第14話 王子様と呼ばれる令嬢
今日は、待ちに待った剣術大会の日。
私はリリと一緒に、王都にある大きな競技場を訪れていた。
もちろん、私たちが参加するわけではない。今日の目的は、剣術大会に出場するセレスの応援だ。
「今度こそ、絶対に勝つわ!」
試合前の控え場所で、セレスは気合十分といった様子で拳を握りしめていた。
いつも元気な彼女だけれど、今日はいつにも増して目が輝いている。
「頑張ってください、セレスティア様!」
リリが両手を胸の前で握りしめると、セレスは嬉しそうに頷いた。
「ええ! 二人とも、しっかり見ていてね!」
「うん、応援してるよ!」
「任せて! 今日は絶対にいいところを見せるんだから!」
そう言って胸を張るセレスを見ていると、こちらまで元気になってくる。
(……すごい気合いだなぁ)
前にルミナス侯爵邸へ遊びに行ったときも剣術の話をしていたけれど、どうやら本当に好きらしい。
しかも、以前の大会では悔しい思いをしたことがあると聞いている。今日こそは勝ちたいという気持ちも、きっと強いのだろう。
「それじゃあ、行ってくるわ!」
セレスは私たちに大きく手を振ると、元気よく競技場へ向かっていった。
その背中を見送りながら、私はリリへ顔を向ける。
「ねえ、リリ。剣術大会って、どんな感じなんだろうね」
「私も初めてなので、よく分からないですけど……きっと迫力があるんでしょうね」
「……だよね」
私は競技場へ視線を戻した。
(……怪我だけはしないでほしいなぁ)
◇
大会が始まると、私はすぐに自分の想像が甘かったことを思い知らされた。
「……えっ、速っ!?」
思わず声が出る。
競技場の中央では、セレスが木剣を構え、対戦相手と向かい合っていた。
開始の合図と同時に踏み込み、相手の攻撃を軽やかにかわすと、そのまま鋭い一撃を放つ。
乾いた音が響き、審判が勝敗を告げた。
「勝者、セレスティア・ルミナス!」
会場から拍手が起こる。
「……すごい」
私は思わず呟いた。
手紙で剣術の話を聞いていたし、練習場も見せてもらったことがある。だから強いのだろうとは思っていたけれど、想像していた何倍も動きが速かった。
(……あんなに強かったんだ)
続く二回戦、三回戦でもセレスは見事な剣さばきを披露し、危なげなく勝ち進んでいく。
「ヴィオレッタ様、セレスティア様って本当にお強いんですね……!」
「うん! 私もびっくりしちゃった!」
リリも興奮した様子で身を乗り出していた。
普段は控えめな彼女だけれど、友達が頑張っている姿を見ると、自然と応援にも熱が入るらしい。
そして迎えた準決勝。
今度の相手はこれまで以上に手強く、セレスも何度か押し込まれていた。
木剣がぶつかるたびに鋭い音が響き、その迫力に私は思わず息を呑む。
(……頑張れ、セレス!)
相手の攻撃を受け止めたセレスは、一瞬の隙を見逃さずに踏み込んだ。
「そこまで!」
審判の声が響く。
「勝者、セレスティア・ルミナス!」
「やったぁ!」
私は思わず立ち上がった。
隣ではリリも嬉しそうに拍手をしている。
「ヴィオレッタ様、決勝戦ですよ!」
「うん! すごいよね!」
競技場から戻っていくセレスが、こちらに気づいて手を振ってくれた。
私たちも大きく手を振り返す。
(……あと一勝!)
