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100人の勇者と勇者になれない俺  作者: AIの奴隷


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第7話 二股ではありません

第7話 二股ではありません

 昼休みを告げる鐘が鳴ると同時に教室を飛び出したカイルは、午前中ですっかり身についた逃走経路を使ってサポーター専攻の校舎を抜けた。

 正面の階段は使わない。あそこは待ち伏せされる。渡り廊下も見通しが良すぎるので避け、一度別棟へ入ってから中庭へ回り込む。それでも完全には逃げ切れなかったらしく、背後から聞き慣れた声が飛んできた。

「いたぞ! カイルだ!」

「もう見つかった!?」

「待ってくれ! リリアさんのパーティについて聞きたいだけだから!」

「だから俺に聞くな!」

 角を曲がって階段を駆け下り、そのまま別棟へ飛び込む。追っ手の足音が遠ざかるまで人混みに紛れ、ようやく安全を確認してから、カイルは大きく息を吐いた。

「……なんで昼休みになるたびにこんな苦労しなきゃならないんだ」

 昨日までなら考えられなかった人気ぶりである。

 もっとも、今はそんなことに構っている暇はない。中庭ではフィーネと待ち合わせをしているのだ。

 急いで向かうと、朝に別れた場所にはすでにフィーネが待っていた。カイルを見つけて嬉しそうに立ち上がったものの、その顔はすぐに心配そうなものへ変わる。

「あ、カイルさん。……どうしたんですか? すごく疲れてますけど」

「ちょっとクラスの連中に追い回されててな」

「追い回されてるんですか!?」

「ああ。昨日No.1《始まりの勇者》が目覚めただろ? これから勇者が増えるかもしれないってんで、勇者学科も従者学科も朝から大騒ぎなんだよ」

「それは私も聞きましたけど……どうしてカイルさんが?」

「リリアが俺の幼馴染なんだよ」

「…………え?」

 フィーネの動きが止まった。

「リリアって……昨日、No.1《始まりの勇者》に選ばれた?」

「そいつ。家が隣同士で、昔からの腐れ縁なんだ。それが知れ渡ってるせいで、パーティに入れてくれだの、紹介してくれだの、朝からずっと追い回されてる」

「カイルさん、No.1の勇者と幼馴染だったんですか!?」

「あれ、言ってなかったか?」

「聞いてませんよ!」

 フィーネは驚いたままカイルを見つめた。

 昨日目覚めたNo.1《始まりの勇者》。今や学園中の注目を集め、そのパーティに入りたい従者候補が殺到している勇者だ。

 その幼馴染が、カイル。

 それならカイル自身だって、No.1のパーティに入れる可能性は十分にあるはずだ。

「…………」

 そこでフィーネの脳裏に、今朝の言葉が蘇った。

『君がいいんだ、フィーネ・アルペジオ』

『どうか俺を、君のパーティに入れてくれないだろうか』

 自分はNo.27《ハープの勇者》。

 最高の音色を奏でられる。それをフィーネは誇りに思っている。

 けれど、戦う力はない。

 だから誰もパーティに入ってくれなかった。

 そんな自分のところへ、カイルは来た。

 No.1という、誰もが入りたがる勇者のすぐそばにいながら。

 他に選択肢がなかったからではない。仕方なく自分を選んだわけでもない。それでもカイルは、自分に向かって「君がいい」と言ってくれたのだ。

「…………えへへ」

「ん?」

「なんでもありません!」

「なんで急に嬉しそうなんだよ」

「嬉しそうじゃありません」

「いや、明らかに――」

「早く行きましょう! 昼休みが終わっちゃいますよ!」

「お、おう」

 先ほどまで心配そうにしていたフィーネは、なぜかすっかり上機嫌になって事務局へ向かい始めた。

 カイルには、その理由がさっぱり分からなかった。

     ◇

 勇者一人と従者五人。それが学園における正式な一パーティとなる。ただし最初から六人全員を揃える必要はなく、決まった従者から順次登録していくことができる。

 フィーネの場合、現在決まっている従者はカイル一人だけだ。

 受付で申請書を受け取ると、フィーネは自分の名前を書き、その下へカイルの名前を記入していく。最後にカイル自身が内容を確認して署名し、完成した書類を受付へ差し出した。

 職員は学生証と申請内容を照合してから、書類へ受理印を押した。

「No.27《ハープの勇者》フィーネ・アルペジオ。従者、カイル・エルデン。問題ありません。これで正式に登録されました」

「やった……!」

 フィーネが嬉しそうに両手を握る。

「ありがとうございます、カイルさん!」

「礼を言うのはこっちも同じだ。これからよろしくな」

「はい。よろしくお願いします!」

 これで目的の一つは達成した。

 マエストロの楽譜を演奏してもらえる可能性があり、本物の勇者武器を間近で研究できる。勇者パーティに所属したことで、ロスト武器の探索へ関わる機会も得られるかもしれない。

