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100人の勇者と勇者になれない俺  作者: AIの奴隷


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第11話 鋼鉄の勇者

第11話 鋼鉄の勇者

 翌朝。

 カイル・エルデンは猛烈な筋肉痛と寝不足を抱えながら、それでもここ最近では一番と言っていいほど上機嫌で学園へ向かっていた。

 特に酷いのは右腕だった。一晩中金槌を振り続けた代償で、肩から指先まで満遍なく痛い。手のひらには豆までできているし、ほとんど眠っていないせいで頭も重い。それでも昨夜、原形すら分からなくなるまで砕けたNo.63《杭》を思い出すだけで、自然と口元が緩みそうになる。

(壊せる)

 勇者武器は壊せる。

 昨日破壊したNo.63は、まだ勇者を選んでいないロスト武器だった。だからといって残る九十九本も同じように金槌で叩けば終わりだなどと楽観するつもりはない。それでも、何も分からないまま百本という数字を見上げていた頃とは違う。

 《死奏者マエストロ》について調べ、フィーネと出会ってようやくその力を使えるようになり、《洗脳の音楽・獣編》を試し、その力で操ったリスに探索させた先でNo.63を発見した。そして学園で聞いた、未覚醒の勇者武器は破損することがあるという話を頼りに、本当に一本を破壊した。

 今まで一つずつ集めてきたものが、初めて明確な成果になったのだ。

(この調子でロスト武器を探していけばいい。勇者を選ばれる前なら、誰とも戦わずに壊せる)

 そう考えるだけで、痛む右腕さえ勲章のように思えてくる。

「カイル」

「ん?」

 廊下を歩いていたところで、後ろから聞き慣れた声に呼び止められた。振り返ればリリアがいる。

「今日の放課後、空けといてね」

「嫌な予感しかしないんだけど、理由を聞いていい?」

「先輩勇者が挨拶に来るの。No.1が覚醒したって聞いて、一度会っておきたいんだって」

「へえ」

 No.1《始まりの勇者》の覚醒が特別な意味を持つ以上、すでに活動している勇者が新人のリリアに会いに来ること自体は不思議ではない。

「頑張れよ」

「うん。だからカイルも一緒ね」

「なんで?」

 反射的に聞き返すと、リリアは逆に不思議そうな顔をした。

「なんでって、カイルは私のパーティメンバーでしょ?」

「…………」

 忘れていたわけではない。

 昨日はロスト武器の探索から、そのまま一晩中勇者武器を金槌で叩くという人生初の経験をしていたため、一時的に頭の隅へ追いやられていただけだ。

 カイルはNo.27《ハープの勇者》フィーネ・アルペジオの従者である。

 そして本人の意思とはほとんど関係なく、No.1《始まりの勇者》リリア・アステルの従者としても登録されている。

(そうだった。こっちも早くなんとかしないと)

 フィーネには二重所属のことを話していない。どうせすぐにNo.1側から抜けるつもりなのだから、余計な心配をさせる必要もないと思っている。

 問題は、リリアの中ではカイルが自分の従者であることが完全な確定事項になっていることだった。

「いや、リリア。俺は――」

「放課後、迎えに行くから」

「待て。せめて最後まで喋らせろ」

「遅れないでね」

「おい!」

 言いたいことだけ言って、リリアはさっさと自分の教室へ向かっていった。

 カイルはその背中を見送り、痛む右腕で頭を抱える。

「……相変わらず人の話を聞かねぇな」

◇

 放課後。

 宣言どおり迎えに来たリリアに連れられ、カイルは学園の応接室を訪れていた。

「だから俺まで来る必要あるか?」

「まだ言ってるの?」

「言うよ」

「私の最初のパーティメンバーなんだから、紹介するの普通でしょ?」

「俺はその前提から話し合いたいんだけどな」

 リリアが何か言い返そうとしたところで、応接室の扉が開いた。

「悪い、待たせたな」

 入ってきたのは、カイルたちより明らかに年上の大柄な男だった。鍛えられた体格をしているが、表情は柔らかい。勇者という肩書きから想像するような威圧感よりも、気さくな兄貴分といった印象の方が強かった。

「初めまして。ガルド・フェルゼンだ。No.91《鋼鉄の勇者》をやってる」

「リリア・アステルです!」

「カイル・エルデンです」

「カイルは私の従者です」

「お前は一言余計なんだよ」

 ガルドが声を上げて笑った。

「幼馴染なんだってな。No.1に選ばれたばかりなら分からないことも多いだろうし、昔から知ってる奴が近くにいるのは心強いだろ」

「はい!」

「……どうも」

(俺、抜ける予定なんだけどな)

