ヴァイアン・ローレンス視点,11
(今日は、やけに月が白い)
サンディーが眠りにつくのを見届けてから自室に戻ったのだが、初め「緊張して眠れぬので出て行って欲しい」と言われてしまった。
(当然といえば当然か)
彼女を拒絶したのは他でもない、僕なのだ。今更彼女を受け入れようなんて虫がいい話、信用できるものか。
サンディーは相当僕を警戒しているはずである。
(…今からでも夫婦になろうと歩み寄ってもいいのかもしれない)
一つのため息が広い部屋に広がっていく。どうせ眠れぬものと思い、ワインを開けた時だった。
「失礼します」
「マリエか。こんな夜更けになんだ?」
「その…奥様のことで…」
「それはメアリー殿に関することか?花瓶が割れたことか?今まで彼女を蔑ろにしていたことか?思い当たりすぎて、選べない」
マリエは目線を泳がせて、言葉を選んでいるようだった。
「なんだ?どうしたんだ、一体」
「ずっと、隠していたことがあります」
「随分と…回りくどいな」
ゴブレットに血のように赤いワインを注ぎ入れる。よく熟成された香りが鼻をくすぐった。
マリエが一瞬手出ししようとしたのを制した。もとより寝酒に侍女を突き合わせるつもりもない。
侍女は、出しかけた手を前で組み合わせて、唇を震わせている。
「旦那様は奥様を受け入れるつもりがありませんでしたでしょう?ですので、このことは墓場まで持って行こうと…けれど、きっと今日、お二人はほんの少しお互いに歩み寄られたのではないかと思いました。間違っていますか?」
「…いや、そうだな。間違いではないだろうな」
「ならば、申し上げます」
マリエは一度、唇を固く引き結んでから、腹を括ったように一語一語躊躇いながら言葉を紡いだ。
「…初めて、この屋敷で奥様の湯のお世話をしたときのことでございます」
ごくり、と唾を嚥下した。喉が渇く。すぐにワインを流し込んだ。
「その…酷く、酷く汚れて…」
「汚れ?何が…」
「失礼ですが…とても…伯爵家のご令嬢とは思えないほど、お身体が汚れていたのでございます」
「なんだ、それは…?どういうことだ?」
「あの強烈な香水の香りは、それを隠すためのものではないかと…今ではそう思います」
頭の中で、サンディーの声がこだまする。
『どうして男性を取っ替え引っ替えすることができたと思うのです?おかしいとは思いませんか』
マリエの言葉が真実なら、尚更サンディーに関する悪い噂はでっち上げだろう。
(マリエが嘘をつくメリットもない。ならば、本当に…)
「なぜ…一体なぜ、そのようなことに?」
「私には分かりかねます。分かりかねますが…奥様がメアリー様をとても恐れていることは、わかります」
沈黙が部屋に充満した。耐えきれずワインを飲み干すと、マリエは床に頽れた。
「なのに、なぜ旦那様はあろうことかメアリー様と…」
マリエは呼吸を繰り返すのがやっとといったふうに、肩が上下している。抑えようのない悲しみに押しつぶされているのが分かった。
「馬鹿だろう?」
「…え?」
顔を上げた侍女は、泣いていた。
「どうやら、僕はサンディーのおもちゃで、そのおもちゃを取り上げたいだけなんだ。メアリー殿からすればな」
「それは…どういう…。何かの比喩ですか?」
自嘲気味に笑って立ち上がり、マリエの肩にそっと手を置いた。
「お前達には、心配をかけたな」
「旦那様?」
「僕が守るべきものから目を逸らすことはもうしない」
「そ、それって…」
「これから食事はサンディーと一緒に摂りたい。今からでも…間に合うだろうか?」
面白かった!続きが読みたい!と思ったら、
ぜひ広告下の評価を【⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎】→【★★★★★】にしていただけたらモチベーションがアップします!よろしくお願いします!




