第13話 三人のお茶会
ある日の午後、ヴィオレッタは自室で手紙を読んでいた。
差出人はセレスティア。最近ではすっかり見慣れた筆跡だ。
『ヴィオレッタへ!』
『今度また遊ぼう!』
『今度はリリアーナも一緒!』
『三人でお茶会したい!』
ヴィオレッタは思わず笑った。
「三人か」
前回はセレスティアと二人だった。
今回はリリアーナもいるし、きっと賑やかになるだろう。
◇
そして当日、ルミナス侯爵邸。
馬車を降りたリリアーナが小さく呻いた。
「うぅ……」
「大丈夫?」
ヴィオレッタが首を傾げる。
「だ、大丈夫です……」
全然大丈夫そうではない。
「そんなに緊張する?」
「しますよ……」
リリアーナは小さく答えた。
「侯爵家ですし……」
ヴィオレッタは少し考える。
確かに男爵家のリリアーナからすれば、侯爵家はかなり上の存在だ。
(ん……?ちょっと待って……)
「でもさ」
「はい?」
「私とは普通に話してるよね?」
リリアーナはきょとんとした。
「ヴィオレッタ様は別です」
即答だった。
「別なの?」
「別です」
あまりの迷いのなさに、ヴィオレッタはますます不思議そうな顔になる。
「私の方が身分は上なんだよね?」
「そうです」
「じゃあなんで?」
リリアーナは少しだけ考え、
「ヴィオレッタ様だからです」
「全然分からない」
ヴィオレッタが困った顔になる。
リリアーナは思わず笑った。
きっと上手く説明できない。
ただ、ヴィオレッタは最初から身分で人を見なかった。
だから自分も、いつの間にか緊張しなくなっていたのだ。
◇
「ヴィオレッター!」
元気な声が響き、二人が振り向く。
セレスティアだった。
今日も全力で駆け寄ってくる。
「来たね!」
「来たよ」
「リリアーナも!」
「こ、こんにちは」
リリアーナが慌てて挨拶する。
するとセレスティアは笑った。
「そんなに緊張しなくて大丈夫だよ!」
「え?」
「今日は友達として遊ぶ日だから!」
その言葉にリリアーナは少し目を丸くした。
(なんだか少し似てる)
そう思った。
身分は気にする、礼儀も守る。
でも、大事なところで壁を作らない。
その部分はヴィオレッタによく似ていた。
リリアーナの肩から少しだけ力が抜けた。
◇
三人はまず庭園へ向かった。
季節の花が咲き誇る美しい庭園、噴水の水音が心地良い。
「綺麗ですね……」
リリアーナが感心する。
「でしょ!」
セレスティアが胸を張る。
まるで自分が作ったかのような態度だった。
「この庭好きなんだ」
「分かる気がする」
ヴィオレッタも頷いた。
その時だった――
「そうだ!」
セレスティアが何かを思いつく。
(これは…嫌な予感が)
「こっち!」
そう言って走り出す。
「セレスティア?」
「待ってくださいー!」
◇
数分後、
「セレスティア様!?」
リリアーナの声が響いた。
木の上にセレスティアがいた。
「見晴らしいいよー!」
「降りてください!」
「大丈夫だよ!」
「大丈夫じゃないと思う」
ヴィオレッタが冷静に言った。
「えー」
「侯爵令嬢が木に登ってる時点で大丈夫じゃないよ」
「ヴィオレッタまで……」
ぶーぶー文句を言いながら降りてくる。
その姿を見て、リリアーナは少しだけ笑った。
(本当に変わった方ですね)
交流会の時はもっと遠い存在に見えた。
優秀で明るく、地位に胡坐をかかない侯爵令嬢。
そんな印象だった。
だが実際は木に登り怒られる。
それでも懲りない、かなり変な人だった。
「リリアーナ?」
「はい?」
「今失礼なこと考えてた?」
「な、何も考えてません!」
「本当かなぁ?」
セレスティアがじーっと見る。
リリアーナは耐えきれず吹き出した。
「ふふっ」
「笑った!」
セレスティアが嬉しそうに言う。
「最初より緊張してない!」
リリアーナは少し恥ずかしくなった。
でも、
「そうかもしれません」
もう侯爵令嬢だからと構える気持ちは薄れていた。
目の前にいるのは友達の友達ではなく、自分の友達だった。
◇
その後、三人は東屋でお茶を飲んでいた。
話題は好きな本、好きなお菓子、将来やってみたいこと。
「私は旅行してみたいな」
ヴィオレッタが言う。
「旅行?」
「うん」
前世の記憶があるからだろうか。
知らない場所を見るのが好きだった。
「私は剣術をもっと頑張りたい!」
セレスティアが言う。
「セレスティア様らしいですね」
リリアーナが笑う。
「リリアーナは?」
二人の視線が向く。
リリアーナは少しだけ考えた。
「私は……」
以前なら答えられなかったかもしれない。
「もっと色々な人と仲良くなりたいです、そして…」
「そして?」
ヴィオレッタが顔を覗き込む。
(そして…ヴィオレッタ様のように強く美しくなりたいです…とは流石に言えません)
「……私も色々な国に行ってみたいです」
そう言って笑い、ヴィオレッタが嬉しそうに頷く。
セレスティアも笑う。
「じゃあもう1つは叶ってるね!」
「え?」
「だって私たち友達でしょ?」
リリアーナは目を丸くした。
そして。
「……そうですね」
少し照れながら笑った。
◇
帰る時間が近付き、馬車の前。
「今日は楽しかった!」
セレスティアが言う。
「私もです」
リリアーナが頷く。
「うん」
ヴィオレッタも笑った。
「また遊ぼうね!」
「もちろん」
「はい!」
三人は約束する。これから先も何度もこうして集まるのだろう。
ただの仲の良い友達、それで十分だった。




