サンディー・ローレンス視点,4
頭陀袋から意識を失ったジクリードを引き摺り出すと、ジョディーは跪いた。
生家であるシェルダー家の庭は広い。ジョディーがローレンス家に雇われた後も、定期的に手入れをしてくれていたからか、草花はどれも生き生きとしていた。
「サンディーお嬢様…」
「あなたは本当に…よくここまで尽くしてくれたわ、ジョディー。喜んで、あなたの次の働き口は用意してあるの」
思い切り目を見開いて、私をみている。その目に見つめられるとあの日を思い出す。父がジョディーを孤児院から連れてきた日だ。
「ジクリードはこれから父に尋問されるでしょう。私たちはあいつの証言を頼りに、血眼になってリュードの遺骸を探すだけ。ジクリードが素直にあの子を埋めた場所を話してくれれば、だけれどね。…骨が折れる仕事だわ。だからジョディー、あなたとはここでお別れよ」
「っっ!!!私もお手伝いします!!私は、お嬢様に生涯お仕えすると誓いました。それが例え地獄への道のりだとしても、このジョディー、生涯をとしてサンディーお嬢様のために…!!どうか…!」
「もう良いの、もう良いのよ、ジョディー」
「リュード様の敵討ちはまだ道半ば…!ヴァイアン様とこれきりで、本当によろしいのですか!?」
「当然の報いなのよ。復讐を誓った日から、自分自身の幸せを願う気持ちなど、とうに捨ててしまったの」
「全ては…ジクリードから御身を守る為、ヴァイアン様をお守りする為の十年が…!それでは…あんまりではないですか…!!」
泣き崩れるジョディーに、かけてやる言葉はもう、一つしかなかった。
「貴方は…貴方だけは幸せになって。この復讐劇に巻き込まれてしまった、貴方だけは…」
涙をボロボロ流しながら、ジョディーは私の身体を強く抱きしめた。
突然のことに驚き、声も出ない。
「私は…私がお嬢様の復讐をお手伝いしたのは……!貴方を主人以上にお慕いして…」
「ジョディー、」
「……そうだ…!もういっそ、このまま二人で逃げて静かに暮らしませんか。裕福な暮らしのお約束はできませんが、このまま、私と…」
「私はね、貴方のその気持ちに気づきながら利用したのよ。非道い女でしょう?こんな女のことなど、もう、忘れてしまいなさい。最後の、お願いよ」
「っっ本当に…非道いお方です。私の唯一の生きがいを奪ってしまわれるなんて」
「奪う?」
「生涯、貴方に仕え守ることこそが私の人生の意義です。私のような孤児を拾い、屋敷勤めまでさせてくださったシェルダー家の皆様の恩義に報いたいのです」
「…お父様もお母様も、貴方の働きぶりには感心していたの。だからもう、それで十分なのよ」
リュードが、ジョディーに懐いてなかなか仕事にならないのを、窘める懐かしい記憶が蘇った。胸が苦しくなる。
「私は…ヴァイアン様に抱かれるのが怖かった…。抱かれてしまえばそれは…復讐への最後の扉が開かれることになるから。でもね、同時にとても幸せだったわ、恋愛ごっこと分かっていても」
「ヴァイアン様を…本当にお慕いしていらしたのですね」
「…あなたにもメアリーにも、酷なことをさせたわ。彼女は全てを知らない。けれど、私がヴァイアン様を慕っていたことは薄々気がついていたでしょう。一日でも、一秒でも長く、私はヴァイアン様との日々をただ穏やかに過ごしたかった」
「私もメアリー様も、貴方様を慕うが故のことです。何も気に病まなくてよいのです」
「いいえ、それが私の罪なのよ。貴方達は私に復讐する意味を持っているの」
ジョディーの胸を柔らかく押し返す。庭師は悲壮な顔をして、一歩二歩と後退りした。
「復讐と幸せが同時に混在することはありえない。ヴァイアン様がどんなにメアリーを愛していても、それでも…私に愛が向く前のその時が、一番幸せだったの」
「…サンディーお嬢様」
「ヴァイアン様に抱かれる幸せを感じながら、幸せの終わりがやってくることを同時に感じて、苦しかったわ。わがままでしょう?ヴァイアン様が私を愛し始めたらそれは…私とヴァイアン様との婚姻関係が終わることを意味したから」
ジョディーは涙をはらはらと落としながら、ジクリードを抱えて、父の待つショルダー家の扉を開いた。
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