第10話 落伍者達の実態
現代風でいえば不良に絡まれ善意の第3者に助けられたようなもんだが、俺自身が特に何もしないうちに始まり勝手に終わった、何とも消化不良なできごとだった。
その後は自分の番になるまで大人しく列に並んでいたわけだが、中には善良な冒険者もいて、おっちゃん運が悪かったな、ああいう奴らには関わらない方がいいぜ、絡まれたくなかったらどっかのパーティーやギルドに頼み込んで入れてもらえ等々、色々教えてくれた。
もっとも、大半の冒険者がこちらに興味がないようで、喧騒があった後でも無関心だった。
声を掛けてくれた善良な者が少数、そして俺が獲物になるか品定めしている、あるいは何らかの悪意がある者も幾らかいるといった所か。
昔から視線に敏感だったから気付けたが、日本では能力や性格、あるいは素行でもいいが、何らかが普通から外れたものは好悪の視線や感情を向けられるものだ。
懐かしい視線に俺の錆び付いたセンサーが久しぶりに稼働したようだが、今の俺程度に判る奴らははっきりいって三下だ。
何せ冒険者として最底辺の実力しかない俺に気づかれる程度なのだから。
怖いのは無関心や善意を装っている者達だろう。
彼等に牙をむかれたら、現時点の俺では対抗する術がない。
わかっていた事だが、早急に力を付ける必要がある。
まあ、シンプルで分かり易いな。
死にたくないなら、他人に食い物にされたくないなら力を付けろ、っていうだけなのだから。
……つらつらと考えこんでいたら、いつの間にか俺の番になっていたようで、セレナさんから声を掛けられた。
「けいいちさん、どうぞ。あなたの番ですよ」
「こちらが今日の戦果になります」
「!? これは……」
俺がマジックポーチから魔石やモンスターからの拾得物を取り出すと、彼女が大きく目を見開いた。
出した物から俺がどこまで登ったか正確に察したのだろう、心配気に問い掛けてきた。
「けいいちさん、無理したんじゃないですか? それにソロで地狼の群れと戦うのは、まだ厳しいのではないでしょうか。新人冒険者の死亡率の大半を占めるのが、地狼との戦いなんですよ」
「ご心配をお掛けして申し訳ありません。私も初めは怪我しましたが、慣れてLVUPしたら無傷で倒せるようになりました」
「それでも、あまり無茶しないでくださいね。折角縁があって知り合ったのですから、できるなら不幸より幸せを分かち合いたいです」
「わっ、わかりました。自分のペースでいかせてもらいますが、できる限り安全を確保して挑むようにします」
「お願いしますね」
冷静沈着で物静かな雰囲気の人だと思っていたが、予想外の情熱的な言葉を掛けられ、思わずどもってしまった。
恥ずかしい。
こんな不意打ちはうれしくあるのだが、いきなりは勘弁してほしい。
無理やり話題を変える事にした。
「そっ、それよりお聞きしたことがあります。私に絡んできた者達の事です」
「クズ共の皆さんのことですね」
「そのクズ共というのは?」
「彼らのパーティーの名前です。冒険者は自分達のパーティーやギルドを結成した際に、他と区別できる様な名前を付けるのです」
「それにしては、随分と自分達を卑下した名前ですね」
「100階までを探索している冒険者を一般冒険者、または略してノーマルと呼びますが、その途中で挫折したり諦めてしまった方達の事を、冒険者間で落ちこぼれと呼んで蔑む事があります。特に彼等は20階層のボス、いわゆる最初のボスが倒せず諦めてしまった方達が集まったパーティーなので、あえて自分達の事を皮肉ったパーティ名にしたのではないでしょうか」
「階層ボス、ですか?」
「20階から10階毎にボスが出現し、上に行く階段や転移陣を守っているのです」
落ちこぼれ中の落ちこぼれだから、自分達の事をクズ共と呼んでるわけか。
まあ落ちこぼれだろうがなかろうが正直どちらでもいいが、今回問題なのは別の所だ。
「それで、ギルドから素行の改善や、問題行動を起こした場合に処罰すると通告したとのことですが?」
「ええ、ギルド内の受付カウンターや酒場等で他の冒険者に絡んだり、金銭を強請ろうとしたりと、度々問題行動を起こしています。そしてこれは未確認ですが、ダンジョン内での殺傷や拉致等の犯罪行為に手を染めているとの噂もあります」
「そこまで、ですか……」
