欠損」
「幸い、その武器は後に勇者を選びました。アジャストが行われた際に欠けた部分も元に戻ったので問題にはなりませんでしたが、貴重なものですから丁寧に扱ってください」
「……アジャスト?」
初めて聞く言葉だった。
「勇者武器が勇者を定めた際、その勇者の個性や適性に合わせて、使いやすいように形や能力を調整する仕組みです。ちょうどフィーネさんのNo.27が分かりやすいですね」
「私のハープですか?」
「歴代のNo.27《ハープの勇者》を調べると、同じ能力ばかりではありません。演奏によって仲間を強化した勇者もいれば、音楽を媒介に儀式魔法を発動した勇者もいる。音の反響を利用して音響探査を行えた勇者もいました」
「同じハープなのに?」
カイルが尋ねると、職員は頷いた。
「根本的な性質は変わりません。No.27なら《音》や《音楽》ですね。ただ、それをどのような形で発現させるのが選んだ勇者に適しているかは一人一人違う。それを調整するのがアジャストです」
「じゃあ、私の場合は……」
「非常に分かりやすいですね。フィーネさんの場合は――」
「最高の音が出ます!」
フィーネが胸を張った。
「……はい。そこへ極端にアジャストされています」
「極端に」
「極端にです」
カイルは誇らしげなフィーネを横目で見た。
仲間の強化。
儀式魔法。
音響探査。
そしてフィーネ。
最高音質。
(勇者武器、お前それでいいのか?)
とはいえ、アジャストについては理解できた。
勇者武器は勇者を選ぶことで、その人物に適した形へ変化する。そして、その際には欠損さえ修復される。
そこまで考えて、カイルはふと先ほどの説明へ思考を戻した。
――勇者を選んでいない勇者武器は、それほど強度が高くない。
――実際に、運搬中に欠けたことがある。
「……ちなみに」
「はい?」
「その欠けた武器って、何か特殊な事故でも?」
「いいえ? 単純に扱いが雑だっただけですよ。だから注意しているんです」
「…………」
カイルは黙った。
勇者を選んだ武器しか見てこなかったから、勇者武器というものは途方もなく頑丈なのだと思っていた。
だが、違う。
少なくとも勇者を選ぶ前なら、人間が雑に扱った程度で欠ける。
欠けるということは。
(もしかして――)
カイルは手元のロスト武器探索資料へ目を落とした。
最初はただ、勇者武器について情報を集めるつもりだった。
運が良ければ実物を観察できればいい。その程度にしか考えていなかった。
だがもし、見つけたロスト武器がまだ勇者を選んでいなかったら。
(壊せるかもしれない)
初めて。
勇者武器を減らすための、具体的な道筋が見えた。
残存勇者武器:99
確保?:1




