第25話 主人公イベント?
ホームルームは滞りなく進んだ。
教師から学院生活についての説明があり、生徒たちは真剣に耳を傾ける。
ヴィオレッタも話を聞いていた、聞いてはいたのだが。
時々視線が前の席へ向いてしまう。
(……うん、主人公だよね)
何度確認しても結論は変わらなかった。
そして授業が終わり、昼休みになった。
◇
教室は一気に賑やかになる。
友人同士で集まり始める生徒たち。
入学初日とは思えないほど会話が弾んでいた。
貴族社会は狭い。
幼い頃から顔見知りということも珍しくない。
そんな中、ヴィオレッタはあることに気付いた。
(あれ?)
主人公が一人だ。
窓際の席に静かに座っている。
周囲に誰もいない。
誰かが避けているようにも見えない。
だけど、誰も話しかけない。
それが妙に目についた。
その時だ。数人の令嬢が主人公の席へ近付く。
主人公は少し嬉しそうな顔になる。
話しかけてもらえると思ったのだろう。
最初に口を開いた令嬢の声は柔らかかった。
「フォスターさんでしたわね」
「は、はい!」
主人公が笑顔で答える。
令嬢は微笑んだ。
「特待生だそうですわね」
「ありがとうございます」
「平民でありながら貴族が集められるこの学園に入学。しかも特待生だなんて…凄いことですわ」
言葉だけなら褒め言葉だ。
だが、主人公の表情が少しだけ固くなる。
別の令嬢が続けた。
「普段はどのようなお勉強を?」
「えっと……本を読んだり、先生に教わったり……」
「先生?」
「家庭教師ではありませんよね?」
「はい」
主人公が頷く。令嬢たちは顔を見合わせた。
そして、
「まあ」
小さく笑う。
「それで首席?」
「本当に優秀なんですね」
周囲からも小さな笑い声が聞こえた。
主人公は困ったように笑う。
貴族目線で見れば悪意があるのは明らかだ。
ただ、平民出身の主人公は悪意があるのかないのか判断できないのだろう。
すると、別の令嬢が言った。
「でも少し不思議ですわ」
「え?」
「フィオラは王国でも有数の名門学院ですもの」
にこり。
綺麗な笑顔を向けるが、続く言葉は鋭かった。
「“平民”の方が本当に首席を取れるものなのですね」
教室が静かになる。主人公が息を呑んだ。
周囲の生徒たちも聞いている。
止める者はいない。
興味があるのだ。
平民の特待生で主席という珍しい肩書に。
主人公は少し俯いた。
それでも、無理に笑顔を作る。
「頑張りましたので」
その返事に令嬢たちは再び顔を見合わせた。
◇
「頑張った、ですか」
「はい」
「一体何を頑張ったのかしら…まさか」
その声音には明らかな棘があった。
「平民出身の方は恋愛に積極的な女性が多いと聞きますから…ねぇ?」
令嬢たちは顔を見合わせ小さく笑いあう。
主人公が黙る。何と言えばいいのか分からないのだろう。
その様子をヴィオレッタは遠くから見ていた。
そして、
(来た…来た!)
頭の中で警鐘が鳴る。
(主人公イベントだ!!)
絶対にそうだ、間違いない。
(ゲームはやってないから分からないけど、絶対これでしょ!)
主人公が嫌味を言われて。
孤立して、そこから物語が始まる。
リリアーナも気付いていた。
不安そうに主人公を見る。
「ヴィオレッタ様……」
小さな声、ヴィオレッタは答えない。
ただ、静かに席を立った。
歩いてくる公爵令嬢の姿に何人かが気付く。
ざわりと空気が揺れた。ヴィオレッタは止まらない。
まっすぐ主人公の方へ歩いていく。
その蒼い瞳には珍しく迷いがなかった。
(大丈夫)
(これは絶対に主人公イベントだ。恐らくだけど、この役、本当は私がやるはずだったのでは…?)
そんな確信と疑念と共にヴィオレッタは前へ進み主人公の前に立ちはだかった。




