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悪役令嬢なのに慕われる!?~令嬢たちが放っておいてくれません~  作者: ねぎとろ


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第6話 お誕生日会

リリアーナの誕生日会当日。

私は朝から、少しばかり浮かれていた。

もちろん、公爵令嬢としての品位を損なうようなことはしていない。

……つもりである。

「お嬢様」

「なに?」

「先ほどから、もう五回ほど鏡をご覧になっていますが」

「……気のせいじゃない?」

「そうでございましょうか」

エマがにっこりと微笑む。

(……絶対に信じてない)

私は小さく咳払いをした。

「だって、今日はリリアーナ様のお誕生日会だよ?」

「はい」

「失礼があったら困るし、身だしなみは大切でしょ?」

「おっしゃるとおりでございます」

「だから、確認してるだけなの!」

「かしこまりました」

……完全に見透かされている。

しかも最近のエマは、以前よりも少しだけ意地悪になった気がする。

いや、きっと私が遠慮なく話せるようになったから、エマも気を遣わなくなったのだろう。

(……うん、そういうことにしておこう)

「それにしても、お嬢様」

「ん?」

「本日は、とてもお似合いでございますよ」

エマがドレスの裾を整えながら微笑んだ。

今日のドレスは、淡い桜色。

派手すぎず、それでいて華やかさもあるものを、お母様と一緒に選んだ。

「ありがとう、エマ!」

私は鏡の中の自分に向かって、もう一度だけ微笑んだ。

……六回目なのは、数えないことにする。

◇

馬車に揺られながら、私は膝の上に置いた小箱を見つめていた。

中に入っているのは、リリアーナ様への誕生日プレゼント。

銀細工の職人さんにお願いして作ってもらった、特別な栞だ。

本を開いた形の小さな飾りがついていて、表面には花の模様が刻まれている。

(……喜んでくれるかな)

最初は、お母様から宝石や髪飾りを贈ってはどうかと勧められた。

でも、リリアーナ様は子爵家の令嬢だ。

公爵家からあまり高価なものを贈ると、かえって気を遣わせてしまうかもしれない。

だから私は、彼女の好きなものを贈ることにした。

リリアーナ様は本を読むのが好きだ。

手紙でも、最近読んだ本の話をよくしてくれる。

(……これなら、きっと使ってもらえるよね)

「お嬢様、随分と大切そうに持っていらっしゃいますね」

向かいに座るエマが微笑んだ。

「だって、リリアーナ様へのプレゼントだもん」

「きっとお喜びになりますよ」

「……そうだといいなぁ」

私は小箱をそっと撫でた。

前世でも、友達への誕生日プレゼントを選ぶ時間は好きだった。

何を贈ったら喜んでくれるだろう。

どんな顔をするだろう。

そんなことを考えている時間が、何だか楽しいのだ。

◇

エヴァンズ子爵家に到着すると、すでに何人かの令嬢が集まっていた。

「ごきげんよう、ヴィオレッタ様」

「ごきげんよう!」

以前のお茶会で顔を合わせた子たちだ。

最初の頃のようなぎこちなさはなく、自然に挨拶を交わせるようになっていた。

(……なんだか嬉しいな)

ほんの少し前までは、誰と何を話せばいいのか分からなかったのに。

今では、こうして名前を呼んでもらえる。

そんな小さな変化が、何だかくすぐったかった。

「ヴィオレッタ様!」

聞き慣れた声に振り返る。

そこには、淡い水色のドレスを着たリリアーナ様が立っていた。

金色の髪には、小さな花の髪飾り。

いつもより少しだけ大人っぽく見える。

「リリアーナ様! お誕生日おめでとう!」

「ありがとうございます!」

リリアーナ様は嬉しそうに微笑んだ。

「今日は来てくださって、本当に嬉しいです」

「こちらこそ、招待してくれてありがとう!」

私は持っていた小箱を差し出した。

「これ、誕生日プレゼント。気に入ってくれるといいんだけど」

「私に、ですか?」

「うん!」

リリアーナ様は少し驚いたように箱を見つめた。

「……開けてもよろしいでしょうか?」

「もちろん!」

彼女がそっと蓋を開ける。

中に収められた銀の栞が、春の日差しを受けてきらりと輝いた。

「……綺麗」

リリアーナ様が小さく呟く。

「本を読むのが好きって言ってたから、使ってもらえたら嬉しいなって」

「……覚えていてくださったんですか?」

「え?」

私は思わず首を傾げた。

「もちろんだよ。大好きな友達の好きなものくらい、覚えてるよ?」

その瞬間、リリアーナ様の動きが止まった。

「……リリアーナ様?」

返事がない。

「……おーい?」

顔を覗き込むと、彼女の頬がみるみる赤くなっていく。

「……っ!」

「えっ、どうしたの!?」

「い、いえ! 何でもありません!」

リリアーナ様は慌てて首を振った。

(……もしかして、気に入らなかった?)

