第16話 神様は焦らない
第16話 神様は焦らない
《洗脳の音楽・魔物編》を、ようやく一曲通して演奏できるようになった。
次にやることも決まっている。まずは弱い魔物を一匹だけ捕らえ、逃げられない状態を作ったうえで《魔物編》を聞かせる。それで《獣編》と同じように命令が通るなら、少しずつ使える魔物を増やしていけばいい。
覚醒済みの勇者武器を壊す方法は、まだ見えていない。
だが、手札は増やせる。
そんなことを考えながら眠りについた――はずだった。
「おめでとう!」
「…………」
目を開けた瞬間、ぱちぱちぱち、と拍手が聞こえた。
赤、青、黄、緑。何色使えば気が済むのか分からないツギハギだらけの服。その隣には、対照的に上から下まで真っ白な神。
見間違えるはずもない。
混沌の神と秩序の神だ。
「……帰っていい?」
「なんで!?」
混沌の神が大袈裟に両手を広げた。
「せっかくお祝いしてるのに!」
「お前らに呼ばれていい思いした記憶がない」
「話くらい聞け」
「前にも同じこと言われた気がする」
秩序の神は相変わらず皺一つない白い服で、相変わらず面白みのない顔をしている。
カレーうどんは、今日も食べられそうになかった。
「それで、何のお祝いだよ」
「一個目!」
混沌の神が人差し指を一本立てる。
「勇者武器、破壊成功! おめでとー!」
「……No.63か」
「そうだ」
秩序の神が頷いた。
「我々からお前に勇者武器の破壊を命じて以降、初めての成果だ」
「一個壊すだけで大変だったけどな」
「でも壊れた!」
「未覚醒だったからな。問題は次だよ」
No.63《杭の勇者》は、まだ勇者を選んでいなかった。だから誰にも呼び戻されることなく、俺は何時間もかけて叩き壊すことができた。
次に狙うのは覚醒済み。
同じ方法は使えない。
「《不滅の使徒ガイア》も、ちゃんと動いた」
秩序の神が言った。
「ちゃんと死んだよ」
「そして蘇生した」
「その前半を軽く扱うなよ」
「でも生き返ったでしょ?」
混沌の神が俺の周りをぐるりと回り、正面から顔を覗き込んできた。
「どうだった? 初めて死んだ感想!」
「二度とやりたくない」
「えー」
「なんで残念そうなんだよ!」
「せっかく何度でもできるのに」
「遊園地の乗り物みたいに言うな!」
こいつにガイアを渡されなくて本当によかったと思う。
「《マエストロ》も順調みたいだね!」
「まあな」
「動物をこっそり操って勇者武器を取ってこさせて、今度は《ハープの勇者》に笛を教えてもらって魔物を操ろうとしてる!」
「言い方!」
「しかも《始まりの勇者》のパーティにも入ってる!」
「それは俺の意思じゃない!」
「遠征まで行った!」
「行くことになったんだよ!」
「そこで《始まりの勇者》を助けようとして死んだ!」
「お前、楽しんでるだろ!」
「うん!」
「否定しろ!」
混沌の神がけらけらと笑う。
秩序の神は横で黙っているが、止める気はないらしい。
「勇者武器を壊せと送り出したはずなのだがな」
「俺だってそのつもりだよ!」
「なのに勇者二人と仲良くなってる!」
「フィーネは必要があってだ! リリアは昔からだ!」
「やったね!」
「何が!?」
駄目だ。
こいつと話していると話が進まない。
「まあいい」
秩序の神がようやく混沌の神を遮った。
「多少想定外のことは起きているが、一つ目の勇者武器を破壊したことに変わりはない。《ガイア》と《マエストロ》も問題なく機能している。このまま続けてくれ」
「……やっぱり軽くない?」
「何がだ?」
「残り九十九個だぞ」
「知っている」
「壊せたのは未覚醒の一本だけ。覚醒済みの勇者武器なんて、まだ壊し方すら分かってない」
「だから今、魔物を使おうとしてるんでしょ?」
