第11話 新たな力
「1日で10階層!? しかもLVも10で、ゼーニック流剣術も8まで上がったって!?」
「ええその通りですが、何か問題がありましたか? 何分この世界の常識に疎いもので……」
「何がっって……はあっ。君の非常識っぷりには、呆れてものが言えないよ」
いつも闊達なイメージのマリー師範代が、唖然とした顔のまま首を横に振る姿が新鮮で、見ていて面白い。
しかし、俺がこの世界の常識に疎いのは確かだし、何が非常識なのかよく分からない。
「いいかい? 初めの階層で簡単だからといって、1日に10階層も進めるもんじゃないんだよ!? それに、いくらソロの方がLVが上がり易いといったって、普通は1日に10LVも上がらないんだよっ!!」
「いやっ、そう言われましても、現に上がっているわけですし、私のギルドカード見せましたよね?」
「ああ見たさっ! これは間違いなんじゃないかって、何度も見返したさ!! いっそ間違いだった方が、まだ納得できたよ! でも上がってるんだよね。だから君は非常識なのさ」
よほど納得がいかなかったか獣が威嚇する様に、うーって唸ってる。
年頃の少女であるマリー師範代がそんなことしても、ただ微笑ましいだけだったが……。
しばらくして漸く落ち着いたようだが、それでもまだ恨みがましい視線を向けてくる。
「マリー師範代。そっ、そろそろ、今日の修行を始めませんか?」
「ふんっ! 僕をこんな気持ちにさせるなんて、けい、君が初めてだよ」
「え~と、申し訳ありません?」
「五月蠅いな! それは僕を揶揄っているつもりかい? だったら師の威厳っていうものを、思い出させてあげるよ?」
「いっ、いいえ、滅相もない!」
「はあっ、つくづく君に常識が通用しないね。そんな君には非常識な修行だ! 君には、僕が直々に地の型を教えてあげるよ!」
「ありがとうございます!! それで地の型ですか? それは一体どういったものでしょうか?」
「感動が薄いな~。いいかい? 入門して数日で地の型の教えを受けるなんて、前代未聞の事なんだよ!? もっと光栄に思って欲しいよ」
「それは申し訳ありません。本当にこの世界の常識に疎いものでして……」
ぺこぺこと頭を下げるものの、彼女がこちらを睨んだままだ。
へそを曲げられたらたまらないので只管平身低頭を続けていると、これ見よがしに大きなため息を吐くと、不承不承納得してくれたようだ。
「はあっ、漂流人だからなのか、いやっ、けいだからなのだろうね。きっと君は元居た世界でも、さぞ不自由をしてきたんだろうね?」
「ははっ、おっしゃる通りで……」
「よしっ、終わりっ!! 僻んでばっかりだと自分が情けなくなるだけだからね。そろそろ修行を始めようか! それで地の型だけど、ゼーニック流の地の型は気を操るのさ!」
「おおっ!? 気ですか!!」
「おやっ、さっきと随分食い付きが違うね?」
「それは何を修行するかわからなかったからですよ。気については、私の世界では使えるものはいなかったですが、空想の物語の中には存在しました。同じかどうかわかりませんが、そんな夢物語の中の力を使えるようになるかと思うと、年がいなく興奮してしますねっ!」
「ふ~ん。まあやる気になってくれたようでうれしいよ。それじゃあ早速見せてあげる。これが気さ!!」
宣言と同時にマリー師範代の全身が緑色の靄の様なものに包まれる。
明るく爽快な色で、植物というより草原を駆け抜ける一陣の風の様な印象だ。
そんな風にのほほんと眺めていたら、一瞬のうちに師範代が掻き消えた!!
そして反応する間もなく、気付いたら後ろから首筋に木刀が添えられていた。
「うおっ!?」
慌てて飛びのき木刀を当てられた首筋に手をやると、どっと冷や汗が流れ出した。
ほんの遊びだろうが、彼女が本気なら俺は死んでいたのだ。
言い訳でしかないが、興奮していたせいで注意力が散漫になっていた。
一歩間違えば大事故にもつながる稽古なのだ、真剣みが足らない。
彼女も顔こそは笑っているが、暗に俺の腑抜けた姿勢を咎めているのだ。
両頬を力一杯叩くと、深々と頭を下げた。
「師範代、浮かれた気分で申し訳ありませんでした。稽古を受けさせて頂く立場に、相応しからぬ失礼な態度でした」
「……うん、その切り替わりの速さは称賛に値するよ。それに、けい。君の真剣な顔は嫌いじゃない。むしろ好きな方かな」
「……ただのデブなおっさんですが?」
「それでもさ。普段はのほほんとしているけど、今は精悍な獣の様になっているよ。痩せたら、きっと僕好みの顔になるんじゃないかな。今から楽しみさ」
「それは、ありがとうございます?」
まあ、10年以上ほとんど運動していない生活を送ってきたが故のメタボだ。
毎日修行やダンジョン探索をすれば見る間に痩せていくに違いない。
話しが可笑しな方にとんだが、今度は油断しない。
笑っていた彼女が消えた瞬間、ほとんど感でしかないが後ろに向けて木刀を薙ぎ払った!