セレスの優勝が、いよいよ現実味を帯びてきた。
◇
しばらくして、決勝戦が始まることになった。
競技場へ現れたセレスに、観客席から大きな拍手が送られる。
私もリリと一緒に声援を送っていたけれど、続いて姿を見せた対戦相手を見た瞬間、思わず動きを止めてしまった。
「……わぁ」
背が高く、短く整えられた漆黒の髪。
すらりと伸びた背筋に、無駄のない立ち居振る舞い。木剣を手に歩く姿は堂々としていて、周囲の視線を集めていた。
(……王子様みたい)
いや、本当に。
物語に出てくる騎士か王子様が、そのまま競技場へ現れたようだった。
整った顔立ちもそうだけれど、何より立ち姿が格好いい。
私が思わず見惚れていると、周囲の観客たちから声が聞こえてきた。
「アイゼンベルク家の方か」
「今年も決勝まで勝ち進まれたのだな」
「さすがは、あの家の方だ」
(……アイゼンベルク家?)
聞き覚えのない名前だったけれど、どうやら剣術で有名な家らしい。
それにしても、あんなに格好いい人が同年代にいるなんて。
(……いいなぁ。私もあんなふうに格好よく歩いてみたい)
……いや、まずはドレスの裾を踏まずに歩く練習からだろうか。
そんなことを考えているうちに、両者が競技場の中央で向かい合った。
「それでは、決勝戦を始める!」
審判の声が響き、会場が静まり返る。
そして――
「始め!」
次の瞬間、二人が同時に動いた。
カンッ!
木剣同士が激しくぶつかり、乾いた音が競技場に響き渡る。
セレスが素早く踏み込み、相手の隙を狙って剣を振るう。しかし、対戦相手はそれを落ち着いて受け止めると、無駄のない動きで距離を取った。
(……すごい)
私は息を呑んだ。
セレスも十分に強い。
けれど、相手はさらに一枚上手だった。
焦る様子もなく、相手の動きをよく見ている。セレスが攻め込んでも簡単には崩れず、逆に一瞬の隙を狙って鋭い一撃を返していた。
「頑張ってください、セレスティア様……!」
隣でリリが祈るように手を握っている。
私も思わず身を乗り出した。
「頑張れー! セレスー!」
声が届いたのか、セレスがさらに踏み込む。
木剣が激しく打ち合わされ、会場から歓声が上がった。
そして、次の瞬間。
カァンッ!
一際大きな音が響き、セレスの木剣が弾かれた。
「そこまで!」
審判が高らかに声を上げる。
「勝者、カトレア・アイゼンベルク!」
会場を大きな拍手が包んだ。
(……ああ、負けちゃった)
セレスは悔しそうに唇を噛み、しばらく動かなかった。
けれど、そんな彼女に対して、対戦相手は静かに手を差し出した。
「素晴らしい試合だった」
落ち着いた、よく通る声だった。
「以前より、ずっと強くなっているね」
セレスが驚いたように顔を上げる。
「……本当?」
「ああ。特に最後の踏み込みは見事だった。私も油断できなかったよ」
そう言って微笑む姿は、まるで物語の騎士そのものだった。
セレスは差し出された手を取り、しっかりと握り返した。
「……次は負けないわ!」
「ふふっ、楽しみにしているよ」
二人が握手を交わすと、観客席から再び大きな拍手が起こった。
(……格好いいなぁ)
私は思わず見惚れてしまった。
勝っても相手を見下さず、努力を認める。
ああいう人が、本当の意味で格好いい人なのかもしれない。
◇
試合が終わり、しばらくするとセレスが私たちのところへ戻ってきた。
「セレス、お疲れさま!」
私が声をかけると、彼女は大きく息を吐いた。
「……悔しいーっ!」
どうやら、まだ負けた悔しさが残っているらしい。
「あと少しだったのに! 今度こそ勝てると思ったのよ!」
「でも、本当にすごかったよ!」
私がそう言うと、リリも勢いよく頷いた。
「はい! セレスティア様、とっても格好よかったです! 私、あんなに迫力のある試合を初めて見ました!」
「……二人とも」
セレスは少し驚いたように私たちを見つめ、それから嬉しそうに笑った。
「ありがとう! でも、次こそ絶対に勝つわ!」
その前向きな言葉に、私も自然と笑顔になる。
「うん、応援してる!」
「ふふっ、二人にはもっと格好いいところを見せたかったんだけどね」
「十分見せてもらったよ。それに、男の子相手にあそこまで戦えるなんて、本当にすごいと思う!」
その瞬間。
セレスの動きが、ぴたりと止まった。
「……男の子?」
「……え?」
私は首を傾げた。
「うん。決勝の相手の人、すごく格好よかったよね」
「……ヴィオレッタ?」
セレスが何とも言えない顔で私を見つめている。
隣のリリまで、不思議そうに目を瞬かせていた。
(……あれ?)
