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100人の勇者と勇者になれない俺  作者: AIの奴隷


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第9話 お試し探索

第9話 お試し探索

「これなんかどうですか?」

 フィーネが一枚の資料を持ち上げた。

 ロスト武器探索について一通り説明を受けた二人は、そのまま受付に用意されていた調査資料を眺めていた。学園が長年にわたって集めてきた、所在不明の勇者武器に関する情報だ。

 最後の所在がかなり正確に判明しているものもあれば、何百年も前の文献にそれらしい記述があるだけのものもある。当然ながら情報の確度にも大きな差があり、確度が高いものほど既に何度も調査されていた。

「どれ?」

「これです。鉱山」

 カイルはフィーネから資料を受け取った。

 学園からそれほど離れていない場所にある、すでに閉山した鉱山。数十年前、その鉱山で働いていた鉱夫が、坑道の奥で勇者武器らしきものを目撃したという。

 ただし、No.は不明。形状も不明。

 証言者が勇者だったわけでもなく、見たものが本当に勇者武器だったという確証もない。その後に行われた調査でも発見には至らず、現在では坑道の一部が崩落しているらしい。

 資料の端には、はっきりと記されていた。

 ――情報確度・低。

「……これ、本当にあるのか?」

「分かりません」

「潔いな」

「でも、近いですよ。ここなら日帰りできます」

 確かに、それは大きな利点だった。

 初めてのロスト武器探索である。どんな調査をするのか、どの程度の装備が必要なのか、二人ともまだ勝手が分かっていない。そんな状態でいきなり何日もかけて遠方へ向かうより、まず近場で一度経験してみた方がいい。

「まあ、今回はお試しだしな」

「はい。探索がどんな感じなのか分かれば十分です」

「じゃあ、これにするか」

 カイルとしても異論はなかった。

 もちろん勇者武器を発見できるなら、それに越したことはない。昨日、勇者を選ぶ前の勇者武器なら破損することがあると知ったばかりなのだ。それならば、完全に破壊することもできるのではないか。そんな可能性が頭に浮かんでいる。

 とはいえ、何十年も前の、しかも真偽すら怪しい目撃証言である。

 最初から期待するようなものではない。

 今回はあくまで情報収集。

 ついでにロスト武器探索という制度がどんなものなのか経験しておく。

 その程度のつもりだった。

◇

 翌朝。

「……カイルさん、荷物多くないですか?」

「鉱山だからな」

 二人は学園の正門前で待ち合わせていた。

 フィーネが背負っているのは小さな鞄が一つ。昼食と水筒、それに財布やタオルといった最低限のものしか入っていない。

 一方、カイルの背中には明らかにそれより大きな荷物があった。

「何が入ってるんです?」

「照明、予備の照明、ロープ、折りたたみ式のスコップ。手袋、布、簡単な救急用品、水と食料。それから坑道図と方位磁針、チョーク、小さいハンマー……まあ、そんなもんだな」

「…………」

「なんだよ」

「私、お昼ご飯しか持ってきてません」

「遠足か」

「初めてなので……」

「俺も初めてだよ」

「じゃあ、なんでそんなに準備できるんですか?」

「俺、サポート専攻だからな」

「あ」

「忘れてたのかよ」

 勇者や戦闘を得意とする従者が敵と戦うなら、その者たちが問題なく行動できるように準備を整えるのがサポーターの仕事だ。

 今回向かうのは閉山した鉱山。内部に明かりがあるはずもなく、崩落しているという情報まである。古い坑道図だけを頼りに進むなら、現在地や帰路を見失わないための準備も必要になる。

「本当に全部使うかどうかは知らないけどな」

「使わなかったら?」

「それが一番いい」

「なるほど……」

「必要になったときに『持ってくればよかった』じゃ遅いんだよ。使わずに持って帰れるなら、それでいい」

「おお……」

 フィーネが感心したようにカイルを見る。

「なんか、すごく従者っぽいです」

「従者なんだよ」

「そうでした」

「お前、俺をなんだと思ってたんだ」

 若干の不安を覚えつつ、二人は学園を出発した。

 目的の鉱山までは徒歩でも十分に行ける距離だった。天気も悪くなく、道も整備されている。今のところ冒険というより、少し遠出する程度の気楽な旅だった。

「初めてのパーティ活動ですね!」

「そうなるのか?」

「なりますよ。二人で調査を受けて、学園の外まで来てるんですから」

 フィーネは朝から妙に楽しそうだった。

 考えてみれば、彼女にとっては本当に初めてなのだろう。

 No.27《ハープ》に選ばれて勇者となったものの、戦闘能力がないというだけで従者は集まらなかった。そんな彼女にとって、これが初めてのまともな勇者パーティとしての活動になる。

