第5話 広がる輪
リリアーナのお茶会から数週間が過ぎた。
ヴィオレッタの日常は、以前より少しだけ賑やかになっている。
「お嬢様、お手紙です」
「また?」
「またです」
エマが差し出した銀盆の上には三通の封筒が載っている。
ヴィオレッタは目を丸くした。
「増えてる……」
最初はリリアーナからの一通だけだった。
それがいつの間にか二通になり、三通になり、今では毎週のように届くようになっている。
差出人は様々。リリアーナ、前回のお茶会で会った伯爵令嬢、侯爵家の令嬢。
その友人、そのまた友人・・・
「貴族の情報伝達って早いなぁ……」
前世ならSNSみたいなものだろうか。
そんなことを考えながら封を開く。
『先日おすすめしていただいた本を読みました』
『今度ぜひお花のお話を聞かせてください』
『またご一緒にお茶会ができれば嬉しいです』
どれも他愛ない内容だけど、読んでいて悪い気はしない。
「お返事書かなきゃ」
ヴィオレッタは机へ向かった。
◇
「リリアーナ様、最近楽しそうですね」
侍女が微笑みながら言った。
リリアーナは少し頬を赤くする。
「そうでしょうか」
「ええ」
否定はできない。
以前はお茶会に出ても緊張してばかり。
家格の高い令嬢が集まる場は苦手だった。
失礼がないか、常に気にかけてないといけない。
でも――最近は違う。
ヴィオレッタ様と話した日のことを思い出すだけで少し勇気が出た。
公爵令嬢である彼女が、何の気負いもなく隣に座り、話しかけてくれた。
あの時の安心感は今でも覚えている。
「またお会いしたいな……」
小さな呟きは誰にも聞こえなかった。
◇
ヴィオレッタは屋敷の図書室で本を読んでいた。
内容は王国史、内容は難しい・・・というか・・・
「同じ王様の名前が多すぎる……」
十代目アルフレッド。
十一代目アルフレッド。
十二代目アルフレッド。
思わず机に突っ伏そうとした時だった。
「お嬢様」
エマが入ってくる。
「リリアーナ様がお見えです」
「え?」
ヴィオレッタは顔を上げた。
◇
応接室へ向かう。
そこにはリリアーナ・・・と今日は母親も一緒らしい。
男爵夫人が優雅に頭を下げる。
「突然の訪問をお許しください」
「いえ」
ヴィオレッタも慌てて挨拶を返す。
まだこういう場には慣れない。
するとリリアーナが少し緊張した様子で口を開く。
「あの……」
「うん?」
「実はお願いがありまして」
「お願い?」
リリアーナはちらりと母親を見る。
男爵夫人が優しく頷いた。
「来月、私の誕生日のお茶会を開くのです」
「おお」
誕生日会・・・少し懐かしい響きに前世を思い出す。
「それで……」
リリアーナは小さく息を吸った。
「ヴィオレッタ様にも来ていただけたら嬉しいなって……」
私は思わず笑顔になった。
「行きます!」
「本当ですか?」
「もちろん」
(友達の誕生日会を断る理由なんてないでしょ!)
リリアーナの顔がぱっと明るくなる。
その様子を見ていた男爵夫人もほっとしたように微笑んだ。
◇
――帰り際
玄関まで見送りに出たヴィオレッタは、ふと疑問を口にした。
「誕生日会ってそんなに緊張するものなの?」
リリアーナは少し考えた。
「私にとっては……そうですね」
「そうなんだ」
「だって」
リリアーナは恥ずかしそうに笑う。
「大好きなお友達を招待するのですから」
ヴィオレッタは少し照れた。
面と向かって友達と言われるのは、なんだかくすぐったい。
「じゃあ楽しみにしてるね!」
「はい!」
リリアーナは嬉しそうに頷いた。
◇
――帰りの馬車の中
男爵夫人は隣の娘を見て微笑んだ。
「良かったわね」
「はい」
「本当に嬉しそう」
リリアーナは窓の外を見ながら小さく笑う。
以前の自分なら、きっとこんなお願いはできなかったと思う。
けれどヴィオレッタ様は違う。身分も家柄も気にせず、私と友達になってくれた。
「私も・・・ヴィオレッタ様のようになりたいな・・・」




