第28話 初めての昼食
アリア・フォスターは緊張していた。
ものすごく緊張していた。
なぜなら、目の前にいるのが公爵令嬢だからである。
しかも一人ではない。
侯爵令嬢、子爵令嬢。
ついでに先ほど自分を助けてくれた張本人。
(自分からお願いしておいてなんだけど、逃げたい)
そんな気持ちで席に着いた。
◇
中庭のテーブルにただ一人、アリアだけが緊張していた。
沈黙が流れる。
体感では数十分。実際には数秒だった。
最初に口を開いたのはセレスティアだった。
「そんなに緊張しなくていいよ?」
「えっ」
アリアが固まる。
セレスティアは苦笑した。
「顔に書いてある」
「そ、そんなことありません!」
「あります」
今度はリリアーナが言った。
アリアはさらに固まった。
ヴィオレッタは首を傾げる。
「そんなに緊張する?」
「します!」
思わず即答してしまった。
だって公爵令嬢だ。緊張しない方がおかしい。
しかし、三人は顔を見合わせた。
そして、なぜか揃って苦笑した。
「ヴィオレッタだからなぁ」
セレスティアが言う。
「ヴィオレッタ様ですからね」
リリアーナも頷く。
アリアには意味が分からない。
ヴィオレッタ本人も分からなかった。
「どういうこと?」
「そのままの意味」
「そのままです」
さらに分からない。けど、そんなやり取りを見て、アリアは少しだけ肩の力が抜けた。
(なんだろう、想像していた貴族令嬢たちと違う)
もっと優雅で近寄り難くて完璧な存在だと思っていた。
目の前の三人は普通に笑っている。
特にヴィオレッタは入学式で見た時よりずっと身近に感じた。
もちろん綺麗、驚くほど綺麗だ。
けれど、それ以上に親しみやすい。
「アリアさんはどちらから来たの?」
ヴィオレッタが尋ねる。
「王都の南です」
「遠い?」
「馬車で半日くらいです」
「へぇ」
ヴィオレッタが素直に感心する。
本当に普通の会話だった。
身分を確認するわけでも。家格を尋ねるわけでもない。
ただの雑談。
「勉強は大変だったのでしょう?」
リリアーナが尋ねる。
「はい」
アリアは頷いた。
「特待生試験を受けるためにずっと勉強していました」
「凄いです」
リリアーナが素直に感心する。
「私なら途中で眠ってしまいます」
「私も!」
ヴィオレッタが頷く。
「歴史で何回も寝そうになった」
アリアが思わず笑う。
公爵令嬢も歴史で苦労するらしい。
「ヴィオレッタは本当に勉強嫌いだから」
「嫌いじゃないよ?」
「好きでもないよね?」
「……」
セレスティアが吹き出し、リリアーナも笑う。
アリアもつられて笑ってしまった。
気付けば、緊張はかなり消えていた。
◇
その時だった、
「そういえば」
セレスティアがふと思い出したように言う。
「アリアって首席なんだよね」
アリアの身体が少し強張る。
今日だけで何度も聞いた言葉だった。
「勉強教えて」
「え?」
アリアが固まる。
「今度試験前」
「そこは私もお願いしたいです」
リリアーナも続く。
「え?」
アリアがさらに混乱する。
首席だから凄と言われることはあった。
でも、頼られるのは初めてだった。
「私もお願いしたい」
ヴィオレッタまで言った。
「わ、私で良ければ……」
三人の表情がぱっと明るくなった。
まるで友達同士の約束みたいだった。