「カイルさん、ロスト武器見つかりますかね?」

「情報確度・低」

「分かってますよ。でも見つかったら報酬三倍ですよ?」

「そこだけはしっかり覚えてるな」

「三倍ですから!」

 フィーネが三本指を立てる。

 その期待を裏切るようで悪いが、カイルとしては三倍報酬よりも勇者武器そのものの方が重要だった。

 もっとも、本当に見つかればの話だが。

 そんな会話をしながら街道を進んでいたカイルは、ふと思い出して荷物へ手を伸ばした。

「そうだ、フィーネ。鉱山に着く前に、一つ試したいことがあるんだけど」

「はい?」

 取り出したのは、一枚の楽譜だった。

「楽譜ですか?」

「ああ。ちょっと変わった楽譜でさ。上手く弾けば獣が集まってくるらしい」

「獣が?」

「本当かどうかは知らないけどな。せっかく演奏できる奴がいるんだし、試してみないか?」

 フィーネは受け取った楽譜へ目を落とした。

「知らない曲ですね……」

「弾けそうか?」

「これなら大丈夫だと思います」

「さすが」

「やってみます?」

「ああ。頼む」

 もちろん、カイルは本当のことをほとんど説明していない。

 その楽譜は《死奏者マエストロ》とともに与えられたもの。

 《洗脳の音楽・獣編》。

 ほかにも《魔物編》《人間編》が存在する。しかしカイル自身には演奏する技術がないため、これまで一度も効果を試せなかった。

 だからこそ、フィーネがいる今が絶好の機会だった。

 カイルは街道から少し離れた、人目のない場所を選んだ。

「じゃあ、準備しますね」

 フィーネが身体に刻まれた《27》の刻印へ意識を向ける。

 勇者武器に選ばれた者には、その身体のどこかに武器のNo.が刻印として浮かび上がる。それは勇者であることを示す証であると同時に、選ばれた勇者武器を格納する場所でもある。

 刻印が淡く輝き、溢れた光がフィーネの前で形を成していく。

 やがて現れたのは、一台のハープ。

 No.27《ハープ》。

「それ、やっぱり便利だよな」

「刻印ですか?」

「俺たちは荷物を全部背負ってるのに、勇者は武器だけ身体にしまっておけるんだぞ」

「カイルさんの荷物も入れてみます?」

「入るのか?」

「入りません」

「じゃあ聞くなよ」

 フィーネが笑いながらハープを構える。

 その間に、カイルはこれから試す力へ意識を集中した。

 《洗脳の音楽》という名前なのだ。ただ演奏すれば勝手に獣が集まってくるわけではない。

 まず、命令を定める。

(この音を聞いた獣は、演奏している場所へ集まれ)

「カイルさん、いいですか?」

「ああ。やってくれ」

「はい」

 フィーネの指が弦に触れた。

 最初の一音が、辺りへ響き渡る。

「…………」

 相変わらず、音だけは凄まじい。

 カイルに音楽の専門知識などない。それでも、彼女が奏でる音が尋常ではなく美しいことくらいは分かる。

 歴代のNo.27には、演奏によって仲間を強化した勇者もいた。音楽を媒介に儀式魔法を発動した勇者も、音の反響を利用して周囲を探る音響探査を行えた勇者もいたらしい。

 そして現在のNo.27は――。

(最高音質)

 昨日の職員が言っていた。

 極端にアジャストされている、と。

(勇者武器、本当にそれでいいのか?)