「そこまで知ってるなら話が早いけどさ」
二柱とも、どうにも余裕がありすぎる。
俺が百個の勇者武器を壊せなければ、異常な自己進化は止まらない。この世界が自ら生み出した力に耐えられなくなれば、その先にあるのは自滅だ。
その話をした本人たちが、なぜこんなにのんびりしている。
「もっと必死になれよ」
「なぜだ?」
「なぜって、俺が失敗したら世界が終わるんだろ?」
「終わる前には止める」
「どうやって?」
秩序の神が答えるより先に、混沌の神が片手を高く上げた。
「リセットボタン、ぽちー!」
「…………は?」
その指が、何もない空中を押した。
「こう! ぽちっ!」
「何を押した!?」
「ないよ?」
「ないのかよ!」
「例えだ」
秩序の神が補足した。
「お前による勇者武器の破壊が失敗し、今の世界が正常な進化へ戻れないと判断した場合、この世界を終わらせる。そして最初から作り直す」
「…………」
ちょっと待て。
「世界を?」
「そうだ」
「この世界を?」
「そうだ」
「リリアとかフィーネとか、みんないる?」
「今の世界に生きる者は、今の世界と共に終わる」
「軽く言うなよ!」
「軽くない」
秩序の神は即座に否定した。
その声はいつも通り淡々としていたが、言葉には迷いがなかった。
「我々とて、この世界には愛着がある。長く見てきた世界だ。可能であるならば、このまま残したい」
「私も好きだよ!」
混沌の神が勢いよく手を挙げる。
「毎回何するか分かんないし! 予想外のこといっぱいするし! 勇者の始祖なんて出てきた時は本当に――」
「話を逸らすな」
「はーい」
怒られた。
本当に仲が悪いのか、こいつら。
「今の世界を残したいからこそ、お前を選んだ」
秩序の神は続けた。
「我々がこの世界を見限っているのなら、最初からお前に勇者武器の破壊など命じていない」
「じゃあ失敗したら?」
「残念だが諦める」
「切り替え早っ!」
「救えないものへ固執して、さらに状況を悪化させる意味はない」
「そうそう!」
混沌の神が笑顔で再び指を伸ばした。
「ダメでした! 残念! じゃあ次いってみよー! ぽちー!」
「お前が言うと本当に愛着あるのか不安になるんだよ!」
「あるってば!」
「ならもうちょっと悲しめ!」
「その時になったら悲しむよ?」
「悲しんだ後は?」
「ぽちー!」
「スパッと切るなぁ!」
どうやら、今の世界がどうでもいいわけではない。
むしろ残したいから、わざわざ俺なんかを選んで勇者武器を壊させている。
ただし、救えないと判断した瞬間には切る。
愛着と損切りが同時に成立している。
神の感覚が分からない。
「……でもさ」
俺は少し考えた。
「そこまでできるなら、俺が勇者武器を全部壊すまで魔王と使徒を送るのやめればいいんじゃないか?」
「ダメ!」
今度は混沌の神が即答した。
「もっとひどくなるよ!」
「何が?」
「人間!」
随分ざっくりした答えだった。
俺が秩序の神を見ると、こちらは小さく頷いた。
「魔王と使徒という共通の脅威がなくなれば、勇者武器の矛先は人間へ向く」
「……戦争か」
「それだけではない」
秩序の神が説明を続けようとしたところで、混沌の神が横から飛び出してきた。
「勇者がいる! 強い! じゃあ勇者を倒す兵器を作ろう!」
「おい」
「できた! じゃあ今度はその兵器を防ぐものを作ろう! それもできた! じゃあそれを破る兵器! その次はもっと強い勇者! 勇者武器を真似しよう! 人間そのものを強くしよう! 魔物も使っちゃえ!」
「楽しそうに説明するな!」
「だって途中までは面白かったんだもん!」
「途中までは!?」
「新しいものが次から次へ生まれるんだよ? すごいよ! 面白いよ! 混沌だよ!」