 そして何より、カイルにはもう一つ大きな安心材料ができた。

 自分は正式にNo.27の従者になったのだ。

 昨日、リリアからパーティ申請書を突きつけられた時には、一旦持ち帰って再検討すると言ってどうにか逃げたが、すでに別の勇者のパーティに所属しているとなれば話は別だ。

 これならリリアも諦めるだろう。

 少なくともカイルは、そう思っていた。

     ◇

 午後になっても、カイルを取り巻く状況は何一つ改善しなかった。

 休み時間になるたびに誰かが近寄ってきて、リリアのパーティについて聞いてくる。勇者学科の知り合いを売り込んでくる者もいれば、自分を直接紹介してほしいと頼み込んでくる者もいた。

「カイル! リリアさんのパーティ、もう誰か決まってるのか!?」

「知らん!」

「従者を募集する予定があるか聞いてくれるだけでいいから!」

「自分で聞け!」

「それができたらお前に頼んでねえよ!」

「知らねえよそんなこと!」

 授業が始まれば教師がいるので静かになるが、鐘が鳴ればまた誰かがやってくる。そんな調子で午後いっぱいを過ごし、最後の授業が終わる頃には、カイルはさっさと寮へ帰って休むことしか考えていなかった。

 ところが、教室を出ようとした教師が、ふと思い出したように振り返った。

「カイル・エルデン。事務局から呼び出しが来ているぞ。放課後に顔を出すようにとのことだ」

「俺ですか?」

「ああ」

 昼に出した申請に何か不備でもあったのだろうか。

 せっかくフィーネのパーティに入れたのに、今さら無効になったなどと言われては困る。少し不安になりながら事務局へ向かうと、職員はカイルの学生証を確認してから、机の上に二枚の書類を並べた。

「カイル・エルデン君だね。わざわざ呼び出してすまない。少し確認したいことがあってね」

「はい。昼に出した申請のことですか?」

「それも含まれている。今日、君を従者として登録するパーティ申請が二件提出されているんだ」

「……二件?」

 聞き間違いかと思った。

「一件は、昼に君自身も確認したNo.27《ハープの勇者》フィーネ・アルペジオ。こちらは間違いないね?」

「はい」

「もう一件が、No.1《始まりの勇者》リリアのパーティだ」

「…………はい?」

 カイルは職員の顔を見たまま固まった。

「すみません。今、なんと?」

「No.1《始まりの勇者》リリア。こちらの申請にも、従者として君の名前が記載されている」

「ちょっと待ってください」

 昨日の記憶が一気に蘇った。

『私、勇者になったから』

 そう言ってリリアが渡してきた紙。

『パーティ申請書。書いておいたからサインして』

 当然拒否した。

 いや、正確には一旦持ち帰って再検討させていただきたいなどと適当なことを言って逃げた。

 それなのに。

「あいつ……出しやがった……」

「何か?」

「いえ。こっちの話です」

「最初は同姓同名かと思ったんだが、学生番号も同じだった。それぞれ別に処理された申請だったから、両方ともそのまま受理されてね。後から登録情報を確認したところ、同じ学生が二つの勇者パーティに所属していることが分かった。それで念のため本人にも確認しておこうということになったんだ」

「いや、でも俺、もうフィーネのパーティに入ってますよね?」

「ああ。正式に登録されている」

「だったらNo.1の方は――」

 そこまで言って、カイルは職員の顔を見た。

 困っていない。

 むしろ、なぜそれが問題になるのか分からないという顔をしている。

「私たちも初めて見る事例だったから規則を確認したんだが、従者が複数の勇者パーティに所属してはいけないという規定はなかったよ」

「……ないんですか?」

「ないね。勇者が二つの正式パーティを持つわけでもなければ、一つのパーティに勇者が二人いるわけでもない。君がそれぞれのパーティで従者として登録されているだけだ。だから両方とも問題なく受理されている」

 そんな馬鹿な、と思ったが、考えてみれば兼任を禁止する必要が今までなかったのだ。

 平常時の勇者は二十人前後。学園に在籍している間に勇者武器から選ばれる学生となれば、さらに少ない。二人の勇者から同時に誘われ、どちらにも所属するなどという状況そのものが滅多に起こらない。

 逆にNo.1が目覚めた今のような非常時には、これから勇者が増えていく。従者側にも選択肢が増えるのだから、気に入った勇者を一人選べばいい。わざわざ複数のパーティを掛け持ちする必要などない。

 誰もやらない。

 だから禁止されてもいなかった。

 そして今日、その誰もやらなかったことを、本人の知らないところでカイルが達成してしまった。

「本人で間違いないことは確認できたし、こちらとしてはそれで構わないよ。二人の勇者から同時に指名されるなんて、むしろ名誉なことじゃないか」

「…………」

 No.1の方は取り消してください。

 そう言おうとして、カイルは口を閉じた。

 勇者二人から従者として求められた。普通の学生なら喜ぶところだ。まして片方は、魔王や使徒が出現した時に目覚めるNo.1《始まりの勇者》。

 そのパーティだけを必死になって拒絶したら、どう見える。

 なぜNo.1だけ嫌なのか。

 何か後ろめたい理由でもあるのか。

 そう聞かれたら終わる。

 ――そのNo.1が討伐するべき魔王と使徒、両方とも俺なんです。

 そんなことを言えるはずがない。

「何か問題でも?」

「……いえ」

 カイルはどうにか笑顔を作った。

「光栄です」

「そうだろう。それに、なかなか上手く立ち回ったじゃないか」

「……はい?」

「No.1のパーティともなれば、これから希望者が殺到するだろう。リリア君と幼馴染だとしても、五人しかない従者の席に必ず入れる保証まではない。その一方で、まだ従者が集まっていなかったNo.27にも声をかけていた。そして結果的に、両方から選ばれて二つの席を確保したわけだ」

