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悪役令嬢なのに慕われる!?~令嬢たちが放っておいてくれません~  作者: ねぎとろ


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第27話 気になる人

27話

 教室を出ると、すぐに見慣れた姿が駆け寄ってきた。

 「遅い!」

 セレスティアだった。

 腰に手を当て、少しだけ不満そうな顔をしている。

 「待ってたんだからね」

 「ごめんごめん」

 ヴィオレッタが笑う。

 するとセレスティアはふと首を傾げた。

 「何かあった?」

 「え?」

 「教室の前、ちょっと人集まってたけど」

 流石に気付いていたらしい。

 リリアーナが小さく息を吐く。

 「少しだけ騒ぎになっていたんです」

 「騒ぎ?」

 「平民の特待生の方がいらっしゃるでしょう?」

 「ああ」

 セレスティアも思い出したように頷く。

 入学式で見た少女だ。

 首席入学という話も耳に入っている。

 「その方が少し絡まれていましたので」

 リリアーナが説明すると、セレスティアは露骨に嫌そうな顔をした。

 「面倒くさいなぁ……」

 「ですよね」

 「首席なら首席でいいじゃん」

 あっさり言う。

 いかにもセレスティアらしい。

 「ヴィオレッタが助けたの?」

 「まあ、助けたというか、なんというか…」

曖昧な返答に対してリリが反応する。

 「助けていました。公爵令嬢らしい立ち居振る舞いで」

 「だと思った」

 ヴィオレッタが目を瞬かせる。

 「そう?」

 「そうだよ」

 「そうです」

 リリアーナまで頷いた。ヴィオレッタは納得がいかない。

 困っている人がいたら助ける。

 それだけのこと。そんなに珍しいことだろうか。

◇

 三人は昼食を取るため中庭へ向かった。

 フィオラ女学院の中庭は広く、美しく整えられていた。

 春の花々が咲き誇り、生徒たちも思い思いに昼食を楽しんでいる。

 ヴィオレッタたちも空いているテーブルへ腰掛けた。

 しばらく談笑していた時だった。

 ふと、ヴィオレッタの視線が止まる。

 少し離れた木陰にアリア・フォスターがいた。

 一人で昼食を食べている。

 周囲には誰もいない。誰かと話している様子もなかった。

 その様子にリリアーナが気付く。

 「ヴィオレッタ様?」

 「え?」

 「どうかなさいましたか?」

 ヴィオレッタは慌てて視線を戻した。

 「な、何でもないよ」

 (気になる、ものすごく気になる。だってゲームの主人公が一人でいるなんてあり得ない状況だよ!)

 しかも今日、いきなりイベントらしきものまで発生した。

 気にならない方がおかしい。セレスティアもアリアを見つけたらしい。

 「あれ?」

 「どうしました?」

 「一人なんだなと思って」

 リリアーナも視線を向ける。

 少しだけ表情が曇った。

 今朝のことを思い出したのだろう。

 アリアは笑っていた。

 (特に落ち込んでいるようにも見えなかったけど…)