両手を広げ、満面の笑み。
さすが混沌の神。
駄目だこいつ。
「だが、限度を超えた」
秩序の神の一言で、混沌の神の動きが止まった。
「そうなんだよねぇ」
珍しく、少しだけつまらなそうな顔をする。
「壊して、そこから新しいものが生まれるならいいんだよ。でもあれは違う。次を作る前にもっと強いもの、もっと強いものって、どんどん速くなって――最後は全部まとめて壊れちゃう」
「お前にも駄目判定あるんだな」
「失礼だなぁ! 何でも壊れればいいわけじゃないよ!」
「魔王に国も常識も価値観も壊させてる奴が言う?」
「それは壊した後に新しいものが生まれるからいいの!」
そこは譲れないらしい。
「勇者武器が存在する限り、魔王と使徒を送らなくても異常な自己進化は止まらない」
秩序の神が話を戻した。
「むしろ人同士の競争へ力が集中し、現在より自滅は早まる」
「だから、結局は勇者武器そのものをなくすしかない?」
「そうだ」
「百個全部」
「そうだ」
「俺が」
「そうだ」
「やったね!」
「嬉しくねぇよ!」
初めて会った時と何も変わっていない。
俺の都合だけが完全に置き去りである。
「……そういえば」
そこで一つ、引っ掛かった。
「勇者武器が出てきた時、お前らどうしてたんだ?」
勇者武器を作ったのは勇者の始祖。
それは知っている。
だが、よく考えれば異常な話だ。
魔王も使徒も、それより遥か昔から存在していた。人類はそれらを倒すことなどできず、ただ災厄に翻弄されながら、自然に死ぬまで耐えるしかなかった。
そこへ突然、魔王と使徒を倒せる百の武器が現れた。
「私!」
秩序の神が答える前に、混沌の神が秩序の神を指差した。
「あの時はこいつ!」
「指を差すな」
「使徒を送り込んだの!」
「そうなのか?」
「ああ」
秩序の神が頷いた。
「当時、世界は進化が行き過ぎ始めていた。ゆえに使徒を一体送り込んだ」
「いつも通り?」
「いつも通りだ」
「人類からしたらたまったもんじゃないな」
「それが使徒の役割だ」
そして秩序の神は、使徒を世界へ送り込んだ。
それまでなら、そこから長い時間をかけて文明が削られていく。人類は使徒に翻弄されながら生き延び、使徒が寿命を迎えれば、残された者たちが再び世界を積み上げ始める。
「だが、次に確認した時には死んでいた」
「使徒が?」
「そうだ」
「どれくらいで?」
「我々の感覚では、送り込んだと思ったら死んでいた」
「分かりにくい!」
「とにかく早かったの!」
混沌の神が両手を叩く。
「今までそんなこと一回もなかったから、『え!? もう死んだの!?』って!」
「お前も見に行ったのか?」
「行った行った! 面白そうだったから!」
「理由が混沌すぎる」
「それで二人で調べたらね――」
混沌の神が両手の指を全部広げる。
「なんか知らない武器が、百個も増えてた!」
「指十本しかないぞ」
「気持ち!」
「知らねぇよ」
「勇者武器だ」
秩序の神が補足する。
「勇者の始祖と呼ばれる者が作り、人間へ与えた百の武器。それによって、人類は初めて我々の使徒を討伐した」
「それから魔王もね!」
混沌の神が今度は自分を指差した。
「私も送ったの! 今まで通り、世界が固まり始めたところで、よーし壊してこーいって!」
「雑だな」
「そしたら倒された!」
「嬉しそうに言うな」
「初めてだったからね!」
「お前、自分の魔王が倒されてるんだぞ?」
「びっくりしたよ!」
「悲しめよ!」
しかし――。
俺は笑っている混沌の神を見ながら、別のところに引っ掛かっていた。
勇者の始祖。
百の勇者武器を作った存在。
歴史上の人物として知っていたから、今まで深く考えたことがなかった。
だが、神側から見ればどうなる?