 もちろん初対面の先輩勇者にそんな事情を説明するわけにもいかない。カイルは曖昧に頭を下げた。

 その後しばらく、ガルドは勇者として活動する際の注意点やパーティについて、自身の経験を交えながら話してくれた。一人で何でもできると思わないこと。従者は勇者の手足ではなく、自分にできないことを任せる仲間であること。何より勇者だからと無茶をしすぎないこと。

 どれももっともな話だったし、特にリリアにはよく聞いておいてほしい内容ばかりだった。

 やがて話題が勇者武器へ移ったところで、ガルドが立ち上がる。

「そうだ。せっかくだし、俺のも見せておくか。話だけ聞くより実物を見た方が早い」

◇

 場所を学園の訓練場へ移す。

「俺の刻印はここだ」

 ガルドは服の上から右胸を軽く叩いた。

 刻印そのものは服に隠れて見えない。しかし召喚するのに直接触れる必要はないらしく、そのままガルドがNo.91を呼び出す。

 右胸を起点として鋼色の金属が溢れ出した。

 肩から腕、胴、腰、脚へと金属が走り、瞬く間に全身を覆っていく。ほんの数秒前まで普通の服を着ていた男が、あっという間に重厚な金属鎧をまとった騎士へと変貌した。

「おお……!」

 リリアが素直に歓声を上げる。

「これが俺に《アジャスト》されたNo.91だ。見た目どおり防具として使えるが、それだけじゃない」

 ガルドが右腕を持ち上げると、表面を覆う金属が滑らかに動いた。前腕へ集まった金属が鋭い刃を形成し、それが引っ込んだかと思えば、今度は拳の周囲へ集まって巨大な籠手へと変わる。

「自由に形を変えられるんですね」

「ある程度はな。こんなこともできるぞ」

 腕から細い金属線が勢いよく射出された。

 ワイヤーは訓練場上部の柱へ絡みつき、直後に巻き取られる。重厚な鎧をまとったガルドの身体が一気に地面を離れた。さらに空中でもう一方の腕から二本目のワイヤーを放ち、最初の一本を外す。そのまま振り子のように大きく弧を描き、訓練場の上空を横切っていった。

「すごい! カイル、見た!?」

「隣にいるんだから見てるよ」

 興奮するリリアとは対照的に、カイルは変形する鎧をじっと観察していた。

 やがて着地したガルドが戻ってくる。

「ただし、金属を無限に作れるわけじゃない」

 今度は右腕の金属を大きな盾へと変化させた。

「鎧全体の金属量は基本的に決まってる。こうやって一ヶ所に集めれば、その分だけ別の場所が薄くなる」

 言われてみれば、右腕の盾は分厚くなっている一方で、胴体や左腕の装甲は薄くなっていた。

「ワイヤーも同じだ。長く伸ばせば伸ばすほど鎧に残る金属は減る。それに、いくら鋼鉄でも細くすれば当然切られやすくなる」

「じゃあ、いっぱい出せばいいってわけじゃないんですね」

「そういうことだ。どこにどれだけ回すかまで含めて俺の能力ってわけだな」

 ガルドは盾を元へ戻すと、今度はリリアへ向き直った。

「さて。俺ばっかり見せるのも不公平だな。リリア、今度はNo.1の力も見せてくれないか? 《始まりの勇者》なんて、俺もそうそう見る機会がない」

「はい!」

 待ってましたと言わんばかりに、リリアが左手を前へ出す。

 手の甲に刻まれた《1》が淡く光り、その手の中へ長いポールが現れた。続いて先端から旗が大きく広がる。

 No.1《始まりの勇者》。

 リリアに《アジャスト》されたその姿は、一振りのポールフラッグだった。

「これがNo.1か」

 ガルドが興味深そうに眺める。

「能力は?」

「これを一度地面に突き立てると、仲間が多いほど私が強くなります。それで、仲間の方にも強化が入ります」

「なるほど。《集結》か」

 ガルドは少し考えたあと、再び右腕を持ち上げた。腕を覆っていた鋼鉄が前方へ集まり、見る見るうちに分厚い大盾を形成する。

「ふむ。その強化率を見たいな。まずは能力を使わず、こいつに全力で打ち込んできてくれ」

「いいんですか?」

「ああ。遠慮はいらん」

 ガルドが盾を前に出し、腰を落として構える。

「じゃあ、いきます!」

 リリアもポールフラッグを握り直し、一気に踏み込んだ。

 勢いよく振り抜かれたポールが盾へ叩き込まれる。

 ――ガァン!