日本の不良程度だと思っていたが、その実殺人や誘拐も行う極道レベルだったということか。
うん、正直見誤っていた。平和ボケしていたわ。
殺傷も厭わないレベルの相手に立ち向かうにしては、安易な行動をとり過ぎだった。
改めて命の安い世界なのだと意識すべきだったんだ。
反省、反省。猛反省だ。
本当に、セレナさんに確認しておいてよかった。
「その、未確認というのは?」
「犯行の現場を確認できていないのです。毎回やれば露呈すると思っているのか極偶にしか不自然、彼等が探索していたであろう階層で、パーティーの全滅や行方不明者が出る等々が起きないのです」
「なるほど、かなり用心深いようですね」
「しかし状況証拠的に、彼等は黒です。事件が発生した後、きまって彼等の羽振りが良くなっています。ただし、ダンジョン内で亡くなった冒険者の遺物の取得を罰する規定はないので、証拠がない状況で拾ったと主張されれば、こちらとしても咎める事ができないのです」
憂いてた表情のセレナさんが痛々しい。
彼女も歯がゆいに違いない。
犯罪者を野放しにしたくないが、迷宮は広大で様々な罠や凶悪なモンスターがいるのだ。
それに加えて、犯罪者は彼等だけではない。
ギルドとしても、中々隙を見せない者達に常時見張りを付けておく程余裕もないのだろう。
だがあのリーダーの仄暗い瞳、他者を蹴落とすのを何とも思っていない昏い瞳や去り際の言葉から、何らかの報復があるとみていいだろう。
こちらとしても、できる限りの対策はするべきだ。
「セリナさん、彼等のステータスや得意技など教えていただく事はできませんか?」
「……ギルドとしては、今の所犯罪者でもない冒険者の個人情報の開示はできません」
「そうですか、残念です」
はあっ、それもそうか。
いくら推定黒といっても、まだ犯罪者として立証できたわけじゃないんだ。
個人情報は冒険者の命にも関わる重要な情報だから、ギルドとしても下手に開示できないってわけだ。
これはあきらめるしかないか……。
「一般的な話をしましょう」
「えっ!?」
「20階層を攻略する冒険者のステータスは、おおよそ50~100です。階層ボスに勝てず上に行けない者達なら、ステータスもそれを超えるとは考え辛いですね」
「セレナさんっ!!」
「さらに言えば、停滞した者達が上を目指す冒険者を倒そうとするなら、必ず絡め手や嵌め手を用意してくるでしょう。罠や毒、人質などといった所でしょうか」
言える範囲で助け舟を出してくれるセレナさんに、感謝の思いしか浮かばない。
いや、本当にありがたい。
こっちはまだ異世界3日目で、何をするにも情報が足りないのだ。
でも、セリナさんのお陰でもしもの時用の対策が立てられる。
まずはやっぱり己の強化、それと罠の知識や毒への対処法だな。
「ありがとうございます! セレナさんのおかげで、やるべき事がわかりました。罠については図書室で調べればいいし、毒については毒消し薬を多めに用意すればいいんですね」
「一朝一夕にはいかにでしょうが、毒や麻痺を治す魔法や、状態異常に対する抵抗力を上げる魔法、あるいは回復魔法等もありますよ」
「魔法っ!? いいですね!」
言われるまで忘れていたが、この世界には魔法があるんだ。
しょうもない小悪党達への対処と思っていたが、随分心くすぐる方に話が進むものだ。
魔法が使えると思えば、否が応でもテンションが高まる!
「けいいちさんは魔力もあるようですし、早めに始めておくといいでしょう。こちらも漂流人ということで、1カ月無料で受けられます。よろしければ、おすすめの流派の予約を取っておきますが、どうしますか?」
「是非お願いしますっ!! あっ、いや、明日はゼーニックの道場に行きたいので、明後日でお願いできますか?」
「承知しました。でわ、明日の夕方にでも、またお寄りください。簡易の地図を用意しておきますね」
「ありがとうございます! それでは、よろしくお願いします」
うん、やる気が漲ってきた!
早く修行がしたくてたまらないぜ!!
意気揚々と身を翻した所、セリナさんから静止の声が掛かった。
「けいいちさんっ!!」
「はいっ? どうかしましたか?」
「……清算したお金、受け取ってから帰ってくださいね」
「はっ、ははっ、これは失礼しました」
情けないことに、気が逸るだけで空回りしていたようだ。
何とも締まらない最後だ……。