人類が魔王と使徒に翻弄されるしかなかった世界に、ある日突然現れた。
そして、神が送り込む存在を討伐できる武器を百個も作った。
「……と言うか」
「ん?」
「勇者の始祖、何者だよ」
混沌の神が笑顔のまま首を傾げた。
「さあ?」
「…………」
俺は秩序の神を見る。
「分からん」
「…………」
「我々も知らない」
「お前ら神だよな!?」
「そうだ」
「この世界を作ったんだよな!?」
「そうだよ!」
「魔王と使徒もお前らが送り込んでるんだよな!?」
「そうだ」
「そのお前らが知らない奴がいきなり出てきて、魔王と使徒を倒せる武器を百個作ったの!?」
「うん!」
「怖っ!」
「面白いよね!」
「お前はそうだろうな!」
混沌の神にとっては最高の予想外だったらしい。
「どこから来た?」
「知らなーい」
「何者なんだ?」
「知らなーい」
「なんで勇者武器を作った?」
「知らなーい」
「今どこにいる?」
「それも知らなーい!」
「何なら知ってるんだよ!」
「勇者武器を百個作った!」
「それは俺も知ってる!」
頭が痛くなってきた。
俺は助けを求めるように秩序の神を見る。
「残念ながら、今の説明でほぼ全てだ」
「お前まで!?」
「我々は世界を作ったが、世界で起きる全てを常時把握しているわけではない。勇者の始祖について我々が認識したのも、最初の使徒が討伐された後だ」
「じゃあ本当に、気づいたらいた?」
「そうなる」
「気づいたら百個あった!」
「お前は黙ってろ!」
「ひどい!」
神ですら正体を知らない。
そう考えると、勇者の始祖という存在が急に不気味に思えてきた。
「……最初から勇者武器を壊そうとは思わなかったのか?」
「その時点ではな」
秩序の神が答える。
「人類が我々の想定を超えた可能性も考えた。想定外であるという理由だけで、即座に排除するべきではない」
「私は面白かったから見てた!」
「お前は一貫してるな」
「でしょ?」
「褒めてない」
だが、その結果は俺も知っている。
勇者武器は使徒を倒した。
魔王を倒した。
神々はそれに対抗するため、より強い使徒と魔王を送り込むようになった。
勇者武器も、それを倒すためにさらに強くなる。
その繰り返しが世界全体を巻き込み、今の異常な自己進化へ繋がった。
「……それで、ずっと気になってたんだけどさ」
「何がだ?」
「正常なら、どこまで行くんだ?」
秩序の神が俺を見る。
「何の話だ?」
「世界の進化だよ」
勇者武器による異常な進化は、世界を自滅させる。
だから止める。
それはもう分かっている。
だが、正常な進化にも進む先があるはずだ。
魔王によって停滞を壊し、使徒によって行き過ぎた進化を抑え、そのたびに人類は翻弄され、文明を壊され、それでも生き残って再び積み上げる。
そんなことを延々と繰り返して――。
「その先に何がある?」
「神だ」
「…………」
あまりにも即答だった。
「……何?」
「神だよ!」
今度は混沌の神が両手を大きく広げた。
「世界が神様になるの!」
「…………世界が?」
「そう!」
意味が分からない。
「人間の誰かじゃなく?」
「違う」
「勇者でもなく?」
「違う」
「世界そのもの?」
「その通りだ」
秩序の神が頷いた。
「正常な進化を続け、十分に成熟した世界は、やがて我々の手を離れる。生命も文明も歴史も、その世界が積み重ねた全てを内包したまま、一つの新たな存在へ至る」
「そしてぇ!」
混沌の神がくるりと回って、俺と秩序の神の間に割り込んだ。
「混沌でもない! 秩序でもない! 何になるか私たちにも分からない!」
「分からないのかよ」
「分かってたらつまんないじゃん!」
「お前基準で神を作るな!」
「だが、そこについては我も同意する」
「お前も!?」
秩序の神は表情を変えない。
「我々が答えを決めてしまえば、それは我々の延長に過ぎない。世界自身が積み重ねたものの果てに、我々とは異なる理へ至ることに意味がある」
「つまり……」
「第三の神!」
混沌の神が俺の言葉を奪った。
「混沌と秩序に続く、新しい神様の誕生!」
「それが、お前らの最終目的?」
「そうだ」
「なんで?」
「我々にも寿命があるからだ」
「…………」
秩序の神が、さも当然のように言った。
「神って死ぬの?」
「死ぬよ?」
混沌の神まで何を当たり前のことを、とでも言いたげな顔をする。
「何年くらい?」
「個体差はあるが、百恒河沙年ほどだ」
「…………」
聞き間違いだと思った。
「何年?」
