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悪役令嬢なのに慕われる!?~令嬢たちが放っておいてくれません~  作者: ねぎとろ


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第21話 悪役令嬢の誕生日会 後編

「こちらです、お嬢様!」

 使用人に案内され、四人は保管庫へと駆け込んだ。

 そこには、星涙の雫を保管していた箱が置かれている。

 「……確かに、中身が違います」

 箱の中に入っていたのは、古びた銀細工の小箱だった。

 ヴィオレッタは首を傾げる。

 「これ、星涙の雫じゃないよね?」

 「はい」

 使用人が頷いた。

 「ですが、箱は間違いなく本物です」

 「変だなぁ……」

 ヴィオレッタが考え込む。

 その横で、カトレアは箱を調べていた。

 「鍵を壊した形跡はありません」

 「じゃあやっぱり盗まれたんじゃない?」

 セレスが言う。

しかしカトレアは首を横に振った。

 「盗んだのであれば、わざわざ別の物を残す必要がないよ」

 「確かに」

 セレスも腕を組む。

 その時。

 「……あの」

 リリが小さく声を上げた。

 「どうしたの、リリ?」

 「この紐です」

 保管箱に結ばれた紐を指差す。

 「一度ほどいて、別の方が結び直したように見えます」

 「分かるの?」

 セレスが驚く。

 リリは少し恥ずかしそうに頷いた。

 「刺繍や手芸をしているので……」

 カトレアが感心したように目を細めた。

 「なるほど」

 「でも、それなら余計に変じゃない?」

 セレスが言う。

 「盗むなら、そんなことしなくてもいいでしょ」

 「うん」

 ヴィオレッタも頷く。

 そして少し考え込んだ。

 「……盗まれたんじゃないのかも」

 「え?」

 「最初から別の場所にあるとか」

 三人が顔を見合わせたその時、使用人が駆け込んできた。

 「ヴィオレッタお嬢様!」

 「どうしたの?」

 「旦那様から伝言です。『星涙の雫について心当たりがある。執務室へ来なさい』と」

 ヴィオレッタの目が輝く。

 「行こう!」

◇

 執務室の扉が開く。

 そこにはヴィオレッタの父――アルバレス公爵がいた。

 その周囲には数名の使用人たち。

 どうやら会場の混乱を抑えながら、状況確認を進めていたらしい。

 「お父様!」

 ヴィオレッタが駆け寄る。

 「星涙の雫は?」

 公爵は小さく苦笑した。

 そして机の横に置かれた箱を持ち上げる。

 「これのことかい?」

 蓋が開くとそこには、美しく輝く宝石。

 星涙の雫が収められていた。

 「発見!」

 ヴィオレッタが嬉しそうに声を上げる。

 セレスも大きく息を吐いた。

 「よかったぁ……」

 リリも胸を撫で下ろす。

 カトレアも静かに微笑んだ。

 これで解決、そう思った時だった。

 「もっとも」

 公爵が静かに口を開く。

 「最初から盗まれてはいないんだよ」

 四人が固まった。

 「……やっぱり」

 ヴィオレッタはゆっくりと目を向ける。

 「どういうこと?」

 セレスが聞き返した。

 公爵は娘を見つめた。

 「今回の件、実は私が用意したものなんだ」

 数秒の沈黙、そして。

 「えぇぇぇ!?」

 セレスの声が響いた。

 「お父様が?」

 ヴィオレッタも驚いている。

 リリは目を丸くし。

 カトレアでさえ珍しく言葉を失った。

 公爵は苦笑した。

 「ヴィオレッタの10歳の誕生日だからな」

 「それと何の関係があるの?」

 ヴィオレッタが首を傾げる。

 公爵は静かに答えた。

 「アルバレス家を継ぐ者として、ヴィオレッタが何を見るのか知りたかった」

 部屋が静かになる。

 「宝が消えた時、人を疑うのか。」

 「……」

 「身分で判断するのか」

 「……」

 「それとも自分で考え行動し、真実を見ようとするのか」

 ヴィオレッタは黙って聞いていた。

 公爵は続ける。

 「そして」

 穏やかな声だった。

 「友が疑われた時、ヴィオレッタがどう動くのかも見ていた」

 リリが小さく息を呑む。

 ヴィオレッタは少し考えた。

 「でも」

 そう言った。

 「リリ、悲しそうだったよ」

 静寂。公爵は黙って娘を見る。

 「怖そうだったし」

 「……」

 「困ってたよ」

 ヴィオレッタは真っ直ぐ父を見つめる。

 「だから止めたの」

 理屈ではなく、友達が悲しそうだった。

 だから助けた。ただ、それだけ。

 しばらく沈黙が流れる。

 公爵は小さく息を吐いた。

 「そうだね」

 その声はどこか柔らかかった。

 「そこは私の落ち度だった」

 「落ち度?」

 「人を見るための試みだったが、お前の友人を傷つける結果になるとは思わなかった」

 そう言って、公爵はリリへ向き直る。

 「リリアーナ嬢」

 「は、はい!」

 「不快な思いをさせてしまった。申し訳なかったね」

 リリは慌てて首を振った。

 「い、いえ! 私は大丈夫です!」

 その言葉に、公爵は微笑む。

 そして再びヴィオレッタを見る。

 「だが、私は今日、ヴィオレッタの答えを見ることができた」

 「答え?」

 「そうだ」

 公爵は頷く。

 「ヴィオレッタは証拠もなく人を疑わなかった」

 「うん」

 「身分で判断もしなかった」

 「うん」

 「そして友達を守った」

 ヴィオレッタは少し照れたように笑う。

 公爵も目を細めた。

 「星涙の雫はアルバレス家の宝だ」

 そう言って箱を開く。淡く青白い光を放つ宝石。

 公爵は静かに続けた。

 「ヴィオレッタが守るべきものは、この宝石だけではないらしいな」

 ヴィオレッタは首を傾げた。

 数秒考え、何か思いついた顔になる。

 「あっ、友達?」

 沈黙、そして。

 セレスが吹き出した。

 「ふふっ!」

 カトレアも口元を押さえる。

 リリも思わず笑った。

 公爵は額に手を当てる。

 「……まあ、間違ってはいないな」

 「違うの?」

 ヴィオレッタが不思議そうに聞く。

 「いえ」

 カトレアが微笑む。

 「とてもヴィオレッタらしい答えだと思います」

 「私もそう思います」

 リリも頷く。

 「うん、やっぱりヴィオレッタだね」

 セレスも笑った。

 当の本人だけがよく分かっていなかった。

 それでも、そんなヴィオレッタだからこそ。

 三人は自然と笑顔になっていた。

 そして公爵もまた、そんな娘を誇らしく思っていた。

 10歳の誕生日、星涙の雫を受け継いだ日。

 ヴィオレッタ・アルバレスが、自分でも気付かないまま、大切なものを守る在り方を示した日となったのだった。


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