前半、サンディー•ローレンス視点 後半ジクリード•ノエル視点
「嫌になってしまうわ、ね。本当に」
「奥様?」
「ああ、うん…旦那様が…手加減なさらないから…」
「お二人の仲睦まじいご様子が、この上ない幸せですわ」
言いながらマリエが腰に膏薬を貼ってくれた。
「ごめんなさい、私…暫く動けそうにないわ」
「ゆっくり休まれてください。昼食は簡単につまめるものを用意させましょう」
侍女が扉の向こうに消えたことに安堵し、そよ風が吹く窓に目線をやった。
「身体が、痛い…」
連日連夜、朝まで抱き潰されて、身体中が軋んでいるのだ。
「とうとう、ここまで来てしまったのね」
ぎゅうとシーツを手のひらに握り込む。覚悟はしていたが、想定よりも早かった。
「けれど…これで漸く、準備が整ったわ」
もう、後戻りはできない。何度も抱き潰されたこの身体は、復讐の為の武器なのだ。
控えめなノックにハッとする。涙を擦って誤魔化した。
「奥様、ジクリード様がお見えになっています」
✳︎ ✳︎ ✳︎
「……準備が整ったのか…そうか……」
「ええ……」
人払いをした東家に、風が吹き込んだ。金糸の髪が風に遊ばれて絵のようなサンディーにくちづけする。
「っ、誰かに見られていたら…!」
私の腕を振り払おうとしたけれど、そうはさせない。
「あの日、君が美しさを取り戻したのを見て、もうじきこの時が来るのは覚悟していた」
「ジクリード、私が何のためにノエル家に養子に入ったのか、分かっているでしょう?」
「分かっているさ…。君の覚悟は止められない。君がサンディー・ノエルになった時、私は君との結婚を諦めるしかなかったのだから」
私が目撃した、十年前の事故。サンディーがまだ、サンディー・シェルダー男爵令嬢だった頃に起きた痛ましい事故。
「君の弟が生きていたら、今年で十五だ」
「…ええ、そうね」
「まだ、遺体は見つからないな」
「ええ…。ジクリード、私……!」
君が何より大事にしていた小さな弟。母君の忘れ形見。貧しい男爵家の、希望。
「…いつだって私はサンディーの味方だ。いつだって」
ぎゅうと細い体を抱きしめると、やんわり押し返されてしまう。別に誰にも見られていないだろうに。
「…メアリーは、どうしているの?」
「君から随分お小遣いを貰ったから、旅行に行くんだと。西国の海岸で遊んでるんだろう。全く、どうしようもない奴だよ本当に」
「なら良かった」
「良かったなものか!」
「どうしてそう仲が悪いのかしらね」
昔からそうだ。私のサンディーを取ろうとする。サンディーは私のものなのに。いつも兄妹で彼女を取り合って喧嘩をしていた。
幼馴染の私達は、そんな光景が常だった。この復讐計画だって、私が言い出したんじゃあ絶対にメアリーは協力しなかっただろう。
「愛しているよ、サンディー」
「…私もよ、ジクリード」
さわさわと、心地よい風に鳥が羽ばたいていく。サンディーの美しさを讃えるようにくるくると頭上を旋回した。
「まあ、東家は狭いでしょうに、あっちへお行き」
「…サンディー」
「?」
「結婚しよう」
「ふふ、何を言うかと思えば」
「本気だよ、君の可愛いリュードの敵討が叶って、そして何もかもが終わったら」
サンディーは、すっくと立ち上がって、美しく整えられた庭園へ走り出した。
「おい、サンディー」
「私は、もう、旦那様の物だもの」
「っっっ!…それでも!」
駆ける彼女を捕まえて抱き寄せた。微かな抵抗に気持ちが騒めく。
「私が結婚しようと言う。君がイエスと言えば良い。そうしてまたノエル家で暮らそう。あいつを…ヴァイアンを殺したら」
「…無理よ。私はきっとくくり首だもの」
「そうしたら、逃げれば良い。どこまでも、二人で」
サンディーは私の腕を解いて、儚い笑みの後、歩き出した。
「…やっと、やっと旦那様が私の入れた物を疑いなく飲めるようになったの。だから、今夜来てくれるでしょう?お兄様」
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