「百恒河沙年」
「ひゃくごうがしゃねん!」
混沌の神が楽しそうに両腕で大きな丸を作る。
「それ、寿命って言う必要ある!?」
「有限なのだから寿命だ」
「人間にその感覚を求めるなよ!」
「長いよねー」
「お前が言うな!」
百恒河沙年。
もう長いという言葉で表現していいのかすら分からない。
「……じゃあ、その間に第三の神が生まれればいい?」
「そうだ」
「急ぐ必要はない」
「ゆーっくりでいいの!」
混沌の神がその場でのんびりと両手を揺らす。
「壊して、作って、また壊して、また作って。失敗したり、変なのが生まれたり、たまに思ってもみなかった方向に進んだり! そうやって少しずつ進めばいいの!」
「お前、やっぱり途中経過を楽しんでるだろ」
「楽しいよ?」
「即答かよ」
「その過程も含めて、この世界だ」
秩序の神が続けた。
「我々が今の世界に愛着を持つ理由でもある。結果だけが必要ならば、異常が発生した時点で作り直している」
「…………」
なるほど。
少しだけ、二柱の感覚が分かった気がした。
こいつらは今の世界をどうでもいいと思っているわけじゃない。
むしろ好きなのだ。
混沌の神は予想外の変化を面白がり、秩序の神は積み重なってきたものを見ている。だから勇者武器という異常が起きても、すぐには世界を捨てず、俺なんかを選んでまで何とか元に戻そうとしている。
ただし。
「でも俺が失敗したら?」
「リセットだな」
「ぽちー!」
「そこだけ切り替え早すぎるだろ!」
「好きだからって、一緒に滅びる必要はないでしょ?」
混沌の神が不思議そうに首を傾げた。
「悲しいよ? 寂しいよ? いっぱい見てきたし、面白いものもたくさんあったし。でも、もうどうにもならないなら――次!」
両手をぱん、と叩く。
「切り替えが良すぎる!」
「我々には次の世界を育てる責任もある」
「お前ら、そこだけは同じなんだな」
「一緒にしないで?」
「我もこいつと同類扱いされるのは不本意だ」
「大っ嫌い!」
「我もだ」
「そこだけ息ぴったりなの初対面から変わってねぇな!」
やっぱり仲がいいんじゃないだろうか。
本人たちに言ったら二柱揃って否定するだろうから、口には出さなかった。
しかし、話の規模がとんでもないことになった。
世界はいずれ神になる。
神にも寿命がある。
勇者の始祖は、その神ですら正体を知らない。
そして俺が失敗したら、世界はリセット。
「……聞かなきゃよかったかもしれない」
「でも知れてよかったでしょ?」
「微妙」
「ひどい!」
「まあ、やることは変わらない」
俺は大きく息を吐いた。
世界が将来何の神になるのかなんて、俺には分からない。
百恒河沙年なんて時間も想像できない。
勇者の始祖が何者なのかに至っては、神に聞いても分からなかった。
だが、今の世界がなくなったら困る。
リリアもいる。
フィーネもいる。
俺が知っている人間は、全員ここにいる。
神々が今の世界を好きだから俺を選んだというなら、少なくとも目的は一致している。
「残り九十九個、だったな」
「そうだ」
「頑張って!」
「他人事だなぁ……」
「神だからね!」
「そういう意味じゃねぇ!」
混沌の神がけらけらと笑った。
「それでそれで? 次は何するの?」
「知ってるんだろ」
「知ってるけど本人の口から聞きたい!」
「面倒くせぇ神だな」
「褒められた!」
「褒めてねぇ!」
俺はもう一度ため息をついてから答えた。
「まずは弱い魔物を一匹捕まえる。《魔物編》が本当に効くのか試す」
「効いたら?」
「次を考える」
「何匹まで増やす?」
「それを今から試すんだよ」
「いっぱい操れたら楽しそう!」
「お前にだけは楽しみにされたくないな!」
「なんで!?」
その声を最後に、二柱の姿が少しずつ遠ざかっていく。
そろそろ目が覚めるらしい。
「では、引き続き頼む」
「頑張ってねー!」
「ああ」
俺は軽く手を上げ――最後に一つだけ言っておくことにした。
「できれば、次に呼ぶ時はもうちょっとマシな報告を用意しといてくれ」
「例えば?」
「勇者の始祖の正体が分かった、とか」
二柱が顔を見合わせた。
「無理だな」
「無理だね!」
「即答すんな!」
二柱の笑い声と俺の怒鳴り声を最後に、何もない世界が消えていく。
そして目を覚ましたら、いよいよ実験だ。
まずは一匹。
覚醒済みの勇者武器を壊すための、新しい手札を手に入れる。
残存勇者武器:98
確保?:1
残存勇者武器:98
確保?:1




