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100人の勇者と勇者になれない俺  作者: AIの奴隷


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第19話 聖剣の勇者

第19話

朝、教室へ入った瞬間、カイルはいつもと違う騒がしさに気づいた。

普段から賑やかな教室ではあるが、今日は明らかに話題が一つに集中している。席に着かず友人同士で集まっている者もいれば、誰かが持ってきた新聞を数人で覗き込み、その内容を聞いた生徒が別の輪へ話を持っていく。

最近、似たような光景を何度か見た気がした。

カイルは鞄を自分の席へ置き、近くにいたクラスメイトへ声をかける。

「なんだ。また勇者が覚醒したのか?」

「何言ってるんだ、カイル。勇者なら昨日までに四人覚醒してるぞ。もう慣れた」

「…………四人?」

思わず聞き返すと、今度は向こうが驚いた顔をした。

「そこからかよ。お前、最近どこで何してたんだ?」

「ちょっと忙しくてな」

フィーネに楽器を習い、《洗脳の音楽・魔物編》を練習し、ネズミを捕まえ、兎を捕まえ、猪を捕まえ、それらを魔王軍団一期生に任命したあと、本命だったハインドウルフまで捕まえていた。

振り返ってみれば、確かに忙しい。

もちろん、そのどれ一つとして説明できることではなかった。

「No.16《鐘の勇者》とNo.24《門の勇者》。この二つは学園にあった奴だ。それからNo.26《鍵の勇者》とNo.32《沈黙の勇者》。こっちはロストだったらしい」

「ロストが二つも?」

カイルの興味がそちらへ向いた。ロスト勇者武器は、今まさに自分が探しているものでもある。

「どこで見つかったんだ?」

「No.26は、見つかったって言っていいのか分からないけどな。どこかの家で何代も家宝として保管されてたらしいぞ。何に使うのかも分からない古い鍵を、ずっと先祖代々受け継いでたんだと。それが家の人間を選んで覚醒したらしい」

「そんなことあるのか」

「No.32なんてもっとすごいぞ。フリーマーケット」

「は?」

「ガラクタに混じって売られてたんだってさ。そこで適合者と出会って覚醒」

カイルは思わず考え込んだ。

ロスト武器と聞いて、これまでは遺跡や廃坑、魔物の生息地といった場所ばかりを想像していた。だが、ロストとは学園が所在を把握していないというだけだ。

何百年も前に誰かが拾い、そのまま家宝になっているかもしれない。価値の分からない者の手を転々とし、古道具やガラクタとして扱われているものだってある。

勇者武器が適合者を選ぶには、その相手が近くにいなければならない。ならば人間社会に紛れ込んでいるロスト武器が、今になって適合者と出会い、突然覚醒することもあるということだ。

