↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貴方は復讐相手です。愛したことなどありません。  作者: あずあず


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/42

メアリー・ノエルの回想

 お姉様がシェルダー男爵家の令嬢だった頃。

 サンディー・シェルダーは、その美しく知的な出立で社交界を賑わせていた。

 十九になるというのに、押し寄せるような求婚の全てを断り続ける高嶺の花。男爵家の令嬢のくせにお高く止まっていると、冷ややかな目線も多かったように思う。けれど、そんな周りの意見など意に介さず、お姉様はいつだって自信に満ち溢れていた。

 生涯独身を貫くつもりでいたのだろう。花の時期の全てを注ぐ相手がいたからだ。それが歳の離れた弟、母君の忘れ形見であるリュード・シェルダーだった。


「今日は随分早く来たのね。メアリー、ジクリード」


 にこやかに出迎えてくれたお姉様とは対照的に、五歳になったばかりのリュードは、大きなあくびをした。


「まあ、リュードったら、まだ目を擦っているの?」

「ごめんなさいね。昨晩、悪い夢を見たみたいで、なかなか寝付けなかったのよね」


 こくんと頷いたリュードは、サンディーお姉様のドレスの裾をきゅっと掴んだ。

 母君のいない寂しさが、全てお姉様へとぶつけられているように伺える。お姉様も歳の離れた弟を、まるで我が子のように可愛がっていた。


 この頃の私は、年齢よりも幼く見えるリュードに対して哀れみに似た感情を抱いていたように思う。サンディーお姉様が母親役で、リュードよりも二つ年上の自分が姉のような存在。勝手にそんな役割を頭の中で作り上げていた。


「仕方がないわねえ。リュード。今日はお外でうんとたくさんお花を摘むわ。誰が一番たくさん摘めたか勝負しようじゃない」

「やだ。お姉様と一緒がいい」

「良いわ、そうしていなさい。早く始めた分だけたくさん摘めるもの。私の勝ちかしらね」

「あ!メアリーずるい!!!」


 きゃははと笑い声がして、小さな足音が後ろから追いかけてくる。

 ちらりと見れば、お兄様が私達に怠そうな視線を向けていた。そんな兄に、サンディーお姉様は背中を押した。


「ジクリードは遊びに行かないの?」

「子どもと遊んで何になるんだよ」

「やだわ、貴方も子どもじゃない」

「僕は来年で十なんだ。子ども扱いするなよ」

「ふふ、そうね、ごめんなさい」


(気持ち悪い)


 自分の兄に対して、良い感情は湧かない。


(あーあ。サンディーお姉様が本当に私のお姉様で、リュードが弟だったらどんなに良かったろう)


 外で花摘みをしている間、お姉様は今宵王宮で開かれる、ダンスパーティの支度で忙しいはずだ。


(レディの支度の邪魔をするなんて、最悪だわ)


 我が兄ながら、なんて不躾で、どうして『そういうこと』がわからないんだろうかと疑問に思う。

 私は玄関の扉の前で立ち止まると、大きな声で兄に意見した。


「お姉様はお支度で忙しいのよ。お兄様もこちらへ来てはいかが?」

「大きな声は慎めよ。僕はサンディーに話があるんだ」


 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしたお姉様は

「お話?何かしら?」

と兄に尋ねた。


「別に」


 そっけなく言ったその後で、お姉様の腕を引くと、耳元で何かを囁く。

 次の瞬間、お姉様は耳を押さえて身を躱すような仕草をすると、ただただ驚いたような様子で兄をじっと見た。

 リュードは首を傾げてから

「ジクリードは遊ばないの?一緒に行こうよ」

と言ったが、兄はお姉様の様子を見て、ただにこにこしているだけだ。


「リュ、リュード。先に行きましょうよ。ほ、ほら、たくさん摘むなら今のうちだわ」


 お姉様はきっと動揺している。この場からリュードを離すのが最善だと思った。


 花摘みの最中にあっても、兄の行動が気になって仕方がない。


(話…?話ってなんなのだろう)


「メアリー、見て。こんなに取れた!」

「それは庭園で育てているバラじゃない!棘が付いていて危ないわよ」

「あのね、大丈夫。ジョディーが棘抜いてくれた」

「ああ、そうなの…」


 ほっと胸を撫で下ろす。まだ少年の庭師・ジョディーは、こちらを見るとぺこりと頭を下げた。

 どれくらいの時間が経っただろう。やがて兄が私の隣にすとんと腰を落とした。


「…何かしら?」

「行ってみないか?王宮のダンスパーティ」

「はあ?」

「こっそりサンディーの後をついていくんだよ」

「駄目に決まっているじゃない」

「別に嫌なら来なくても良い。私は一人でも行く」

「ちょっと、お兄様!」


 見れば、シェルダー男爵がダンスパーティのために馬車に乗り込んでいる。お姉様は私達に向かって

「行ってくるわね」

と言って手を振っている。


「メアリー、ジクリード。もう少ししたら、ノエル家から迎えが来るわ」

「お父様、お姉様、早く帰ってきて」


 シェルダー男爵は、執事たちの言うことをよく聞くように言いつけると、その足に抱きついたリュードの頭をゆっくりと撫でた。

 ちらりと兄を見れば、お姉様を舐めるように眺めてにやにやしている。


(いくら良くしてもらっているからって、あまりにも失礼だわ)


 馬車を見送ると、使用人たちはぞろぞろと屋敷に吸い込まれていく。兄は隙をついてするりと門を抜けた。

 案外早い馬車の後ろを付いていく兄の後ろ姿と、リュードの困ったような顔とを見比べて、私はほとんど勝手に足が動き出してしまった。


「ジクリードの後追いかけるの!?ねえ、メアリー!!」

「だめよ!リュードは屋敷に戻ってちょうだい!」

「待ってよ!メアリー!待ってえ!」

「ああ、もう!!」


 幼い私は、リュードの手を繋いで、兄の後ろを追いかけるしかなかった。

面白かった!続きが読みたい!と思ったら、

ぜひ広告下の評価を【⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎】→【★★★★★】にしていただけたらモチベーションがアップします!よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。