そして、固い物同士をぶつけ合った音が鳴り響いた。
「……うん、つくづく君には驚かされされるよ。今のが見えたのかい?」
「まさかっ! 全く見えませんでしたよ。対応できたのはマグレです。強いて言えば、感と推測ですかね」
「そこが君の怖い所だ。大概の技は1度、運が良くて2、3度しか通用しない。それに緊張を解かなかったのがいいね」
「不真面目な態度を謝罪したばかりですからね。舌の根の乾かぬ内に、不様な姿は見せられませんよ」
「うん、そこも高ポイントだ。真摯で真面目な姿勢はとても好きだよ。……さて、それで本題に戻るけど、僕は気をどう使ったと思う?」
「身体能力の向上、それと肉体そのものの強化といった所でしょうか?」
気の運用法としては、ゲームやアニメの定番だ。
だが、俺が喉から手が出るほど欲しい技術でもある。
気が使えれば、飛躍的に強くなれるのは間違いないからだ。
「それだけじゃない! 武器の強度や切れ味、あるいは防具の耐久性を上げ、更に強固にする事だってできるんだ!」
「素晴らしい! 気の応用性の広さ。まさに、冒険者には欠かせない最高の技術ですね!」
「ふふんっ! 僕クラスになれば、気を込めればこの木刀でさえ、竜の鱗を切り裂けるんだよ!」
「よっ、さすがは師範代! そんな偉大な方に師事できたて最高ですっ!! あっ、あの~、それで申し訳ないですが、マリー師範代のゼーニック流の具体的なLVをお教え頂く事はできませんでしょうか?」
丁度良い機会だとばかりに、よいしょしつつ質問してみた。
これからしばらくの長期的な目標になるであろう、200階層到達の上級の冒険者の実力を!
「はっはっは! 事実とはいえ、そう褒めないでくれたまえ! こほんっ、本来なら秘密にすべきだが、僕の愛弟子である君には特別に一部を教えてあげよう! いいかい? 特別だよ?」
「ありがとうございます! マリー師範代の寛大な御心に、いくら感謝してもしたりません! さすがは私の目標たる師範です!」
「ふふんっ! それでは心して聞くように! 僕の人の型のLVは48、地の型は40さっ!」
「48に40!? そんなに上がるものなのですかっ!?」
「はっはっは! 言い伝えによれば、開祖様のゼーニック流剣術のLVは、ゆうに100を超えていたそうだよ」
「そこまでですか……」
俺の剣術LVは8だし、称号の補正はあるとはいえ、いやに簡単に上がると思ったよ。
「それではLVの方については、限界はないのでしょうか?」
「うん? たしか開祖様は600を超えていたって話だよ。スキルLVも通常のLVも限界に達した話は聞いたことないな~」
もしかしたらスキルもLVも999で止まる可能性も考えられるが、今の所だれも確かめた事がないわけだ。
まあ逆に、本当に限界がなくて1000以上となる可能性もあるわけだ。
よし、マリー師範代の機嫌が良い内に更に質問してみよう。
「ちっ、ちなみに一般的な話で構いませんが、LVに応じてステータスなどはどうなるのでしょうか?」
「そうだね、君達一般の冒険者は数百、僕達上級の冒険者は数千、その上になると数万って話さ」
「そこまでいくと、もはや人間とは別の存在みたいですね」
「そう、僕達は人間を遥かに超えた超人となるのさ。だからこそ己を律しなければならない。そんな超人が欲望のままに好き勝手すれば、簡単に多くの命が喪われてしまうのだから……」
「師範代のおっしゃる通りです」
まだ18歳。
もうすぐ成年だが、未だ少女といって差し支えない年齢のはずなのに、実に成熟した考え方だ。
力があれば、人より優れていれば傲慢になりがちだし、往々にしてその振る舞いも他人を見下すようになるものだ。
だが率直な物言いはするものの、マリー師範代は傲慢不遜でも傍若無人な性格ではない。
彼女なりに自分を戒め、正道を歩んでいるのだ。
本当に良き人に師事できた。
俺はその喜びを噛み締めつつ、深々と頭を下げるのだった……。