「なるほどな……」

今後の探し方は、少し考え直した方がいいかもしれない。

そこでカイルは、ふと周囲を見回した。

「でも、その四人は昨日までの話なんだろ?」

「ああ」

「じゃあ、今日はなんでこんな騒いでるんだ?」

尋ねると、クラスメイトは待ってましたとばかりに身を乗り出した。

「今回は一桁が覚醒したんだよ」

「……一桁?」

「ああ。今朝、正式に発表された。No.3だ」

一桁ナンバー。

百ある勇者武器の中でも、特別視されている番号だ。No.1《始まりの勇者》に続き、ついに別の一桁ナンバーまで適合者を選んだらしい。

「No.3って……《聖剣の勇者》か」

「そう、それ」

カイルは自分の席へ座った。

よりによって聖剣。

自分が魔王でなければ、素直に「すごい奴が目覚めたな」で済んだ話である。

だが現実には、自分は魔王だ。

昨日など、十二匹の魔物を集めて自ら魔王軍団一期生と名付けたばかりだった。

その翌日に聖剣の勇者が目覚めた。

「……タイミング悪くない?」

「何が?」

「こっちの話だ」

カイルは頬杖をつき、何気なく周囲へ目を向けた。

聞こえてくる話題は、No.3の覚醒だけではないようだった。

「でも、変だよな」

近くの集団から聞こえてきた声に、別の生徒が反応する。

「何が?」

「魔王か使徒だよ。No.1が覚醒してから結構経ってるのに、まだ何の活動も確認されてないんだろ?」

「ああ。どこにいるのかすら分かってないらしいな」

「世界のどこかには確実にいるのに?」

「だから気味悪いんだろ」

リリアがNo.1に選ばれた以上、魔王か使徒がこの世界に現れていることは間違いない。それなのに、その正体も居場所も分からず、何をしているのかすら掴めていない。

「何してるんだろうな」

「まだ準備してるんじゃないか?」

「準備?」

「正体を隠して、誰にも気づかれないところで力を蓄えてるとかさ」

その言葉を聞いたカイルは、なんとなく視線を逸らした。

正体は隠している。

人知れず自分に与えられた力を調べ、勇者武器を破壊する方法を探し、そのための準備も進めている。

……否定しづらかった。

「……朝から嫌な話聞いたな」

誰にも聞こえない程度に呟き、カイルは机へ突っ伏した。

少なくとも世界中で捜索されている当人が、今日も普通に勇者学園へ登校しているとは誰も思っていないらしい。

◇ ◇ ◇

昼休み。

カイルが弁当を広げようとしていると、教室の入口からリリアが入ってきた。

いつもならカイルを見つけた瞬間に名前を呼び、そのまま一直線にやってくる。ところが今日は妙に大人しい。カイルの席まで来ても何かを言い出すわけでもなく、机の前に立ったままこちらを見ている。

