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ヴァイアン・ローレンス視点,3

 美しく並べられた、朝食の為のカトラリー。

 焼きたてのパンと、いつものスープ、サラダ。

 しかし、いつまで経っても、サンディーはそれらを口にしようとはしなかった。


「…粗末か?」

「え…?」

「嫌なら食べるな。食べないなら席を外せ」

「そういうわけではありません」

「ならなんだ?ノエル家の朝食は、さぞ立派なものが並ぶのだろうな」

「それは…そうかもしれません…」

「言っておくが、朝から満腹にしては仕事に支障をきたす。朝は軽めにしたいのだ。合わせられぬのなら明日から朝食は別で取る」

「旦那様」


 ふん、と鼻を鳴らして、さっさと食事を済ませた。

 ナプキンをぞんざいに放って一瞥する。彼女は漸くパンに手をつけ始めた。


「……?」


 湧き上がった疑問と、それを理解するのがほぼ同時だったように思う。


(僕と食事を共にしたくないということか)


 男ならば誰でも良いのかと思っていたが、昨晩サンディーを拒んだことで、その身体を使って僕を落とすことが難しいと判断したのだろう。


(勝手に愛人でも何でも作ればいい。穢らわしい)


 僕は、サンディーの持参金と結婚したようなものだ。その金を使って、父の代からの借金を返したい。それだけだ。

 サンディーは売れ残りを回避できたわけだし、僕は借金を返せるわけだ。この結婚生活の意義は、始まったと同時に終わったようなものだった。


 玄関先に並んだ使用人たちが一斉に頭を垂れた。老齢の執事・サモンが耳打ちする。


「やはり、奥様はお連れしないのですか」

「分かりきったことを問うな。あれは恥だ」

「…奥様の持参金でローレンス家の借金を完済させたのですから、そう毛嫌いしてはあまりにも」


 爺の言いたいことは分かる。だが、社交界で一等噂好きのセイファー家で行われる茶会に、わざわざサンディーを連れて行けばどこをどう切り取られて噂になるか、わかったものではなかった。それはサモンも分かっているはずである。

 しかし執事はそれ以上の追求をやめ、ただ頭を垂れて僕を見送った。


(あれを連れていくなど、冗談じゃあない。それに…)


 昨晩三度読み返した手紙をポケットから取り出した。がたりと音を立てて馬車が出発する。


 メアリーからの手紙は、セイファー家の茶会で少し話がしたいという内容から始まる。しかし、読み進めていけば所々に僕を試すような文章と、まるで恋の相手に送るような言葉が並んでいた。

 挙句、


「お義兄さまにエスコートして頂きたいな、なんて…だって?」


 僕を困らせたいのだろうか。それとも、やはり僕と結婚していれば良かったと、今になってそう思ったのだろうか。


(いいや、まさかあり得ない)


 僕が求婚した時、メアリーからきっぱり拒絶されたのだから。


(……拒絶された、本当に?)


「待て。確かメアリーは…」


 そう、メアリーは行き遅れた姉を置いて先に結婚することなどできない。そう言ったのではなかったか。

 その姉であるサンディーが結婚したなら、メアリーは晴れて結婚することができるということ。


「っっっ」


 ごくり、と生唾を飲み込んだ。そう、氷の伯爵が恐ろしくて拒絶されたのではない。


(それに、サンディーとの結婚生活の意義は、始まったと同時に終わったのだ)


 疎ましい姉が結婚したならばもう、彼女が憂うことは何一つない。


(いやまさか、馬鹿げている)


 セイファー家が近づいて、鼻で笑って見せたが、心臓はばくばくしていた。


 まだ屋敷についていないというのに、がたり、と馬車が止まる。

 なんだなんだと窓の外を覗くと、何やら御者が慌ててこちらに駆けてくるのが見えた。

 やがて扉が開いて「旦那様」と指を差した方へ首を伸ばす。


「ノエル家の馬車の車輪が壊れてしまったようで、前がつかえております」

「何!?」


 車輪が壊れた、それもノエル家の馬車の。

 ならば乗っているのはメアリーではないか。

 僕は御者が「ああ、旦那様!乗ってお待ちください」と言うのも聞かずに走り出した。

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