何だろう、この反応。
「……どうしたの、二人とも?」
「ヴィオレッタ様、あの方は……」
リリが何かを言いかけた、そのときだった。
「お嬢様」
背後から聞き慣れた声がして、私は振り返った。
「エマ? どうしたの?」
「お嬢様にご挨拶をされたいというご令嬢方が、数名いらっしゃっております」
「……えっ、私に?」
「はい。アルバレス公爵家のお嬢様に、ぜひご挨拶をと」
(……ああ、そういうことか)
こういう場では、貴族同士の挨拶も大切なのだろう。
本当はもう少しセレスたちと話していたかったけれど、さすがに無視するわけにはいかない。
「分かった。二人とも、ごめんね。ちょっと行ってくる!」
「えっ、ヴィオレッタ、まだ話が……」
「またあとでね!」
私は二人に手を振り、エマの後を追った。
背後では、セレスが何やら呆れたように笑っていたけれど、理由はよく分からなかった。
◇
挨拶を終えて戻ってきた頃には、セレスは剣術仲間たちに囲まれ、リリも知り合いの令嬢と話し込んでいた。
(……あれ、一人になっちゃった)
もちろん、エマは近くにいる。
けれど、せっかく大きな競技場まで来たのだから、少しくらい見て回りたい気持ちもあった。
「エマ、ちょっとだけ周りを見てきてもいい?」
「かしこまりました。ただし、あまり遠くへは行かれませんように」
「大丈夫! すぐ戻るから!」
私は元気よく返事をして、競技場の周囲を歩き始めた。
……そして、しばらくして。
(……あれ?)
私は立ち止まった。
目の前には、見覚えのない通路が続いている。
(……ここ、どこ?)
さっきまで賑やかだったはずなのに、周囲にはほとんど人がいない。
右へ曲がって、左へ曲がって、また右へ曲がった気がするけれど……。
(……うん、完全に迷った)
私は静かに現実を受け入れた。
前世ならスマートフォンで現在地を調べられたのに、この世界にはそんな便利なものはない。
(……地図アプリが恋しい)
そもそも、どうして私はこんなに道に迷いやすいのだろう。
前世ではここまでひどくなかった気がするのに。
(……いや、今はそんなこと考えてる場合じゃない)
とりあえず人がいる場所を探そうと、私は歩き始めた。
すると、植え込みの向こうから小さな声が聞こえてきた。
「……よし、それでは出発だ」
(……ん?)
私は足を止めた。
続いて聞こえてきたのは、先ほどとは少し違う、高く可愛らしい声だった。
「おーっ!」
(……子どもが遊んでるのかな?)
そう思ったけれど、何かがおかしい。
よく聞いてみると、二つの声はどちらも同じ人が出しているような気がする。
気になった私は、そっと植え込みの向こうを覗いた。
そして――
(……えっ!?)
思わず目を見開いた。
そこにいたのは、先ほど決勝戦でセレスと戦っていた、あの王子様のような人だった。
(……あの人だ!)