一瞬不安になったけれど、彼女は栞を胸元にそっと抱きしめた。

「……ありがとうございます。ずっと、大切にします」

その笑顔を見て、私はほっと胸を撫で下ろした。

(……よかった!)

◇

誕生日会は、穏やかな雰囲気の中で始まった。

庭園には綺麗な花が咲き、テーブルには色とりどりの焼き菓子が並んでいる。

令嬢たちは楽しそうに会話を交わし、リリアーナ様も主役として一人ひとりに挨拶をしていた。

(……前よりずっと堂々としてる)

以前のお茶会では、誰かに話しかけるのも緊張していたのに。

今では、自分から笑顔で声をかけている。

(……リリアーナ様も、頑張ってるんだなぁ)

そんなことを考えていると、少し離れた場所から声が聞こえてきた。

「まあ、随分と可愛らしい贈り物ですこと」

振り返ると、年上らしい令嬢がリリアーナ様の手元を見つめていた。

どうやら、先ほど私が贈った栞のことらしい。

「銀細工なのですね。公爵家からのお祝いですから、もっと豪華なものかと思っておりましたわ」

悪意があるのか、それとも単なる感想なのか。

その口調からは、よく分からなかった。

けれど、リリアーナ様が少し困ったように目を伏せたのが見えた。

(……あれ?)

「でも、とても素敵な栞です」

リリアーナ様がそう答える。

すると、その令嬢は小さく笑った。

「ええ、もちろん。お気に召したのでしたら何よりですわ」

……うーん。

これは、どう受け取ればいいんだろう。

(……貴族の会話って、やっぱり難しい)

私は少し考えてから、二人のそばへ歩いていった。

「リリアーナ様!」

「あっ、ヴィオレッタ様」

「その栞、気に入ってくれた?」

「はい! とても!」

「よかったぁ。実はね、どんなものにしようか、ずっと迷ってたんだ」

私は少し照れくさくなりながら笑った。

「リリアーナ様が本を好きなのは知ってたから、使ってもらえるものがいいなって」

すると、年上の令嬢が少し驚いたようにこちらを見た。

「……ヴィオレッタ様ご自身がお選びになったのですか?」

「うん。職人さんにも相談したんだよ」

「まあ……」

「宝石も素敵だけど、リリアーナ様にはこっちの方が似合うと思ったの」

そう言ってリリアーナ様を見ると、彼女は嬉しそうに微笑んでいた。

「……私、この栞が一番嬉しいです」

その声は、先ほどよりもずっとはっきりしていた。

「ヴィオレッタ様が、私のために選んでくださったものですから」

年上の令嬢は一瞬言葉に詰まった。

けれど、すぐに小さく微笑む。

「……そうでしたのね。それは素敵なお祝いですわ」

そう言って、別の令嬢たちの輪へ戻っていった。

(……ふぅ)

私は小さく息を吐いた。

何となく、難しい会話だった気がする。

「……ヴィオレッタ様」

「ん?」

「ありがとうございます」

「え? 何が?」

「……いえ、何でもありません」

リリアーナ様は、少しだけ照れくさそうに笑った。

その表情を見て、私も自然と笑顔になる。

◇

それからしばらくして、話題は将来のことへと移った。

「皆様は、将来どのような大人になりたいですか?」

伯爵令嬢の一人が、そんな質問をしたのだ。

(……将来かぁ)

まだ9歳の私たちには少し早い話題かもしれない。

けれど、貴族の子供たちは幼い頃から将来の役割を意識して育てられる。

だからなのか、みんな意外と真剣に考えているようだった。

「私は、お母様のような立派な貴婦人になりたいですわ」

「私は領地経営を学びたいです」

「動物が好きなので、将来は動物を診るお仕事をしてみたいです」

次々に答えが出てくる。

(……みんな、ちゃんと考えてるんだなぁ)

私は少し感心してしまった。

すると、隣にいた令嬢がこちらを向く。

「ヴィオレッタ様は、いかがですか?」

「……私?」

突然話を振られ、私は少し考え込んだ。

将来。

その言葉を聞いて、真っ先に浮かんだのは前世の記憶だった。

学校、友達、家族。

そして、突然終わってしまった人生。

次に浮かんだのは、この世界のこと。

悪役令嬢。

断罪。

破滅フラグ。

(……うーん)

考えれば考えるほど、難しい。

でも、最後に出てきた答えは、意外と単純なものだった。

「……楽しく、生きたいかな」

「……え?」

令嬢たちが目を丸くした。

(……あれ? 変なこと言った?)

