僕と彼女のよふね6
彼女はどこか苦笑しながらも漠然と語る表情が怪訝でかつ無表情にも取れるような目に変わった。
「7日…ああ、芦名くんは7日なんだ。へえ。そっか、それってちょっと羨ましいかも。私としては。」
なんだか少しずつ噛み合わない会話と彼女の含む物言いにどうにもカチンと来る。
それが顔に出ていたようだ。彼女はしまったという顔で
「ごめん、その話を先にするべきよね。いろいろと話さなきゃって思ってすっかり隅に追いやってたわ。」
と謝る。余計な口を挟まない方がいいだろう、目線で先を促す。
「私があの人に会ってわかったことの一つなんだけどね。私の場合【数字】が見えなくなるのはその人が死ぬ2日前なの。あの人は前日まで見えていた。でも芦名くんは7日前。この力にも個人差が出る部分があるってことね。」
なるほど、だから昨日この人は「2日後」って言ってきたわけか。
だがしかし同じモノなのに僕と彼女たちではあまりにも違う。
「……あの、僕はきっちり7日前ってわけじゃないんです。正確には『7日以内』っていう曖昧な期限しか見えなくて。だから、逆に僕は望月さんが羨ましいです。」
僕にはその人が“7日以内のどこで死ぬか”がわからない。
初めて出会った人にはもう【数字】がなくなっていて、その時点で7日以内なのかどうかさえあやふやだ。
だがこれも、僕の経験上100%に近い確立で会った日から7日以内という“修正機能”が発揮されるようだ。
「初めて【数字】の意味に気づいてから【数字】のない人間を見る度に、もうあと数分でこの人はいなくなるのかも、僕 が見たせいでこの瞬間から7日以内のカウントダウンが始まったのかもしれないとかあれこれ考えますよ。確かに子どもの頃は望月さんみたいな行動をしましたよ。誰彼なく。それも結局何の意味も持たなかったから…望月さんたちが残り時間が見えるのは、やっぱり羨ましく思います。」
ずいぶんと八つ当たりの口調なのはわかっているがひねくれた感情が表に出てしまう。
唯一の理解者だと思ったら苦しむところが少し違っている。
全てが全て同じわけじゃないのはわかるのに。
「ごめんなさい、芦名くんはそうだったんだね。うん、期間だけが決められていていつその時が来るのかを見てるだけなのは凄く怖い。それが近い人間なら尚更だよ。そう、さっきの話にはまだ続きがあるの。」
さっきの態度を思い出してしまい少しバツが悪くなった僕は押し黙った。
「私2日って言ったけど、どうしてそうだってわかるのか不思議に思わなかった? だって街中で初めて会った人の背中に【数字】がなくても、2日のうちのもう1日は終わってしまったかもしれない。」
確かにそうだ。僕とは少し違い、彼女たちの法則性には違和感がある点がある。
「つまり私は、2日後に死ぬ人に会ったときだけ【数字】が消えてみえるってこと。今日会って2日後にその人は死ぬってことなの。知り合いは消える予兆が見えるから、消えたときはああ来たかって覚悟する瞬間になるだけなんだけど。街中で突然遭遇すると…ね。だから確率的にはそんなに多くないのかも知れない。特に芦名くんに比べたら特にね。」
望月さんは少し嗤って僕の手元を見つめた。少し逡巡した後尋ねる。
「まあそうなりますが……。実際のところ、けっこう遭遇するんですか? 僕は道を歩けばほぼ毎日視界に入ってきますけど…。」
「そうね……やっぱり芦名くんほどじゃないわ。一週間に1人か2人ってところかな。だから余計に声を掛けたくなっち ゃうの。そのくらいの数の人の役に立てるならって。」
これは偽善か傲慢か。
「見ず知らずの他人から、あなた明後日死にますよって言われたら気持ち悪がられると思いますけど。不審に思われるこ とばかりなんじゃないですか?」
「あははっ、さすがに私だって直接そんな風には言えないから、私なりにいろいろ工夫して伝えてるよ。芦名くんにもそうしたつもりだったんだけどな。失敗だったね。それに、完璧に信じてもらえなくてもいいの。少しでも不安に思ったり、何かに気をつけようとか、意識に変化を与えられればそれでいいから。やっぱり意味のないことのように思えるけどね。」
むしろそれはマイナスの方向へ向かうことの方が多い気がする。そして自己満足だ。
知っていて備えられることに『死』は含まれない。
かつて世間を賑わせたノストラダムスの大予言にしろ、いたずらに漠然とした不透明な予言で恐怖させただけだ。
そして大半の人間はそれを知りながらも真に受ける人間は少数だった。まさにそれと同じだ。
しばらく黙り込んでいたら、その間に顔を上げた彼女が僕に問う。
「理解出来ないことだと思われても、それでいいの。結局のところ見える者として、何かしたいっていう自己満足だし。自分でもその点は自覚してるつもり。それでも私は、“私に”この力があるからには何かしないといけないのかなって思って、その意味を探すようにしてる。」
それが早く見つかればいいんだけど。と僕の言葉は気にしないで至極穏やかに笑った。
一方で僕はああそうかと思った。
この【数字】が見える力は僕にとって忌まわしいものでしかなくて、なんで僕にはこんな力があるんだろうとか自分にのしかかった運命についてしか考えなかった。
言われてみれば彼女は正しい。僕が思うことの上で自分と【数字】の関係の『意味』について模索している。
そう、彼女は正しいのだ。そして彼女は僕より強い。
未熟な話を読んでくださりありがとうございました。
ポイント評価だけでもお待ちしております。