けれど、今の姿は競技場で見たものとはまるで違っていた。
人目につかない庭の片隅に腰を下ろし、その膝の上には白いうさぎのぬいぐるみ。
隣には、茶色いくまのぬいぐるみまで置かれている。
そして、その人はうさぎを持ち上げると、真剣な表情で口を開いた。
「さて、今日はどこへ向かおうか」
今度はくまを動かし、声色を変える。
「ぼうけんにいくー!」
「ふむ、冒険か。しかし、森には危険な魔物がいるぞ」
「だいじょうぶ! ぼくがまもる!」
「そうか。ならば、私も同行しよう」
「やったー!」
(…………)
私は言葉を失った。
(……遊んでる)
それも、ものすごく楽しそうに。
さっきまで競技場であんなに格好よく剣を振るっていた人が、今はぬいぐるみを両手に持って、一人で冒険ごっこをしている。
(……ギャップがすごいなぁ)
でも、何だろう。
(……可愛い)
思わず頬が緩んでしまった。
すると、その瞬間。
「……ん?」
相手がこちらを向いた。
目が合った。
「…………」
「…………」
沈黙。
うさぎのぬいぐるみを持ち上げたまま、相手がぴたりと固まる。
そして数秒後、その顔がみるみる赤くなっていった。
「……違う」
第一声がそれだった。
「……え?」
「今のは違うんだ」
「……何が?」
「その……これは、決して……」
相手は必死に言葉を探しているようだったけれど、なかなか続きが出てこない。
私は首を傾げた。
「楽しそうだったよ?」
「……忘れてくれ」
「えっ?」
「今見たことは、どうか忘れてほしい」
あまりにも真剣な表情でお願いされ、私は少し困ってしまった。
(……そんなに恥ずかしいことなのかな)
確かに、人前でぬいぐるみ遊びをするのは少し照れくさいかもしれない。
でも、別に悪いことをしているわけじゃない。
私は相手の膝に置かれたぬいぐるみを見つめた。
「……可愛いね」
「……何?」
「そのうさぎ。白くて、ふわふわしてて可愛い」
「…………」
「くまも可愛いね。どっちも好きなの?」
相手はしばらく黙っていたけれど、やがて観念したように肩を落とした。
「……ああ、好きだ」
「そっか。いいと思うよ!」
私が笑顔で答えると、相手は驚いたように目を瞬かせた。
「……笑わないのか?」
「えっ、どうして?」
「いや、その……」
相手は言いにくそうに視線を落とした。
「こういうものが好きだと言うと、意外だと笑われることがあるんだ」
「……そうなの?」
「ああ。だから、あまり人には見せないようにしている」
(……なるほど)
確かに、あんなに格好いい人がぬいぐるみ好きだと聞いたら、驚く人もいるかもしれない。
でも、私はむしろ素敵だと思った。
「別にいいと思うけどなぁ。好きなものは好きでいいんじゃない?」
「……」
「それに、男の子だって可愛いものが好きでもおかしくないと思うよ」
その瞬間。
相手の表情が、再び固まった。
「…………男?」
「……うん?」
「今、男と言ったか?」
「……えっ、うん」
何だろう。
また変なことを言ってしまったのだろうか。
私が不思議に思っていると、相手はゆっくりと口を開いた。
「……私は女だ」
「…………えっ?」
今度は私が固まる番だった。
「……女の子?」
「ああ」
「……本当に?」
「本当だ」
私は思わず相手をまじまじと見つめてしまった。
短く整えられた黒髪に、凛々しい顔立ち。背筋は真っ直ぐで、話し方まで落ち着いている。
(……いや、どう見ても王子様なんだけど!?)
けれど、本人が女の子だと言っているのだから、きっとそうなのだろう。
「ご、ごめんなさい! あまりにも格好よかったから、てっきり男の子だと思って……!」
私が慌てて謝ると、相手は小さく息を吐いた。
「……気にしなくていい。慣れているからね」
(……慣れてるんだ)
それはそれで、何だか申し訳ない。
「改めて名乗ろう。私はカトレア・アイゼンベルク」
そう言って、彼女は立ち上がった。
ぬいぐるみを大切そうに抱えたまま、すっと背筋を伸ばす姿は、やっぱり王子様のように格好いい。
「私はヴィオレッタ・アルバレスです。よろしくね!」
「もちろん、知っているよ。アルバレス公爵家のヴィオレッタ嬢だろう?」
「……えっ!?」
私は思わず目を見開いた。
(……な、なんで私の名前を!?)
