侍女・マリエ視点,1
奥様は無理に派手に着飾っていた以前の姿とは打って変わって、とても美しく変わられた。
夜着の方がまともだなどと言う者がいるが、それは着飾らない素の姿でも十分に美しいという事なのだ。
「奥様、とてもいいお天気です。お庭の散策などいかがですか?」
「それは良い提案だわ。このハーブティーをお庭に持って行っても良いかしら?」
「用意させます」
十八歳にはとても見えない。何十年も人生経験を積んだような落ち着きと、心の余裕がその出立に現れている。
(豪奢で、ただドレスやアクセサリーが喧嘩しているような装いから想像していたお方とは随分違う)
まるで以前はわざと姿勢を丸めていたかのよう。今では美しい姿勢と所作に、ハッとさせられるばかりである。
(そう、敢えて隠していたような…)
朝のティータイムが終わられた。
可哀想に、旦那様が寝屋どころか食事まで共にすることを厭うようになってから、奥様はご自分の部屋で食事をするようになった。それも、朝餉というには随分頼りないハーブティーだけ。
旦那様の無配慮に少し嫌気が差しながら、奥様のお召し物を選別する。
「今日みたいな五月のいいお天気の日には、このようなお色が映えると思います」
手に取ったのは若草色のワンピースだ。その色合いに合った靴や髪飾りを、幾通りもの中から選んでいった。
(まあ、こうやって私たちが着る物を選んで化粧をしている訳だから、以前のようには振る舞えないわよね)
残念なのは、今のお姿を旦那様があまり知らないということ。
「マリエ、貴方って本当にお化粧が上手なのね。自分の顔なのに、惚れ惚れしてしまう程よ」
奥様は、すぐに全員の使用人の名前を覚えられた。
「それは奥様がお美しいからでございます」
本心だ。頬紅を乗せるブラシが、恐縮で震える。
「ふふ、でも以前の私とはまるで別人だわ。ねえ、そう思うでしょう?」
「いえ、決してそのような…」
嘘だ。
けれど、同時に疑問でもある。ノエル家の侍女はみな化粧やコーディネートが不得意なのだろうか。いやそんなはずはない。奥様の妹君であるメアリー様は社交界でも飛び抜けてセンスがあるし、二度見するほどの厚化粧もしていない。
「良いのよ、本当の事だもの」
「奥様…その、一体…」
一体何が、そう込み上げる言葉を、反射的に喉が締まって発せられなくなる。
「ねえ、マリエ。私、幸せだわ。この家に嫁ぐことができて」
「奥様……っ」
(きっと何か大変なご事情を隠されているのだわ)
私はあろうことか涙目になってしまい、ハッとした。
侍女である私などが奥様に同情して涙するなど、あってはならなかった。
「奥様、喉が渇きませんか。ハーブティーのおかわりをお持ちしますね」
そう言って、部屋を出た。気づかれただろうか。気づかれたに違いない。
「まだまだだわ、私」
はあ、と息をついて約束のハーブティーの為に、厨房へ歩き出す私の目の前を、執事が横切った。
「っ、あ」
「ティムさん?」
まだ若い彼は、どこか慌てているようだった。目が泳いでいる。
私を避けるように、足早に去って行ったティムは、やがて廊下の角を曲がって見えなくなった。
「手に持っていたのは…手紙、かしら?」
少しの違和感を覚えながら、私は厨房へ向かった。
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