 訓練場に重い金属音が響いた。

 ガルドはほとんど動かなかった。盾の表面を軽く確認してから、もう一度同じ位置へ構える。

「よし。次は能力を使って同じように打ち込んでくれ」

「分かりました。カイル、こっち来て」

「なんで?」

「仲間が必要だから」

「…………」

 何となく嫌な予感を覚えながらも、能力を試すためなら仕方がない。

 カイルが近づくと、リリアは満足そうに頷いた。

「それじゃ、いくよ」

 ポールフラッグを両手で握り、その石突きを地面へ突き立てる。

 瞬間、リリアの身体を力が駆け巡った。

 同時に、カイルの全身にも熱にも似た何かが流れ込んでくる。

「うおっ!?」

 驚いて自分の手を見る。明らかに身体が軽い。寝不足で重かった身体に力が戻り、一晩中酷使していた右腕まで先ほどより動かしやすくなっている。

「カイルにも入ったな」

「はい。仲間にも強化が入るので」

「……ちょっと待て」

 カイルが口を挟んだ。

「その『仲間』って、パーティに登録されてる人間ってことか?」

「違うよ」

 リリアはあっさり答えた。

「私が仲間だと思ってる人」

「…………」

「どうしたの?」

「いや」

(判定、お前依存なのかよ)

 つまり、書類上のパーティ登録とは関係がない。

 少なくとも今この瞬間、リリアは何の疑いもなくカイルを自分の仲間として認識しているらしい。

「面白いな」

 ガルドは盾を構え直した。

「よし、リリア。さっきと同じ場所へもう一発だ。今度も全力で来い」

「はい!」

 リリアが踏み込む。

 先ほどと同じ動作。同じポールフラッグ。同じ盾。

 しかし、叩き込まれた一撃はまるで違った。

 ――ガァァン!!

「おっと!」

 衝撃とともにガルドの巨体が後方へ押される。鋼鉄の靴が地面を滑り、二歩ほど下がったところで止まった。

「大丈夫ですか!?」

「ああ、問題ない」

 ガルドは盾を軽く動かし、受けた感触を確かめるように何度か腕を振った。

「ふむ。だいたい倍くらいの威力だな」

「そんなに!?」

「今の二発を受けた感じではな。これが仲間の数でさらに伸びるなら、面白い能力だ」

「やった!」

 自分の能力を褒められ、リリアが嬉しそうに笑う。

 ガルドも笑い返し、それから盾を元の腕へ戻そうとして――ふと動きを止めた。

「っと、その前に交換しておくか」

「交換?」

 ガルドは盾の一部、ちょうどリリアの攻撃を二度受け止めた辺りへ視線を落とした。鋼鉄がゆっくりと変形して腕へ戻っていく途中で、その周辺の金属だけが分離し、いくつかの金属片となって地面へ落ちる。

「あっ!」

 リリアの顔色が変わった。

「もしかして、壊しちゃいました!?」

「いや。この程度ならまだ普通に使える」

「じゃあ、なんで捨てるんですか?」

「金属疲労だよ。こいつは形を自由に変えられるが、金属であることに変わりはない。曲げて、伸ばして、元に戻して、その上から強い衝撃まで受ければ少しずつ疲労は溜まる。特にワイヤーみたいに細く伸ばした部分は傷みやすいな」

「でも、まだ使えるんですよね?」

「ああ。だから今すぐ交換しなくても戦える。でも、交換できる時にしておくんだ」

 ガルドは新しい鉄片を取り出した。

「勇者が戦う時に、相手が『今から襲いますから準備してください』なんて言ってくれるわけじゃないからな。飯を食ってる時かもしれないし、寝てる時かもしれない。次にいつ戦うことになるかなんて分からない。だったら交換できる時に交換しておく」

 鉄片を鎧へ押し当てると、鋼鉄がそれを包み込み、そのまま内部へ取り込んでいく。

「常に万全にしておく。こういう地味なのが結構大事なんだ」

「おお……」

 リリアが感心したように頷く。

 カイルは地面へ落ちた金属片を見ていた。

(……覚醒済みでも、傷むんだ)