 どこか無理をしているようにも見えた。

 「……」

 ヴィオレッタが黙る。セレスティアがその横顔を見た。

 「ヴィオレッタ」

 「なに?」

 「変なこと考えてない?」

 「考えてないよ」

 セレスティアは知っている。

 ヴィオレッタが即答する時は大体考えている。

 「絶対考えてる」

 「考えてません」

 「考えてる」

 「考えてません」

 リリアーナが苦笑する。

 そのやり取りだけで答えは出ていた。

 その時だ、数人の令嬢がアリアの近くを通り過ぎる。

 ちらりと視線を向ける。

 何かを囁き、小さな笑い声。

 アリアは聞こえないふりをした。

 だが、その手が少しだけ止まる。

 ヴィオレッタの眉がぴくりと動く。

 セレスティアが額を押さえた。

 「あー……」

 もう遅いとリリアーナも悟った。

 今のヴィオレッタは何かを決めた顔をしている。

 ヴィオレッタは立ち上がった。

 「ちょっと行ってくる」

 「だと思った」

 セレスティアがため息を吐く。

 リリアーナは歩き始めたヴィオレッタを見つめ、笑みを浮かべる。

 「流石、ヴィオレッタ様ですね」

 セレスティアも呆れたように笑みを浮かべる。

 「そうね、本当に昔から変わらないんだから」

◇

 アリアは少し困っていた。

 昼食を食べているだけなのに視線を感じる。

 もちろん理由は分かっている。

 平民だから、特待生だから、そして首席入学だから。

 入学初日から目立ってしまった。

 それは仕方ない、そう自分に言い聞かせながら弁当を開く。

 その時、目の前に影が差した。

 顔を上げ、そして固まる。

 そこにいたのは、ヴィオレッタ・アルバレスだった。

 周囲がざわつくが、ヴィオレッタは気にしていない。

 アリアの前で立ち止まり、

 「隣、座ってもいい?」

 アリアは数秒固まった後、

 「は、はい!」

 と慌てて頷いた。

 ヴィオレッタは安心したように微笑み、隣へ腰を下ろす。

 アリアは緊張していた。今日一日で何度か接触はあったが、相手は公爵令嬢。

今日の一件のこともあり、身分差の重要性を今まで以上に意識してしまう。

 どうして公爵令嬢が自分の隣にいるのだろう。

 一方でヴィオレッタも緊張していた。

(どうしよう、勢いで来ちゃった…まさかこれは仕組まれたイベント!?私がここに来るよう誘導されたのでは!?)

 全く別方向の緊張である。

 しばらくして、アリアが口を開いた。

 「その……」

 「うん?」

 「また助けていただいてありがとうございました」

 ヴィオレッタは首を傾げる。

 「助けたかな?」

 「助けてくださいました!」

 即答だった。

 その反応にヴィオレッタは少し困る。

 ただ、嬉しそうに笑うアリアを見ていると悪い気はしなかった。

 「アリアさんは凄いね」

 「え?」

 「首席なんでしょう?」

 アリアが目を丸くする。

 今日何度も言われた言葉だ。

 だが、こんな風に言われたことはなかった。

 「頑張ったんだね」

 ヴィオレッタの笑顔には嫌味も皮肉もない。

 純粋な称賛だけ。

 アリアは少しだけ目を伏せる。

 嬉しかった。少し泣きそうになるくらいには。

 「ありがとうございます」

 小さくそう答えたその時、

 「ヴィオレッター!」

 元気な声が飛んでくる。

 振り返るとセレスティアとリリアーナがこちらを見ていた。

 「2人とも、どうしたの?」

 セレスティアは呆れたように笑う。

 「どうしたのじゃないよ」

 「昼食途中で消えないで」

 ヴィオレッタは首を傾げた。言われてみればそうだ。

 すると、アリアが慌てて立ち上がる。

 「あ、あの!」

 三人の視線が集まり、アリアは一瞬躊躇する。

 だが勇気を出して口を開く。

 「ご一緒してもいいですか?」

 アリアは言った直後に後悔した。

 相手は公爵令嬢、侯爵令嬢、子爵令嬢。

 自分とは住む世界が違う。

 断られて当然、そう思った。

 しかし、ヴィオレッタはぱっと笑った。

 「もちろん!」

 その笑顔にアリアが目を見開く。

 「一緒に食べよう」

 迷いのない言葉だった。

 アリアの表情が少しずつ明るくなる。

 リリアーナはアリアの表情を見て、小さく固まっていた。

(増えました……)

 本当にほんの少しだけ、頬が膨らんだ。

 セレスティアはそんなリリアーナを見て吹き出しそうになる。

 ヴィオレッタは全く気付いていない。

 こうしてアリア・フォスターは初めてヴィオレッタたちの輪へ足を踏み入れた。


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