「……カイル」

「なんだよ」

「今日、No.3の勇者とちゃんと顔合わせすることになった」

「へえ。今朝覚醒したって騒いでた奴か」

「うん……」

それだけ言って、リリアは俯いた。

カイルは弁当を開けかけた手を止める。明らかにおかしい。

「……どうした?」

「一緒に来て」

顔を上げたリリアは、半分泣きそうだった。

「なんでそんな顔してんだよ」

「あの人、苦手……」

「お前にも苦手な人間いたんだな」

「いるよ!」

そこだけはいつもの勢いで返ってきた。

話を聞けば、リリアは昨日、覚醒したばかりのNo.3と一度だけ顔を合わせているらしい。

「会った瞬間に手を握られて、『君がNo.1の勇者か! 素晴らしい! 俺と共に世界を守ろう!』って」

「……うん」

「そのあと、『君のような女性に出会えたのは運命かもしれない!』って!」

「……うん」

「それからずっとグイグイ来るの!」

カイルはしばらくリリアを見つめた。

言うべきか迷った。

だが、これは言っておかなければならない気がする。

「お前がそれ言う?」

「なんで!?」

「俺のパーティ申請書を勝手に書いて、勝手に提出した奴が他人の距離感に文句言うなよ」

「あれはカイルだからいいの!」

「もっと駄目だろ」

普段なら、この辺りで一人で行けと追い返すところだった。

だが、今日はどうやら本気で困っているらしい。あのリリアが半泣きになって自分を頼ってきているのだから、相当なのだろう。

カイルは小さく息を吐いた。

「……分かったよ。一緒に行けばいいんだろ」

「ほんと!?」

一瞬でリリアの顔が明るくなった。

「ただし俺を盾にするなよ」

「分かった!」

「今の間はなんだ」

「なんでもない!」

ものすごく不安だった。

◇ ◇ ◇

放課後。

カイルはリリアと共に、学園内の応接室へ向かっていた。

一桁ナンバー同士、今後協力することもあるだろうということで、まずはNo.1とNo.3を顔合わせさせることになったらしい。

本来ならカイルがついてくる必要はない。

だが、横を歩くリリアは先ほどから妙にカイルとの距離が近かった。

「なあ」

「なに?」

「そんなに嫌なら、本人に言えばいいだろ。もう少し離れてくれって」

「言えるなら言ってるよ」

「お前、そういうの普通に言うタイプだろ」

「言おうとしたよ! でも私が何か言う前に次の話が始まるの!」

「……なるほど」

相手の姿が少し見えてきた気がした。

やがて目的の応接室へ到着する。

リリアが扉へ手をかけたところで、カイルは服の裾を引っ張られた。

「おい」

「なに?」

「掴むな」

「念のため」

「何の念だよ。あと昼に俺を盾にするなって言ったよな?」

「まだ盾にしてないよ」

「『まだ』って言ったな?」

返事はなかった。

嫌な予感を覚えながら、カイルはリリアと共に部屋へ入った。

「リリア!」

扉が開いた瞬間、大きな声が飛んできた。

中にいた青年が勢いよく立ち上がる。

背が高く、鍛えられてはいるものの大柄すぎない均整の取れた体格。明るい金髪は短く整えられ、澄んだ青い瞳が真っ直ぐリリアへ向けられている。

顔立ちも文句なしに整っていた。

胸を張った立ち姿まで含めれば、絵物語に描かれる勇者をそのまま現実へ連れてきたような青年だった。

「待っていたぞ! 今日また君と話せるのを楽しみにしていた!」

「う、うん……」

リリアが一歩下がった。

カイルは思わず横を見る。

珍しい。

あのリリアが押されている。

青年はそんな反応を気にした様子もなく、満面の笑みで真っ直ぐこちらへ歩いてきた。

「昨日は突然だったからな! だが今日は違う! No.1とNo.3、共に世界を守る勇者として、今日はじっくり語り合おう!」

「ち、近いって……」

リリアが下がる。

青年が進む。

リリアがもう一歩下がる。

そして、そのままカイルの背後へ隠れた。

「おい」

小声で抗議すると、背中側からさらに服を掴まれた。

「お願い」

「何をだよ」

「ちょっとだけ」

「だから何をだよ」

そこで青年も、ようやくカイルの存在に意識を向けた。

「む?」

澄んだ青い瞳と目が合う。

今朝、学園中を騒がせていたNo.3《聖剣の勇者》。

その本人が目の前にいる。

青年はカイルをじっと見た。次の瞬間、その目が大きく見開かれる。

「まさか――君がカイルか!」

「……そうだけど」

「やはりそうか!」

なぜか一気に表情が輝いた。

青年は迷うことなくカイルへ向かってくる。

「リリアから話は聞いている! 幼い頃から彼女を支えてきた幼馴染で、今は彼女の従者なのだろう!」

「まあ……間違ってはいないけど」

「ならば俺にとっても友だ!」

「待て。途中の理屈を説明しろ」

「必要か?」

「必要だよ」

青年は少し考えた。

本当に少しだけだった。

「リリアの大切な友人! 俺はリリアが好きだ! ならば君も俺の大切な友人だ!」

「全然分からん」

「そうか!」

分かっていないのに、青年は爽やかに笑った。