 昨日壊したNo.63とは状況がまるで違う。それでも、勇者を選んだ後の勇者武器が絶対に壊れないわけではない。ガルド自身が「まだ使える」と言った部分でさえ、確かに劣化していた。

「でも、勇者武器なのに金属疲労するんですね」

 リリアが不思議そうに尋ねると、ガルドは自分の腕を軽く叩いた。

「俺の場合は、これが《アジャスト》で付いたデメリットみたいなもんだ」

「デメリット?」

「ああ。特に俺たちみたいな二桁の勇者武器は、《アジャスト》で強力な能力を得た代わりに、デメリットまで抱えることがある。必ず付くわけじゃないけどな」

 ガルドは地面へ落とした金属片を拾い上げる。

「俺なら金属疲労。好きな形に変えられる代わりに、変形させればさせるほど鋼鉄が傷む。他にも能力を使うために血を捧げなきゃならない奴とか、金を払わなきゃならない奴とか、色々いるぞ」

「お金を!?」

「いるんだよ、そういう可哀想な奴が」

「勇者なのに……」

「勇者だからって財布までは守ってくれないらしい」

 リリアが心底嫌そうな顔をした。

「じゃあ、デメリットがない方が当たりなんじゃないですか?」

「それも一概には言えないな」

 ガルドは首を横に振る。

「デメリットなしで《アジャスト》された場合は、その分だけ能力も大人しくなることが多い。確かこの学園にいるNo.27なんか、今代は――」

「最高の音が出ます」

 カイルが即答した。

「……詳しいな」

「まあ、ちょっと」

 ガルドは一瞬だけ首を傾げたが、それ以上は追及しなかった。

「まあ、そういうことだ。本人にとっては最高の《アジャスト》なんだろうが、戦闘で強力な能力かと言われれば話は別だ」

 カイルとしては少々引っかかる言い方ではあったが、事実なので反論もしづらい。

「じゃあ、やっぱりデメリットがある方が強いんですか?」

「それも違う」

 今度はガルドが苦笑する。

「強力な能力を貰っても、デメリットが重すぎてまともに使えなきゃ弱いからな。血を要求される奴なんか分かりやすいだろ。いくら能力が強くても、使いすぎて本人が倒れたら意味がない。俺だって調子に乗って変形を繰り返せば、いざ攻撃を受けた時に鎧が脆くなってました、なんてことになりかねない」

 強い能力を得れば、代わりに弱点を抱えることがある。

 弱点を持たなければ、能力そのものが穏当になることがある。

 そしてデメリットを抱えたからといって、必ずしも強い勇者になるわけでもない。

「だから、そのためのパーティなんだよ」

 ガルドはそう言って、リリアとカイルを順番に見た。

「勇者一人で何でもできる必要はない。勇者に足りないものを五人の従者が補う。デメリットを補える奴を入れてもいいし、勇者にできないことを丸ごと任せてもいい。戦えない勇者なら、代わりに前へ出る奴がいればいい。逆に戦うことしかできない勇者なら、後ろを任せられる奴が必要になる」

「なるほど……」

「だからサポート専攻だって立派な従者候補だぞ」

 突然話を振られ、カイルは自分を指差した。

「俺ですか?」

「他に誰がいるんだよ。No.1がどんな弱点を持ってるかはこれから分かってくるだろうが、お前がそこを埋めてやればいい」

「……どうも」

(だから俺、そのパーティから抜けたいんだけどな)

 どうにも今日は善意が痛い。

 そんなカイルの内心など知らず、リリアは当然のように満足そうに頷いていた。

「じゃあ、一桁も同じなんですか?」

 自分のポールフラッグを見ながら、リリアが尋ねる。

「いや。一桁は別枠だ」

 ガルドは即答した。

「No.1からNo.9は、そもそも他の勇者武器とは扱いが違う。知ってるだろ? 一桁の勇者武器は、No.1《始まりの勇者》が目覚めない限り覚醒しないって言われてる」

