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故意無き恋~クリスマスの不適格者~  作者: おふとんふゎゎ


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11/20

第11部:失くした彼女の独白劇場

  ○


 ねえ、覚えてる?

 ほら、アインが私に会った時のこと。

 5年ぶりに会って、すごく驚いてた時のこと。

 あの時に私は、自分が売られたって言ったよね。

 あれはね、嘘。

 ホントは、お屋敷から逃げる途中で私がアインとはぐれちゃった後、盗賊の人たちに捕まらないで、逃げきれたんだ。

 この街に来てからアインがいないことに気付いて、ご飯も寝る場所も自分でどうにかしなきゃいけないって分かって、たくさん焦って、走り回って、生きていくためにお仕事探したんだよ。

 それで見つけたのが、このお店。

 知らない男の人に触られるのは怖かったし、いろいろと大変なこともあったけど、たくさんお金が貰えたし、何より、昔みたいに鞭でぶたれることはなかった。


 私ね、がんばったんだ。

 アインともう一度会った時、一緒に暮らせるように。

 2人で、おいしいご飯が食べられるようにって。


 他の友達と一緒に入ったパブでアインを見つけたのは、この街に来てからだいたい3年経ったくらいの時かな。

 店の中をバタバタと走り回ってお料理を運んでいたり、お酒を出したり、オヤジさんと笑いながら話していたりしてるのを見て、がんばってるなぁ、なんて思った。


 本当は、すぐに声をかけようとしたんだ。

 だけど、気づいてやめちゃった。

 私が、アインと一緒にいられるような人間じゃなくなってることに、気づいちゃった。

 たくさんの男の人に抱かれて、手段も何も考えないでお金をたくさんもらってた私には、アインは眩しすぎたんだ。

 いっぱい汚くなっちゃった私には、綺麗すぎたんだ。

 もう、近づけない。

 声も、かけられない。

 急いで帰って、シャワーを浴びて、石鹸を使っていっぱい体を擦ったし、いい匂いのする油も塗ったりしたけど、それでも染みついた臭いがとれないように思えて、ああ、もう私は触れないんだって思った。


 おクスリを始めたのも、だいたいその頃から、かな。

 いけないって、体に悪いって分かってたんだけど、少しでもアインから遠ざかりたくて、知り合いの売人さんから買って、使ってみたの。

 そうしたら、ほら、今みたいに、アインが目の前に立ってる。

 そのアインはね、君は悪くないって、十分綺麗だよって言ってくれて、それが嘘だって分かってても嬉しかった。


 お金はあったから、たくさん使って、たくさんアインと会った。

 たまにアインと、その……えっちなことをしたこともあったし、その度に、私は何やってるんだろって思ったりもしたけど、それでも、現実を見てるよりはずっとマシだった。


 そんな時に、本物のアインは、私と会ったの。

 悲しかったな……ずっと知られないでいようって思ったのに、アインは私を見つけちゃうんだもん。

 あの時、アインはすごく怒って、私を止めようとしてくれたよね。

 それで、私は色々言って、誤魔化して、帰っちゃった。

 今の生活も悪くないって、

 でも、本当はあれ、嘘なんだ。

 身の上話も嘘、平気だっていうのも嘘。

 だってさ、アイン、心配性でしょ?

 私のことをすごく気にかけてくれて、何でも背負おうとしちゃうでしょ?

 笑って、大丈夫だって、今以上にがんばろうとするでしょ?

 ……え? そんなことないって?

 ううん、あの時のアインは、そういう顔してた。

 だから、笑っちゃった。

 お金も、力も無いのに、どうするのって。

 現実を知ってるのに、それでも夢を見ようとしたアインが、あの時の私にはちょっぴり嬉しくて、だけど……すごく、妬ましかった。

 私が、これだけ苦しんでるのに。

 悩んで、クスリを使ってまでアインを避けたのに。

それでも貴方は何も気づかないで、私に近づこうとして、さ。

だから、イジワルなことを言ったの。

それでも生きていたいの、って。だけどアインは答えられなかったね。

 嘘を吐くこともできたのに、簡単に答えられたのに、それでも何も言わなかった。


 そうか、って私は思ったよ。

 そうか、やっぱり私とアインは違うんだ、って。


 アインは、やっぱり綺麗なままだった。

 あのお屋敷から逃げ出して、不幸の掃き溜めみたいなここに流れ着いても、やっぱり綺麗なままだったんだ。

 だから、私は言い出せなかった。

 苦しいとも、痛いとも、言えなかった。

 別に、アインが悪いんじゃなくて、単なる私の自己満足。

 アインを哀しませたくなくて、楽しいフリをしていたの。


 ねえ、アイン。

 あの約束、覚えてる?

 ずっと昔、まだお屋敷にいた頃の約束。

 もう10年以上前の今日、残飯を分け合いながら交わした約束。

 ねえ、覚えてる?

 久しぶりに会ってアインに訊かれた時は、嬉しかったなぁ。

 はぐらかしちゃったけど、私もずっと覚えてたんだ。


 2人で過ごそうって。

 一緒にお祝いしようって。


 ごめんね、アイン。

 約束したのに、できなくなっちゃって。

 ごめんね、アイン。

 本当のアインには言いたかったこと、結局言わずじまいになっちゃった。


 ――本当に、私ってバカみたいだ。

 何もかもが空回りで、何一つ成功しなくて。


 やっぱり、ごめんねってしか言えないや。




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