まさか、もう悪い噂が広まっているのだろうか。
前世で知っていた悪役令嬢の評判が、頭の中をよぎる。
(……いやいや、最近はちゃんといい子にしてるはずだよね!?)
私が内心で慌てていると、カトレア様は不思議そうに首を傾げた。
「どうかしたのかい?」
「い、いえ! どうして私のことを知っているのかなって……」
「それは……」
カトレア様は一瞬だけ目を丸くし、それから小さく笑った。
「公爵家のご令嬢を知らない貴族の子女は、そう多くないと思うけれどね」
「…………あっ」
(……そうだった!)
私は公爵令嬢だった。
最近、友達とばかり遊んでいたせいで、すっかり忘れていた。
「……そっか! 私、公爵令嬢だった!」
思わず声に出してしまう。
すると、カトレア様は少し驚いたように私を見つめ、それから楽しそうに笑い始めた。
「ふふっ、君は面白い人だね」
「……えっ、そうかな?」
「ああ。自分の立場を忘れる公爵令嬢なんて、初めて見たよ」
(……それは、あんまり褒められてない気がする)
私が困っていると、カトレア様はもう一度微笑んだ。
その笑顔は、試合のあとに見せた騎士のようなものとは違い、どこか柔らかく、年相応の可愛らしさがあった。
(……あ、こうして笑うと女の子らしいかも)
そんなことを考えていると、彼女がふと手元のぬいぐるみへ視線を落とした。
「……ところで、ヴィオレッタ嬢」
「はい?」
「さっきのことは……」
「ああ、ぬいぐるみのこと?」
「……っ!」
カトレア様の頬が、再び赤くなる。
「声が大きい……!」
「あっ、ごめんなさい!」
私は慌てて口を押さえた。
どうやら、よほど知られたくない秘密らしい。
(……でも、可愛いものが好きって、そんなに恥ずかしいことなのかな)
私にはよく分からなかったけれど、本人が隠したいと思っているのなら、無理に広める必要はないだろう。
「大丈夫。誰にも言わないよ」
「……本当かい?」
「うん、約束!」
私が笑顔で頷くと、カトレア様はようやく安心したように息を吐いた。
「……ありがとう」
その声は、先ほどまでよりもずっと柔らかかった。
「どういたしまして!」
私は嬉しくなって笑った。
すると、カトレア様は少し考えるように私を見つめたあと、ふっと口元を緩めた。
「……君とは、また話してみたいものだね」
「本当? 私も!」
思わず身を乗り出してしまう。
だって、剣術が強くて、格好よくて、でも可愛いものが好きな女の子なんて、なかなか出会えるものじゃない。
(……面白い子だなぁ)
私はすっかり嬉しくなっていた。
……ただ、一つだけ問題がある。
(……そういえば、ここってどこだっけ?)
周囲を見回す。
見覚えのない庭。
見覚えのない通路。
そして、どちらへ進めば競技場に戻れるのか、まったく分からない。
(……あ、そうだった。私、迷子だったんだ)
私は恐る恐るカトレア様へ顔を向けた。
「……あの、カトレア様」
「何だい?」
「……競技場って、どっちにあるか分かる?」
「…………」
カトレア様が目を瞬かせた。
そして、私が来た方向をちらりと見たあと、ゆっくり口を開いた。
「……君、もしかして迷ったのかい?」
「……はい」
正直に答えると、カトレア様は一瞬だけ呆れたような顔をした。
けれど、すぐに小さく笑った。
「ふふっ、仕方ない。案内してあげよう」
「……本当!? ありがとう!」
私は思わず笑顔になった。
こうして私は、王子様のように格好いいカトレア様に案内され、無事に競技場へ戻ることができた。
……ちなみに、戻ったあとエマからたっぷりお説教を受けたのは、言うまでもない。
(……やっぱり、勝手に歩き回るんじゃなかった)




