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悪役令嬢なのに慕われる!?~令嬢たちが放っておいてくれません~  作者: ねぎとろ


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第11話 届いた手紙

 交流会から数日後。

私は自室の机に向かっていた。

目の前には分厚い歴史書が開かれている。

……開かれているだけである。

(頭に入らない……)

王国の建国、貴族制度の成り立ち、過去の戦争。

覚えることが多すぎる。

前世では高校生だったはずなのに、どうして今は9歳向けの勉強でこんなに苦しんでいるのだろう。

(……いや、知らない国の歴史なんだから仕方ないんだけど)

そう自分を慰めながら、私は教科書の同じ行を三度読み直した。

……うん。

やっぱり頭に入らない。

「お嬢様」

不意に、扉の向こうからエマの声がした。

「お手紙が届いております」

「手紙?」

私は顔を上げた。

(リリからかな?)

最近はリリと手紙を交わす機会も増えている。

先日も、晩餐会に向けたマナー練習について書かれた手紙が届いたばかりだ。

「入っていいよ!」

「失礼いたします」

エマが部屋に入り、一通の封筒を差し出した。

淡い水色の封筒には、見覚えのない紋章が押されている。

「……あれ?」

差出人の名前を確かめた私は、思わず目を丸くした。

『セレスティア・ルミナス』

(……早いな!?)

交流会から、まだ数日しか経っていない。

あの日、またお話ししましょうとは言っていたけれど、こんなに早く手紙が届くとは思わなかった。

「セレスティア様からでございますね」

エマが微笑む。

「うん。びっくりした」

私は封を開き、丁寧に折り畳まれた便箋を取り出した。

そこには、綺麗な文字が並んでいた。

『ヴィオレッタ様へ』

(……おお、ちゃんとしてる)

侯爵家の令嬢らしい、丁寧な書き出しだ。

けれど、次の行を読んだ瞬間。

(……あ、セレスティア様だ)

思わず笑ってしまった。

『先日の交流会では、ありがとうございました!』

『ヴィオレッタ様とお話しできて、とても楽しかったです』

『それから、今日はちゃんと休憩もしたんですよ!』

(……そこ、報告してくれるんだ)

交流会の帰り際に交わした会話を思い出す。

疲れたときは休んでもいい。

確かに、私はそう言った。

けれど、まさか手紙で報告してくれるとは思わなかった。

さらに読み進める。

『昨日は剣術の先生に褒められました!』

『庭では珍しい鳥を見つけたんです。青い羽がとても綺麗でした』

『それと、木には登っていません!』

(……それは褒めていいのかな)

私は真剣に悩んだ。

いや、木登りをしなかったのは良いことだ。

でも、それって普通のことでは?

……まあ、セレスティア様にとっては大きな進歩なのかもしれない。

最後には、こんな一文が添えられていた。

『よろしければ、またお手紙を交換していただけませんか?』

私は便箋を見つめた。

(……もちろん!)

返事は、もう決まっていた。

◇

その日の午後。

私は机に向かい、セレスティア様への返事を書いていた。

最初は、きちんとした挨拶から始める。

『セレスティア様へ』

『お手紙をありがとうございます。私も交流会では、とても楽しい時間を過ごせました』

……うん。

ここまでは問題ない。

その後、剣術の話や珍しい鳥の話について返事を書いていく。

そして、例の一文。

『木に登らなかったのは、とても良いことだと思います』

(……ふふっ)

書きながら、思わず笑ってしまった。

何だろう。

侯爵家の令嬢に送る手紙なのに、まるで友達に連絡帳を書いているみたいだ。

「……お嬢様?」

隣で見守っていたエマが、不思議そうに首を傾げた。

「何か面白いことでもございましたか?」

「ううん。何でもない!」

私は慌てて首を振った。

……いや、何でもなくはない。

ただ、セレスティア様のことを考えると、自然と笑ってしまうのだ。

最後に、もう一文を書き加えた。

『またお手紙をいただけたら嬉しいです』

(……よし!)

私は満足して、ペンを置いた。

◇

それから、セレスティア様との文通が始まった。

最初は、数日に一度。

けれど、手紙が届くたびに返事を書いているうちに、自然とやり取りの回数が増えていった。

『ヴィオレッタ様へ』

『今日は剣術の稽古で、先生から一本取れました!』

『とても嬉しかったです!』

(……すごいなぁ)

私は素直に感心した。

剣術なんて、前世でも今世でも縁がない。

木登りが得意なのも、運動神経がいいからなのかもしれない。

別の日には、こんな手紙が届いた。

『新しい本を読み始めました』

『難しい内容ですが、面白いです!』

『ヴィオレッタ様は、どんな本がお好きですか?』

(……好きな本かぁ)

私は少し考え込んだ。

前世なら漫画や小説が好きだったけれど、この世界ではそう簡単に手に入らない。

最近読んだものといえば、歴史書や礼儀作法の本ばかりだ。

(……勉強の本ばっかりじゃん)

少し悲しくなった。

結局、私は正直に返事を書くことにした。

『最近は歴史の勉強をしていますが、なかなか覚えられなくて困っています』

『面白い物語があれば、ぜひ教えてください』

すると、数日後。

『それなら、今度おすすめの本をお貸しします!』

という返事が届いた。

(……やった!)