どうやら一度そうだと決めたら、その先で立ち止まって考えるという発想があまりないらしい。

そして青年は、カイルへ勢いよく右手を差し出した。

「改めて名乗ろう! 俺はレオン・アルヴェイン! No.3《聖剣の勇者》に選ばれた!」

「カイル・エルデンだ」

差し出された手を握ると、レオンは満足そうに大きく頷いた。

「カイル! これからよろしく頼む!」

「お、おう」

初対面から名前を呼び捨てにされた。

どうやらレオンの中では、先ほどの理屈によって本当に友人になったらしい。

「それでリリア!」

「ひゃい!」

背後から変な声がした。

レオンはまったく気にせず話を続ける。

「君に提案がある!」

「な、なに?」

「合同遠征をしよう!」

「合同遠征?」

リリアだけでなく、カイルもレオンを見る。

「そうだ! 魔王か使徒が見つかれば、俺たち勇者は力を合わせて戦うことになる! その時になって初めて顔を合わせ、初めて一緒に戦うようでは遅いだろう!」

レオンは熱を帯びたまま言葉を続ける。

「だから今のうちに一度、実戦形式で連携を試しておくんだ! ロスト武器の探索が目的じゃない。あくまで俺たちが共に戦うための練習だ!」

カイルは少し意外に思った。

勢いだけで喋っているように見えるが、提案そのものは理にかなっている。

実際に魔王か使徒の討伐となれば、一つの勇者パーティだけで戦うとは限らない。複数の勇者が勇者連合として動くことになる。

ならば事前に共闘を経験しておくことには意味がある。

「要するに、勇者連合の小規模な予行練習ってことか?」

「そうだ!」

レオンが力強く頷いた。

「No.1とNo.3。それぞれのパーティで――」

そこで、レオンが止まった。

「…………」

「どうした?」

腕を組み、何やら考えている。

カイルはその顔を見て、なぜか嫌な予感がした。

「いや、待て」

「何をだよ」

「小規模である必要があるのか?」

「……お前、今から話を大きくしようとしてないか?」

レオンの顔が見る見るうちに明るくなっていく。

「そうだ! 二人だけで練習してどうする!」

「さっきまでお前が言ってたんだぞ」

「実際に魔王か使徒と戦う時は、他の勇者たちもいる! ならば今から全員で合わせておくべきだ!」

「全員?」

カイルが聞き返した。

レオンは大きく頷き、拳を握った。

「今、覚醒している勇者を全員集めよう!」

「でかくなったな!?」

つい数秒前までNo.1とNo.3による合同遠征だったはずである。

それが突然、全勇者を巻き込む話になった。

「今は何人いるんだ?」

リリアがカイルの背後から顔を出した。

カイルは今朝聞いた新たな覚醒者を頭の中で加えていく。

これまで公に覚醒していた勇者たちにリリアのNo.1。そして新たに覚醒したNo.16、No.24、No.26、No.32、さらに今日発表されたNo.3。

「……二十六人」

「二十六人!」

レオンの声がさらに大きくなった。

「素晴らしい! ならば二十六人全員だ!」

「まだ会すると決まってない」

「全員の従者も連れていこう!」

「さらに増やすな!」

「勇者連合なら従者も共に戦うだろう!」

それは正しい。

正しいのが腹立たしい。

勇者一人につき最大五人の従者。全員が五人を揃えているわけではないだろうが、それでも二十六人の勇者がそれぞれのパーティを連れてくれば相当な人数になる。

「待て待て。そんな規模、俺たちだけで決められるわけないだろ。場所はどうする。日程は? 教師も必要になるだろうし、学園の許可だって――」

「ならば学園に提案しよう!」

「だから決定してから許可を取りに行こうとするな!」

「だが、良い案だろう?」

「…………」

カイルは言葉に詰まった。

腹立たしいことに、案そのものは悪くない。

むしろ魔王か使徒の存在が確定している今、学園側からしても勇者同士の大規模な連携訓練には十分な意味があるはずだ。

レオンはカイルの沈黙を肯定と受け取ったらしい。

「よし! 決まりだ!」

「決まってない!」

「まずは先生に相談してくる!」

「今から!?」

「善は急げだ!」

レオンが扉へ向かって歩き出す。

速い。

決断から行動までに迷いというものが存在しない。

「待て、レオン!」

カイルが慌てて呼び止めると、レオンは扉の前で振り返った。

「なんだ?」

「せめて俺たちも一緒に行く。お前一人で話を始めたら、どこまで大きくなるか分からん」

「なるほど! それは助かる!」

「褒めてないからな」

今度こそ扉を開けたレオンを、カイルが追う。

その背中を見ながら、リリアが小さく呟いた。

「……だから苦手って言ったでしょ」

「今すごく分かったよ」

一度進む方向を決めたら、迷わない。

止まらない。

曲がらない。

No.3《聖剣の勇者》レオン・アルヴェイン。

聖剣の勇者は、その名に負けないくらい真っ直ぐな男だった。




残存勇者武器:98

確保?:1

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