第15話 秘密の友達
剣術大会から数日後、ヴィオレッタは屋敷の庭で本を読んでいた。
(カトレアか)
本を開いているはずなのに、なぜか頭に浮かぶのはあの日の出来事だった。
未だに少し不思議な気分である。
あれだけ格好良くて、あれだけ強くて子様みたいだったのに。
(女の子だったんだなぁ。前世だったらファンクラブとかできるだろうな)
「何を考えているんですか?」
後ろから声がした。エマだった。
「う~~ん、カトレア?」
「アイゼンベルク家のご令嬢ですか。お友達になられたのですか?」
エマは微笑む。
「だと思う」
ヴィオレッタは頷いた。
「面白い人だった」
その言葉にエマは少し首を傾げる。
アイゼンベルク家の令嬢。剣術の天才で王子様のような令嬢だという世間の評価は知っている。
(噂ですが、ご令嬢の間で密かに応援する団体があるとかないとか…)
だが、ヴィオレッタの「面白い」は大体何かある。
(今回は何を見たんでしょう……)
少しだけ気になった。
◇
数日後、ヴィオレッタは父と共に、とあるお茶会へ参加していた。
規模はそれほど大きくない。親同士の交流が主な目的らしい。
ヴィオレッタは退屈していた。
(暇だな)
そう思った時だった。
「ヴィオレッタ様」
聞き覚えのあるハスキーな声に振り返る。
そこにはカトレアがいた。
今日も騎士のような服装だった。
やっぱり格好良い(夢女子製造機…)
とヴィオレッタは思った。
「こんにちは」
「こんにちは」
カトレアは少し笑う。
「今日は迷子ではないんだな」
「迷子じゃないよ」
「そうか」
「多分ね」
「多分なのか」
カトレアが吹き出した。
あの日以来、二人は自然と話すようになっていた。
もちろん話題は可愛いもの。これは二人だけの秘密だった。
「この前、新しいぬいぐるみを見つけた」
カトレアが小声で言う。
「買ったの?」
「買った」
「どんな子?」
カトレアは少し周囲を確認する。
誰も聞いていないことを確認してから。
「白い猫ちゃんだ」
少しだけ嬉しそうだった。
「可愛い?」
「可愛い」
あまりの素直さにヴィオレッタは笑う。
「今度見たい」
「絶対に駄目だ」
「なんで?」
「恥ずかしい」
真顔だった。
ヴィオレッタはまた笑った。
「カトレア様!」
令嬢たちが集まってくる。
「また剣術大会で優勝されたそうですね!」
「本当に素敵です!」
「格好良いです!」
いつもの光景らしく、カトレアは慣れた様子で対応する。
「ありがとうございます」
「ですが、まだまだ未熟ですよ」
優雅な笑顔に丁寧な口調。
まるで本物の王子様だった。
令嬢たちが去った後。
ヴィオレッタはぽつりと言った。
「モテる女は辛いですな…」
カトレアが少しだけ目を丸くする。
「そう見えるか?」
「まあ、辛いまでは見えないけど、大変そう」
「みんなカトレアが好きなんだね」
「……そうだな」
さっきまでと違う笑顔だった。
けれど、その理由までは分からない。
「まあ」
カトレアが話題を変えるように言った。
「悪い子たちではないよ」
「うん」
「応援してくれているのも本当だ」
「そっか」
ヴィオレッタは素直に頷いた。
カトレアも少し笑う。その笑顔は先程より自然だった。
帰り際、カトレアが声を掛ける。
「ヴィオレッタ」
「なに?」
「来月、私の誕生日会がある」
「へぇ」
「もしよければ来てくれないか」
少しだけ言いにくそうだった。
ヴィオレッタは首を傾げる。
「もちろん」
「……そうか」
その瞬間、カトレアが少しだけ安心したような顔をした。
ほんの一瞬だったので、本人も気付いていないかもしれない。
「リリアーナ様とセレスティア様も招待している」
「みんな来るんだ」
「ああ、君と仲が良いとセレスティア様から聞いてね」
カトレアは頷く。
「賑やかな方が好きだから」
「そっか、楽しみにしてるね」
「ああ、では誕生日会で」
さわやかな笑みを浮かべ、カトレアは馬車へ乗り込んだ。