私は思わず笑顔になった。

こうして、手紙を通じてセレスティア様のことを知る機会が増えていった。

剣術が得意なこと。

本を読むのも好きなこと。

庭で見つけた鳥や花の話を、楽しそうに書いてくれること。

そして、何より。

(……本当に、毎日楽しそうだなぁ)

手紙を読むたびに、そう思う。

交流会で見せた完璧な侯爵令嬢の姿とは違い、手紙の中のセレスティア様は、もっと自由だった。

嬉しいことがあれば素直に喜び、失敗したことも隠さずに書いてくれる。

ある日の手紙には、こんなことまで書かれていた。

『今日は剣術の稽古で転んでしまいました』

『でも、先生に笑われたので、私も笑ってしまいました!』

(……うん。やっぱり面白い子だ)

私は笑いながら、返事を書いた。

◇

「お嬢様、またセレスティア様からお手紙でございます」

「ありがとう、エマ!」

最近では、エマも封筒を見るだけで差出人が分かるようになっていた。

「ずいぶん親しくなられましたね」

「そうかな?」

私は首を傾げた。

「はい。お手紙が届くたびに、とても嬉しそうでいらっしゃいます」

「……そう?」

「ええ」

エマは穏やかに微笑んだ。

(……言われてみれば、そうかも)

リリとは、会って一緒に過ごす時間が好きだ。

お茶を飲んだり、マナーの練習をしたり。

一緒にいると、自然と落ち着く。

一方、セレスティア様は少し違う。

次はどんな話が届くのか、何をしているのか。

手紙を開くたびに、新しい発見がある。

(……友達にも、いろんな形があるんだなぁ)

そんなことを考えながら、私は封筒を開いた。

◇

ある日の午後。

届いた手紙には、いつもより大きな文字が並んでいた。

『ヴィオレッタ様へ』

『今度、ぜひ我が家へ遊びにいらしてください!』

(……おっ)

私は思わず身を乗り出した。

『おすすめの本もお見せしたいですし、一緒にお茶も飲みたいです』

『リリアーナ様もお誘いしたのですが、今回はご予定が合わないそうです』

『ですから、まずはヴィオレッタ様とお話しできたら嬉しいです!』

(……なるほど)

リリは、来月の晩餐会に向けた準備で忙しいのかもしれない。

最近の手紙にも、練習を頑張っていると書かれていた。

それなら、今回はセレスティア様と二人で会うのもいいだろう。

(……それに)

私は手紙を見つめた。

交流会で出会った、銀髪の侯爵令嬢。

明るくて、元気で、誰に対しても親切な子。

でも、あの日の最後に見せた表情が、今も記憶に残っている。

(……セレスティア様って、どんな子なんだろう)

手紙を通じて、以前よりも親しくなった。

けれど、まだ知らないこともたくさんある。

侯爵家の後継者として勉強を頑張っていること。

剣術が得意なこと。

本を読むのが好きなこと。

それ以外にも、きっと色々な一面があるはずだ。

(……もっとお話ししてみたいな)

私は自然とそう思った。

◇

「エマ」

「はい、お嬢様」

「セレスティア様のお屋敷に遊びに行きたいんだけど、予定を確認してもらえる?」

「かしこまりました。奥様にもご相談いたしますね」

「うん、お願い!」

私は便箋を取り出した。

まずは、お誘いへのお礼。

それから、予定が合えばぜひ伺いたいということ。

最後に、少し考えてから一文を書き加える。

『おすすめの本、楽しみにしています!』

(……よし)

私は満足して、ペンを置いた。

窓の外では、庭の木々が風に揺れている。

セレスティア様のお屋敷は、どんなところなのだろう。

どんな本を読んで、どんな毎日を過ごしているのだろう。

考えているうちに、自然と頬が緩んだ。

「……楽しみだなぁ」

思わず声に出すと、エマが微笑んだ。

「お嬢様、歴史のお勉強もお忘れなく」

「……あっ」

私は机の端に積まれた歴史書へ視線を向けた。

(……そうだった)

セレスティア様への返事に夢中になって、すっかり忘れていた。

「……エマ」

「はい?」

「手紙を書き終わったから、今日はもう休憩してもいい?」

「まだ一頁も進んでおりませんよ」

「……ですよね」

私は諦めて歴史書を開いた。

けれど、今度は不思議と気分が軽かった。

(……よし、頑張ろう)

セレスティア様に会える日を楽しみにしながら、私はもう一度、王国の歴史と向き合うことにした。


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