「…………」

 綺麗に全部間違っている。

 実際にはNo.1から逃げるために、No.27へ自分から飛び込んだのだ。

「まあ、No.27《ハープ》には直接的な戦闘能力がない。これからロスト武器の探索や魔王、使徒の討伐が本格化しても、フィーネ君のパーティが前線に出る機会はそう多くないだろう」

「……そうですね」

 だから選んだんです。

 もちろん口には出せない。

「フィーネ君も卒業するには六人パーティを完成させなければならない。君がNo.1のパーティに入れたからといって、わざわざNo.27から抜ける必要もないだろう。名前だけでも残しておけば、彼女の助けになる」

「…………」

「いずれNo.1の活動が本格化すれば、自然とそちらが中心になるだろうしね」

 逆だ。

 カイルとしてはNo.27を中心にして、できることなら一生No.1とは距離を取っていたい。

 しかし、ここまで好意的に解釈されている状況で訂正するには、本当の目的を説明しなければならなくなる。結局、カイルは曖昧な笑みを浮かべて頷くしかなかった。

「カイル」

 その時、背後から聞き慣れた声がした。

 振り返ると、事務局の入口にリリアが立っていた。

「……リリア」

「話、終わった?」

「その前にお前、俺を勝手にパーティに入れただろ」

「勝手じゃないよ」

「俺、一旦持ち帰って再検討するって言ったよな?」

「うん」

「なんで提出した?」

「だって、断られてないから」

「…………」

 確かに明確な拒絶はしていない。

 だからといって了承した覚えもない。

「まあまあ。結果として規則上の問題はないんだ」

 職員が苦笑しながら二人の間に入った。

「それにカイル君がNo.27にも籍を残すなら、フィーネ君にとってもありがたいことだろう。せっかく二人の勇者から必要とされているんだ。無理にどちらかを選ぶ必要もないさ」

「……はい」

 今ここで騒ぐのは得策ではない。

 No.1のパーティから抜ける方法は、後で考えればいい。

 事務局を出ると、リリアは当然のようにカイルの隣を歩き始めた。

「でも、フィーネさんのパーティも辞めないんだね」

「まあ……兼任できるらしいからな」

「カイルは人が良すぎるよ」

「は?」

「だって、私のパーティに入れたんだから、もうフィーネさんの方に入っておく必要はないでしょ?」

「いや――」

「でもフィーネさん、パーティメンバーが集まらなくて困ってたんでしょ? 卒業するには六人揃えなきゃいけないから、カイルは名前を貸してあげるんだ」

「…………」

 ちがーう。

 逆だ。

 フィーネこそ自分から頼み込んで入れてもらった本命であり、お前のパーティこそ今初めて所属していると知ったのだ。

 だが、リリアはカイルの沈黙を肯定と受け取ったらしい。

「やっぱりカイルは人が良すぎるよ」

「……そういうことにしといてくれ」

「うん。でも私は最初から心配してなかったよ」

「何を?」

 リリアは不思議そうに首を傾げた。

「カイルが私を裏切ることなんてないもんね」

「…………」

 その言葉に、カイルは返事を失った。

 リリアは本気でそう思っている。

 昔から何をするにもカイルを巻き込み、カイルがその後始末をする。それを繰り返してきた彼女にとって、勇者になったから自分のパーティにカイルを入れるというのも、その延長でしかないのだろう。

 何の疑いもない目を向けられて、カイルは引きつった笑みを返した。

「……そうだな」

 だが、心の中では別のことを考えていた。

 絶対に抜ける。

 このままNo.1のパーティに所属し続けるなど冗談ではない。もし自分の正体が露見すれば、魔王と使徒を討伐するために目覚めた勇者のパーティ内部に、その討伐対象本人がいるという最悪の状況になる。

 できるだけ早く、そして妙な疑いを持たれない形でNo.1のパーティから抜けなければならない。

 それからもう一つ。

 この件はフィーネには黙っておこう。

 昼休み、フィーネはカイルがNo.1の幼馴染だと知ったうえで、自分とのパーティ申請をあれほど喜んでいた。その数時間後に「実はNo.1のパーティにも入っていました」などと伝えて、わざわざ話をややこしくする必要はない。

 どうせ抜けるのだ。

 抜けてしまえば、何もなかったのと同じである。

 そう。

 何も問題はない。

 カイルはそう自分に言い聞かせながら、隣を歩くリリアをちらりと見た。

 まずは、こいつにどうやって納得してもらうか。

 そこから考える必要がありそうだっ


残存勇者武器:99

確保?:1

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