↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢なのに慕われる!?~令嬢たちが放っておいてくれません~  作者: ねぎとろ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/95

第2話 お嬢様は変わった?

翌朝

 ヴィオレッタ・フォン・アルバレスは人生最大の試練に直面していた。

「お嬢様、本日のご朝食でございます」

 長いテーブルに並べられた料理を見て、私は思わず目を丸くした。

 パンにスープ。卵料理に果物。

 そして見たこともない肉料理。

 前世のホテルバイキングみたいだった。

「すごい……」

 思わず感想が漏れる。すると給仕の男性がびくりと肩を震わせた。

 あれ?また何かやらかした?

 記憶を探るとすぐに原因が分かった。

 以前のヴィオレッタは食事のたびに文句を言っていた。

『パンが硬い!』『スープがぬるい!』『気に入らない!』

 料理を作り直させることもしばしば。

 厨房は毎日戦場だったらしい。

 本当にひどい・・・

 私は思わず給仕に声をかけた。

「作ってくれた方に、とても美味しそうだと伝えてください」

 沈黙、給仕が固まる。エマも固まる。

 後ろに控える使用人たちも固まる。

 なんで?

「……えっと?」

「お嬢様」

 エマが恐る恐る言う。

「どなたかに脅されておられますか?」

「脅されてないよ!?」

 なぜそうなる・・・

 私が慌てて否定すると、使用人たちは顔を見合わせた。

 信じていない、全然信じていない。

 まあ当然だろう。昨日まで暴君だった人間が、一晩で人格者になったら私でも疑う。

 その日の朝食は終始妙な空気のまま終わった。

◇

 昼頃、私は屋敷の庭を散歩していた。

 前世ではマンション暮らしだった。こんな広大な庭は珍しい。

 噴水に花壇、白い東屋。

 まるでテーマパークだった。

 あまりの広大さに感心していると、

「失礼します!」

 庭師見習いらしい少年が走ってきた。

 しかし足を滑らせる、持っていた植木鉢が宙を舞った。

「あっ!」

 反射的に飛び出し植木鉢を受け止める。

 衝撃で腕が少し痛んだが、落とすよりましだ。

 少年は真っ青になった。

「も、申し訳ございません!」

「大丈夫?」

「え?」

「怪我してない?」

「え?」

「転んだでしょ」

 少年は呆然としている。

 いや・・・理由は分かる。

 以前のヴィオレッタなら、

『汚らしい!』

と怒鳴っていたはずだ。

「次から気を付ければいいよ」

 そう言って植木鉢を渡すが、少年は震える手で受け取った。

 そんな一部始終を遠くの廊下から使用人たちが見ていることに私は気付かなかった。

◇

 夕方

 使用人専用の休憩室で密かな会議が行われていた。

「どう思う?」

「偽物では?」

「入れ替わったのでは?」

「妖精か何かに呪われたのかもしれません」

 好き放題である。エマは頭を抱えた。

「そんなわけないでしょう」

「ですがエマ様」

「昨日は謝罪されました」

「今日は料理人を褒められました」

「先ほど庭師見習いを助けられたそうです」

 全員が真顔。それだけ以前のヴィオレッタが酷かったのだ。

 すると年配の執事が口を開いた。

「少し様子を見ましょう」

「様子?」

「人は簡単には変わりません」

 誰も反論しなかった。

◇

 数日後

 その日、私は屋敷の図書室にいた。

 そう、破滅回避のためである。

この国の歴史、貴族制度、礼儀作法。

 何も知らないままでは将来困ので必死に勉強していた。

 その時、

 ぐううううう。

 お腹が鳴った、恥ずかしい。

 周囲を見回すが誰もいない。

 と思った瞬間、物陰から小さな音が聞こえた。

 私はそっと近づいた。

 そこにはメイド服を着た少女がいた。

 十歳くらい、膝を抱えて震えている。

「どうしたの?」

 声をかけると少女は青ざめた。

「ひっ」

 逃げようとして勢いよく転ぶ。私は慌てて駆け寄った。

「大丈夫!?」

「も、申し訳ございません!」

 聞けば新人メイドらしい。

 仕事で失敗し、叱られたあと泣いていたのだという。

 しかも、以前のヴィオレッタに見つかったらさらに怒られると思っていたらしい。

 私は少し考え、そして近くのワゴンからクッキーを一枚取った。

「食べる?」

「え?」

「元気出るよ」

 少女は信じられないものを見る顔をした。

「お嬢様が……私に?」

「一枚だけね」

 少女はおそるおそる受け取り、やがて小さく笑った。

「……ありがとうございます」

 私はその笑顔を見て安心した。

 前世でもこういう時は甘い物だったし。

 だが、またまた私は知らなかった。

 エマと老執事がその光景を図書室の扉の隙間から見ていたことを。

◇

 夜

 エマは深く息を吐いた。

「どうした?」

 老執事が尋ねる。エマは少し迷った後、答えた。

「私は……」

 そして静かに続けた。

「お嬢様は本当に変わられたのかもしれません」

 以前なら信じなかったが今は違う。

 演技では説明できない上、誰も見ていない場所でも優しい。

 使用人に対しても変わらないとこに打算は見えなかった。

 老執事もゆっくり頷く。

「私もそう思い始めています」

 窓の外では月が輝いていた。

 一方その頃――

 当のヴィオレッタはベッドの上で悩んでいた。

「悪役令嬢って……思ったより大変だなあ」

 使用人たちの警戒心を全く知らないまま、彼女は平和に眠りについたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。