ヴァイアン•ローレンス視点,15
朝、目覚めると、天使の様な寝顔がそこにあった。
(ああ、僕はなんて幸せ者なんだろう)
少しぼうっとする頭でなんとなく思う。
(メアリーのことは、改めてサンディーに詫びたほうが良いだろうか…。それとも、わざわざ言わない方がサンディーのためだろうか。…正解が分からぬな)
あれからすっかり影が消えた様に大人しくなったメアリーだが、いつ何時ここを訪ねてくるか分かったものではない。
(引き続き警戒するに越したことはない、か)
細い髪の毛を指で掬うと、朝日に透けてキラキラと煌めいている。
(美しい)
ゴテゴテの化粧の下には、こんなに素晴らしい逸材が隠れていたなんて、と思う。
「ん、旦那様…」
「おはよう、サンディー」
おでこに口付けを落とす。サンディーは困った様に眉毛が下がっている。
「どうして、怖い顔」
「ああ、すまないね。…考えていた。改めてメアリーに目移りなどして申し訳なかったな、と」
「嫌だわ。謝らなくて良いから、もう妹のことなんて考えないで。私に申し訳なく思うなら…お願いよ」
「悪かった」
起き上がろうとする私をぐいと引っ張るので、再びベッドの海に沈んでしまった。
「そろそろ起きなくてはいけない」
「…旦那様、笑わないで聞いてくださる?」
「なんだい?」
「その、恥ずかしい話なのだけれど、腰が…立てそうにないのよ」
「………それは」
「やだわ、もう、こちらを見ないでくださる?」
「顔が赤い。ぷっくく…」
「笑っていらっしゃるじゃない!嫌な旦那様だわ!」
「待て待て、布団に潜るな。そんなに顔が赤いのでは熱があるかもしれない」
「熱なんてありませんわよ!意地悪!」
僕は布団を剥がして、抵抗するサンディーを抱き寄せた。
「ほら、ごめんって。僕の顔を見て?」
「笑わない?」
「約束する」
やはり困った様な顔。頬が蒸気して、目が潤んでいた。
お詫びのくちづけを落としたけれど、それでも彼女はご立腹の様子である。
「こうなったのは旦那様のせいだわ。私、朝食はここで摂ります。旦那様は一人で食べたら良いのだわ」
なるほど、とピンとくる。
「それ、良いじゃないか。ここで食べよう」
「どうして旦那様まで!」
「たまには良いだろう。僕も暫くこうしていたいし」
ちりん、とベルを鳴らして、サンディーには申し訳ないが事情を話し、朝餉を寝室に運んでもらうことにした。
「すまないが、今日は帰りが遅くなりそうだ。兄君は当分こちらにいるのだろう?来てもらってはどうだい」
「暫く動けそうにないのを、どう説明したら良いか、困惑しますわ…」
「一日中寝てるというわけにもいかぬだろう」
「それもそうですが…」
「まあ、呼びたいなら構わぬ。もしいらっしゃるのなら、僕が不在の旨謝っておいてくれ」
なんだかぼんやりしているうちに、二杯目の紅茶が注がれていた。今日くらいまあ良いかとすぐに飲み干した。
(サンドイッチだから喉が渇くな)
食べやすい様に気を遣ったのだろう。
(だが、紅茶がやたらと欲しくなる)
それから僕は、幾晩も幾晩も、サンディーを抱いた。
次回から暗転します!
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