私は慌てて言葉を続ける。

「もちろん、勉強も頑張りたいし、公爵家の娘としてちゃんとしなきゃいけないのは分かってるよ」

「え、ええ……」

「でも、それだけじゃなくて」

私は少し考えてから、笑顔で言った。

「好きなことを見つけたり、友達と遊んだり、美味しいものを食べたり……そういう時間も大切にしたいなって」

令嬢たちは静かに耳を傾けていた。

「だって、せっかく生きてるんだもん。楽しいことがたくさんあった方がいいでしょ?」

そう言うと、しばらく沈黙が流れた。

(……あれ、やっぱり変だったかな?)

少し不安になった、そのときだった。

「……素敵ですわね」

一人の令嬢が小さく呟いた。

「私、そんなふうに考えたことがありませんでした」

「私もです」

別の令嬢が頷く。

「将来のために頑張ることばかり考えていましたけれど……今を楽しむことも、大切なのですね」

「うん!」

私は嬉しくなって頷いた。

「もちろん、将来のために頑張るのも大事だと思うよ。でも、楽しいことがあった方が、頑張れる気がするんだ」

すると、リリアーナ様が小さく笑った。

「……私も、そう思います」

「リリアーナ様?」

「以前は、お茶会に出ることが少し苦手でした。でも、今は違います」

彼女は周囲の令嬢たちを見回した。

「皆様とお話しするのが、とても楽しいんです」

その言葉に、何人かの令嬢が微笑んだ。

「私もですわ」

「今日のお茶会も、とても楽しいです」

「ふふっ、ありがとうございます」

リリアーナ様が嬉しそうに笑う。

(……よかった)

何だか少し恥ずかしかったけれど、私の言葉が伝わったみたいだ。

……まあ、本当のところは。

(断罪さえ回避できれば、あとは平和に楽しく暮らしたいだけなんだけどね!)

そんな本音は、もちろん秘密である。

◇

楽しい時間は、あっという間に過ぎていった。

帰り支度を終えた私は、玄関でリリアーナ様に挨拶をしていた。

「今日はありがとう! すごく楽しかったよ」

「こちらこそ、来てくださってありがとうございました」

リリアーナ様は、嬉しそうに微笑んだ。

その手には、私が贈った銀の栞が大切そうに握られている。

「……あの、ヴィオレッタ様」

「ん?」

「今日、少しだけ分かったことがあるんです」

「分かったこと?」

「はい」

リリアーナ様は小さく息を吸った。

「今までは、皆様にどう思われるかばかり気にしていました。でも……」

彼女は栞へ視線を落とす。

「自分が嬉しいと思ったことを、ちゃんと伝えてもいいんですね」

「……うん!」

私は笑顔で頷いた。

「もちろんだよ!」

リリアーナ様も、嬉しそうに笑った。

「……ありがとうございます」

その笑顔は、初めて会った頃よりもずっと明るかった。

◇

帰りの馬車の中。

私は座席にもたれながら、大きく息を吐いた。

「……はぁ、楽しかったぁ」

「お疲れ様でございました」

エマが微笑む。

「リリアーナ様、とてもお喜びでしたね」

「うん! 栞も気に入ってくれたみたいでよかった!」

「ええ。大切そうに持っていらっしゃいました」

私は窓の外を眺めた。

夕暮れの空が、淡い橙色に染まっている。

(……友達の誕生日を祝うなんて、前世では当たり前だったけど)

この世界では、少し違う。

家柄や身分、礼儀作法。

気をつけなければならないことも多い。

でも、それでも。

(……楽しいものは、楽しいよね)

私は小さく笑った。

「ねえ、エマ」

「はい、お嬢様」

「私、もっといろんな子と仲良くなりたいな」

エマは少し驚いたように目を瞬かせた。

それから、穏やかに微笑む。

「きっと、たくさんのお友達ができますよ」

「……そうかな?」

「はい。今のお嬢様でしたら」

その言葉が嬉しくて、私は思わず笑顔になった。

「……ありがとう、エマ!」

馬車は夕暮れの道を、ゆっくりと進んでいった。


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