 そんなことを考えているうちにも、フィーネの演奏は続いていく。

 やがて、ガサリと茂みが揺れた。

 一匹の小さな獣が姿を現す。続いて木の枝へ鳥が降り立ち、別の茂みからも何かが顔を出した。

「……カイルさん」

「ああ」

 明らかに集まってきている。

 演奏が届く範囲にいた獣たちが、次々とフィーネの周囲へ姿を現した。

「本当に集まってきました!」

「本当だな。すげえ楽譜だ」

「どういう仕組みなんでしょう?」

「さあ?」

 カイルは首を傾げてみせた。

 仕組みも何も、カイルが集まれと命令したからである。

 とはいえ、これで一つ確認できた。

 《獣編》は本物だ。

 少なくとも音を聞いた獣は、マエストロの命令に従っている。

 やがて演奏が終わり、集まった動物たちも少しずつその場を離れ始めた。

「面白かったですね」

「ああ。試した甲斐はあったな」

「また弾いてみたいです」

「機会があったら頼むよ」

 フィーネがNo.27を刻印へ戻す。ハープが光へ変わり、《27》の刻印へ吸い込まれるように消えていった。

 二人も再び街道へ戻る。

 ただ、カイルにはもう一つ試したいことがあった。

 音楽を聞かせれば命令できることは分かった。

 では、その効果は演奏が終わった後も続くのか。

 どの程度まで複雑な命令を理解できるのか。

 そして、命令された獣はどのくらい正確にそれを実行できるのか。

 カイルは先ほど集まってきた獣たちの中から、一匹のリスへ目を向けた。

(俺についてこい。ただし、フィーネには見つかるな)

 試すにはちょうどいい命令だった。

 自分についてくるだけなら簡単だ。だが、そこに「特定の相手に見つからない」という条件を加えれば、獣がどこまで命令の意図を理解できるのかも確認できる。

 それに鉱山まではまだ距離がある。

 果たしてリスがそこまで命令を維持できるのか。

 カイル自身、結果に少し興味があった。

「カイルさん?」

「なんでもない。行こうぜ」

「はい」

 二人は再び歩き始めた。

 しばらくして、カイルが何気なく後方を確認する。

 いない。

(失敗したか?)

 そう思った直後、少し離れた木の幹の裏から小さな尻尾が消えた。

(……いるな)

 さらに進む。

 今度は茂みの中。

 カイルが立ち止まれば気配も止まり、歩き始めれば少し遅れて移動する。

 フィーネはまったく気づいていない。

「カイルさん、どうかしました?」

「いや?」

「さっきから後ろを気にしてません?」

「気のせいだろ」

 危ない。

 むしろ自分の方が実験を台無しにするところだった。

 それからカイルは振り返る回数を減らした。

 フィーネが気づかない以上、今のところリスは命令を守っている。あとは鉱山までついてこられるかを確認すればいい。

(結構使えるな、これ)

 残る楽譜は《魔物編》と《人間編》。

 そちらも同じ仕組みなのだとすれば、《死奏者マエストロ》という力の危険性も少しずつ見えてくる。

(人間編は……さすがに簡単には試せないよな)

 その辺りは、また後で考えればいい。

◇

 昼前には、目的地である鉱山へ到着した。

「……ついてきたな」

「え?」

「いや、こっちの話」

 少し離れた木の陰から、一瞬だけ小さな尻尾が見えた。

 学園近くからここまでの距離をついてきたうえ、フィーネには一度も発見されていない。

 実験は成功と考えてよさそうだった。

「じゃあ、入る前に確認するぞ」

 カイルは荷物を下ろし、必要なものを取り出した。

 照明を二つ。そのうち一つをフィーネへ渡し、自分の分とは別に予備が使えることも確認する。坑道図と方位磁針はすぐ取り出せる位置へ。ロープと折りたたみスコップも必要になればすぐ使えるようにしておく。

