ヴァイアン•ローレンス視点,14
今日の晩餐は、とにかく豪華にするよう申し付けた。サンディーの兄を招待したからだ。
「ノエル家に比べれば、それはそれは取るに足りない食事でしょうが…ぜひゆっくりしていってください」
「私には男兄弟がおらぬもので、こうして酒を酌み交わすことができ、とても嬉しく思っております」
にこりと笑ったジクリードは、昼間とは人が変わった様に柔和である。
(サンディーに突かれたか)
当然だ。見目汚らしい女を貰ってやったんだ。それが結果当たりだったと言うだけ。少しくらい下手に出てもらわねば。
(しかも、持参金はサンディーから出ているらしいじゃないか)
知れば尚更、昼間のあの高圧的な雰囲気に腹が立つところである。
「旦那様、お許しくださいませね。兄はどうも威圧感がありまして…本人にそのつもりがなくても、敵を作りやすいのですわ。気を悪くされてはいないかしらと、ハラハラいたしました」
「初めは驚かれたが、ローレンス殿はいたって普通にしていらしたぞ」
「もう、だから私が紹介すると言ったでしょう」
やはりサンディーから苦言があったか、と思う。
僕はわざとらしく「まあまあ」と言って二人を落ち着かせてみせた。
「特に気にしておりません。それに…僕も敵は作りやすい方ですから」
ジクリードは笑って酒を煽った。普段酒を飲まぬらしいサンディーも、今日ばかりは口をつけている。
(楽しい)
心からそう思った。
思えば、あの事件以来真に楽しく食卓を囲うことなどなかった気がする。父も母もいつも何かに怯え、僕も食事を摂ろうとすれば吐いてばかりいた。
『馬がただ暴れただけ』『バレるわけがない』『探されもしない、炭鉱の子どもだ』
僕にかけてくれる安堵の言葉は、やがて呪詛の鎧となって自分自身を苦しめた。
やがて母が死に、父が死に、残されたのはこの屋敷と多額の負債。
目の前で笑い合っているこの兄妹もきっとそうだろう。僕がノエル家からサンディーを救ったのだから。
一人の人生を変えてやったことが波紋の様に広がって、周りを幸せでしている。
(こんなに酔ったのは久方ぶりだ)
ジクリードはあまり長居せずに、颯爽と帰っていった。反対に僕は随分と酒が回っている。
思い返してみれば、次々に酒を煽った気がするのだから当然と言えば当然である。このまま寝れば、久しぶりに安眠ができそうである。
だが、せっかく楽しい夜を過ごしたのだから、もう少しくらい長い夜を過ごしたかった。酔い覚ましに庭園をぶらつくかと思い至り廊下を渡る。
(うん?)
一本の、光の筋が細く細く伸びていた。
見ればそれは、サンディーの部屋からであった。
「失礼するよ、まだ起きているのか」
「旦那様…!どうされたのですか?」
「酔い覚ましに庭園でも行こうかと思ったんだが…眠れないのか?」
「ええ、とても楽しかったもので…兄も喜んでおりました」
「それは何よりだ」
サンディーは読みかけの本に、いつでもまた続きが読める様に人差し指を挟んでいる。
「…そうはさせない」
「え…?」
本を払いのけて、ベッドに押し倒して、唇を奪った。呼気が混ざり合う。
「だ、旦那様っっ!」
「今まですまなかった。君に随分と寂しい思いをさせてしまった。これからは…」
「だ、旦那様っっ!まって…」
見目汚らしいサンディー。それが、今日は茶会でたくさんの紳士達から目線で汚されてしまった。
「…それがどんなに許せなかったか…!!」
「え…?」
「君は、僕だけのものだ」
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