第24話 主人公との邂逅
入学式が終わり、新入生たちはそれぞれの教室へ向かう。
廊下は期待と緊張で満ちていた―― 一人を除いて。
ヴィオレッタの頭の中は別の意味で大混乱だった。
(いた)
主人公がいた。平民出身にも関わらず、確か特待生で努力家で明るい性格。
私がプレイしたゲームでは能力を買われて、王族が運営する生徒会に加入。
そこで、各キャラと親密になっていき、各々のルートに派生していく。
(最終的には、恋仲になって幸せな生活を送りますと……主人公はね!!)
隣を歩くセレスが不思議そうな顔をした。
「ヴィオレッタ?」
「え?」
「さっきからずっと難しい顔してる」
「そ、そんなことないよ」
「してる」
リリも心配そうに見上げてくる。
「何かありましたか?」
「ううん、大丈夫よ」
言えるわけがない。
(あなたたち攻略対象かもしれません、なんて)
◇
教室へ入ると席表が張り出されていた。
生徒たちが集まっており、ヴィオレッタも確認する。
そして、
「……あ」
思わず声が漏れた。リリと同じクラスだ。
「ヴィオレッタ様!」
リリも嬉しそうだ。その表情を見てヴィオレッタも少し安心する。
しかし、
「私は隣のクラスかぁ」
セレスが残念そうに肩を落とした。
「休み時間に会えるよ」
「それはそうだけど」
むぅ、と頬を膨らませる。
相変わらず分かりやすい。
そんなやり取りをしていると、教室の入口が少し騒がしくなった。
そこにいたのは、入学式で見た栗色の髪の少女だった。
主人公の姿にヴィオレッタの背筋が伸びる。
(来た)
少女は少し緊張した様子で席表を見ている。
ほっとしたように息を吐いた。どうやら席が見つかったらしい。
その席は――ヴィオレッタの数列前だった。
(近い、近すぎる)
ゲーム的に何か意味があるのではないか。
ヴィオレッタは勝手に緊張した。
その時だった。
「ご、ごめんなさい!」
主人公が慌てた声を上げた。
教室へ入ろうとしていた別の生徒とぶつかったらしい。
持っていた本が床に散らばる。
周囲がざわつく。主人公は真っ青になっていた。
「すみません!」
慌てて本を拾おうとする。
相手も慌てている。ただの小さな事故だ。
だが、ヴィオレッタの脳内では、
(主人公イベント!?)
警報が鳴り、反射的に立ち上がる。
気付けば身体が動いていた。
ヴィオレッタは床に落ちた本を拾い上げた。
主人公が目を丸くする。
「え?」
ヴィオレッタは本を手渡した。
「大丈夫?」
「は、はい!」
主人公が慌てて受け取る。
近くで見るとやはり普通の少女だった。
特別派手でもない。けれど不思議と目を引く。
優しそうな雰囲気がある。主人公は深々と頭を下げた。
「ありがとうございます!」
「気にしないで」
「でも――」
「怪我はない?」
「ありません!」
元気な声を聴くと、ヴィオレッタは少しだけ安心した。
そして、主人公は少し躊躇った後に小さく笑う。
「アルバレス様ですよね?」
ヴィオレッタは固まる。
「入学式で見かけました」
「そ、そう」
「綺麗な方だなと思って」
(ーヴィオレッタ硬直につき思考停止ー)
主人公はにこりと笑う。
「助けてくださってありがとうございました!」
そう言って自分の席へ向かった。
残されたヴィオレッタはしばらく動けなかった。
◇
数分後、席に戻ったヴィオレッタにリリが小声で尋ねた。
「お知り合いですか?」
「違うよ」
「そうなんですか?」
「今日初めて会った」
(前世の記憶を除けばね)
リリは不思議そうに首を傾げた。
「仲が良さそうでした」
「そうかな?」
「そうです」
ヴィオレッタが少し驚く。
リリアーナは視線を逸らした。
「だって」
小さな声、
「…今日初めて会った方なのに」
「ん?リリ、何て言ったの?」
「何も言ってません」
少しだけ頬を膨らませながら言う。本人は膨らませている自覚がないようだけど。
(え、なんかリリがむくれてる…可愛いな……待って、まさか!?ここから仲が悪くって破滅ルートの一歩を踏み出すのでは!?)
ヴィオレッタは思わず主人公を見る。主人公は一人自分の席に座っている。
今の所は何も起きていないはず。
(なのに、なんでだろう)
ヴィオレッタは嫌な予感しかしなかった。
そして、教壇へ教師が入ってきた。学園生活最初のホームルームが始まる。
(不安しかないよ……)
ヴィオレッタはあふれ出るため息を飲み込んだ。