「フィーネ、手袋」

「持ってません」

「知ってた」

 カイルが予備を投げる。

「ありがとうございます!」

「坑道の中じゃ壁や岩に素手で触るなよ。あと俺より前に勝手に行くな。古い坑道だから足場がどうなってるか分からない」

「はい!」

「返事だけはいいな……」

「ちゃんと従いますよ!」

 フィーネが手袋をはめるのを確認してから、カイルは坑道の入口へ向き直った。

 閉山してから長い年月が経っている。かつて鉱夫たちが使っていた建物はほとんど撤去され、坑道にも人が出入りした形跡はほとんどなかった。

「行くか」

「はい!」

 二人は照明を手に、坑道へ入った。

 内部は当然ながら暗い。

 カイルは古い坑道図と方位磁針を確認しながら進み、分岐へ来るたび壁へチョークで印を残した。

「それ、帰り道のためですか?」

「ああ。地図があるからって信用しすぎるなよ。何十年も前のものだし、崩落で通路が変わってる可能性もある。帰る方向だけは分かるようにしておいた方がいい」

「なるほど……」

 フィーネが感心しながら、カイルの手元を覗き込む。

「カイルさん、本当にサポート専攻なんですね」

「だから最初からそう言ってるだろ」

 途中には大きな段差もあった。

 カイルはロープを取り出し、近くの頑丈な支点へ固定して強度を確認する。

「フィーネ、先に降りろ」

「カイルさんは?」

「俺が最後。帰りは俺が先に上がる」

「はい」

 フィーネを先に降ろし、自分も続く。

 持ってきた道具が実際に役立ち始めると、カイルも少し気分がよかった。

 最初のうちは、それでも何も見つからなかった。

 古びた木材。錆びた道具。ところどころに残る採掘の跡。

 地図と実際の坑道を見比べながら、右へ、左へ、さらに奥へ。

 情報確度が低いというだけあって、最初から何か見つかるとは期待していなかった。

 ところが。

「……あれ?」

 カイルは足を止めた。

「どうしました?」

「いや……」

 手元の資料を見る。

 もう一度、周囲を見る。

「この証言、思ったよりちゃんとしてるかもしれない」

「本当ですか?」

「ああ。古い地図だから多少変わってるけど、証言に書かれてる場所と坑道の構造がほとんど一致してる」

 情報確度・低。

 学園ではそう評価されていた。

 だが少なくとも、証言者がこの辺りまで来たこと自体は間違いなさそうだった。

「じゃあ、本当にあるかもしれないんですね!」

「まだ分からないって。期待しすぎるな」

「でも三倍ですよ!」

「結局そこかよ」

 先ほどまで練習気分だったフィーネの足取りが、明らかに軽くなっている。

 カイルも少しだけ期待し始めていた。

 もし本当にあるなら。

 勇者をまだ選んでいないのなら。

 昨日思いついた可能性を、実際に確かめられるかもしれない。

 そして二人は、資料から推定された場所へ近づいていった。

 その先で待っていたのは――。

「……これは無理だな」

「無理ですね……」

 崩落だった。

 坑道が完全に塞がっている。

 大小の岩と土砂が積み重なり、人間が通れるだけの空間はどこにも残っていない。

 地図を見る限り、目的の区画はこの先だ。

「スコップの出番ですね!」

「いや」

「え?」

 カイルは折りたたみスコップを取り出したものの、すぐには掘らなかった。

 照明を近づけ、崩落箇所を観察する。端の土砂を少しだけ除けてみたところで、すぐに手を止めた。

「……駄目だな」

「掘れませんか?」

「表面だけならな。でもこの量を二人でどうにかするのは無理だ。下手に岩を動かして二次崩落したらもっとまずい」

「せっかくスコップ持ってきたのに……」

「使わない判断をするためにも道具は必要なんだよ」

「サポート専攻、奥が深いですね……」

「別に専攻関係なく、潰されたくないだけだけどな」

 フィーネが残念そうに崩落箇所を見上げる。

「でも、ここまで分かったなら新しい情報にはなりますよね?」

「たぶんな。証言にある場所まではかなり絞れた。ただし落盤で進入不能、と」

「一・五倍……」

「三倍から下がったことを残念がるな」

 それでも、初めての探索としては十分な成果だろう。

 情報確度の低かった証言について、実際の坑道と内容が一致することを確認できた。さらに調査対象と思われる区画もかなり絞り込めた。

 お試し探索としては上出来だ。

 カイルもそう考え、引き返そうとした。

「あ」

 フィーネが崩落箇所を指差した。

「カイルさん。あそこ、少しだけ隙間がありますよ」

「ん?」

 言われて見ると、岩と岩の間に確かに空間が残っていた。

 人間が通ることなど到底できない。

 腕を差し込むことさえ難しそうな、小さな隙間。

「奥まで続いてるみたいですけど……これじゃ入れませんね」

「そうだな」

 フィーネは残念そうに地図へ視線を戻した。

 その横で、カイルは何気なく後方へ目を向ける。

 少し離れた岩陰。

 小さな顔が、ほんの一瞬だけ覗いた。

「…………」

 ここまで誰にも見つからずについてきたリスだった。

 カイルは崩落箇所を見る。

 人間には通れない隙間。

 リスを見る。

 隙間を見る。

 もう一度、リスを見る。

「…………」

「カイルさん?」

「いや、なんでもない」

 カイルは平静を装いながら、もう一度だけ隙間へ視線を向けた。

 ロスト武器探索のお試し。

 《洗脳の音楽・獣編》のお試し。

 さらに、どこまで命令に従えるのか確かめるためについてこさせただけのリス。

 全部、ただの実験だった。

 そのはずなのだが。

(……行けるな)

 どうやら、もう一つ試せることが増えたらしい。

残存勇者武器:99

確保?:1


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