第4話 お友達ゲット
お茶会から数日が過ぎ、ヴィオレッタは自室の机に向かっていた。
目の前には山積みの本があり種類は様々だ。
歴史、地理、礼儀作法と王国法の初歩。
どれも転生前には縁のなかったものばかり。
「貴族って大変……」
思わず呟く。
前世なら学校が終われば友達と遊んだり、動画を見たりしていた。
だが今は違う。私は公爵令嬢、将来困らないため、破滅を回避するためにも勉強は必要だ。
そう自分に言い聞かせて本を開くが・・・
「難しい……」
数分後には机に突っ伏していたその時、
――コンコン
扉が叩かれる。
「お嬢様、お手紙が届いております」
エマが銀盆を持って入ってきた。
「手紙?」
「はい」
差し出された封筒を見る。白い上質な紙に可愛らしい花の封蝋。
差出人の名前を見た瞬間、ヴィオレッタは目を瞬いた。
「リリアーナ様?」
先日のお茶会で知り合った少女だった。
◇
手紙の内容は簡潔だった。
『先日はありがとうございました』
『とても楽しい時間でした』
『もしご迷惑でなければ、またお話ししたいです』
最後の一文を読んで、ヴィオレッタは思わず顔をほころばせた。
「友達だ」
「お友達ですか?」
「うん」
エマが少し目を丸くする。
ヴィオレッタが同年代の令嬢を友達と呼ぶのは初めてだったからだ。
以前のヴィオレッタは同年代の子と遊ぶより、大人を振り回す方が好きだった。
少なくとも使用人たちはそう認識している。
「お返事書こうかな」
「お手伝いいたします」
ヴィオレッタは便箋を取り出した。
前世ではメッセージアプリばかりだったので、手紙を書く機会などほとんどなかった。
だから少し楽しい。
『こちらこそ楽しかったです』
『またお話ししましょう』
そんな短い文章を書いて封をする。
それだけなのに、妙にわくわくした。
◇
数日後、再び手紙が届いた。
そしてまた返事を書く、さらに数日後、また届く。
「文通ってこんな感じなんだ……」
ヴィオレッタは感心した。前世では思い付いたらすぐ連絡できた。
しかし今は違う。返事が届くまで何日もかかる。
だからこそ、届いた時が嬉しい。
◇
そんなある日——
リリアーナから届いた手紙には一枚の招待状が同封されていた。
『小さなお茶会を開くことになりました』
『もしご都合がよろしければお越しください』
ヴィオレッタは何度か文章を読み返した。
「お茶会?」
「いかがなさいますか?」
エマが尋ねる。
「行くよ!」
友達に誘われたのだ、断る理由がない。
◇
当日——
エヴァンズ男爵家の屋敷は、公爵家と比べればずっと小さかった。
しかし綺麗に手入れされていて、庭の花も美しい。
「素敵なお屋敷だね」
ヴィオレッタがそう言うと、出迎えたリリアーナは少し嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます」
前回よりも表情が柔らかく、緊張も少ない。
それを見てヴィオレッタも安心する。
◇
庭園へ案内され、ヴィオレッタは少し驚いた。
「あれ?」
見覚えのある令嬢たちがいる。
先日のお茶会に参加していた子たちだ。
「こんにちは」
「ごきげんよう、ヴィオレッタ様」
「またお会いできましたわ」
みんな笑顔だった。
どうやらリリアーナが招待したらしい。
「楽しそう」
ヴィオレッタは素直に思った。
前世でも友達の家に集まって遊ぶことはあった。
それに少し似ている。
◇
お茶会は和やかに進んだ。
好きなお菓子の話、最近読んだ本の話、飼っている動物の話。
この前よりずっと気楽、そしてヴィオレッタは気付く。
前回は緊張していた令嬢たちも、今は普通に話してくれている。
「ヴィオレッタ様は本当に本がお好きなのですね」
「うん」
「どんな本を?」
「最近は歴史かな」
正確には勉強のためだ。
だが令嬢たちは感心したように頷く。
「すごいですわ」
「私なら眠ってしまいます」
「それは分かる」
それだけのことなのにとても楽しかった。
◇
お茶会の終わり、ヴィオレッタが帰ろうとした時。
「ヴィオレッタ様」
リリアーナが呼び止めた。
「どうしたの?」
「今日は来てくださってありがとうございました」
「こちらこそ誘ってくれてありがとう」
ヴィオレッタは自然にそう答えた。
するとリリアーナは少し迷った後、小さく言った。
「私……嬉しかったんです」
「?」
「先日のお茶会で、ヴィオレッタ様が話しかけてくださって」
ヴィオレッタは首を傾げる。
そんなに特別なことだっただろうか。
「私、あの日は少し不安だったので」
リリアーナは照れくさそうに笑う。
「だから、とても嬉しかったんです」
その笑顔は前よりずっと明るく、ヴィオレッタもつられて笑う。
「そっか!」
◇
帰りの馬車の中、ヴィオレッタは窓の外を眺めていた。
「お嬢様、楽しかったですか?」
エマが尋ねる。
「うん」
即答だった。
「友達っていいね」
エマは少しだけ目を細め思う。
最近のお嬢様は、本当に変わった。
(以前よりも・・・ずっとずっと楽しそうだ)