「あ……じゃあ」

「ああ。お前が目覚めたことで、残りの一桁もこれから勇者を選ぶ可能性があるってことだ」

 リリアが自分の手の甲に刻まれた《1》を見る。

「私がきっかけなんだ……」

「だから《始まり》なんだろうな。一桁に二桁と同じ《アジャスト》の法則が当てはまるかどうかは、俺にも分からん。何しろ普段は目覚めない連中だからな」

「じゃあ、三桁は?」

「No.100のことか?」

「はい」

「あれはもっと分からん」

「また分からないんですか?」

「仕方ないだろ。一度も目覚めたことがないんだから」

「一度も?」

「ああ。No.100という勇者武器が存在する。それだけは分かってる。だが、少なくとも残ってる記録じゃ一度も勇者を選んだことがない。だから、どんな武器なのかも、どんな能力になるのかも分からん」

「じゃあ、すっごく強いかもしれない?」

「かもしれないし、弱いかもしれない。分からないものは分からん」

「先輩勇者なのに」

「先輩勇者をなんだと思ってるんだ」

 ガルドが呆れたように笑った。

◇

 能力の確認を終えると、ガルドは全身の鎧を解除した。

 鋼鉄が全身から右胸へ向かって収束していく。腕も、脚も、胴体を覆っていた装甲も消え、最後にはあれだけの金属が跡形もなく《91》の刻印へ格納された。

「じゃあ、俺はそろそろ行くよ」

「今日はありがとうございました!」

「気にするな。同じ勇者同士だからな」

 ガルドはリリアへそう答えたあと、カイルの肩も軽く叩いた。

「カイルも大変だろうけど、支えてやれよ。幼馴染なら俺なんかが言うまでもないかもしれんがな」

「……はい」

「いい返事だ」

 笑って去っていくガルドを、二人で見送った。

「いい人だったね」

「……そうだな」

「No.91もすごかったなあ。あのワイヤーで飛ぶの楽しそう」

「お前、絶対そこ食いつくと思ったよ」

 上機嫌で話すリリアの隣を歩きながら、カイルは先ほど目の前で消えたNo.91のことを考えていた。

 昨日のNo.63には勇者がいなかった。

 だからリスが持ち帰った杭をそのまま鞄へ入れ、自室へ持ち帰れた。誰にも邪魔されず、一晩中金槌で叩き続けることもできた。

 だが、No.91は違う。

 ガルドの右胸から現れ、必要がなくなれば再びそこへ戻った。

(……待てよ)

 そこで、今まで具体的に考えていなかった問題に気づく。

(覚醒済みの勇者武器って、盗んでも意味なくないか?)

 仮に何らかの方法でガルドからNo.91を奪えたとする。そのまま逃げて、安全な場所まで持ち帰れたとする。

 だが勇者本人との繋がりが残っているなら、ガルドがNo.91を刻印へ格納した時点で終わりだ。どれだけ苦労して奪っても、あっさり本人の元へ取り返されてしまう。

 しかも、覚醒済みの勇者武器も傷つくことは分かったが、No.91の場合は失った金属を補充することまでできる。

 未覚醒のNo.63とは、あまりにも条件が違った。

(勇者との繋がりを切る方法があるのか? それとも、繋がったままでも完全に壊せるのか?)

 分からない。

 それに今日、もう一つ知った。

 二桁の勇者武器には、《アジャスト》によってデメリットを抱えるものがある。

 ガルドの金属疲労。血を要求する勇者武器。金を要求する勇者武器。他にもまだ、カイルの知らないものがいくらでもあるのだろう。

 もし覚醒済みの勇者武器を壊す方法があるのなら、そのデメリットが突破口になる可能性もある。

 だが――。

「カイル?」

「ん?」

「今日、ずっと右腕気にしてない?」

「ああ。ちょっと筋肉痛」

「何したの?」

「…………筋トレ」

「カイルが?」

「なんだその反応」

「だってカイルだよ?」

「俺をなんだと思ってるんだよ」

 いつものように言い返しながらも、カイルの頭から疑問は消えなかった。

 ガルドの笑顔が浮かぶ。

 新人のリリアのためにわざわざ足を運び、自分の能力を惜しげもなく見せてくれた。勇者としての経験を教え、リリアの能力検証にも付き合い、カイルにまで気さくに接してくれた。

 普通に、いい人だった。

 だからこそ、できれば考えたくない可能性まで、その先についてくる。

(……まさか、勇者本人ごと殺さないと駄目、とかじゃないよな?)

 昨日、未覚醒の勇者武器を壊す方法を見つけた。

 そして今日。

 今度は、すでに勇者を選んでしまった武器という新しい壁が、はっきりと目の前に現れた。

(覚醒済みは、どうすればいい?)



残存勇者武器:98

確保?:1

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